縁の力
6話目
明日、ゴブリン退治に出かける事にしたので、作戦と準備の話をする事になった。
リュウノスケが資料を見ながら説明する。
「この町から半日ほど歩いたところにある、ヂリという村の村長からの依頼でござる。ゴブリン退治でござるが、正確に言うと村の女性の救助でござる。実は村がゴブリンに襲われたでござる。」
「えっ、そんなヤバイ状況なんすか?」
「一応、村の自警団で追い払うことは出来たそうでござるけど、村の被害も大きいが死者が出てないのが救いでござるな。家畜が大量にやられたのと、二人の女性が攫われたでござる。」
「……」
黙り込んでしまう4人。
軽く侮るよりは、いいだろうと思うリュウノスケ。
「そう言えば、リュウノスケさんは気になる事があるんですよね?」
アキが気になったのでリュウノスケに聞く。
リュウノスケは資料を広げて見せる。
ハルは理解できてないようだが、他の3人とイライザは理解出来てるようだ。
「3日前にも同じ依頼があって、完了していたんですね。」
「やらずに、嘘の報告をしたとか?」
「村の者たちが確認したそうでござるが、巣で大量のゴブリンの死体を確認したそうでござるよ。」
「……増やしたとか?」
「流石に3日では……」
「他の所から流れてきたとか。」
「その可能性が1番高そうでござるが……」
リュウノスケは納得できない様子だ。
だが、想像ばかりしていても仕方ない。
いろんな可能性を想定して準備の指示をするリュウノスケ。
トーコが感心して言う。
「詳しいですね、リュウノスケさん。道具や装備の疑問も、的確で理にかなってますし……」
「それも別の異世界で学んだことっすか?」
「うん、別の異世界で出会ったゴブリン退治専門でやっている冒険者から学んだのでござる。拙者が尊敬する人物の一人で……ってまた脱線してるでござる。」
明日の早朝に集合して向かう事にし、これから各々(おのおの)で準備のために解散した。
翌日、昼過ぎくらいにゴブリンの巣の近くに到着した。
冒険者ギルドから借りた付近の地図を広げる。
「資料によると、この辺に入口があるそうでござるが……」
リュウノスケが地図に石を置いて印にする。
それから地図を睨みながら……
「ここに行ってみるでござるか……」
と、リュウノスケが入口から離れた場所を指差す。
特に4人もイライザも異存はなかった。
おそらく、みんなも予測しているのだろう。
リュウノスケが怪しんだ辺りをみんなで調べると……
「あったっす、多分これっす。」
ハルが岩のかげに、小さな穴を見つけた。
ゴブリンの巣の抜け穴だろう。
穴が小さいので、5歳児の姿のリュウノスケがギリギリ入れるくらいの大きさだった。
「ここからの侵入は無理でござるな。」
以前の冒険者が討伐した時に、ここから何匹か逃げたのだろう。
今度は逃がさないために、イライザが魔法の罠を設置する。
踏むと崩れて穴を塞ぐ罠だ。
今度は、巣の入口まで移動した。
大きな穴の前に、2匹の見張りのゴブリンがいた。
他にゴブリンは居ないようだ。
「さてと、本格的な戦闘になりそうでござるな……」
と言うリュウノスケの言葉にイライザがビクッとなる。
済まなそうにリュウノスケがイライザに頼む。
「念のため、少し封印を緩めて欲しいでござるが……」
「……うん、いいよ。」
イライザは笑顔だったが、少し強張っていた。
呪文を唱えると、リュウノスケの体が魔法陣に囲まれて、体が大きくなっていく。
リュウノスケの着ている着物も、一緒に大きくなっていく。
今、着ているリュウノスケの着物はイライザの手作りで、防御力が異常に高い上に、様々(さまざま)な耐性などが施されていて、リュウノスケの年齢に合わせてサイズも変化する。
リュウノスケの体が、12歳の頃の体型になった。
「うん、12歳くらいでござるか……」
体を動かして調子を確かめるリュウノスケ。
次元から刀を出して、構える。
「少し試すで、ござるかな。」
離れた位置から、ゴブリン目掛けて技を放つ。
「斬撃、かまいたち!」
抜刀したリュウノスケの斬撃が、真っ直ぐに飛んでゴブリンの1匹を仕留める。
断末魔で、もう1匹が攻撃された事に気付いたが、既にリュウノスケが間合いを詰めていた。
「神速、回転斬。」
前方宙返りするように回転しながら、もう1匹のゴブリンも斬り殺す。
血を拭い納刀しながらリュウノスケは思う。
『ゴブリン相手なら問題無いでござるが……やはり全盛期には遠く及ばないでござるな。』
リュウノスケは年齢によって強さが違う。
これは、過去話のリュウノスケにもある共通のルールだ。
5歳児の場合は、全く技が使えない。
最強の状態は40代の本当の今の姿で、剣聖を超える実力がある。
あと、同じ技でも年齢によって威力が変わる。
ゴブリンを斬った回転斬よりも、サーベルタイガーを斬った回転斬のほうが、スピードも威力も上だ。
それと年齢が高いほど使える技が増える。
長年の修行の成果だからともいえるが……
「斬撃は真っ直ぐ飛ぶよね。」
朗らかな笑顔のイライザが言う。
強張りは無くなっていた。
『これ以上は、酷でござるか……』
イライザがゴブリンの死体を魔法で焼却した後、4人とリュウノスケに魔法をかける。
臭いを消す、足音を消す、暗闇で見える魔法だ。
「松明、いらないっすね。」
「普通は必要でござるが、敵に位置を教えてるのと同じでござるからな、今回は出来るかぎり、リスクを減らしたいのでござるよ。」
入口にもゴブリンが逃げないように魔法で結界を張る。
巣に入ると、イライザが魔法でマッピングと索敵をする。
そして、少し驚く。
「50匹くらい居るわよ。」
群れの、ほぼ全員くらいだろう。
増えたのか?やられていなかったのか?
「……なるべく戦闘を避けて、人質の救助を優先してから処理したほうが、良さそうでござるな。」
そう言いながら、リュウノスケは自分の道具袋の中身を再確認する。
中には以前なかった別のアイテムが1つ入っていた。
出来れば、これは使いたくないアイテムだった。
イライザの魔法で敵の位置はわかっていたので、途中の罠に注意しつつ進んでいく。
進むのに邪魔なゴブリンは、1匹の場合はリュウノスケがゴブリンの死角から近づいて、喉を脇さしで切って殺す。
複数いる場合は、リュウノスケが囮になり4人で奇襲攻撃して倒す。
イライザは索敵とサポートに専念させている。
狭い洞窟での戦い方も4人は学習していて、実践でもキチンとできていた。
4人に経験を積ませる目的も兼用しつつ進む。
ハルがリュウノスケの手際の良さに……
「侍というよりアサシンみたいっすね。」
「色々(いろいろ)あったのでござるよ、拙者の人生は……」
と、答えるリュウノスケ。
いったい、どんな旅だったのだろうか。
またいつか話を聞いてみたい4人だった。
大きな空洞の場所に出た。
ここはゴブリンのたまり場のようだ。
奪った家畜を食べて楽しんでいるゴブリンたち。
ここなら刀を振るっても壁や天井に当たらないだろう。
まあ、12歳なら斬岩くらいは可能なのだが……
6人は岩陰に隠れて様子を見る。
「人質の位置は、どの辺りでござるか?」
「ここの端のほうに居るわね。」
ざっと30匹はいるようだ。
中央の所に一回り大きい、いい鎧を装備したゴブリンを見つけた。
おそらくボスだろう。
「拙者が、なるべく多くのゴブリンを引き付けるでござるから、皆で人質救出を頼むでござる。」
「わかったわ、気を付けてね。」
イライザが4人を引き連れて、救出に向かう。
次元に脇さしを片付け、代わりに刀を装備する。
リュウノスケが片足に力を籠める。
「神速……」
素早くボスのゴブリンに近づく。
そして、抜刀と同時に技を放つ。
「大木斬。」
ボスのゴブリンを横一閃で斬り殺すリュウノスケ。
何があったのか理解できずに絶命するボスゴブリン。
他のゴブリンたちも何が起こったのか、まだ理解できていない。
今のうちにリュウノスケは、ざっと周りを見て次に優先的に倒すゴブリンを見つける。
「神速、回転斬!」
次に狙ったのは、魔法を使うゴブリンだ。
脅威になりそうな敵を優先して排除するリュウノスケ。
リュウノスケにとっての脅威というより、新人の4人の脅威だ。
戦いながらも考え、最善を尽くす。
「ギャーギャー!」
ゴブリンたちが騒ぎ立てて襲ってくる。
が、指揮するものがやられたせいか、バラバラに襲ってきた。
組織的に襲って来ないのであれば、4人もかなり安全だろうし、リュウノスケに攻撃を与えることなど不可能だろう。
簡単に回避しつつ、切り捨てていく。
ゴブリンたちは近づくと危ないと考えたのか、矢や槍や石を一斉に投げてきた。
「神速……」
リュウノスケは素早く壁目掛けて走り、さらに壁を走り、さらに攻撃の届かない天井を走る。
天井の出っ張っている岩に技を放つ。
「斬岩!」
斬った岩が下にいるゴブリンたちを押し潰す。
「グギャー。」
断末魔を上げるゴブリンたち。
リュウノスケが凄いスピードで落下して、残ったゴブリンたちの中央に技を放つ。
「流星落!」
リュウノスケが刀で地面を砕き、その破片が散弾のようにゴブリンたちを襲う。
その程度ではゴブリンは死なないが、動きは止まる。
その隙に、ゴブリンたちを斬り殺していくリュウノスケ。
広場のゴブリンたちの残りが3匹くらいになると、勝てないと理解して逃げ出した。
外には逃げられないようにしてあるし、応援を呼ぶなら、後で一緒に始末すればいいだろう。
「リュウノスケー。」
イライザが手を振りながら、走ってくる。
新人の4人と一緒に、捕まっていた2人もいた。
無事に救出できたようだ。
捕まっていた二人の女性が裸だったので、つい目を逸らしてしまうリュウノスケ。
その為に気付くのが遅れた。
殺したはずのボスのゴブリンが生き返っていた。
イライザも気付いていない。
ボスのゴブリンが背後から、アキを攻撃しようとしている。
「危ないでござる。」
咄嗟にリュウノスケは間に入り、アキを庇って代わりにボスのゴブリンの攻撃を受ける。
みんなボスのゴブリンに気付く。
「リュウノスケさん大丈夫ですか?」
アキが心配そうにリュウノスケに尋ねるが、着物の防御力のおかげでダメージは無い。
だが、想定していたことの最悪な出来事だ。
イライザの目の前で、リュウノスケが攻撃を受けた事が大問題なのだ。
「……ブチッ!」
イライザが完全にブチ切れた。
リュウノスケはイライザ以外の6人に近寄り、集まるように指示する。
その間にもイライザが無数の魔法陣を空中に展開していた。
ボスのゴブリンも、その光景に恐れおののいて固まっていた。
「逃げるでござる。」
リュウノスケは道具袋から、アイテムを取り出して使う。
魔法陣が耀き出して、発動される。
「灰燼と化せ!!」
爆炎が吹き荒れて、洞窟を吹き飛ばす。
森も焼け野原になり、モクモクとキノコ雲が立ち上る。
リュウノスケたちは、なんとか攻撃範囲の外の場所までワープしていた。
「ギリギリでござったな……」
「す、すげえ……」
リュウノスケが使ったアイテムは、緊急時に使うつもりだった、脱出用の魔法の転移アイテムだった。
高価な物なので、使いたくなかったが、仕方がない。
イライザには二つ名がある、灰燼の魔女と呼ばれている。
魔女たちの中でも、特に攻撃魔法の知識と攻撃力の高さから、こう呼ばれていた。
撃ち終わった後、イライザは魔法で敵が残っていないかチェックする。
「うん、居ないわね。任務完了と。」
魔法で森を復元しようとしたイライザだったが、その前に地面に落ちているアイテムに気付く。
「これは……」
森を復元させて魔力が尽きたイライザは、リュウノスケにおんぶされながら眠っていた。
ナツ、アキ、トーコの3人は転移アイテムで先に捕まっていた女性たちと一緒に、先に戻って貰った。
まあ、色々(いろいろ)あるわけだし……高価な物だが仕方がない。
ハルも気を使って、リュウノスケと一緒に徒歩で町まで戻る。
村への報告は必要ないだろう、あれだけ派手な爆発だったのだから。
「しっかし、凄い魔法だったすね、流石は魔女って感じっすね。」
「そうでござるな……」
「でも、どうしてイライザさんも一緒に転移させなかったんすか?まあ、リュウノスケさんと離れたくないでしょうっすけど……」
「それもあるけど、イライザは転移が大嫌いなのでござるよ。魔法は知っていても使おうとすると過呼吸起こすくらい嫌いなのでござるよ。」
「……」
ハルが黙り込む。
これは聞かない方がいい話なのだろうと察して。
そして、イライザが眠る前に見つけた物の事を思い出す。
壊れた自己蘇生アイテムとエリクサーの空瓶だった。
おそらく前の退治の時は、抜け穴から逃げたゴブリンが戻ってきて、そして回復系のアイテムを使ったのだろう。
だから今回は、こんなにも居たのだ。
何故ゴブリンたちが、そんな高価な物を持っていたのか……
『嫌な予感が、まだするでござるな。』
夕日の中、そんな事を考えながら町へと急ぐリュウノスケだった。
7話目へ続く




