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革命前夜  作者: 紫子
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1923年、初夏の事 (1)

 高等女学校四年に上がってからというもの、蝶はいつも、芳子の馬の背に乗って家から数十分の道のりを通った。以前は芳子が乗馬で通学する様子が専ら評判だったが、今では、芳子がまるで従者かのように粛々と蝶を迎えに行き、門前で彼女を自らの後ろに跨らせると、颯爽と駆けて学友たちを軽々追い越しながら送り届けるのが、ここ一、二年の常になっていた。なにしろ芳子は、昨年、遺産分与の問題があって一時中国に帰国したのだが、帰って来た時には、学校に籍を置き続けることができなくなってしまったのだった。それは、誰の許しもなく乗馬で通学したり、日々様々の目立つことを多くしでかしてきた故の厄介払いに外ならず、風紀を乱す芳子の振舞いの所為が大きな理由の一つにあったのだろうが、自覚はしているものの、いざ属性を追われてしまうとなると、空虚な思いを味わわざるを得なかった。後悔というのではない。芳子は、どんな突飛に思えるような言動でも、必ず何が起こるかの結末を予想して、周囲に受け入れられにくいことも承知のうえで行う少女だった。運命に抵抗するのではないが、自らの意志を以て、その濁流を泳ぎ渡ろうと、物心ついたころから漠然と考えてはいたような気がする。全て自らが選び取って描いていく未来ならば、何が起きようと自分が主人公だ。確かな物語性を以て完結する運命を、この手で確かに持っていたこと、その幕引きを見据え時を待つこと……。全てを終える時、芳子を恐れから救うのはそういう感覚なのだということを、清朝の皇族の血は、生まれながらに知っているかのようだった。

 一方の蝶は、芳子よりよっぽど現実主義者でありながら、自らの生きる日々を夢物語に書き換えることを好み、何事においても、光と影……いや、鏡映しのように、己の中に相反する性質を抱えた少女だった。物静かで奥ゆかしい様を湛えた容姿、声、立ち居振る舞いは常に、燃え滾るような何か衝動的なものを抑制するための演技にも見え、芳子は時折、蝶の中に、底の見えぬ恐ろしさを感じていた。だから、女学校に通わなくなった今も、蝶の頼みを叶えて、毎日馬を駆っているのだった。目を離しては、このたった一人の友人は、どこかへ飛び去ってしまうのではないか……。そんな危うさが、芳子の思いを、強く蝶に結びつけていた。

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