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二章十九項 レデレール


 十五分ほど歩き、テドの案内で歓楽街を訪れた。

 ラズデアの歓楽街は、かつての栄光を失いつつある。しかし、寂れてなおも美しい場所だった。

 銅の彫金で細工された品々は、巧緻こうちで華やか。

 時計や楽器、様々な日用品は、光沢のある銅で、ランプの光をきらめかせていた。

 ここだけ見ると、すぐ横の路地では人々が病気で息絶えているだなんて信じられないわね。


 何度来ても、その密度感と創造性の豊かさへ、畏敬の念を抱く。見とれているうちに、圧倒されてしまう。

 ここが近い将来無くなるとすれば、ちょっと悲しいわね……。


「レデレールさん! 居ました! 見つけましたよ」


 ペコがあっという間にエゲンを見つけ出した。

 意外なことに、たった一人で、病人に紛れるように街角に座っていたらしい。


「あ? なんだよ?」

「エゲン、探していたわ。工房の支払いにミスがあったようなのだけれど……」

「はあ? そんなこと俺に関係ねえよ。なに? 疑われてんの、俺」

「疑う疑わないという話ではなく、これは契約として重要な確認よ。お金は請求書通り、払ったということね?」

「意味わかんねえ。知らねえよ! あのオッサンの鍛冶工房に、行ってみりゃいいだろうが。うるせえな」

「……オジサンですか?」


 エゲンはペコに返答せず、黙った。


「酒場には、男性ではなくカレルという盲目の女性が、工房の使いとしてエゲンさんを探しにやって来たのですが……」

「は? だから? そもそも、俺は名乗ってねえし……! 書類手渡して、金置いただけ。盲目の女なんて、鍛冶の工房に居るはずねえに決まってんだろ。馬鹿だな」

「ありゃあ〜、どうなってんだ? これはどちらかが嘘をついているわけですね」

「なに? 金払っちまったの」

「いいえ。ドニミさんに一緒に待機してもらって、私達で確認しにきたのよ」

「軽率だと思うけどね。普通に考えて」


 それはどうかしらね。

 エゲンの態度がこうであるからこそ、客観的にも判断出来ないとは言えてしまうもの。

 感情抜きにしても、まず必要なことではあるわ。


 テドは、私の斜め後ろに隠れた。

 まあ、少なくとも男は基本的にエゲンは近付きたくないタイプではあるかも知れないわね。


「結局、その女は何なんだよ」

「一人で来たのだから、十中八九、魔術師でしょうね。もし金銭目的の詐欺師だとしたら、あまりにも利益を得るにはやり方がお粗末だもの」

「おい! じゃあドニミはどうなんだよ」

「分からない」


 本当にエゲンが金額を誤魔化した可能性に備えて、保証人として誰かをあの場に置いていくことは必要だった。

 ここまで来るのにも結構歩く上、盲目の女性を歓楽街での人探しに連れ回すのは、流石に道義面では問題だ。

 それに、ペコを守れる体制を維持するのが、最重要でもあった。


 こうなる必然性は、あったと思うしかないわね。 


「助けねえと……!」


 エゲンは青ざめて立ち上がった。

 なんだ、良かった。ちゃんと仲間想いな面があるんじゃない。


「しかし、金銭目的じゃないとすると、あの盲目の女性の具体的な目的は、何なのでしょう?」

「その意図は不明ね。正直、悪いけどドミニさんにそこまで特殊な存在意義はないもの」

「そんなこと言ってる場合じゃねえだろ」

「言ってる場合よ。相手には何らかの目的がある。それが確認出来なければ、安直に動けやしないわ」


 その時、歓楽街に異変が起きた。

 どこからか、悲鳴が聞こえてくる。


「……あ? なんだ?」


 悲鳴は一つではなく、散発的に数人が声を上げているようだわ。

 こちらに向かって走ってくる男性を捕まえる。


「失礼、一体何があったのかしら?」

「ば、化け物が……坑道のほうから溢れてきた!」

「化け物?」

「見たんだ! 悪魔が人を襲ってた!」

「正直、信じがたい話だけど……」

「勝手にしてくれよ。信じてくれなくたって、オイラには関係ねえ」


 男は、そう言い捨てて逃げ去ってしまった。


「面白えな。やっと俺の力を発揮できそうだな。こういうのを待ってたぜ。とはいっても、武器がいるな」

「テド。ここから坑道は近いところにあるのですか?」

「うん。ここから歩いて五分くらいですね」

「化け物……何か異変が起きているのは確実だけど…、不用意に関わるべきか疑問なところね。引き返すしかない。テドもペコもいるし」


 エゲンも流石に丸腰では異を唱えなかった。自惚れ屋の腕自慢も、武器が無ければどうしようもない。

 皆で一度、引き返すべく戻り始めた。 




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