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一章二十五項 アルノ


 エトルは、倒れて動かない。負傷の程度は判別できそうに無い。倒れて全く動かなくなった。

 まさか……死なないよな?


 マゼス! こいつ……!!

 ぶん殴ってやる……!

 殴ってどうこうできる問題じゃないが、もう殴るしかない。

 少なくとも説得するというよりは、可能なはずだ。

 もしマゼスの魔術が弱体化しているとしたら、これ以上は街を破壊することも出来ず、市民をこれ以上は巻き込む懸念も少ない。

 ならばやるべきだ!

 どうにか制圧する……! ここで!


「マゼス!!」 

『近寄るな、出来損ない!』


 走り出した僕に対し、マゼスは振り返りざまに爆破を放った。

 そう来るだろう。

 だが、僕が考えなしに突っ込んだとでも思ったか!

 行くぞ!

 妙技・筋肉滑マッスルスライディングりだ!


 姿勢を落とし重心を床に委ねた瞬間、すれ違うように頭上が炸裂した。


 マゼスの攻撃タイミングが読めれば、対応できる!

 ()()()()()()になっている!


 マゼスの攻撃動作から、実際の爆破まで時間差があるからだ。

 もし榴弾のような武器と同じく無数の鉄片が放たれるなら、どんなふうに回避しても負傷するだろう。だが、小規模な爆風だけなら近くにいるだけで死ぬほどじゃない。

 爆風の殺傷力は発生源から離れると急激に低下すると聞いたことがある。

 攻撃が致命的だとしても、攻撃の時間差の間に対処すれば、大幅にダメージを受けるリスクを軽減出来るはずだ。


『次も避けてみろ!』


 マゼスが追い撃ちを仕掛けてきた。

 回避は出来ない、手枷で防御!


「――ペリホッ!!」


 痛ぇ……!

 死にはしないとはいえ、受けることを意識して受けると結構痛いな……。

 衝撃で脳震盪を起こしかけたし……何やらこの一発で右耳が聞こえなくなった。流石に何度も直撃をくらうのはマズそうではある。

 だが、今のところは大丈夫だ。あんな疎ましかった手枷と鎖が、今ばかりは頼もしい。


『効かんよ……! 爆破というのは壁などへのエネルギーの反射によって威力を大きく増す。つまり、反射してくる衝撃波がほぼ無い形で攻撃を受ければ、致命的な威力じゃない』


 どうだ、それっぽい説明だろう……!

 ぶっちゃけ痩せ我慢だ! 推定するところ四十万パスカルぐらいの圧力なら、我慢でなんとかなる。


 とにかく、立ち上がらないと。

 まずなにがなんでも、アイツとの距離を詰めることだ。既におよそ六歩ほどの距離しかないが……。

 近いからこそ、待つか、動くか悩みどころだ。

 優位に動くなら、後出しで相手の出方に合わせる必要がある。近くなったことによって攻撃への対応も難しくなった。

 しかし、やはり動かねばならない。

  マゼスに最も近いのは昏倒した無防備なエトルだから、とにかくそちらを意識されたくない。

 人質が有効だと思われたら、対処不能だ。


 ゆっくりとにじり寄る。

 マゼスは攻撃を仕掛けてきた。

 一直線に地面を這って、そのまま爆破が通り抜ける。

 鋭い鞭で叩きつけられたかのように、表皮が抉られる。


「いいっ……!!」


 こりゃいかん!

 致命傷ではないが、かなり痛い。


 しかも僕がこれを回避できないことを理解してやがる。

 相手が線状で攻撃ができるなら、迂闊に避ければ、すぐ背後のヘルフェやイシエスさんが巻き込まれるかも知れない。

 マゼスは鞭のような爆破を立て続けに連射してきた。


『どうした?! なぜ魔術を使わない』


 使えないんだよ、アホタン!

 あ、そういや僕が魔術を失っているのは知らないのか……。


 思わず、背中を向けてしまう。

 だが、背中はだいたいは平均的に筋肉がつくものだから、多少は防御力があるはず。

 人の弱点というと主に胸と頭だが、その上、お腹は筋量が少ない。概ね大腿の十パーセント以下の量だ。

 

 とりあえず、ここは背中を向けてしのぐ他ない。


 クソ! 何か考えるしかない!

 本当に鞭でも打たれるかのようだ。

 頭を守って縮こまるしかない。

 背骨を損傷しない限り致命傷にはならないが、いつまでもこうしている事も……。


「アルノ……!」


 イシエスさんが声を上げる。

 その手にはヘルフェがぐったりと力なく抱かれていた。

 負傷した……? いつの間にか、攻撃を受けたのか。


『避けろ。一発だけだ……』


 イシエスさんが言いながら、左手を伸ばし、手に持った細い筒を構えた。





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