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魔王陛下の無罪証明  作者: はじめアキラ
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<第十五話>

 フレイアがケイニーの話をすると。トリアスは少しだけ目を伏せて、そうか、とだけ言った。

 彼がどんな気持ちでその一言を発したのか、フレイアには想像することしかできない。正直、この話をしたら彼は怒るのではないかとも思っていたのだ。確かにケイニーは自分達の行いが正しかったのかどうかをきちんと見定めようとしている点立派であるが――そう思うのなら、捕まえる前に行動するべきだったのではないか、と思うのが彼の立場なら至極真っ当なことであるのだから。

 選べる選択肢が、彼の立場であってもさほど多いものではなかったのだとしても、だ。


「……ケイニーもそうだが。お前の相棒も凄い男だな。今日は一緒ではないようだが」


 ゆえに面会室にて。最初に彼がそこに触れたことにフレイアは驚いた。確かに自分は、ケイニーの話をすると同時にそこに反論したテクノのことについても触れたといえば触れたのだが。


「あいつはあいつで、調べ物して貰ってるからな。アンタを匿ってくれていた盗賊の集落の方にも行ってもらってる。正直、相当拒絶されるのを覚悟してたんだが、デバイスで連絡したら存外すんなり通って驚いたよ」

「盗賊集団、と言えば聞こえは悪いが。彼らは悪人達をカモにして稼いでいるだけだからな。一種義賊のようなものだ。正義感も強い。だから、俺を匿うことにも躊躇いがなかったんだろう……感謝してもしきれない。ただ、俺が捕まったことで、彼らに迷惑がかかることだけは心配だった。俺が“指名手配されている魔王”であることは知らなかった、で通してくれるように頼み込んではあったが」

「まず警察の取り調べも及んではいるんだろうな。ま、今のところ、アンタの共犯扱いはされてないみたいだからそこは安心してくれていい」

「そうか……」


 彼は明らかにほっとしたように息を吐いた。トリアスと、面と向かって話すのはまだ二回目だ。それでも、フレイアは徐々にトリアスの性格がどのようなものであるのかを理解しつつあった。

 達観しているようだが、根は真面目だし思いやり深い。恩人への感謝もけして忘れないし、人の気遣いにもよく気づくタイプ。そう分析すればするほど、今の状況が苦々しくてならないのだが。


「後で、テクノには礼を伝えておいてほしい。できれば、いつか彼ともきちんと話をしたいものだ」


 少し嬉しそうに顔を綻ばせるトリアス。その美貌でその顔は反則技である。自分にソッチの趣味があったら確実に落ちてるわ、と少し赤面しつつフレイアは頷いた。


「わ、わかったよ。……それで、訊きたいことなんだけどさ。とりあえず、もっかいこれを見て欲しい。お前が流したってことになってる、宣戦布告映像なんだが」


 フレイアは小型パソコンを取り出す。スフィア鉱石で動くパソコンには、大型のものと小型のものがある。大型のものはスペックが高いが電源に繋いでいないと動かすことができず、小型のものは切り離して持ち歩けるものの充電が続く時間はそう長くない。映像を再生させるのはそれだけで電力をかなり消費してしまう。自分が黒魔導師だったら魔法でリアルタイム充電できるのに――なんて贅沢は言っていられない。出来ないことを数えても虚しいだけである。




『俺はけして、お前達を許さない』




 映像が、再生される。トリアスは、画面の中の自分を注視する。




『魔王だから?それだけの理由で何故、我々はお前達に虐げられなければならない?俺達は何もしていない……ただ、お前たちと同じように普通に生きて、当たり前の生活がしたかっただけだ。それなのに、お前達はいつも我々から理不尽に愛するものを奪い取る。魔王・ルネのこともそう。彼女がどれほどの辱しめを受けて魔王であることを暴露され、その傷に苦しんだことか!愛する人を奪われたことを嘆き悲しみ、そして怒りを感じたか……!それなのに、お前達は彼女の叫びを全ての聞かなかったことにした。俺はあの裁判、傍聴席で全ての真実を聞いていたんだ……っ!』




「この映像を見て、俺はこの映像が……何者かに隠撮され、編集されたものだと踏んだ。お前の視線が、明らかにカメラではなく、それよりも少し上に向いているからな。おまけに、風の音と時折揺れるカメラの割に、お前の髪が一切靡いていないのはおかしい」

「言われてみればそうだな」

「おい、お前も気づいてなかったんかい……」

「悪いな。映像を見てあんまりにもムカついたものだから、その怒りしか印象に残っていなかった」

「おーい……」


 まあそりゃそうだよな、とフレイアは遠い目になる。トリアス本人が映像を見ていないはずがない。それなのに、最初の面談の時には一切心当たりを言わなかったし、この映像が出回った理由や方法にも一切思い当たるフシがない様子だった。本人が何か引っかかるものを感じていたのなら、他に隠したい理由でもない限りストレートにフレイアに伝えてきたことだろう。




『…………なるほど?我々の存在が罪であることは歴史が証明していると。くだらん。それはお前達が作り出したまやかしの罪だ。ルネの時がいい例だろう。奴等が彼女を辱しめなければ、彼女の愛するものを壊さなければ……あんな惨劇は起きなかったのだから。……本当にしつこい!だから、俺はお前達が大嫌いなんだ……っ!!』




 美人の怒り顔ほど怖いものはない。なまじ顔が整っているだけに、額に皺を寄せて撮影者を睨むトリアスの迫力は半端ないものがある。この隠撮りをした奴は、よく気圧されずにやりぬいたものである。その根性を、できれば他のことに使って欲しかったものだ。




『お前達が俺を殺しに来ると言うなら……俺も黙って殺されてやる気はない……!覚悟しておけ。これ以上俺と家族を侮辱するなら……お前たちにもそれ相応の報いを受けてもらうことになるぞ。……世界への宣戦布告だと?そう思いたければ思うといい……!!』




「挑発されたんだろうけどさ。流石にこういう言い方はダメだっただろ。いいように解釈されてこのザマなんだから」

「反省している……」

「と、いうことは?」

「これらの台詞を言った相手がいたかもしれないと、ようやく思い至った。あくまで“そうかもしれない”心当たりなんだがな」


 重要なことを思い出してくれたらしい。フレイアは唸りながら告げる。


「お前のことだ。俺がアネモニ村で、どのようにして魔王であることを露見させられたのかは想像がついているだろう。だが、よほど親しい相手でもなければ人前で服など脱がないし、私も自分の身体事情から人前で脱ぎ着しないように全身全霊で警戒していた。そんな相手の服を脱がそうと試すなら、既にそれなりの確信を得ていたと見るべきだ。……思い出した。俺はアネモニ村で露見するよりも前に、遠まわしに自分が魔王であることを暴露してしまった相手がいたことを」


 迂闊だった、と。心底反省しきった声で、トリアスは言う。


「そいつは……国営放送の記者だった。リリー教の信者だったのか、それとも政府にそういう思想を刷り込まれたのかはわからない。魔王の危険性について調べて公表しようとしていたらしく、俺にも疑いをかけて何度も何度も取材を試みてきた。あまりにもしつこいため、正直頭に血が昇ってしまって……このような内容を、言ってしまった可能性はある」

「ルネのことを馬鹿にした、とか?」

「そうだ。……他人事とは思えなかったからな。彼女がされた事も後の犯行も、文字通り明日は我が身だとわかっていたし。……その彼女を、魔王のジョブ保有者特有の快楽殺人者であるかのように言うものだから、いい加減にしろと怒鳴ってしまったんだ」


 よほどのことを言われたのだろう。思い出したのか、トリアスの声はどんどん怒りで低く落ち込んでいく。同時に、簡単に挑発に乗ってしまった己への憤りもあるのだろうが。

 とにかく、トリアスのその記憶が正しいのであれば。今回、トリアスの証言をうまい具合に誘導して流したのは、文字通り国営放送の人間達自身ということになる。やはり、としか思えなかった。国営放送のセキュリティを突破して電波ジャックができないのなら、内部の人間が犯人だとしか考えられないのだから。

 つまり、あの放送はジャックされたのではなく、最初から局内スケジュールで予定されていたものと考えるべきだろう。


――てことは、国営放送に潜りこめれば、放送を流すための裏スケジュールなんてものも出てきそうだが。……流石に現実的じゃねーな。つか、違法行為で取った証拠は裁判じゃ採用して貰えないんだろうし。


 映像は編集されたもの。そして、国営放送はグルだった。つまりこれは、政府自体がこの事件の黒幕であるということに他ならない。わかってはいたが、なんて巨大な敵と戦うハメになっているのやら。

 いつか、そうすることそのものが――フレイアの目的であったのだとしても、だ。


――問題は。単なる冤罪のふっかけだけじゃなく……この事件そのものが、政府の差金なのかどうかってところだ。


「俺は。……ケイニーのことは、さほど恨んでいないんだ。盗賊達を傷つけたならその限りではなかっただろうがな」

「!」

「彼らは、与えられた役目を従順にこなしただけ、だ。特にケイニーは……身内に、魔王に対して憎悪を抱く仲間がいたのだろう?その状況では、魔王=悪の図式が出来上がっていてもなんらおかしくはない」


 でもな、と。トリアスは少し苦しげに告げた。


「もしも……全てが政府の引き金だとしたら俺は……俺はけして、屈するわけにはいかない。俺が確定有罪ということになれば、政府は今後も同じことを繰り返すだろう。この戦いはもう、俺の無罪有罪だけの問題じゃないはずだ。……フレイア」


 すっと、青年は立ち上がった。そして、丁寧に礼をしてみせるトリアス。まるで良く出来た彫像のような青年に一礼は、それだけで非常に絵になるものだった。


「頼む。……勝って欲しい。こんな悲劇を、俺で最後にするために」


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