一章二十三項 アルノ
「まあ……、じ、自由だな……」
打って変わって、ネオンは気まずそうにした。別に殴りかかったりはしないけども……。勿論そうしたいが、それどころじゃない。
僕自身も、不安になる。
拘束から解かれた魔人、その脱走をネオンが幇助した。自分たちが決断した事だが、後戻り出来ない。
しかし、そんなよく分からん感傷に浸っている場合ではない。
兎にも角にも、エトルを追わなければ!
もう随分、時間を浪費した。
「行こう。出口は何処だ?」
「説明してる時はない。気は引けるが、俺が連れてってやるしかないな」
「いや……、やっぱりちょっと待ってくれ」
外を確認すると、イシエスさんはすでに負傷していて、膝を地面についていた。
血塗れで、見た感じでも重傷。
そしてあれは……ヘルフェだ。
驚くことに、ヘルフェらしき獣人がイシエスさんを立たせようと寄り添っていている。彼女の体格では人間を立たせて歩かせるのはまず不可能だ。
魔人もどうやら負傷しているのか、今にも膝から崩れ落ちそうだが、立ったまま対峙していた。
「まさか……! ヘルフェ」
「おいおい! もうピンチじゃん」
「ヘルフェの魔術は使えないのか?!」
「……星霊術は連発出来ないらしいし、土壇場で役立つような魔術じゃない。正直、もう見てられないな」
なるほど。
ヘルフェが僕に魔術を見せてくれた時、一度目は失敗していた。つまり、それほど難しいという事だ。
今まさに自分の生命が脅かされた状況で、そこまでの集中が必要なものを扱うのは無理か。
エトルの救援を期待するべきか……。少なくとも、僕が今からダッシュで行っても間に合いそうにない。
エトルの救援があったとしても、良い結果になるのか?
いや、やはり――
「こうなれば、窓から飛び降りるしかない!」
「馬鹿かよ。ここは五階だぜ? 着地の衝撃で、足が砕けちまう」
「説得に行くだけだ! 最悪、歩けなくても問題ない」
「アイツは正真正銘敵なんだ、そんな都合良くいくはずな――……いや、待て! あれを使えないか?」
「あれ?」
ネオンの指した先を見ると、教会のどでかい尖塔がこちらへ向かって大きく曲がっていた。
どうやら、さっきの大きな爆風の衝撃を受け、根元からひん曲がってしまったらしい。
丁度、宮廷と広場を断ち割るように宙を横切っている。
ここからおよそ十歩の距離。遠くは無いが、まったくジャンプでは届きそうにない。
ネオンはあの中華鍋のような銅鍋と鎖の端を拾い上げて、備品から拾った麻紐でそれらを繋ぎ合わせ始めた。
「思いつきだけど、他にやりようはない。ダメ元だ」
なるほど、そういうことか! 意図が理解できた。
ぶら下がり方式だ!
鍋の重さを利用し、鎖を尖塔の突起にひっかけ、振り子のように弧の軌道で飛んでから、着地するというものだ。
鎖が解けなければ身動きが取れなくなって悲惨だが、目的は説得だから、それでも最悪しょうがない。残されている猶予では、もう決行するしかない。
まさに大脱出。望むところだ!
「分かった。それで行こう。ネオン、フラエルを頼んだ」




