逆光
7話目
早朝、ナツは仕事の前に自主練をしている。
今日も町をジョギングしていた。
少しでも早く強くなりたくて。
いつまでも、リュウノスケとイライザの二人に頼り切っている訳にもいかない。
それに同期の3人に負けるのも嫌だから。
ナツが宿屋の近くの広場まで来た。
いつもここでリュウノスケも鍛錬している。
今日もリュウノスケは居たのだが……
「おはようございます、まだ12歳の姿なんですね……」
「おはようでござる。」
岩を二つ持ち上げて腕を鍛えていたリュウノスケ。
いつもは5歳児の姿だが……
「イライザが魔力切れでござるからな、まあ魔力注入もしたし、午後にはまた5歳児の姿になるでござろう。」
「魔力注入って……」
ノクターンじゃないので書けないが、そういう感じの行為だ。
まあ夫婦だしね。
「ナツ殿は頑張っているでござるな。」
「いえ、私なんて……みんなに負けたくないだけですし……」
「切磋琢磨できるライバルがいるというのは、いいことでござるよ、自分の成長にも刺激になって、悪いことじゃないでござるよ。」
「リュウノスケさんは、ライバルがいるんですか?」
「居るでござるよ。」
「それってドラゴンですか?それとも魔王?」
ナツは興味津々(きょうみしんしん)のようだ。
まあ、これだけ強いリュウノスケがライバル視するのだから、余程凄いのだろう。
リュウノスケは岩を置いて、少し休憩にする。
そしてナツに語り始める。
「彼は普通の農家の少年でござるよ……」
それはリュウノスケが9歳の頃。
その異世界に着いた時、リュウノスケは今までの世界の中で1番驚いた。
「ここは……」
見たことあるような景色。
馴染みのある田畑。
故郷の日本のような異世界だった。
懐かしく、まだ幼いリュウノスケは泣いてしまった。
「うえっ、ぐすっ。」
おそらく違う世界だろう。
泣き止んだリュウノスケは、すぐにこの異世界のことを調べた。
この異世界の名は、パンジャ。
日本の戦国時代、安土桃山時代に近い異世界。
貨幣価値も当時の日本と同じ。
魔法は存在しない。
リュウノスケは日本に近い異世界で、やりたいことが1つあった。
それは日本の字の読み書きが、出来るようになることだった。
この頃の世界で字を学ぶということは……
「ここで、ござるな……」
そこは、お寺だった。
寺の和尚様に嘘を混ぜて1ヶ月だけ学ばせて欲しいと、お願いした。
本当のことを言っても、どこまで信じて貰えるか、わからなかったから。
了解を貰い、学ばせてもらえるようになったが、頭を丸めるのは、かなり抵抗があった。
まあ、慣れてしまえば、これもまた良かった。
字を学ぶだけでなく、寺の修行もすることになった。
滝行や座禅の修行も、リュウノスケにとっては新鮮で楽しかった。
近くの田畑の手伝いをした時は、鍬を振るっただけで自分の成長を感じたリュウノスケ。
生きるのに必死で無我夢中だったが、それでも人は成長している。
「2年で、ござるか……」
「おーい、ボケっとするなよ。」
一緒に手伝いにきた二人の兄弟子に注意されるリュウノスケ。
リュウノスケが来る前から寺で修行をしている二人で、太郎と次郎という。
年齢は11歳で、色々(いろいろ)とリュウノスケに教えてくれたりしている。
昼になったので休憩。
昼食をとっていると、遠くのほうで棒を振っている少年の姿を見つけた。
「あれは、何でござろう?」
「ああ、小さい次郎か……」
「小さい次郎?」
「俺と名前が同じだから、小さいほうの次郎って意味。コジロウって呼ぶこともあるけどな。」
「この村、子供が少ないからリュウノスケが来る前は、僕ら2人くらいしか遊び相手がいないんだよ。」
「俺らも修行や手伝いもあるから、遊び相手のいない時は、ああやって棒を振って遊んでいるんだよ。」
「リュウノスケも暇な時に、遊んであげてくださいね。」
『あれは、遊んでいるというよりは……』
リュウノスケは少し走って、コジロウの側まで来た。
そして……
「それでは駄目でござるよ、ちゃんと構えて振らないと……」
「そうなの?」
コジロウはリュウノスケのアドバイスに従って棒を振ってみる。
すると、まるで鋭さの違う振りになった。
「スゲーや、ありがとう兄ちゃん。」
コジロウは喜んで礼を言う。
昔、教わった落ち武者も、こんな気持ちだったのだろうか。
これ以来、コジロウは寺に来てリュウノスケと一緒に修行したり、剣の稽古をしたりした。
コジロウは飛んでいる鳥を斬りたくて、長い棒で我流で振っていたそうだ。
少し前の自分自身みたいだった。
コジロウもリュウノスケと稽古するのが楽しみなのか、修行中のリュウノスケをまだかまだかと、楽しそうに待っていた。
そして……
期限の30日。
「ありがとうございました。」
和尚様に挨拶をするリュウノスケ。
失礼がないように、ござる口調は封印。
「うむ、残念じゃのう。お主のようなやる気のある若者が居てくれると、ありがたいんじゃが……太郎と次郎も刺激されてか、修行を頑張っておったからのう。」
「すみません、こればっかりは……」
この頃のリュウノスケは、呪いがどの様に解けるのか、まるでわからなかった。
ここでの修行のおかげで、かなりの漢字を読み書きできるようになったし、お経も暗記で言えるようになった。
それが役に立つのかと言うと……実は今後、除霊などの話の時に役に立つのだった。
まさに、芸は身を助くである。
「お元気で。」
「また来いよ。」
太郎と次郎にも別れの挨拶をするリュウノスケ。
そして、最後に……
「にーちゃーん!」
コジロウが息を切らせながら、走ってくる。
2本の棒を持って、1本リュウノスケに投げる。
受け取るリュウノスケに、コジロウは棒を構えて言う。
「最後に真剣勝負、お願いします。」
おそらく別れの日を聞いてから作ったものだろう。
どれだけ成長できたのか知りたいと思うコジロウ。
リュウノスケも同じ気持ちだ。
「いいでござるよ。」
寺の境内に移動して棒を構える。
そして互いに叫ぶ。
「「真剣勝負、始め!」」
互いに少し引いて距離を取る。
コジロウの方が棒が長かった。
長い方が有利と考えたのか?振りにくいと思うが……
『試すでござるか……』
わざと隙を見せてみるリュウノスケ。
コジロウが棒を振ってくる。
思った以上に速い。
「くっ。」
紙一重で攻撃を回避するリュウノスケ。
この長さで今まで振っていたのだろう、完全に慣れた動きだった。
それと動きを見て、リュウノスケは自分が勘違いしていた事に気づいた。
飛んでいる鳥を斬りたいと言っていたから、作物を荒らす雀か烏だとリュウノスケ思っていたが……
『これは……燕でござるな……』
気持ちと考えを切り替えるリュウノスケ。
リュウノスケは使えるようになった技を試してみる。
片足に力を込めて、踏み込む。
「高速!」
リュウノスケ動きが速くなる。
高速は神速の劣化版だ。
年齢によって、呼び方とスピードが変わる。
コジロウの攻撃を回避しつつ近づいていく。
「ぐ、さ、さすが……」
コジロウの攻撃が更に速くなる。
回避と捌きで凌ぐリュウノスケ。
一進一退の攻防。
見ていた和尚様と太郎と次郎は、息を吞む。
目が離せない。
まだ子供なのに、まるで2人の達人が戦っているような……芸術的な戦いだった。
「うおりゃーーーーー!」
「せいやあーーーーーーー!」
二人の渾身の攻撃。
『なっ!』
コジロウの同時攻撃。
まるで棒が2本になったように見える。
リュウノスケに攻撃が命中する前に、技を放つ。
「高速、回転斬!」
が、まだ技と言えるような物でもなかった。
まだまだ技量が足りていなかったのだ。
前のめりに転ぶようになるリュウノスケ。
だが、そのおかげでコジロウの攻撃を回避出来て、コジロウに攻撃を命中させることができた。
「それまでじゃ。」
和尚様が、そう言って二人を止める。
リュウノスケの勝利だが、偶然と運の良さによるものだった。
喜べる内容じゃなかった。
『まだまだ修行が足りないでござるな……』
反省するリュウノスケ。
コジロウは負けたが、清々(すがすが)しい笑顔だった。
なにか掴んだようだ。
リュウノスケは、そろそろ転移の時間のようだ。
空中から大きな次元の穴が開き、リュウノスケを飲み込んでいく。
驚いていた4人だったが、コジロウが言う。
「またいつか、真剣勝負して、兄ちゃん!」
「ああ、またいつかどこかで勝負でござる。」
こうして、リュウノスケは別の異世界へ旅立った。
だが、コジロウとはまた何処かの戦場で相まみえるような、そんな予感がしたのだった。
そして現在。
ナツに話していたリュウノスケ。
疑問に思ったナツは質問する。
「リュウノスケさんが行った異世界って、完全に同じ異世界ってあったんですか?」
「ほとんど無かったと思うでござるよ、同じ世界でも場所が違っていれば、わからないものでござるから、ただこの世界は2度目でござる。」
「へえ、前に来たのはいつ頃なんですか?」
「再びこの世界にたどり着いたのは、……こちらの世界で5年、拙者には30年以上、時が経過していたでござるよ。」
このリュウノスケの答えに、ナツは驚愕する。
そして理解する。
どうしてイライザと年齢が大きく離れているのに、夫婦になっているのか。
イライザは夢を見ている。
それが夢だと理解している。
13歳の姿のリュウノスケが、次元の穴に飲み込まれている。
それを見て泣きじゃくる14歳のイライザ。
これは昔の2人の別れの場面。
この頃のイライザは最年少で魔女になっていたので天狗になっていた。
リュウノスケと出会い、呪いのことを聞いて、自分が解いてあげると安請け合いした。
一緒にいるうちに惹かれていき、イライザはリュウノスケに告白した。
リュウノスケは困った様子だったがOKした。
イライザは嬉しくて、それから毎日デートしていた。
だが、呪いを解くことができなかった。
リュウノスケと離れたくなくて、少しでも強く結びつきたくて、肉体関係になった。
別れる3日前くらいになると、もうノクターンじゃないと書けないような日々(ひび)だった。
イライザが味わった初めての色々(いろいろ)なこと……
別れ、悲しみ、挫折、イライザのプライドが粉砕されて、心に大きなトラウマを負ってしまう。
再び再会できたのは、イライザが19歳の時だった。
リュウノスケは、すっかりオジサンになっていたけど、そんなことに関係なくイライザは泣いて喜んだ。
でも……
イライザは安心できなかった。
リュウノスケは神様を殺し、完全に呪いは解除されていた。
30年以上かけてイライザの世界に戻ってきたリュウノスケに奴隷の首輪を着けて、2度と離れられないようにした。
さらに、リュウノスケは時空間すら切り裂いて異世界を移動できるまで力をつけた。
そんな剣聖を超える力も、5歳児の姿にして奪った。
リュウノスケは嫌な顔一つせず、全てを受け入れた。
それでも不安になるイライザは、少しでも恋愛や夫婦に効果のいいアイテムを買い漁る。
これが浪費家の原因だった。
イライザは、目を覚ます。
頬に涙の流れた後があった。
もう二度と起きることのない過去のことなのに、未だに引きずっている。
昨夜、あんなにも愛しあったのに、こんな夢を見る。
イライザが外を見ると、ナツと会話しているリュウノスケが見えた。
あんな夢を見てしまったからか、我慢できなくなり、窓を開けて空を飛んでリュウノスケに抱き付きに行く。
裸のままで。
「きゃあ!」
「ちょっと、服を着るでござるよ。」
驚くナツと焦るリュウノスケ。
構わずリュウノスケに抱きつくイライザ。
不安で、どこまでもリュウノスケを束縛してしまう。
イライザは、こんな自分が大嫌いだった。
終わり
打ち切りENDです。
このまま続けるモチベーションが湧かないので、途中でやめるより切りのいい此処で終わらせておきます。
一応、ストックで3話分あったのですが、削除しました。
宇宙海賊の話、とても面白いのですが……
まあ、面白くてもリュウノスケの過去の話が不評だったので、不評なものを続けていっても……と思いました。
最大の原因は、ノクターンノベルズに投稿した作品のほうが、異常なくらい人気出たのが原因ですね。
PVの差が酷すぎなんですよねえ……




