知識と着眼点
4話目
今日は、外だが職業の基本的な授業だった。
リュウノスケが教師でイライザが見ていてアドバイスなどを言う。
新人の4人たちは、真剣にリュウノスケの話を聞く。
「基本の職業は7つでござる。まず、その職業の基本的な働きを説明するでござるよ。」
【戦士】(せんし)
前衛で重装備が可能な職業、盾を装備してタンクになったり、武器でアタッカーになったりする。
腕力や耐久力などが高い物理攻撃が1番高い。
【格闘家】(かくとうか)
前衛で軽装備の職業、武器も装備できるが素手などの肉体の物理攻撃が高い。戦士より素早く動けるかわりに、耐久力などが劣る。技で気功などを覚えると、自己回復もできる。
【ヒーラー】
回復のスペシャリストだが、味方へのバフ、光系の攻撃魔法なども使える。この世界の魔法は才能で覚えたり、魔法を使い続けて上位の魔法を覚えたり、魔法の本で勉強して覚えるなどがある。
【魔術師】(まじゅつし)
攻撃魔法のスペシャリストだが、敵へのデバフ、召喚魔法なども覚える。イライザのように極めると女は魔女、男は魔人となる。そうなると回復魔法やバフなども使えるようになるし、さらに上位の魔法も使える。
【ハンター】
遠隔物理攻撃アタッカー。一応、近距離攻撃も可能だが遠距離からの狙撃が得意。索敵能力や情報収集能力が高い。武器は銃や弓で弾にバフ効果があるものもある。
【レンジャー】
罠や短剣などで戦うアタッカー。罠の解除や探索能力に優れている。あとモンスターの素材の解体も上手い。
【商人】(しょうにん)
アイテム関連のスペシャリスト。道具の鑑定や知識に優れている。モンスターの素材の解体もレンジャーほどではないがうまい。取引や交渉の能力も高い。
リュウノスケが職業の基本的な説明をしていると、
「商人って、戦闘で役に立つのか?」
とハルが質問してきた。
「うん、まあ戦えないこともないでござるが、アイテムでの支援がメインでござるよ。それを馬鹿にして追放するパーティーとかもあるでござるが、まあ商人の重要性を少し体で覚えたほうが理解しやすいでござろう。」
と言いつつ、リュウノスケはイライザがアイテムボックスから出したゴールドのコインの入った袋を受け取る。
ハルを立たせて、ベルトにゴールドの袋を括り付ける。
「おもっ!」
ハルがゴールドの重さでバランスを崩す。
とても戦闘など出来ない。
「アイテム管理も商人が上手いでござるから、縁の下の力持ち的な存在でござるよ。戦争でも兵士の数に目がいくでござるが、それ以外の戦わないでサポートする人たちには目がいかないでござるからなあ。」
「なるほど、道具の重量も考えないとなんですね。そういえばリュウノスケさんは異世界転移していた頃は荷物はどうしてたんですか?」
リュウノスケの解説を聞いて、アキがふと疑問に思ったので訊ねた。
変な恰好で倒れて立てないハルを助けながら、リュウノスケは質問に答える。
「色々(いろいろ)試してみて、生きている物は別の異世界に持っていけないのがわかったでござる。とりあえず水と食料が主でござるな、余裕があれば薬なども持ったでござる。今はイライザがアイテムボックスを持っているので、荷物に苦労はしないのでござるが……」
『『『『あ、察し。』』』』
イライザが無駄遣いするのに、どうしてお金をリュウノスケが管理しないのか疑問に思っていたが……
アイテムボックスの無いリュウノスケでは、お金も重いのだった。
「まあ、今も名残で少しは道具を持っているでござる。」
そう言ってリュウノスケは懐から道具の袋を出して中身を見せる。
中には、乾燥させた食べ物、薬草、そしてペットボトルに入った水だった。
ペットボトル?
「変わった入れ物ですね、これ。」
トーコが興味深そうにペットボトルを見る。
「軽くて便利な入れ物でござるが、拙者の行った世界だとゴミとして道とかに捨ててあったでござるよ、それ。」
「凄いというか……変な世界ですね。」
他の世界から見たら自分たちの世界も十分異常に見える。
イライザがアドバイスをする。
「脱線してるよ。」
「おっと、授業に戻るでござるよ。基本的な職業の話でござるが、まあ確かに高ランクの冒険者に商人はいないことが多いでござる。その理由は……」
「「「「理由は?」」」」
4人が興味を示し、リュウノスケの答えを聞く。
「普通に店を出して商売したほうが、安全で確実に儲かるからでござるよ。」
『『『『まさに正論。』』』』
言われて確かにそうだな、と4人は思った。
モンスター退治や護衛の仕事は命の危険があるし、洞窟などの探検も博打みたいなものだ。
浪漫で腹は膨れないのである。
「まあ、パーティーを抜けてもスポンサーになってパーティーをバックアップする商人もいるでござるが、余程信頼関係の良好なパーティーくらいでござるが……」
「へえー。」
「冒険者がやめる理由としては、命を落としたり、高齢などの体力の限界、金銭面の問題、男女関係の問題、将来への不安、珍しいものだと貴族になるとかでござるな。」
「貴族になれるの?」
この世界の貴族は、先祖は優秀な冒険者だった。
優秀な冒険者は優秀な人材だ。
それは国の戦力としても考えられていた。
王は優秀な冒険者に爵位を与えて土地を管理させる。
そして戦争になると騎士として戦争の戦力として戦わせる。
息子や娘に学問や武術を学ばせるのは、地位の確保や向上が目的だ。
「リュウノスケは物知りだねえ。」
イライザがリュウノスケの頭を撫でる。
「いや、全部イライザが拙者に教えた事でござろう、イライザが授業教えた方が効率がいいでござろう。」
「リュウノスケの方が教えるの上手いからいいの。」
なんだかんだ理由をつけて、イライザはリュウノスケに授業をやらせる。
「まあ将来どうするかは、その時になったら考えて決めるといいでござるが、それまでに死なないように鍛えるでござるよ、頭も肉体も……」
と、やる気を見せるリュウノスケだった。
数時間後、冒険者ギルドの隅の席にリュウノスケとハルが座っていた。
「よう新人、何やってるんだい?」
酔っぱらった冒険者が絡んできた。
リュウノスケがギロッと殺気を込めて睨む。
「ひっ、ひいー。」
その殺気の恐ろしさに、絡んできた冒険者が逃げていった。
リュウノスケはギルドマスターから借りた本に目を移す。
「なんか、すんません。」
ハルがすまなそうにリュウノスケに謝る。
小テストをしたのだが、ハルだけ赤点だった。
リュウノスケはハルに付きっきりで教え、残りの3人をイライザが教える事になった。
「はあ、冒険者になってまで勉強するとはなあ、勉強って冒険者に必要なんですか?ヒーラーや魔術師は魔法のために必要でしょうけど……」
「そう考える若い冒険者が多いでござるな。」
そう言いながらリュウノスケは小さな黒板に文字を書く。
この世界は、紙は貴重なので文字の勉強などは小さな黒板を使う。
書いた字を見せてハルに問う。
「何て書いてあるでござる?」
「……この世界の文字ですよね?」
「あ・た・り・ま・え・で・ご・ざ・る!」
リュウノスケが怒り気味に言う。
ちなみに答えは、「この先、危険。」と書いていた。
ハルは、自分たちの世界で言うところの、平仮名も全部覚えていないようだった。
一応、登録した時の用紙を見せて貰った。
名前は書けるようだが、いくつか書いてる答えが怪しいものがあった。
適当に書いたものが当たったか、別の誰かのものを真似したか…
調べればボロが出そうだが、それをすると他の大勢の冒険者も怪しいだろう。
この世界は国によって教育の進めが異なる。
学校を作り教育を進める国もあれば、余計な知恵を付けさせないために教育を行わない国もある。
ハルは後者の国の出のようだ。
「読むために文字の勉強が必要なのは理解できるんすけど、計算の勉強は……」
「問題、200ゴールドの報酬を受け取りました。4人で平等に分けた場合、1人何ゴールドになるでござる?」
「すみません、ごめんなさい。」
「あと、冒険者ランク上げる時に筆記試験あるでござるよ。」
「げっ、マジっすか?」
「高ランクの冒険者は強いというより、どれだけギルドに貢献できてるかが重要でござるからな。力や能力が強いだけで素行が悪い人間を高ランクの冒険者にしないための措置でござろう。高ランクの冒険者ほど、信頼と責任が大切なのでござる。」
「なるほど、考えてられてるんですな。」
感心しているハルが、さらに質問を続ける。
「リュウノスケさんは、異世界転移の旅をしていた時、勉強はどうだったんすか?」
「死にもの狂いで覚えてたでござるな、始めた頃は何もわからないうえに生命線になることが多いから…10日くらいで生活に支障のない程度は覚えたでござるな、慣れると3日くらいで覚えたでござるよ。コツは違う異世界でも似たような文化なら言葉や文字も同じようなものなのでござるよ、トラブルになりそうな言葉や行動を気を付けていれば、かなり楽でござったよ。」
どんな異世界での努力も、決して無駄にならなかった。
リュウノスケは経験を力にして、呪いの旅を生き抜いてきた。
今もその名残で、ギルドマスターから借りた本で新しい事を学ぼうとしていた。
「まあ、言葉や文字が無い異世界もあったでござるが……」
「えっ、そんな世界があるっすか?」
ハルが興味深そうにリュウノスケの話に食いついてきた。
完全に勉強の手が止まっていた。
「勉強中でござるよ。」
「ちょっと休憩っすよ、いいじゃないっすか。」
まあ、根を詰めても効率が悪いだろう。
ため息をつきつつ、リュウノスケは本に栞を挟む。
「言葉や文字が無い世界の話が終わったら、ちゃんと勉強するでござるよ。」
「わかってるっすよ。」
勉強が中断されて嬉しそうなハル。
リュウノスケは当時を思い出すように話し始めた。
リュウノスケが14歳の時だった。
その時の衣装は、Yシャツとジーンズだった。
前の世界で着ていた服装でやってきた世界は、広い草原の広がる場所だった。
近くに建物は無かったが、遠くに森が見えた。
風に潮の匂いを感じた、海も近いようだ。
「さて、どちらに向かうでござるか……」
とりあえず食料の確保できそうな森のほうへ、歩いて向かった。
その途中で風の匂いに、血の匂いが混じっていた。
「むっ。」
気になり、血の匂いの元へと走り出す。
森の近くに川が流れており、その近くに藁で作ったテントみたいな物があった。
血の匂いは、ここから匂っていた。
何人か血を流して倒れているのが見えた。
「キャーーーーーーーッ。」
女の子の悲鳴が聞こえた。
サーベルタイガーが女の子を襲い掛かるのを、リュウノスケは視界に捉えた。
「神速……」
リュウノスケは前足に力を込めて踏み出す。
さらに空間から刀を出して抜刀する。
瞬きする間くらいに一気に間合いを詰めて、前方宙返りするようにサーベルタイガーの首を斬り落とす。
「回転斬。」
言い終わると同時に納刀するリュウノスケ。
絶命して倒れるサーベルタイガーは、血を流していて消滅はしないようだ。
殺した敵を観察して、この世界のルールを考察するリュウノスケ。
とりあえず、助けた女の子から色々(いろいろ)聞いてみようと考えた。
知ってる言語だといいのだが……
「大丈夫でござるか?」
「うー、おー、あー。」
女の子は動物の毛皮で作った服装だった。
言葉はわからない、と言うより言語ではなさそうだった。
リュウノスケは周りを見て情報を探る。
ここは集落のようだが、建物は藁のテントのようだった。
動物の皮を鞣していたり、貝の殻を大量に捨ててある場所があった。
道具を見ると、骨や石で出来てる物が置かれていた。
「ここは、ひょっとして……」
リュウノスケは別の異世界で勉強した知識の中に、これと似たものを見たことがあった。
確かに経験や知識が役に立ってはいるのだが……
この世界の名前は、ニクマア。
マンモス、サーベルタイガー、オオカミなどが生息する。
旧石器時代に似た異世界だった。
5話目に続く




