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強襲

強襲(八個目)

 木製の扉を開けると思ったよりも広めの空間が広がっていた。寝台は二つ。どちらかというと和モダンなテイストで奥には畳を敷き詰めた一角があり、襖を開けてみると清潔感ある布団が二人分用意されていた。道鐘は窓を開け、暑かったのか顔をしかめそのあとすぐに窓を閉めた。

「とりあえず僕は実家からいろいろ持ってきます。お二人はどうします。」

私は春遥を見た。彼女はベットに座って部屋を眺めているようだ。時折眠たそうに眼を擦っている。というか目がもうほとんど開いていない。

「あー、適当に決めるわ。着替えなんかも最悪買ってくればいい。春遥がよければやけど。」

「わっ、かりました。なんかまた困ったら連絡…は連絡先知らんから無理ですよね。」

「ほうやったな。ちょっとまって。」

私はスマートフォンを取り出した。

「この先何があるかわからん。一応連絡先は交換しとこう。」

「ですね。あ、すんません。」

彼にもスマートフォンを見せてもらい、彼への通信手段を確保した。

「あ、ほんで春遥ちゃんとも話せんと…。」

言いだしずらそうに道鐘は言った。

「そうだな。春遥、ちょっ——。」

冷や汗。それも束の間。土足なのも忘れ私はすぐさま奥に見えるベットへ駆けた。

「春遥っ!!。」

「春遥ちゃん!!。」

横倒れした彼女の顔を覗き込むと——。

「すぅー。」

若干穏やかな顔をして目を瞑っているので、夢に落ちただけだとわかり、胸をなでおろす。

「寝ているだけだ。大丈夫。」

「ほんまですか?!よかった…。」

やはり疲れているな。いや、疲れない方がおかしい。なれないバイクに運転手でないとはいえ長時間乗っていた。私でもかなり疲れたのだから、体格の小さい彼女のしんどさは計り知れない。そもそも空港で見た彼女は非常に疲れて青ざめた顔をしていた。もし仮にあの空港まで母子が“鵺”に追われて来たのだったとしたら。…桐生。考えすぎだ。悪い癖が出ている。

「はぁー…。」

ため息が出る。春遥に大事ないことへの安堵と、焦りを覚え始めている自分の至らなさに。…駄目だ。道鐘と整理しよう。

「道鐘。とにかく先にこれからすべきことを整理しよう。」

道鐘は突然こんなことを言う私に多少面食らっている。

「あ、ああ。わかりました。えーっ…と、どないすればいいんですかね。」

「直近でやることとしてはこれからの生活への準備やな。最低限着替えなんかはいるだろう。そしてぼちぼち移動手段もしっかりと準備せんといかん。道鐘のバイクに頼りっぱなしなのはよろしくないからな。」

「僕は全然大丈夫ですよ。」

「いや、そういう問題じゃないんだよ。一人がずっと運転しているとどうしてもお前が、運転手が気疲れしてくる。かと言って私じゃ運転できない。」

「え?」

「大型持ってないんだよ。私は中免どまりだ。」

「あ、そうなんですか。ってか二輪の免許持ってたんすね。」

「おうよ。こう見えて学生の頃は峠を走っていたんだぜ。大学でできた留学生の友人とな。」

「うへぇー、意外っすね。」

ここで、私ははっと見落としていたことに気が付いた。

「私があの子に乗ればいいじゃないか。乗っている人数が減れば道鐘も多少楽になるだろう。」

「それは確かにそうですね。」

「だが、その話はあとだな。道鐘に乗せてもらうにせよ、奈良とは逆方向に自宅がある。バスや電車つかうにしてもあんな片田舎までは時間がかかりすぎる。」

「そんなところにあるんですね。」

「祖父母の実家でね。だいぶがたが来ていて二人の手に余るようだったから改築してもらったんだ。それで大学生のうちはそっちに住まわせてくれて、…卒業する前に亡くなってしまったが、こうして今もそっちに住んでるんだよ。職場からもそう遠くはないしな。」

「そう、なんですね。」

ああ、空気を悪くしてしまった。道鐘はバツが悪そうに目を伏せている。

「というか、そんな話をしている場合ではないんだよな。どちらにせよ出発は急がなくてはならない。もしかするとそうこうしている間に追い詰められてしまう。」

「ですね。僕先出ますんで。」

「わかった。鍵はフロントに預けておくから、先に帰ってきたらよろしく頼む。」

「りょーかいです。」

そう言って道鐘は少し準備をしてから、バイクにまたがりホテルを後にした。

「うし。」

彼を見送った後私も荷物を整理し購入すべきもの、この先の道路状況、もちろん仕事などないがメールの確認等を済ませ春遥を起こそうかと立ち上がった。

 その時、扉を強くたたく音が聞こえた。

「寝ている子がいるんだがな。はい、すぐ出ます。」

扉を開けると脂汗を額ににじませた私より一、二回り上くらいの中年の男性従業員が立っていた。

「一回だけ言いますんでよく聞いてください。」

よく見ると鬼気迫る表情だ。

「反社会勢力が当ホテルのフロントまで詰めかけています。反社会勢力というのは見た目と言葉遣いから判断した次第で、拳銃を持ち全身装備で固めています。何か要求のようなものを申し付けておりますが、もし該当したとしても絶対に外に出ないでください。以上です。」

早口で言うと従業員は隣の部屋の前に小走りで駆けて行った。少し、飲み込みづらい状況だが扉を閉めて整理しよう。

「反社会勢力?」

外見から判断したらしいが、反社のような身なりとはどのような身なりだろう。全身装備で固めている、というのは機動隊のような装備をイメージするが、それが反社っぽいと言うのか?先刻の男性のはやとりなのではないかと私は窓の外を見た。すると真っ先に目に入ってきたのはホテル入口を塞ぐ大量の純黒装備、その先頭で偉そうにふんぞり返っているそれらしい格好の男。少し見えずらいが緑の革ジャンにタイトめなパンツを履いている。髪色も派手で、あれで口調が荒いというのなら彼が早とちりしてしまうのも無理はない。それにしても奴らのだろうか、大量の車がこれまたエントランスを塞ぐように並べられている。これは本当にどうしたことか…。

「…んっ、あれは!」

駐輪場に止められている。大型二輪車に目が止まった。あのスポーティで派手なバイクは…。

「道鐘!」

帰ってきている。他の者のバイクかと思ったが、ナンバープレートから間違いなく彼のバイクだと分かった。だとすると彼は今どこにいる。もし奴らが件の“鵺”なのだとすれば、道鐘は狙われる…だろうか。恐らく目的は春遥であると考えられる。いや、私たちの情報がどこまでいきわたっているか分からない。すでに私たちの動向を知っていて、現にこうして生末を阻もうとホテルまで詰めかけたのでは。だとすると道鐘も危うい。私は先ほど確保した連絡網を使い、彼とコンタクトをとることにした。彼が出れば、まだ退避するチャンスはある。三コール目、電話が繋がり、彼は小声で応対した。

「もしもし、桐生さん。」


お待たせしました。ep8です。割り込み投稿(?)すると思うので問題ないかと思いますが、順番の方お気を付けください。それと、次回から今作は毎週投稿にしたいと考えています。毎週金曜の23時59分までに投稿します。その関係上一話あたりの分量が減る可能性がありますがご容赦ください。それでは、また…。

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