違和感
シャッターは二種類用意しているようで、軽自動車程度ならば楽々出入り出来るものと、あの巨大トラックの出入りのためのものと。道鐘の大型バイクは低速のまま侵入し、所定の位置に停車した。
「何事もなく、って感じか。」
「ええ。ガソリン代の高騰が半端ないっすわ。先に電子マネーチャージしといて正解やったす。二人こそ、何ともなかったですか。」
「…大丈夫だよ。全く、何故それほどに彼を疑っているんだ。彼に、少なくとも私たちを狙うような魂胆はないと思うんだが。」
「…。」
道鐘は蓬田君を一瞥し、彼に聞こえないようにか小声で答えた。
「…やっぱりそうですよね。あいつと何か話したんですか。」
「色々と教えてもらった。私と春遥を狙っているのが牙鳥という組織であること。その組織の実態について。それにこれは聞くべきなのか分からなかったが、君たちの共通の友人?の廣田君の話も聞いた。あれは事実なのか。」
「…ええ。廣田は亡くなってしまいました。正直それでも僕は“アレ”が実在しているとは信じませんでした。というより、信じたくなかったです。」
彼は俯いた。
「…の葬式があんな形になるなんて…。」
彼は小さくつぶやいた。
「何か言ったか。」
「いえ、大丈夫です。」
彼の表情からして「大丈夫」ではないのだが、あまり詮索しすぎるのも良くないので私は、今度余裕がある時にまた聞こうと考えた。
「赤城ぃ。」
「噂をすればやな。」
道鐘は蓬田君を見て言った。
「蓬田ァ。今更かもしれんけど、二人を助けてくれてありがと。正直お前が来んかったらまずかったかもしれん。」
「おおぉ。赤城がワシに礼なんか…、明日は魚が降るなぁ。」
「そこは、槍ちゃう?」
「ほやわ、あはは。」
堅物で才児な道鐘と、抜けていて温和な蓬田君はでこぼこながらも相性がいいのかもしれない。今行われたようなボケとツッコミのやり取りで、本来は仲の良い友人関係なのが見て取れる。道鐘がそう簡単に彼を信用しないのも、実はその気持ちの表れだったり…。
「桐生さん、とにかく作戦会議しましょう。」
「ほやなぁ。桐生さん、さっきの話の続きしましょや。」
「あぁ、分かった。春遥。何度も読書の邪魔してすまない。今度は四人でちゃんと話をしよう。」
春遥はいつの間にか本を手にし、立ったまま目を上下させている。食いついて見ているようではないが、そこまでして読まなければいけないほど面白いのだろうか。
「…うん。」
しかし、思ったよりもあっさり本から目を覚まし、再度栞を挟み本を閉じた。
テーブルを囲むようにソファに腰かけた。蓬田君は煤を落としてくると言い、風呂に入った。ものの五分ほどでシャワーの音が止み、今着替をしているようだ。
「蓬田君の仕事について知っていたのか。」
「…いえ、今初めて知りました。」
道鐘はショックを受けた表情をしている。なんせ友人が知らぬ間に違法行為を仕事にしていたのだ。その仕事を受けていなければ、恐らく私たちと関わることもなかっただろうに。
「ですけど、蓬田がその仕事受けてなかったら、あいつは助けに来なかったと思います。」
私の顔を見て、彼はそう言った。
「…そう、考えることも出来るな。」
そこまで顔に出ていただろうか。私は顎をさすった。
「…組織、て呼ばれてた。」
突然春遥が口を開いた。恐らく“鵺”の話だろう。
「その組織名までは聞いてないか。」
「うん。言っちゃいけないみたいな、おじさんたちはそんな感じのこと言ってた。」
「なるほどな…。」
皇室(?)内でもタブー視されていたという存在。“鵺”が“鵺”であることに拍車がかかった。つまり、より「分からない」存在となった。が、逆にそこまで実体を隠そうとするのならば、そう簡単に表舞台に出てこまい。…あまり話すべきではないかもしれないが、ここまでの情報で立てられる仮説を彼女らに打ち明けよう。そこで、出来れば三人からの反駁が聞きたい。
「すみませぇん、おそなりましたわぁ。」
「いや、早かったで。というより、仕事を中断させてすまんかった。」
「いやいや、かまんですわ。今日の分は終わっとって、明日の予定を早めて調整をしよったんですわ。それよか、三人のこれからの方こそ先決やわ。」
「…ほやな。桐生さん、集まったんでやりましょか。」
「おお。分かった。…とにかく早いに越したことはない。いずれぶち当たるだろう壁に対して、皆の考えを聞きたいと思う。」
「壁。」
蓬田君が分かったような顔をして言う。
「とにかく、私が聞いたことをできる限り打ち明ける。済まんが時間があまりないからいちいち許可を取っていられない。単刀直入にいう。春遥、蓬田君の話から、ある組織が私たちを追っていることが分かった。蓬田君の話ではその組織の名は牙鳥。春遥の話では、その名前を言ってはいけない。以降、後者を“鵺”と呼ぶ。この情報から、二つのパターンで私たちは行動することになる。」
私は手でピースサインを作った。
「一つ目、牙鳥≠“鵺”の場合。つまり、私たちは今、二つの組織に狙われているということだ。こう考えるとかなり楽かもしれない。まず、“鵺”が牙鳥ほどにまとまりのある「組織」でない可能性が出てくる。根拠として、“鵺”が国内で目立つことに消極的であるからだ。春遥の話では、皇室の人間恐らくは政府要人も、混ざる彼女の周りの人間は“鵺”のことを名前の言ってはいけない組織だと口々に嘯いていたようだ。国の機密情報を知っている人間が混じっているかもしれない、かつ漏れる危険性もうすいあの中で誰もその組織の名を発さないのはそれほどに“鵺”は闇に紛れる必要があるということだ。と、考えると彼奴らは目立ったことをしてこない。それに春遥に着けた爆弾で間違いなく春遥が死んだことを確信している。何故なら、その後も足取りを追うほどに慎重ならばホテルから追い出された袋小路に入り込んでしまった私たちともども春遥を、追い詰めることが可能だった。だが結果は、蓬田君の方が足が速かった。その程度なんだ。そうは思わないか。」
三人を見た。各々が違った反応を示していた。道鐘は口に手を当て、春遥は何かを思い出そうと険しい顔をしてうなり、蓬田君は口を半開きにして…お、恐らく何かを考えているのだろ、う?
「ですけど、桐生さん。それはあくまで楽観的な考えから導かれた仮説ですよね。二つ目のパターン、ちゅうのは。」
「ああ、その通りだ。打って変わって、二つ目のパターン。つまり、牙鳥=鵺の場合。まず追われる組織が一つに減ったというアドバンテージがある。…が、どれだけポジティブに考えても私たちの利点はその一点だけだ。牙鳥=鵺と仮定し、今までの出来事をまとめてみると、まず八月二十九日深夜。私が空港に着く。春遥はそのころどうしていたんだ。」
「…確か、私も日付が変わる前には空港にいた。とても眠くて、あんまり覚えてないけど。」
「なるほどな、つまり私も春遥も空港についてすぐだったわけだ。その後、確か二十三時、五十分ころ。第一の爆破が起きた。これにより、空港施設のほとんどが被害にあい、死者多数であった。その時点で私と春遥は生存していた。ところで、道鐘はいつ頃空港に。」
「ちょうど近くを走っていたんです。レポートがようやく終わって、家に向かってたんですけど遠くからとてつもない音が聞こえてただ事じゃないと思って…。」
「なるほどな。第一の爆破が起きた後、道鐘はこちらに向かったわけだ。」
「ええ。」
「問題は、その後…だな。」
私は身を乗り出し、なおも続けた――。
お久しぶりです。この挨拶も何度目ですかね…。何とか二話だけ書き溜めていたので解放します。はぁ(*´Д`)、二話だけかよ。コロスゾ!!という方。安心してください。はいてま…来週分も投稿します。それでなんとか許してください。別件ですが最近会話文の量が多いような自覚を得ています。もし、それ以外にも読みづらい点ありましたら、ぜひコメントを残していってください。出来る限り改善します。以上です、それでは、また…。
p.s. あけましておめでとうございます(シンプルにど忘れ)