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二章十八項 レデレール


 食事になった。

 仕方ないことだけれど、酒場の食事は質素なもので、雑魚と和えた野草だとか、根菜の端材の煮物だとか、燻製した川魚とか、そのぐらいだった。

 でも意外と、これはこれでドライで酸味のある安い酒に合うわね。

 贅沢では無いけど、嫌いじゃない。


 物が無いなりに、創意工夫でやりくりしているらしい。ペコのやや年下くらいの小さな男の子が配膳してくれる。


「あら、貴方パパのお手伝いしてるの? 優しいわね」

「ありがとうございます」

「そんなことはないですがね。コイツ、本が欲しいってだけなんですよ」


 父親が言うと、少年は気恥ずかしそうにした。


「モチロンそれでもいいのよ。働けば、正当な対価がある。大人子供関係なく、それがあるべき健全な社会だもの。本を読むのが好きなの?」

「……うん」


 ふと、杖の音を鳴らしながら、店に盲人が入ってきた。

 盲目ではあるようだけど、若い女性で長い髪の茶髪、眉目秀麗。身なりは質素だけれど清潔ね。


「どうもこんばんわ……。カレルと申します。エゲン様はいらっしゃいますか?」

「いや、つい先程までこちらにいたが……私はエゲンの仲間だ。どの様なご用向きですかな」


 店員さん親子と私達以外に人気のない、狭い店内にドニミの声が響いた。


「工房のお支払いに手違いがございまして、大変お手数おかけ致しますが……」

「手違い?」

「お支払いいただいた金額が足りないようなのですが」


 盲の女性は、入り口に立ったまま言った。よほど焦っているのかも知れないわね。


「それは如何ほど?」

「銀、三百ほど……」

「まさか……」


 目が悪いことにつけ込んで、精算を誤魔化したということなのかしら。

 しかし、この方も流石に確認してないなんてことは、あり得ないようにも思えてしまうけど……。

 これが本当ならば、エゲンはまさにトラブルメーカーといったところね。

 ただ、彼も一応仲間だし、流石にそれを鵜呑みにするわけにもいかないわ。


「大変、申し訳ないことをしたわ。すぐに差額分をお支払い致したいのだけれど、状況を把握しなければいけないから、エゲン本人に確認するのを待っていただける?」

「ええ……、仕方ありません」

「やれやれですね。最早ただの犯罪者じゃないですか。あいつのせいで、おちおちご飯も食べることが出来ないとは」


 ペコは怒りを引きずっていた。

 『女を買う』とか言っていたけど……。どうにか探し出さなければいけないわ。


「マスター、ここらへんで娼館はあるのかしら」

「ええ。まあ、娼館というほどではないですが、思い当たるだけでは四、五軒ほど」

「意外と多いわね」

「素人が良いなら、私娼が集まる通りもありますぜ。オススメはしませんがね」

「一番、評判の良いところは?」

「あ~、歓楽街の大通りに面してる、オーゲルって店ですかねぇ」


 困ったことね。これだけだと、ちょっと推理しようがないわ。聞き込みするしかないわね。

 

「ドニミさん、エゲンの行き先に心当たりはあるかしら?」

「いや、流石にそこまでは……」

「仕方ないわね。誰かが、カレルさんと残って、残りの人はエゲンを探し出さなければいけないわ。私達にも、それほど猶予はない。朝一番には出なければいけないもの」 

「探してきましょう……」

「いや、心当たりがないなら、私とペコで行った方がいいかも知れないわね。異存がなければだけれど」


 流石に娼館をまわって人探しとなると、一人では埒が明かない。それにあまりにも時間を掛けてしまうようなら目立つ。


 ドニミの戦闘能力や状況判断能力が未知数である以上、ペコの護衛を任せるのも難しいわね。


「ペコ、ご飯中申し訳ないけど……」

「ええ。僕もそこに丁度行ってみたかったので構いませんよ」

「行ってみたかった? 君にはまだ早くないか? それに、のんびりしてる時間はないぞ」

「時計が欲しかったんですよ。確かに買っても今後運べないか……帰りにまた立ち寄って、時計店に行ってみますかね」


 マスターが、会話を聞いて気を利かせた。


「なら、息子に案内させましょう。体力を余らせてますんで」

「いや……。それはありがたいけど、これから夜だし危ないわ」

「ランプを持たせますから。良いんですよ。おい、テド。ちょっと行って来な」

「なんか悪いわね。でも折角だから、ちょっとお願いしようかしら」

「うん」 


 あんまり長引くようなら、もう確認は諦めてお金を払うしかないわね。

 マスターの息子を連れ回しすぎるのも悪いし、最悪、エゲンが帰ってきてからちゃんと精算し直してもらうことも出来なくはない。


 しかし、長い道のりの最初で、すでに英気を養うどころでは無くなってしまっているわね……。



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