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天啓  作者: ワシの中のシワ
立志編
13/24

宛てなるか先は

あてなるか先は

「私、マ…母と一緒にあの家から逃げて来たんです。」

彼女は多少まごつきながらも答えた。私は相槌を打ちながら続く言葉を待った。

「それでその…ママはその、『この家はもう私たちを守る気がない』って言ってて。」

「守る気がない。」

「え。あ、それはその…。」

「ああ、大丈夫。私も少し考えてみよかと思ってな。」

顎をさすりながら考える。春遥の母親の言葉の真意を。

「合ってるか分からないけど、私のお父さんは親王様って呼ばれた。だからなのか私たちも英子様、春遥様って。」

親王。現代ではそう呼ばれるのは皇位継承可能な今上天皇のご兄弟若しくはご子息にあたる存在だ。…だよな?

「なるほどな。ともかく…だ、おぅい道鐘。」

しっかりと見張ってくれていた彼を呼びに、私は彼のもとへ歩いて行った。

「桐生さん。」

「本当に申し訳ないんやけど、金持ってない?」

呼びかけた後に開口一番でそういったので彼は微妙な顔をした。

「あぁ、言い方悪かったな。喉乾かんけ?」

「乾きましたね、暑いんで。」

「私、百七十円ちょっとしかもってへんのよ。一本しか買えん。道鐘は。」

「僕は…、いや僕も手持ちは百二十円だけです。maymayにはかなり入ってんですけど。」

どちらも現金に余裕がない。飲み物はどう頑張っても二本しか買えない。最悪自販機の下を覗いてみるか。

「取り合えず二本買いましょ。もしよければ一本は僕と桐生さんの飲みまわしで。」

「ああ、私は全く構わん。道鐘はいいんか。私なら滝のみできるぞ。」

「たきのみ?どういうことですか。」

「うぇ?滝のみは…、知らんのか。ジェネギャってやつかー…。」

これが。


                     ****


ピッ。…ガッシャン。

ペットボトルの水二本を吐き出した自販機をもう一度よく見てみると所々文字が掠れていたり、値段の書かれたタグ?のようなものが欠けていたり、実際に置いてあるのは水とコーヒーの二種類であったりと、いかにも人気のない場所だということが分かった。

ブー、ブー、ブー。

突然の連絡を僕の携帯が受けた。誰からだろう。

「蓬田?!」

蓬田紘馬ひろま。高校三年間と大学一年間半の月日を共に過ごした腐れ友だ。僕はそうだと気づくとすぐさま電話に応答した。

『赤城ぃ~。久しぶりぃやね。元気やったけ。』

「ヒロ!おめぇ『久しぶりぃ』やないわ。この半年間何しよったんや。連絡もしてこんで。」

『ああ、悪かったな。あー、ちと色々あってなぁ。この後話すわぁ。すぐそこまで来とんねん。』

「はぁ?」

『お前ら追われとんやろ。』

「な、何でそれを。」

『それも直接会って言うわ。そろそろ電波探知されるころやけ。ほれ、ぼちぼち見えてくると思うで。』

ブツッ。急に電話を切られたみたいだ。…全く、あいつは。そうしてペットボトルを取り、停留所に戻ろうと踵を返すと奥から、桐生さんの声がした。

「道鐘、春遥。木陰に隠れろ!」

見ると、彼の後ろに狭い道をぴったりと塞ぎながらこちらへ向かう、巨大な貨物トラックが見えた。


                  ****


巨大なトラックは停留所の長椅子前にぴったりとつけられた。

「本当なのか、道鐘。」

「ええ。タイミングからすると蓬田です。それに以前、貨物トラックをローンで購入したとも言ってました。」

「もし敵だとしてもこれ以上はバイクでは逃げられない。」

「それもそうです。足で逃げてもこの山道じゃあじり貧です。」

道鐘が言うにはこのトラックの主は彼の友人、蓬田君のものらしい。運転席に座っている茶髪の青年を確認してもらったが、間違いなく彼であることは分かった。しかし、彼が本当に味方かどうかの確信はない。それは何故私たちの居場所が分かったか、だ。“鵺”の手先で私たちを追い詰めに来た可能性もある。道鐘もうすうす感じているようだ。

バタンッ!

大きな音を立てフロントドアが閉められる。

「赤城ぃ。いよぉ、なかなか大変なことになっとるのぉ。」

蓬田青年ゆったりとした喋り方であった。見た目は今風の若者であるが、喋り方のせいか、老人のような風格を漂わせている。

「ヒロ。なんで僕らの居場所が分かったんや。」

「もしかしてわいのこうとごうごうとんか。もお、冗談きついわ。自分ら親友やなかったか?」

どうやら半年ほど連絡がなかったらしい。しかも、どうやら大学にも来ていなかったらしい。共通の講義をとっているはずなのに一度も来ていない。そんな蓬田君に身を預けられるのか、親友ながらも道鐘は彼のことを疑っているようだ。かなり苦しい行為であると私は思う。

「じゃあ、今まで何してたんや。」

「それは…今はいえへんねん。」

「ほんならどうやって信用せえっちゅうねん。僕をだますんはええけど、二人だけは絶対に大事ないようにせなあかんねん。」

「まぁまぁ、道鐘。どちらにせよ俺たちは切羽詰まっとるけんな。彼の力に頼らざるを得ない。」

彼らの言い合いが喧嘩に昇華する前に収め、私は道鐘に耳打ちした。

「せ、しかし…。」

彼は狼狽している。確かに蓬田君が見方だと信じるのは賭けかもしれない。しかし、バイクも一緒に私たちを運ぶためにトラックを用意してくれたというのだ。ここまでしてもらって、その好意を突っぱねるというのもなかなかひどい話である。ここは賭けよう、と道鐘の目を見ていると彼はやがて深呼吸をして蓬田君へ向き直った。

「分かった。今回は信用したる。やけど裏切った瞬間…。わかっとるよな。」

「分かっとるわい、そんなん。」

「すまんな、蓬田君。道鐘に加えて私と春遥も一緒に乗せて行ってもらえるとは。」

「大丈夫ぅですよ。きりゅ…う?さんでしたっけ。」

「ああ。頼むな。」

私は蓬田君の肩を軽く叩いた。春遥も後ろで小さくお辞儀をしている。

「まぁかせてください。赤城は助手席でええか。色々ごちゃごちゃしとるけ。」

「…かまん。てか僕から色々話あるから。覚悟しとけよ。」

「ひぃい。怖いて赤城ぃ。ほんじゃあすんまへんですけどお二人は後ろの長椅子にお願いしますぅ。なんかあったらスピーカー通じてそちらにお伝えしますんで。」

「ほお。そんな設備も付けているのか。」

「…まぁ、積もる話ん方はあっちに着いてからにしましょうか。」

「あっちていうのは、アトリエか。」

何故か神妙な顔をした蓬田君に道鐘はこう尋ねた。

「ほやで。よう覚えとんな。あっちで今までしよったこととかこれからするべきこととか色々話があるんや。そん時は桐生さんと、お嬢ちゃんもおおきにですわ。」

と、今度は笑みを浮かべながら言った。何ともつかみどころのない青年だ。


どうもワシです。諸事情ありましてこちらの先週分を今週分とともに投稿いたします。続きを待っていた方申し訳ありませんでした。

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