道化の決意
3話目
この異世界の名は、シルベラ。
18世紀のロシアに近い文化の異世界である。
日本だと明治の頃である。
魔法やモンスター、魔王などの存在しない世界だ。
まあ、タイムスリップしたのと、ほぼ変わらないだろう。
リュウノスケは声をかけてくれた女性について行って、食事を御馳走になっていた。
寒さを凌ぐための厚着の服も着せて貰えた。
「???????????????」
女性の言ってる事は、わからないままだったが心配してくれているのは、なんとなくわかったので、ついてきたのだった。
リュウノスケにとって初めての物ばかりなので、辺りを見ても何なのかまるでわからないが、とりあえず読者のために情報を。
リュウノスケのいる部屋はいくつもあるテントの中の1つだった。
外には無数の檻が置いてあり、いろんな動物が入っていた。
中央に大きなテントでは、動物や人が芸をして、観衆から喝采を受けていた。
どうやら、ここはサーカス団のテントのようだ。
優しくしてくれる女性以外に、この場所にいなかったが、ガタイのいい老人が部屋に入ってきた。
身なりの良さから、おそらくサーカスの団長だろう。
「???????????????」
「???????????????」
二人が会話をしているが、何を言っているいるのかリュウノスケには、わからなかった。
お腹が膨れて、やっと考える余裕ができた。
とりあえず礼を言おう、例え言葉が通じなくても、伝わらなくても誠意を示そう。
そう思ったリュウノスケは床に正座して、キチンと頭を下げた。
「ありがとうございます。」
「???????????????」
「???????????????」
よくわからないが、なんとなく団長が喜んでいる感じがした。
誠意は伝わったのか?
そしてリュウノスケは、ここでしばらく生活することになった。
言葉や文字がわからないリュウノスケだったが、他の人たちの会話を聞いたり教えてもらったりして必死に勉強した。
そのかいがあってか10日くらい経つと、なんとか生活に問題ない程度には文字や会話が理解できた。
リュウノスケを初日に助けたのは、アナという名の女性だった。
このサーカス団の一員で子供の団員の面倒を、よく見ている人だった。
アナがリュウノスケに、この世界の文字や言葉を教えた。
他にも計算や生活に必要な知識なども学んだ。
ただ、リュウノスケは生まれた世界での文字を知らなかった。
皮肉にも1番始めに覚えたのが、この異世界の文字だった。
タダで御飯を頂くわけではない、ここでもリュウノスケは働くのだった。
色んな雑用もやっているのだが、それだけでなくリュウノスケもサーカスに参加することになった。
リュウノスケの恰好は羽織袴なのだが、金ぴかに輝いていて日本のものと違う作りだ。
団長やアナの説明によると東洋の戦士に似ているので、その役で芸をしてもらうという事だった。
おそらく侍の事なのだろうが、やる芸がオレンジを細い剣で刺したり、馬の上で逆立ちしたり、動く樽の上に乗って移動したりする。
「侍と言うより忍者のような……それすらでもないか。」
と独り言を言うリュウノスケ。
今は休憩時間なのだが、少し練習しようと思った。
芸をやる時は生まれた国の言葉でやってくれと団長に言われた。
生まれた世界で以前、近所の子供たちと一緒にやった侍ごっこ遊びを思い出して。
「やあやあ、拙者は日本一の侍、リュウノスケでござる。どんな悪党も怪物も一刀両断でござる。」
一人で離れて練習していると、団員の子供の何人かがやってきた。
リュウノスケの事を快く思っていない連中だった。
何も知らないリュウノスケに、アナが付きっきりで色々(いろいろ)教えているのが気に入らないようだ。
「テメー、生意気なんだよ。」
10人でリュウノスケを取り囲む。
全員リュウノスケより体格が大きいうえに、全員リュウノスケより年上だった。
情けない連中だった。
リュウノスケは、その中のボスらしい子供に素早く近寄ると、服を引っ張って地面に倒す。
そして馬乗りになると、リュウノスケは空間から脇さしを出してボスらしい子供の喉に刃を当てる。
落ち武者から教わった戦場での組み合いで使う技だった。
そしてリュウノスケは、脅すように言う。
「俺に関わるな、殺すぞ。」
「ヒィ。」
リュウノスケは、馬乗りを解いて逃がしてやる。
いきなり刃物を首筋に突き付けてくる危ないヤツと見えたのだろう、我先にと全員逃げていった。
負け惜しみも言わなかったし、報復や告げ口も恐れるだろう。
恩人であるアナには、あまり迷惑をかけたくなかった。
「さてと練習を再開するか。」
再び侍の練習をするリュウノスケだった。
翌日、作業着を着たリュウノスケが動物たちの檻を掃除していた。
芸の稽古でいない間に、手早く済まさなければいけない。
リュウノスケが掃除をしていると、団長がやってきた。
「リュウノスケか、ここは私がやっておくから草食動物たちの餌を持ってきてくれ。」
「あ、はい。」
リュウノスケは団長の言われたように、餌を取りに行く。
知識が無いのでリュウノスケは気にしなかったが、団長が掃除することに違和感を感じなかった。
掃除以外にも餌やりも肉食動物の餌は、1部の大人のみの仕事だった。
危険だからというのもあるのだろうが……
排泄物の処理まで同じだった。
何やら不穏な感じが漂っていた。
それから1週間後……
ついにリュウノスケがデビューする時がきた。
金ぴかの羽織袴に着替えたリュウノスケ。
大きな芸と芸の間に、リュウノスケは1人で中央に行く。
ピエロの代わりなのだろう、客の何人かはリュウノスケを見て笑っていた。
まあ、シラケられるよりいいだろう。
リュウノスケは刀を抜いて練習した前口上を言う。
「やあやあ、拙者は……」
その時だった、テントに1発の銃声が響いた。
大勢の軍服を着た男たちがテントに入ってきた。
それと同時くらいに、みんなが控えていたところから、肉食動物たちが飛び出してきた。
動物たちは軍服の男たちに襲い掛かる。
男たちも剣や銃で、動物たちに応戦する。
「いったい何が?」
リュウノスケはアナが心配になり、動物と男たちの乱闘の隙にテントの裏へと向かった。
裏口でも大人の団員たちと軍服の男たちとの銃撃戦が繰り広げられていた。
何人か血を流して倒れていた。
他に動物たちも死んでいた。
何頭か腹を裂かれていた。
「居た、こんなところに居たのね。」
アナがリュウノスケを探していたのか、息を切らせて走ってきた。
アナの手には銃が握られていた。
「他の子供たちは逃がしたわ、あとはアナタだけ、こっちよ。」
アナはリュウノスケを連れて安全だと思われる方に走りだした。
リュウノスケは走りながら、アナに尋ねる。
「いったい何が起きてるの?」
「ごめんなさい、アナタを巻き込むつもりはなかったの。」
謝りながらアナはリュウノスケに説明する。
この国は圧政に苦しめられていた。
アナや団長たちはレジスタンスたちに、武器を密輸していた。
銃をバラバラに分解して肉食動物の餌に混ぜて普段は動物の腹の中に隠していたのだ。
そして排泄物から回収して組み立てていたのだが……
憲兵にバレてしまった。
アナにそう説明されても7歳のリュウノスケには理解できなかった。
秘密がバレて、危険な状態だということくらいだけしか理解できてないのだが……
「団長はキミを仲間にしてレジスタンスの戦士にしたかったみたいだけどね。」
もう少しで安全なところにたどり着けそうだったが、手前で憲兵に出会ってしまう。
「貴様ら。」
アナが銃を構えるより、憲兵のほうが銃を構えるのがはやい。
だが、それよりも刀を抜刀して憲兵を斬ったリュウノスケのほうがはやかった。
「がはっ。」
袈裟斬りされた傷口と喉から、憲兵は血を流して絶命した。
「うおえっ。」
リュウノスケは嘔吐する。
始めて斬った人の感触、溢れる血の匂い、殺したという事実と経験。
リュウノスケはサイコパスではない。
少し剣術の上手い7歳児なのだから。
「いたぞ、こっちだ。」
憲兵の一人に見つかり、仲間を呼ばれた。
見つかった憲兵はアナが銃で撃ち殺したが、すぐにでも増援がやってくるだろう。
「参ったわね、囲まれたわ。」
万事休すのアナ。
だが、リュウノスケは思い出していた。
神と名乗る男の説明を。
ここに来て10日以上経過しているから、任意で転移の穴が出せるはず。
リュウノスケは心の中で穴が出るように願うと、目の前の空間に大きな穴が開いた。
ここから別の世界へ……
「こっちだよ。」
「ちょっと、リュウノスケ君?」
リュウノスケはアナの手を引っ張って、迷わず穴の中へと飛び込んだ。
アナも穴に入ろうとしたが……
「キャーッ。」
アナに凄まじい電撃が浴びせられ、穴への侵入を拒まれる。
パパンという複数の銃声が聞こえた。
憲兵たちが銃でアナの背中を撃ち抜いたのだ。
その後アナへの電撃は止み、穴の中へと吸い込まれた。
「アナお姉ちゃん?」
アナの血がリュウノスケの顔に飛び散った。
リュウノスケとアナは別の異世界へと転移した。
ただ、アナは入る前に死んでいたようだ。
この呪いはリュウノスケのみを転移させるものだった。
生きたものは、リュウノスケ以外転移不可の呪い。
それは別の世界で仲間が出来ても、好きな人が出来ても、必ず別れてしまう。
神はハーレムを作らせないための処置なのだったが……
「アナお姉ちゃん、アナお姉ちゃん。」
リュウノスケは泣き崩れながらも、アナの体を揺する。
自分のせいだと自責する。
そんなリュウノスケに何者かが声をかける。
「いつまでも泣かないで。」
リュウノスケが声の方を向くと、そこにアナが立っていた。
姿が透けているので、幽霊みたいなものなのだろう。
おそらく、この世界には魔法のようなものがあるのだろう。
奇跡だった。
「私のために、いつまでも泣かないで。君は日本一の侍なんでしょ?」
あれは芝居だった、ごっこ遊びのものだった。
でも…
リュウノスケは涙を堪えて立ち上がり、胸を張って言う。
「拙者は日本一の侍、リュウノスケでござる。」
アナは最後に、ニッコリと笑い…消滅した。
リュウノスケはアナを弔うと、歩き出した。
いつか本当に日本一の侍と胸を張って言えるように修行しよう。
この呪いの旅も利用して……
現在、イライザが4人にリュウノスケの過去を話していたが……
「あっ、リュウノスケお帰りなさい。」
と、買い物に行っていたリュウノスケを見つけると、話を中断して飛んで抱き付く。
イライザの抱き付く強さがいつも以上なので、リュウノスケは4人に尋ねる。
「ひょっとして、拙者の過去の話をしていたでござるか?」
「はい、わかるのですか?」
「まあね、抱き付く強さで、わかるでござるよ。ちなみに、どこまで聞いたのでござろう?」
「サーカスのところまでです。」
「なるほど、始まりの少しだけでござるな。」
少し考えたリュウノスケだったが、すぐにやめる。
問題ないと判断したのだろう。
「さあ、食事にするでござるよ。午後からも頑張ってもらうでござるからな。」
「質問いいですか?」
4人とも疑問に思ったのだろう、代表してアキがリュウノスケに質問する。
「今も1ヶ月ごとに異世界転移するのですか?」
「大丈夫でござるよ、2年くらい前に決着はついたから…」
そう言いながら首輪を触るリュウノスケ。
感慨深げに言っていたが……
「リュウノスケ、はい、あーん。」
イライザがサンドイッチをリュウノスケに食べさせようとしてきた。
嫌ではないリュウノスケなのだが……
とりあえず、今は昼食を皆で楽しもう。
新人の4人も含めて一緒に昼食を楽しんだのだった。
4話目へ続く




