あの日の
えー土曜日深夜の2時です。有限不行、座右の銘です。許してくださいm(_ _)m。
「にいたん。」
うん?まだちょっと眠たいけれど、俺は無理にでも目を覚ました。
「楓。どしたん。」
目を開けると、目の前には今年3歳になる妹のまん丸な顔があった。
「にいたん、かみなり怖い。」
なるほど、俺は大して気にしとらんかったけど外の天気はじいちゃんふうに言うと「おーぶりの雷雨」ってやつだ。しきりに雨と雷の音が鳴ってる。
「おう、楓。そうやって起きとると雷さんにおへそ取られるで。」
「ええっ...おっおへそ...。」
隣で爺ちゃんが眠っているのを思い出した楓は途端に声を小さくした。
「にいたん、おへそいたいいたいよね。」
「...痛いやろなぁ。」
暗くて見えないだろうが、これでもかと顔をしかめてやったら楓はそれを感じ取ったのか俺の腕の中に入ってきてちぢこまった。
「にいたん、あったか〜い。」
したっ足らずな喋り方がなんとも可愛らしかったので今日はこれ以上なにも言うまいと、俺は眠ってしまった。
「瑕為。おきぃ。」
今度はしわがれた声に起こされた。ならばもう朝かと、学校に行く憂鬱さを抱えたまま気怠げに起きた。
「おはよー、じいちゃん。」
しかし、窓の外が真っ暗だった。さっきとは違い電気は付いていた。
「じいちゃん?」
爺ちゃ、...いや、祖父はどんな時も表情一つ変えず冷静沈着な人だった。しかし、あの時の表情は今でも覚えている。
その次に見る光景よりもそれは、悲惨な、悲痛な顔だったーー。
やはり花畑である。蝶が私の鼻に止まった。目が合ったが特に警戒されることなく、その後足音が聞こえだすと飛び去ってしまった。
「桐生。これには一体どういう意図があったんだ。教えてくれ。」
ふむ。珍しく殺気を放っている。どうしてだろう。
「どうしてだろうじゃないぞ、大馬鹿者!」
「貴様、心まで読めるのか。」
「読めるか!顔に出ていたんだよ、君の!」
ああ、そうか。なんだか懐かしい、...ような記憶を見ていたから油断してしまっていた。そうだ、私はまた死んだのだ。
「勘弁してほしいな。もちろん君を死なすわけにはいかないから一度や二度とは問題ないがね、君は死ぬと分かっていてあそこに飛び込んだよね。何をしているのかな。」
「ついトンでしまっていたみたいだ。それでアドレナリン全開の脳みそであの死地を走り抜けようと考えたわけだ。」
「考えたわけだ、じゃないからな!全く。今後は慎重に行動してもらう。そのためにもこちらから多少は干渉させてもらうからね。」
いつもの薄ら笑いが消えて饒舌になっている。
「そうか、頼むぞ。」
何故か今回はやつとの会話に何も考えず受け答えが出来ている。
「...はぁ。まぁ今回の対応は悪くなかった。なるべく三人欠かすことなく頼むよ。なるべくだからね、努力してよ。」
「善処する。」
前回とは真逆に奴が疑いの目を向けている。まぁ確かに今回は私に非があるな。改めて死なないことを意識に入れよう。
「...頼むよ。ああ、あと今回は少し餞別があるからね。是非活用してね...。」
こいつはいつも最後に何か重要な事を言いやがるな。その追求をするのはまた今度だ。そして奴の声は次第に遠くなる...。
***
一勢に全身の毛穴が開いた気がする。僕にしがみつく両腕の力が向けているのに気づく。恐らく春遥ちゃんも蒼白な顔をしているのだろう。僕もそれを確認する余裕はなかった。
「桐生さあぁあぁああん!!!」
どちらが発したかもわからん悲痛な叫びがあたりに響き渡った。無慈悲な弾丸は彼の頭を貫通した。いくらなんでもそれは助かりようが無い。現に彼はなすすべなく地面にぶっ倒れている。どうする道鐘。彼は助かりようがない。それはこの中で一番お前が分かっているだろう。このままウジウジしているとやがて僕らも制圧されてしまう。だから早くアクセル開けろつってんのに...。
「何で動かんねん、体ぁ!」
くそ、くそ、くそ、くっそ!焦燥に押しつぶされる。それとともに僕はこんなにも小さかったのかと今更気づく。決断しきれないまだまだ子供のままだった。それなのに、道を示してくれる大人はもういない。どこにも。天を仰ぐ。雨脚が強まる。
ドゴォォン!!!
遠雷が聞こえる。だからこそその瞬間を見ていなかった。
「ぁ...?」
頭から血を流した彼が立っている。薄ら笑いを浮かべて。
けれどもこの光景の方が信じやすかった。だからこそ、僕はもう何も考えずに再びエンジンをかけた。
「待たせたな、二人とも。」
血の濃い匂いをさせた彼が勢いよくまたがる。少しぐらいついたが、今はもう大丈夫だ。二回目だからだろうか。
「何やってんだ!!撃ち殺せぇえ!!!」
思い出したかのように銃の乱れ打ちが再開される。
カキンッ!
その中から正確に僕たちを狙う弾があったようだ。しかし、それは弾き返された。僕の予想だにしない方法で。
「…ノカガミ。」
彼は円盤状の何かを手にしてごく自然に、喋り出すかのように言った。
「道鐘。急ごう。」
初めて彼の顔を見た。薄笑いは消え、座りすぎな目をして奴らを見ていた。
「は、はい。」
本当に彼なのかという疑問は噤まざるを得なかった。僕は一気にアクセルを回し、駐車場を駆け抜けていった。銃弾が間近まで迫っているのは肌で感じていた。しかしそのすべてを彼は弾き返していたのだ。僕の知りようもない方法によって。僕はまだ駆け抜けることしか出来なかった。
***
相変わらず彼のバイクの後ろに跨がっている。違うといえば、春遥が道鐘の胸の中にしがみついていたので、現在は彼とハンドルとのほんの小さな隙間にちょこんと乗っている。以外とこちらの方が乗り心地が良く、本来このバイクは二人乗りが好ましいことが分かる。
「桐生さん!追っ手きてます?」
「大丈夫だ!もう巻いてる!」
声を張り上げ呼応する。ホテル脱出後即座に奴らは車で追ってきたが、道鐘の加速力が思った以上早かったらしく、山間部を抜けると奴らの影は見えなくなっていた。見た所横道無い一本道であり、先周りされる心配もなさそうだ。だが....。
「桐生さん...。」
風に吸い込まれるような小声で彼は私の名を呼んだ。
「ガス欠か。」
先刻から音がおかしいと思っていた。振り落とされないように乗り上げてメーターを確認すると、目盛は一つしかなかった。
「よく走ったな、この子は。」
タンクの横っ腹を指で軽く叩くと、かなり高い音がしている。つまり、ギリギリなのである。道鐘はいつでも止まれるように徐々に速度を落としている。山間部でガソスタもない。あったとしても寄っている間に追いつかれるかもしれない。その打開策に我々は逡巡していた。
「ん、あれは。」
木々に囲まれた道の奥に錆びきった看板が見える。
「道鐘。あそこだ。あの看板で一旦停まってくれ。」
「あそこ...あの奥のっすね。分かりました。」
近づいていくにつれ速度が下がる。やがて看板が眼前に迫る。その奥には古ぼけたバス停留所があった。というよりあったようだ。このバスの線が稼働しているかも分からないほど看板の字が読めなくなっている。屋根付き停留所も蔓が伸びてきてしまっている。おおよそ使われている雰囲気ではない。しかし、
「好都合だ。」
道鐘も、私の意図を理解したのか私たちを降ろしてからバイクを押してガードレールの内側に入っていく。邪魔な木の枝などは私が取り除き、物陰にバイクを隠す。そのついでに私たちも緑の濃い影の中に入っていく。夏場ではあったので虫の攻撃が酷かった。気づけば鏡は私の手の中から消えていた。
タイドルゥゥ゙、に加えてとても雑な書きぶり、何卒ご容赦下さい。次回は11月1日更新予定です。それでは、また...。