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魔王陛下の無罪証明  作者: はじめアキラ
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<第二十三話>

 この事件は、検察側も弁護側も互いに物的証拠を殆ど提示出来ない状況でやり取りされることになる。

 つまり、勝負の決め手は――いかに裁判官と裁判員に、どちらの真実が本当であるのか、状況証拠と心象で信じさせることが可能であるかにかかっていると言っていい。

 検察側と弁護側は、それぞれ証人や証拠といったカードを、申請した数の範囲内で提示し合い、互の証拠を論破しつつ自分の証拠の正確性を訴える必要があるのである。


――心象ならば、現時点で不利なのは俺らの方だ。


 フレイアは分かっていた。裁判官も裁判員も、魔王は悪、トリアスが全ての元凶であるという思い込みをほぼほぼ持ってしまっていると見て間違いない。その心象をひっくり返すのは、並大抵のことではないだろう。

 だが、負けるつもりなどさらさらない。これは、単にトリアスの未来がかかっているだけではない。魔王というジョブに生まれついた者達全てと、フラワーメイルの歪んだ法律をどこまで正していけるのか、それらがこの裁判にかかっていると言っても過言ではないのだ。




――負けてたまるか。これ以上……理不尽に、奪われる奴を増やしてたまるかよ。




『どうして、正義のヒーローは。悪役のことだけは、救ってくれないんだろうな。……悪役にだって守りたいものがあって、どうしても侵略しなくちゃいけない理由もあったのに。……人を殺してはいけない、って言いながら。どうして悪役のことだけは、殺しても許されるんだろう』




 俯いて、はらはらと涙を零していたあの子。

 いつの間にか、遠い遠い場所に行ってしまった、あの子。




『フレイが正義のヒーローだったなら。みんな、ちゃんと救って貰えたかな』




 もう二度と、繰り返さない。

 全ての悲しい事を、悪い夢を――今ここで、自分が断ち切って見せる。




「それでは、まずは検察側の証人一号を召喚させていただきましょう。一つずつ、被告人の犯行を立証してまいります。まずは、アネモニ村の大量殺人事件からですな」


 最初に仕掛けてくるのは検察側である。ボルガが裁判官に許可を得ると同時に、証言台の魔法陣の上、隣室で待機していた証人が現れた。裁判をスムーズに行うため、裁判所は魔法と科学の双方の技術がフルに使われることになるのだ。


「証人一号。まずはお名前を聞かせていただけますか」

「は、はい。モニカ・アカリファです。鉱石ハンターで、世界各地を回って鉱石を売る生活をしております」


 どこか緊張した面持ちの、少し恰幅のいい女性だった。ただ太っているわけではないことは、シャツから覗く腕のたくましさで見てとれることだろう。鉱石ハンターということは、危険な山の奥地まで向かうのかもしれない。彼女らも、広義の意味では冒険者の一人として数えられる存在である。


「モニカさん。貴方は事件があった一週間ほど前、そこにいる被告の両親が他の村人と揉めているのを目撃したとのことですが、それは本当ですか?」


 ボルガの問いに、はい、とおずおずとモニカは頷いた。


「私、アネモニ村には何度も足を運んでいまして。被告……トリアス被告のことも、その両親のことも、名前は知らなかったんですけど、顔は知っていました。特に被告のことはよく覚えてて……本当に、綺麗な顔をしてるなって思ってて。あの日の昼頃だったと思います。とても大きな声で揉めていたので全部聞こえてしまいました。ご両親が、本当にカンカンに怒ってて、村長さんや他の大人の方々に掴みかかっていたんです。“息子に何をしたんだ”とか。“息子が魔王であることがそんなに罪なことなのか”みたいなことを叫んでいたかなと。私は驚きました。トリアスさんは確かにとても綺麗な顔をしていたけど、まさか魔王だったとは思っていなかったので……」


 証人の言葉を、素早く記録しながらフレイアは思う。検察側が連れてきた証人には二パターン存在することだろう。一つは、偶然検察側に有利な情報を目撃しただけの、本当の目撃者。もう一つは、検察側が用意したシナリオを騙るでっちあげの目撃者である。

 さて、彼女はどちらであるのか。


「その現場で、揉めていたのはご両親だけで、トリアス被告の方はその時姿を見かけなかった……と思います。ただ、ご両親の怒りようは尋常ではなくて……それこそ、人を殺しかねない勢いだった、と思います」

「ご両親が怒っていたのは、息子が魔王であることがバレて、村長や村の者達に糾弾された結果であった、と思って間違いはありませんか?」

「恐らく、その認識で正しいのかなと。魔王っていうジョブの存在はみんな知ってます。ルネ事件の記憶もまだ新しいですし、それだけで恐れる普通の人達がいるのは何もおかしなことではなかったんじゃないかなと……」

「なるほど。つまり……魔王だという理由で、村から追い出されそうになっていた、それは充分両親や被告が村人達を憎む理由になりえたと、そういうことでよろしいですね?」

「は、はい。そうだと、思います……」


 やり方嫌らしすぎんだろ、とフレイアはため息をついた。恐らく、この証人はでっちあげではない。トリアスも、両親が揉めていたのは事実だと言っていた。なら、検察側が作った偽の目撃者ではなく、本当にただもめている現場を見ただけの人間だということだろう。

 そして、その人間の証言を、言葉巧みに誘導することで。検察側は、トリアスに“村人を皆殺しにするに充分な理由がある”と印象づけたいわけだ。まあ、一人目の証人としては、妥当なところを連れてきたと言うべきか。


「以上です。これで、モニカ氏への検察の証人尋問を終わります」


 裁判員達が僅かにざわついているのを見て、ボルガは勝ち誇ったように笑みを浮かべ、席へと戻っていった。


「弁護側、反対尋問をどうぞ」

「はーい」


 反対尋問は行っても行わなくても問題ないが。フレイアは、基本的に全ての証人に反対尋問を仕掛けていくスタイルを取っていた。殊に、フラワーメイルでは針の先程度の隙であろうとつつきまくっていかなければ、被告人の無罪を勝ち取ることなど不可能なのだから。


「モニカ=アカリファさん。貴方はアネモニ村には何度も足を運んでらっしゃる、のでしたね。そして、鉱石を売ることで生計を立ててらっしゃると」

「は、はい。そうです」


 弁護側――トリアスを無罪にしようと画策する側の反対尋問。当然、検察側に呼ばれた証人の顔はこわばるし、警戒されることにもなる。

 ただ、フレイアはこの証人に関しては深くツッコミを入れるつもりはなかった。彼女の証言そのものはトリアスのそれとも一致しているし、きっと嘘などついていないのだろうということもはっきりしているからである。

 故に。フレイアが尋ねたいと思ったのは別のことだ。


「でしたら、村の広場に設置されていた、とある石像のことについてもお詳しいでしょうか?希少価値の高い鉱石を使っている上、とある有名な彫刻家が作ったものとして、非常に高い価値があるとされる一品だったのですが」


 予想外の質問だったのだろう。モニカは少しだけきょとん、とした後――しばし考えて、ああ!と手を叩いた。


「は、はい、ありました、確か!フレア鉱石の石像、ですよね?」

「そうです。……裁判官。ここで証人の記憶の喚起を促すため、証拠写真No.1を提示したいのですが、よろしいですか?」

「構いません。どうぞ」

「ありがとうございます」


 フレイアは、席で待機しているテクノに視線を送る。彼はこくん、と頷くとコンピューターを操作し、巨大モニターにスフィアカメラで撮影した写真を投影した。

 そこには、金色に輝く、大きな翼を生やした女神像が立っている。


「モニカさん。この石像で、間違いありませんか?」


 フレイアが尋ねると、は、はい!とモニカは目を輝かせる。やはりというべきか、希少な鉱石で作られた石像は、鉱石ハンターとしてかなり興味をそそられる代物であるらしい。


「この石像について、貴女が知っていることを証言して頂けますか。鉱石ハンターということですし、その様子ですとお詳しいのでしょう?」

「そ、それはもう!フレア鉱石は、私達ハンターでもなかなか採掘できない、希少な石ですから。熱にかなり強いこともあって、加工も難しいんです。それがこれだけの大きさでここまでの質の高い石像なんて滅多に見ることはできません。しかもあの、グラディウスの作品ですから……!どれくらいの値がつくかと思ったら、もう……!」

「この石像は、持ち運ぶことが可能な代物だと思いますか?」

「え!?この石像のままで、ですか!?む、無理ですよ、フレア鉱石ってすっごく重いんですよ!?」


 検察の一部が、しまった、という顔をした。が、もう遅い。検察の考えに染まりきっていない証人は、大好きな鉱石についての知識を披露したくてたまらない様子なのだから。


「台座にしっかり固定されてますし、取り外せても何十人いても持ち運べるようなものじゃないです。何人かでバラバラにして、複数人で運ばないことには……」

「い、異議あり!さ、裁判長!本件と関連性のない質問です!!」


 やっと、慌てたようにボルガが声を上げた。が、もう遅い。フレイアは口を開く。


「これは、トリアス被告が“一人で”犯行が可能であったのか“を検証するために極めて必要な質問です。何故なら、検察側の主張は……あくまで、被告が単独犯で大虐殺を行ったとする内容であるからです」


 裁判官にも、全く政府の息がかかっていないとは言わない。それでも、ここでこの質問を打ち切ればどれほど印象が悪くなるか、わからないほど愚かな者達ではないはずだ。

 裁判長はじっと、証人を、フレイアを見て、“異議を棄却します”と告げた。


「続けます。……証拠写真No.2を提示させてください。こちらは、大虐殺が起こった直後、軍が駆けつけてきた時の写真です。虐殺、及び放火が発生した後、政府軍は極めて迅速に駆けつけ消火にあたりました。……ですが、この写真にある通り、広場からはあのフレア鉱石の石像がなくなっています。事件発生直後です、石像も殺人犯が強盗目的で窃盗したと考えるのが自然でしょう。何より、村の有力者の屋敷からは金品が軒並みなくなっていることを警察が発見しております」


 モニカさん、とフレイアは呼びかける。自分の証言が何を齎したのかに気づいたのだろう。唖然としていたらしい彼女は、はっとしたように顔を上げた。


「モニカさん、もう一度お尋ねします。……この石像を、一人の人間だけで持ち運ぶことは、鉱石ハンターである貴方の眼から見て可能なのでしょうか?」

「あ……」


 女性は、少しだけ検察側の圧力にたじろぎ――やがて、ゆっくりと首を振った。


「いいえ。……不可能だと、思います」


 まずは、一手。

 検察側の出してきた“証言”と“証拠”に、罅を入れることに、成功だ。


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