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第四話 竜と王女は初めての夜を迎えます

 結局、お父様はアートルムに長く王国直轄地だったアーカーシャ山麓の平原一帯を領地として与える事になって、領地の広さでは国で一二を争う辺境伯になってしまった。

 あの辺りに人はあまり住んでいない筈だけれど、それだけ発展の余地があると言う事で彼自身は喜んでいた。

 結ばれた契約の詳細を記した羊皮紙は高位の魔導士によって保存と契約の魔法が掛けられて書庫の奥深くに置かれる事になった。

 因みに私とアートルムの結婚の事は暫く伏せられることになった。

 ……というかこれから旅に出るっていうのに下手に素性も明かせないし、アートルムはどうするつもりなの?

 何が『お前の幸福が第一に決まっている。国の大事に勝る事だ』よ。恥ずかしい事言っちゃって、フンだ!

 ――なんて、言葉に出さずに思いながらアートルムを見ると彼は何やら手紙を書いている様子。もう十通ほど書き終わって山になっているけれど、まだまだ書く積りみたいね。


「……誰に手紙を書いてるの? っていうか受け取る相手居るの?」

「居る。かつてアーカーシャ山を去った者達はまだ生きている。貰った領地は早速空けてしまうからな、その管理を任せられないかと伺いを立てる手紙を書いている訳だ」

「え、おかしいでしょそれ? 人の寿命はせいぜいが百歳そこらでしょ? 十年に一度山を登って、今書いている手紙は十一通目? どう考えても計算が合わないわ」

「言っただろう、『魂はその入れ物にとらわれる事が無い』と。人という器に在っても魂が一般的な魂の限界値を超えていれば寿命も延びるし若返りもする。老いを止める事すら不可能ではない。ある一定の域まで達すれば我のように姿形を変える事も出来るようになる」

「魂?」


 私だって今までそれなりの教育を受けて来たと自負しているけれど、こんなでたらめな話は聞いたことが無い。

 人は人、エルフはエルフの寿命があって、それに混血以外の例外は無い筈でしょう?


「そうだ、魂だ。我のような竜も含めて、あらゆる生命は肉体と魂という二つの要素によって構成される。肉体は主に物質界への干渉と魂を物質界に留めておく『器』として作用するのだ。そして魂は主に肉体の維持と魔力の生成、変化、放出。そして自我を持つ『中身』として存在していると言う事だ。単体では物質界に存在することが難しいながらも、力関係としてはそれをとどめている肉体よりも強く、魂が強ければ強いほど肉体も比例して寿命、膂力等が長く、強くなる。その若さも長く維持されるだろう」

「で、でもそんな人には会った事ないわ! そんなにたくさんいるものなの? その……魂の限界値を超えた人は?」

「まあ、どこかで死んでいなければ十六人は居るはずだ。我が、力を与えた者達は」


 『エスメも含めれば十七人か』とか言いながらアートルムの手紙を書く手は止まらない。

 やっぱり、あんたのせいだったのね……。

 それはそうよね、竜だもの。何が出来たっておかしくはないわ。


「エスメも恐らくだが、もうそこらの者とは話にならない程強くなっている筈だぞ」

「え?」

「力を与えたとは言っても、直接与えた訳では無い。アーカーシャ山にはある種の魔法が掛けてあってな。そうだな……中腹程まで登ればもう冒険者としては法外なほど稼げる部類にはなろう。ま、そんな仕事があればだがな」

「私に、そんな力が?」


 体感で違いが分かる訳じゃない。私は今まで何も変わっていないと思っていた。

 元々魔法は得意な方だったけれど、今試してみたらどんな――


「先に言っておくが、ここでは試すなよ? 城が崩れかねん」

「ええそんなに……?」


 両親殺しにはなりたくないので試すのはやめた。


「冒険者には自身の実力を数値化したり身に宿すスキルを明示したりする魔導具があると聞く。冒険者ギルドに登録すれば己が一体どれほどのものなのか、分かるだろう」



 ♢



 日も暮れて月が昇る頃。十六人への手紙も書き終わり、各地の冒険所ギルドに張り出してもらう事になった。

 手紙程度の物ならば簡単に複製・転移できる魔導具もあると言う事なので、恐らく即日張り出されるのだろう。


 エスメは自室に戻ってここは我一人だけだ。

 さて、辺境伯の爵位と領地も貰ってしまったので行かない訳にはいかないのだが、今行っても住まう場所が無いしな。

 しかし、呼んだ者らは領地に直ぐ向かってくる筈。うーむ、どうしたものか。


 ――そう考えていると、部屋の扉が開けられた。開けたのはエスメだった。

 彼女は先程まで着ていた黒いドレスを脱いで、露出の多い服装をしている。

 時間も遅い。大人しく寝ていれば良いのになぜここに来たのだろうか。


「――ねえ、手紙を書くのは終わったの?」

「ああ。あとは文官に任せて各地の冒険者ギルドに張り出す事になっている」

「そう……」


 エスメは肌寒いのか、はたまた恥ずかしいのか右手で左二の腕をさする仕草がみえる。

 ……む、拙いな。これが人間の雄の体か、中々に御し難い。


「……それで、何故ここにいる? もう夜も遅いぞ」

「だって、私達結婚したんでしょ?」

「そうだな」

「結婚して初めての夜でしょ?」

「そうだな」

「初夜って、その……するものでしょ?」

「何を? ――ああ、交尾か?」

「交尾言うな! ……でもそうね、正解よ」

「そうか……」


 長らく人類種の営みを見て来た我でもこう言ったことは造詣が深くない。

 しかし成程、我の体がエスメの格好に反応したのはそう言う事か。

 だが今は都合が悪い。


「いや、やめておこう。エスメ、今日は普通に寝た方が良い」

「――そう、そうね。流石にいきなりだったわよね、今日会ったばかりだし。万が一子供が出来たら大変だし」

「そう言う事だ。さあ、今日は帰って寝るんだ」

「分かったわ。それじゃ、おやすみなさ――!」


 エスメが部屋から出ようとした時、丁度扉の前を衛兵が通って行った。

 うーむ、夜更けにこの格好で歩かせるのは少々危険か。

 衛兵(他の男)に今のエスメを見られるのも不愉快だしな。


「待てエスメ、今日はここで寝ていけ」

「――え!? だって貴方さっきやめておこうって!」

「気が変わった。今夜はこの部屋から出さん」

「ちょわッ!? え、まだ覚悟が!」

「諦めろ。――さあ、床に就け」

「~~~~~~~~っ!」


 我は強引に備え付けのベッドにエスメを寝かせ、我も普通に寝た。就寝だ。

 しかしそれにしても、下腹部のこれはどう鎮めたものか……。

 我は困惑しながらも、目を閉じ意識を手放した。


 余談だが、エスメが夜中に部屋を抜け出して我の部屋に来ていたことは筒抜けで、彼女に付いていたメイドは速攻で言いふらしその報せはその晩のうちにエスメの両親に届いたと言う。

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