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堕天

怪しい。怪しいことこの上ない。しかし、奴の所為で生き返っている以上奴に従わなければならないのではないか。今までの経験上、奴は人智を超えた何か、そもそも天使を自称している時点でただ者ではない。そう考えると背筋が粟立った。

「…ひとまずは、何らかの手違いがあったのだと解釈しておく。」

「ん。なるほど。それで結構だと思うよ。」

奴はあっさり言ってのけた。奴は続ける。

「では、早速本題に移ろう。…私が『天使』だという話はしたね。」

「ああ。」

「…なかなか突飛な話で申し訳ないがね。私ら『天使』というもの、あー厳密には君らの言う天使とは違うんだがね、基本は無力なんだ。特に、あそこにいるだけでは。」

奴はやがて分厚い雲が流れている空を指して言った。

「…若干話が見えて来たな。」

というと、奴は得意げに片眉を上げ、

「おお、さすが。つまるところ君たちには私の、下界で動ける傀儡になってほしいんだ。」

苦笑いしながらも私は答えた。

「…すこしは隠せ。」

すると奴は、今度は自慢げに胸をそらせ、

「ふ、嫌だね。私と君はすでに心の中を打ち明ける中じゃないか。包み隠さずやんなきゃだめだよ。」

「あ、ああ、そうだな。」

苦笑いするしかなかった。

「…ぁ。桐生さん。」

茂みの方から声が聞こえた。

「起きたか。」

やはり彼はぎょっ、としている。私の背後の少女を見てだろう。しかし先刻のように卒倒するほどではなかった。流石に二回目は慣れてしまうのだろう。

「えっ…、と。」

私は振り向き、奴の顔を見た。少女の双眸は一瞬左に寄った。つまり、彼女から見て右手の方に行ってこい。ということだろう。…そういえば自販機があそこにあったな。もう一度振り向き彼に言った。

「喉、乾かないか。何か買ってくるよ。」


チャリン。ガッシャン。

自販機に触れることでようやくこちらに帰って来たのだと実感した。いや、帰ってきたというより解放されたという表現が適切だろう。

カシュ。

アイスコーヒーを口に含む。…はぁ。正直、アレと対峙しているときは、なんというか自分らしくなかった。猜疑心まみれで何をしようにもまず不信感が先立っていた。だが奴が復活の約束を果たしたところを見るに、ひとまずはそれから解放されたようだ。…ああ、もう飲んでしまった。隣に並ぶ背の低いゴミ箱に缶を押し込み麦茶とスポドリをそれぞれ両手に携え、戻ることにした。


「どうだ、大丈夫か。」

「あ、はい。何となくは分かりました。ホントに何となくは、ですけど。」

「まぁ、普通はそうだな。私だってこいつを信じているわけではない。」

青年は麦茶を選んだ。…はっ。アレルギーとかを聞いてなかった。だが恐らく麦茶は問題ないのだろう、わざわざ選んだということは。一応振り返ってみたが、こちらを見下ろす顔は特に反応を示さなったので目線をもどそうとしたが、私の右脇からするりと手が伸びて来た。私は大いに焦り、右手のものを落としそうになった。…オマエもいるのか。

「なんだその顔。言っておくがこれは彼女の体だからね。代謝も普通に行われるのだから喉も乾くさ。」

なら、一言言って受け取ればいいだろう…。マイペースなのか、こいつは。

「…何か失礼なことを考えているな。」

ジト目でこちらを睨む。仕草自体はとてもかわいらしかったが中身が中身なので私は相変わらず眉をひそめたままだった。その表情のまま私は、

「いんや、何にも。」

それに対し奴はいかにも訝しげだったが、諦めたように首を横に振り口を開いた。

「まぁいい。時間も限られているんでね、さっさと君らへの要件を話そうか。」

「単刀直入に、君たちには中国に向かってほしい。」

「は。」

私たちは唖然としていた。しかし、何故中国?という問いの前に、

「ちょっと待て。君たち、とはどういうことだ。」

という言葉が私の口をついて出た。

「私たちのこと、なのか。」

人差し指を下に向け、私の体の前で回してみる。つまり、青年、私、そして天使、ではなく少女を指したのだ。それに対し天使は当然というように首を縦に振り言い放った。

「勿論だ。他に誰がいる。」

「ちょっと待て。生き返らしてもらった恩のある私はまだわかるが、二人に手伝ってもらう理由はなんだ。私一人で十分じゃないのか。」

「この子、清原春遥には私の力を通じていろいろな役回りをやってもらう。特に、今のように私が肉体を間借りして君らの助けをする必要があるかあらね。」

己の体を指して奴は言った。そして続ける。

「赤城道鐘。君にもやってもらうことは沢山ある。奨学生である君の、あの大学でもずば抜けている知識量と技術を道中で使う必要がある。そうでないと全…、いやなんでもない。つまり、彼女らは必要なのだ。必要だからこそ同行してもらう。無論桐生、君は確実に必要だ。その理由を今は明かせないが。」

「くっ。」

唇をかむ。ひどい話だ。自分だけならまだしも若者の彼女らの力を借りてまででもこいつに従わなければならない。己の非力さが歯痒かった。しかし相手は恐らく人智を超えた存在。どう転んだってかなう相手ではない。

「…刻みたいだね。それじゃ、そいうわけだから。よろしくね。んじゃまた。」

「ちょっ、ちょっと待て。」

言い終わる前に彼女の体はごく自然に傾き倒れかかった。私はあわてて抱き留めた。

「危ない。」

抱きしめたときも感じただが、やけに軽い。腕もかなり細いようだ。しっかり食べれているのか。…いや、そんな環境にいなかったのかもしれない。しっかり食わせてもらえる環境に。——こんな問題が、山済みだ。解決しようにも底が知れない、尻尾がつかみづらい。つまり正体不明の鵺のようなものである。迂闊に触って大事に至らなければいいが。そんな懸念にさいなまれていると、彼女の瞼が動いた。目覚めたようだ。

「ぁ。おはよう。」

軽く目をこすり、気怠そうに目を覚ました。しかし私の眼を見るなりするりと腕から抜け、気まずそうにしていた。やれやれ。自然と私は苦笑いを浮かべていた


いかがでしたでしょうか。次話も是非、よろしくお願いします。それでは、また。

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