第1章4話 「大浴場」
※この作品は『異世界転生は女神と共に。 ~子供を車から助けたことから死んでしまい転生した俺が、手違いで共に転生してきた終焉の女神と一緒に王城にいる仲間たちとのんびりと過ごす話~』の続きです。
一応、前までの話はこちらでも連載させていただくことにします。
何卒、宜しくお願い致します。
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――今日は大波乱の一日だった。
俺は王城にある大浴場へと浸かっている。
暖かい風呂で一日の疲れを落とせば、屹度、アリア達ともうまくいくはずだ。
「難癖な奴らばかりだからな……」
溜め息を吐きながら、俺は水に口を浸けぶくぶくと泡を立てる。
そして目を細める。
アリアは『終焉の女神』と呼ばれているものの、その異名は肩書だけであり、本当はただの馬鹿だ。「間違えて私転生しちゃったわ! てへぺろ!!」みたいな奴だ。
リンに関しては怖い。取り敢えず怖すぎる。俺がレミリーと抱き着かれていた時、汚物を見るような目を(俺じゃなくてレミリー)に向けていたからな。絶対に人殺したことあるぞ。
レミリーに関しては、ただのかまってちゃんだ。確かに、婚約する予定はあるものの、あそこまで俺のことを好きになられても困る(いい意味で)。まあ、関わってきた面子の中では一番可愛いから良い。
「少しだけ登場したクロムとサシュアのコンビはさておき、もうそろそろ風呂から上がるか……」
大浴場の床を歩き、脱衣所へと繋がる扉を開けた。その時、俺は誰かとぶつかった。
「――柔らかい感触……もしやこれは……!」
「王子様、今日で胸に触れたのは二回目ですよ」
「げっ」
俺は今から殺されるかもしれない。
俺がぶつかったのは、狂気の塊、リンだった。
でも大丈夫だ。今日の朝、転生してきた部屋でぶつかった時は何事もなかったかの様に反応してたし。
ふとリンの後方へ視線を送ると、リンの後ろから銀色の髪をした少女が現れた。
「変態だ! クウトの変態! ど変態!」
「う、うるせ! ――ていうか何でアリアは裸なんだよ!」
「ひっ! やっぱりクウトは変態だわ! それに入浴するんだから裸なのは当たり前じゃない!」
豊かな胸を片手で隠し、もう片方の手で股間当たりを――。
「ぐほっ!」
俺はアリアに蹴られた。
アリアは俺を嘲笑している。
くそ! あいつのキック強すぎだろ! 女の子が出していい火力じゃないぞ!
腫れた頬を摩りながら、俺はそそくさと大浴場から退場した。
俺は下着を着て、鏡で自分の顔を見た。
「やっぱりひゃれてやがる……」
頬が腫れていたせいで滑舌が全く働かなかった。
ふと、後ろから誰かの足音がした。
俺は振り返る。
すると後ろには、あの精悍な顔立ちの青年が微笑みながら立っていた。
「くくっ、今この浴場には、アリア殿とリン殿がいらっしゃるようですね。くくっ、やっとだ!! やっと私の楽しみが訪れたぞ!!!!」
「何考えてんだ……?」
にやりと笑い、クロムは言う。
その言葉が紡がれる前に、俺は固唾を飲んだ。
「可憐な少女二人の、裸をっ! この私と王子様であの少女達の裸をっ! ――拝見しようではありませんか」
「な、何だと……」
確かに、夢はあるな。
まだアリアの裸は見てないし、そもそもリンは裸じゃない――ということは、リンがここに来たのは大浴場の清掃か、それとも……。
最後の考えはとても恐ろしいため、俺は思い浮かべないことにした。
胸を触られても気にしないリン。つまり、王子とリンは禁断の――。
ごほんっ。さて話に戻ろう。
「は・だ・かっ! アイラブ裸っ! さてさて、行きましょうか王子様!!!」
「そうだな。行くとしよう」
冷静(大嘘)な俺とクロムは、脱衣所の扉を少し開ける。ちらりと浴場の奥の方を見れば、湯に浸かっているアリアがっ!
しかし、アリアの胸っ!(クロム風に)は、湯の中にあり水面と湯気さんのせいで視認できなかった。
隣でクロムが悔しがっている。
俺は苦笑しながらそれを見届けると、腫れた顔を扉の隙間から遠ざけた。
そして脱衣所で寝間着を身に着ける。
「お、王子様っ! 何をしておられるのです! 一緒にアリア殿とリン殿の裸を見るんじゃあありませんでしたか!!!」
「馬鹿っ! 声でけぇよ!」
クロムの大声に、俺は途轍もなく焦った。
まずい! こんなところでアリアとリンから嫌われたくない!
どうすればっ……!
「おいクロム、流石にこの愚行はあたし許しはしねぇぞ」
「さ、サシュア!?」
いいところにサシュアが来てくれた。
前会った時の騎士の制服の格好ではなく、軽装をしたサシュアはクロムを扉から引きずっていく。
クロムは必死に扉を掴んで抗うも、その抵抗も虚しくクロムは脱衣所の外へと引きずられていった。
涙を流しながら、クロムは俺を一瞥した。
「王子ざまっ! 後は頼みましたよっ……!!
「一体何を頼むんだよ……」
苦笑交じりに頭を掻き、俺もクロムに次いで脱衣所から退室する。
「王子様……今のは?」
「わっ! ――なんだ、リンかよ。脅かさないでくれよ……」
「――?」
足音もなく後ろに現れたリンに驚いた俺を見て、リンは首を傾げる。
そしてリンは何か気付いた様な顔をし、俺を爛々と輝く瞳で見つめた。
「――王子様は氷菓子が食べたいんですね」
合点承知! みたいな感じの表情でリンは前を行く。
「ちょっと待ってくれ、氷菓子ってなんだ?」
「氷菓子は氷に果実などの味を付けた特殊な料理です」
「つまりかき氷みたいな感じか……」
「かき氷……?」
「いや何でもない……」
日本のことをリンはさっぱり知らないみたいだな。
何だか俺は切なくなり、下を向く。
日本にはもう戻れないもんな。母さんと父さんにお別れすらも言えなかったし。それに、俺が助けたあの子供はどうなったんだろう……。
俺は両頬を叩いた。ちなみに、腫れた右頬は叩くと痛かった(当たり前)。
そんな俺の奇行を目に、リンははたまた首を傾げた。
「行こう」
「――はい」
メイド服のスカートを揺らしながら、リンは隣を付いてくる。
一方、アリアは。
「あれ? 私の下着がない……ん? これは……」
アリアが下着を入れておいた籠の中には、黒とピンクの色をした胸と股間を隠す範囲が狭い下着が一着入っているだけだった。
アリアは頬を真っ赤にし、その下着を目に後退りする。
「だ、誰がこんな悪戯をっ……!」
アリアが羞恥している中、リンは手元にアリアの下着を持ってクウトと共に氷菓子を食べに行っていた。