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二章二十一項 レデレール


 包囲は、着実に狭まっていた。

 目を凝らすと、屋根に飛び上がって登っている個体もいる。丈夫さもさることながら、だいぶ身体能力が高いらしい。

 夜に出歩いている人間が少なかったということも言えるだろうけど、市街の人々の悲鳴は既になくなっている。


「おい、オカマ。あの剣が欲しい。取りに行くから援護しろ」


 エゲンが死んだ男の傍らに落ちている剣を指した。

 態度はこの際、しょうがない。

 今は確かに、私以外の戦力は必要ね。


「みんなでそこまで少しずつ移動するしかないわね」

「馬鹿言ってんな」


 突然、エゲンは先駆けする。

 勝手なことを……!


 エゲンの素早い動きは、クタイアの注意を強く引き付けた。

 最も近い一体が、反射的に急接近する。


 エゲンは素早く銅剣を拾い上げた。

 掴みかかってきたクタイアの腕に銅剣を巻くように噛ませ、いなす。

 咄嗟に蹴りの姿勢に入った相手の脚を切り払いながら、後ろに下がった。


 上手い。

 最強ではないけど、確かに豪語するだけの剣士らしいわね。


「来いよ、バケモン」


 クタイアは、まだ他にも二体ほどいる。

 いくら剣術に自信があろうと、同時に相手するのは賢明ではない。

 戦闘の腕前は、如何に一対一の状況を作れるかというところに出る。

 囲まれたら危ないわ。


「ペコ、テド、そこの家に入りなさい」

「そうしたいのですが、どうやら駄目そうです……! 施錠されてて……。空き家かも知れません」


 確かにどの家も中は暗い。

 異変を察知した住人が息を潜めているのか、あるいは単に空き家なのか、厳密には断定できない。


 建ち並ぶ家々は、冷たく私達を見下ろしている。

 窓にも軒先にも生活感は全くない。繁華街から少し離れた程度なのに、空き家とはね……。


 残るクタイアが次々に接近して来た。 

 エゲンの背後に急接近したクタイアの一体を、風で吹き飛ばす。石灰岩の壁面に叩きつけられ絶命した。


 間髪入れず、屋根から一体飛び降りてくる。

 やはり知能は獣ね。高い身体能力だとしても、なかなか落下中に軌道を変えることは出来ない。

 跳び上がったり、落下したりというのは、無防備そのもの。白兵戦において最悪の愚行よ。


 圧縮した大気を真上に放ち、迎撃する。

 落下して来たクタイアを跳ね返す。大きな放物線を描き、暗闇の向こうへ消えて行った。


 ここまで戦うのは久し振りだけど、力加減は分かってきた。

 相手も数はあれど、強い相手じゃない。

 風の魔術は応用が効くし、万能で強力。このレデレール、魔獣程度には遅れは取らないわ。

 ……少なくとも、今のところは。


「あ! また増えましたよ!」

「きりが無いわね……どういうことかしら」

「面白えじゃん。全部斬り捨ててやる」


 エゲンはそんなことを言いつつ、やっと一体目を斬り伏せながら言った。

 その負けん気と剣術はなかなかだけど、魔獣に対して、制圧能力が低すぎるわ……。

 

 しかし、それはしょうがない。

 現実的に見れば剣で一刀両断というのは難しい。クタイアは素早い上に、多少の傷は省みずに攻めてくる。

 どうしても、牽制や捌きといった、防御的な対応が必要になるでしょうね。


「エゲン……悪いけど、ここで退かねば貴方を置いていく。今は大丈夫だけれど、私の魔術は無限ではない」


 勝手にしろ、といわんばかりにエゲンは無視してクタイアに対峙した。


 相手の増援は、まだ続く。

 時間を経るごとに、クタイアは集まってきている。

 あとどれ程いるか予測も出来ない。

 街があっという間に静かになったのも、この数の力ね。


「民家に逃げ込むわ。私が開ける」


 空き家ならば、隠れている人を巻き込んでしまう懸念も少ない。

 乱暴なことは控えたいけど、緊急時にそんなことを気にしている場合でもないわね。


「ふんッ!!」


 圧縮した空気を放ち、ドアをこじ開けた。

 雪崩込むように家に侵入する。


「エゲンは……」

「来ませんね……。まさか、あれを全部倒すつもりなんでしょうか」


 ペコは怯えていた。

 それでも扉を封鎖すべきと言うほどには、冷静さを欠いているわけではないようね


 家の中はやはり無人だったが、家財は残っていた。

 しかし、分厚い埃があらゆる家具に積もっている。炭鉱の街であるためか、煤煙が入り込んで埃がどす黒い。


「私はエゲンを助けに行くわ……。二人は、私が出ていった後に扉を封鎖し、この家で朝まで待って頂戴」


 見捨てるというのも、夢見が悪いわね。

 エゲンはあんなやつだけど、まだ若いし、暴言を吐く程度ではある。具体的になにか実害をもたらしたわけではない。

 まだ捨てるだけの理由もないわ。


 二人は特に異を唱えるわけではなく、静かに頷いて了承してくれた。



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