轟雷
こちらはep10です。ep7,8が飛んでいるので先にそちらを読むことをお勧めいたします。
かなりの大役を頼まれた。あそこまで武装した奴らを相手取り時間を稼がなければならない。少しでも怪しく思われるとあのセミオート銃で…。あーだめだ、考え出すと動けなくなる。…せっかく任された任務を遂行しなくては。
「あのー、すいません。」
あくまで自然、そう自然な振りで奴らに近づく。途端に銃を向けられるが、両手を上げ無防備であることをアピールする。
「いや、あのお尋ねしたいことがあって。」
二人ともフェイスシールドをしているので表情は分からないが大層困惑しているようだ。…撃っても来ない。
「こちら非常側。聞こえるか。雨でずぶ濡れの怪しい男がこちらに話しかけて来た。恐らくホテルの関係者…か?応答求む。」
するとすぐに彼のトランシーバーから声が聞こえて来た。こちらは何とも野太い厳格そうな男の声である。
「こちらエントランス。そいつは奴らの仲間である可能性がある。だが、一般客か従業員である可能性もなくはない。警戒するとともに丁重に扱え。そして前者であることが確定し次第射殺しろ。」
危ない。これを僕にわざわざ聞かせていることを考えると今のに反応していなかったら…。冷や汗ものだ。
『…了解。』
眼前の二人はこちらを怪訝そうにしながら応答した。だが、発砲されない分気づかれたわけではないようだ。
「ほんま凄いことになってますよね。何があったんです。っていうか警察さんなんですか。」
「…どちらにもお答えできません。そちらはどなた何ですか。」
調子を乱さずに片方、こちらは妙に落ち着き払っているが、再び鎌をかけてきた。そこで僕も落ち着いたまま、
「僕ですか。僕はここの従業員です。昼からのシフトやったんですけどちょい遅れて。ほんで遅れながらも出てきたらこの状況で。」
言ってから気づいた。だとしても銃を持ったものに話しかけようとはならないだろう、と。そこはほんの少し後悔していた。…それにしても、思ったよりもすんなり演技ができるものだな。
「…そうですか。でしたら今日はお帰りいただけると幸いです。オーナーの方にはこちらの方から申しておきますの…。」
プルルルル。
紛れもない。僕の携帯の音。刹那、急に理解する。いや、理解させられる。僕は違和感を抱かせないように自然なように携帯を手に取り、彼らから離れる。それはマナーの一環だと普通は捉えられるだろう。その一連の動作に注意が向いた彼らに襲い掛かる。轟雷のような衝撃が。
***
ズッ、ガッシャーン!
此度は扉自体を蹴破ることはできなかったが、扉と建物をつなぐ金具を破壊し、そのまま吹っ飛ばすことができた。こちらは鉄製だったのでかなりの音がしたようだ。だが、道鐘がいると言っていた見張り二名はそのまま蹴り飛ばされ、一人は建物の柱に、もう一人は地面に頭をぶつけその場に転がったようだった。そのわきにはやはり道鐘がいた。
「桐生さん!春遥ちゃん!」
ずぶ濡れだ。その手にはスマートフォンが握られている。…上手く、やってくれたようだ…!しかし、その顔が途端に青ざめる。
「桐生さん!後ろ。」
上半身を降り、すんででかわす。短刀が右耳の数ミリ隣の空気を撫でた。
「後ろに目があるとは思ったが、本当に背中を狙ってくるとは。悪趣味だな。」
眼前の敵もやはり完全防備である。
「戦法と言ってくれよぉ、アンちゃん。こっちは正々堂々やってるつもりなんだぜぇ。」
玄人の構えをとっている。かなりやり手か、こいつ。
「道鐘、バイクに乗り込め、それから駐車場を旋回していろ。できれば更に目立つように爆音をかましまくってくれ。私もすぐにそちらに向かう急げ!行け!」
半ば命令のようであったが、道鐘は春遥を抱き上げ、走り去った。…申し訳ないな。
「悪あがきは済んだみたいだな。」
ほんの少しあちらに注意を向けている隙に再び切りかかってきた。此度はほんの少し遅れ、耳を切ってしまった。
「つっ。」
「よくよけたね、アンちゃん。やっぱただもんじゃないっしょ。」
「…。」
「山田のおっさんを二手で締めてたンは驚いたよ。ああ、部屋の巡回担当の、アンちゃんがドア蹴破って仕留めたあいつだよ。あれでも柔道有段者なんだぜ。ナニモンなんだ、アンちゃん。」
「…さぁ?少なくともアンタが知ることは永久にない。」
「ふ、あっそ。つれないね。」
***
ああああああ!今日一日で何回『挑戦』すりゃいいんや!ほんまに!とっくにメンタル限界やっていうのに!
「んでもやらないかん、僕がこれやらんと三人とも助からん。」
「お兄ちゃん…。」
ああ、この子の何とも言えん不安そうな顔!こんな年端もいかん女の子をそんな気持ちにさせたらあかんやろ、道鐘!バイクでドリフトなんかやったことないけど、もうちょっと男みせんとあかんよ!
「僕にそのまましがみついとって。絶対離したらいかんよ。」
僕の決意をくみ取ったんか、不安そうな顔から一転、真剣なまなざしで堅くうなずいてくれた。
「よし、いくで・・。」
アクセルを切った。
***
流石はフル装備、こちらが打撃を当てようと効いている様子ではない。というよりあまり中てさせてもらえない。
「おいおいおいー、こンなもんかい!」
また短刀が振りかざされる。単調に振り回したり、ついてきたりせず見事に使い分け攻撃予測がしづらい。締め技のしようもないし、…そもそも得意ではないので打つ手がない。だが…
「ぅん!」
そこに転がっている見張り。その脇にある銃を拾い、奴に向けた。
「アンちゃん、そういう手も使える口かい。」
銃の扱いはアイツに教えてもらった。いける、撃てる。
「どうしたぁ。撃って、来いよ。」
セーフティは外されている。
「はぁ、はぁ。」
お互い息が上がり始めている。撃て、この至近距離ならば弾は貫通する。撃て、撃て、撃て、撃て…。
ブオン!ブオン!ブオー、キ、キキ―!
バイクのエンジン音、それと共に地面をこする音。…道鐘だ。瞬間私は銃を放り投げ、逃走するのに全力を尽くした。
「は、ま、待ていや!コラァ!」
生憎そっちに反応している余裕はない。裏口の、非常出口の側から建物の端を回り、ホテルの正面に出てくると巨大な駐車場が見えて来た。そこでは依頼どうり道鐘が大型バイクのドリフトを披露している。…見事である。
「こちら林田!聞こえるか、駐車場のバイク野郎の方に向かっている男を射殺せぇ!そいつだけは必ず殺せ!今すぐにや!」
先ほどの男がトランシーバー越しに仲間の方に伝達しているようだ。途端にエントランスの方にいる群衆から一斉に銃を向けられた。しかし私は…。
「止まらないぞ、私は!命中させてみろ!できるものなら!」
走り続けた。いまだ雨はやまない。そしてまた別の方向から雨が一斉に降りだした。…やはり、あの銃は飾りだ。ほとんど命中しない。
「はっはー、どうした!俺はここだぞ!」
最早振り返る余裕はない。だがアドレナリンのせいだろうかなんの痛みも感じない。疲れも感じない。動き続けられる。あの先に待つ二人のもとへでも。
「あぁああぁぁぁぁっぁぁああああ!」
ダァン!
降り続ける銃の雨の音に混ざり、雷のような重低音があたり一帯に響いた。吹き出した汗の雫がゆっくりと地面に落下するのが見えた。雨の雫と共に地面に爆ぜ、冠のような形状になり、やがて消えた。
ザァー。
聞こえていなかった雨の降る音が再び聞こえ始める。そして降り続ける透明な液体に混ざって大量の赤黒い、ものが地面に…。
「桐生ぅぅぅさーん!!」
前書きで7,8を先に見るべき、と申しましたがまだ投稿されてないので御覧になれないかと思います。必ずそのうち出しますのでお待ちください、そのうち…、必ず、…きっと、…多分、…恐らく出します。…それでは、また。(一部誤りがあったので訂正しました。20241026)