狂った英雄
2話目
翌日は町の近くの雑魚のスライムでチーム連携の練習。
イライザとリュウノスケは見ているだけで、新人の冒険者の4人のみで戦っていた。
戦士の男の名は、ハル。
武闘家の女の名は、ナツ。
ヒーラーの女の名は、アキ。
魔術師の女の名は、トーコ。
今は強敵1匹をチームの4人で相手をする練習だ。
見ようによっては弱いスライムを、寄ってたかって虐めているように見えるが……
「はい、頑張ってね。」
と言いながら、イライザがスライムの怪我を魔法で治す。
イライザがスライムにバフや回復を行うので、スライムでも新人の冒険者の4人にとっては強敵になる。
「連携が慣れないうちは声を出し合ってタイミングを取るでござる。言葉を理解できてない相手なら大声で作戦を話しても平気でござる。」
「はいっす。」
リュウノスケのアドバイスに、ハルが返事をして従う。
「状況は?」
「ナツは私の魔法でフォローしてるから平気よ、トーコの魔法がもうすぐ放てるわ。」
ハルの問いにアキが状況を説明する。
「わかったっす、前衛で抑えておくから、デカいの1発頼むぜ。」
「OK」
どうやらトーコの使える最大魔法の1撃にかける作戦のようだ。
実は、この方法が正解になるように、イライザが魔法でスライムを強化していた。
始めは考えなしで戦っていたが、そのままだと絶対に勝てないと4人は気付き、連携して戦うようにしたのだ。
「やるわよ、離れて。」
「了解。」
トーコの魔法に巻き込まれないように、ハルとナツはスライムから離れる。
「くらえ。」
トーコの魔法でスライムが火の柱に包まれる。
スライムが魔法で蒸発して、やっと練習が終了した。
「うへー、疲れたー。」
「はーい、おつかれー。」
「お疲れ様でござるよ。」
疲れている4人に労いの言葉をかけるイライザとリュウノスケ。
動けない4人は、地面に寝て動けそうにない。
「昼の休憩にするでござるが、動けなさそうでござるな。拙者が昼食を買ってくるから皆はここで待ってるでござるよ。」
「私が、買ってこようか?」
と、イライザがリュウノスケに言ったが、
「いや、絶対余計な物を買いそうだから、それに5歳児の体でも腕力あるから問題ないでござるよ。」
と言ってリュウノスケは一人で町に戻って行った。
まだ仕事中なので倒れてる4人を置いてリュウノスケについていくこともできず、イライザは我慢して待つことにした。
「なんか首輪つけているのに、リュウノスケさん奴隷って感じが、しないっすよね?」
ハルが気にしたことを、なんとなく言ってしまう。
首輪のことや2人のことは、既に町中に知られていた。
町が小さいのもあるが、2人が目立ちすぎるのもあった。
そのハルの疑問にイライザが答えた。
「正確には、奴隷じゃないからね……」
だが、その言い方には細かい事をこれ以上聞くな。という感じのニュアンスと共に、殺意も含まれていた。
4人は恐怖を感じて、首輪のことは聞かないことにする。
ナツが別の話題をふる。
「リュウノスケさんって侍ですよね、それって上級の職業だから本当は凄い人何ですか?」
この世界の職業は、まずギルドに冒険者の登録してから教会へ向かう。そして教会で神からランダムで職業を与えられた。新人の4人もそうだったのだが、イライザなどの生まれ持って才能を持った者たちもいて、その才能にあった職業になることもある。
はじめに与えられる職業は基本、戦士、格闘家、ヒーラー、商人、魔術師、レンジャー、ハンターの7つである。
侍は無いので、その中でも選ばれた者だけがなれる上級職なのだと思ったのだろう。
イライザも魔術師を極めて魔女になったのだから。
その質問にイライザは、こう答えた。
「彼は、異世界転移者だから。この世界の生まれじゃないの。」
「そうなんですか。なら神様から与えられ特別な能力……」
そうナツが言いかけた時、イライザの雰囲気が変わった。
確実に怒り、魔力が危険な感じで溢れていた。
4人は完全にイライザの地雷を踏んだと理解した。
死にそうな恐怖を感じる4人に、怒気を強めてイライザは言う。
「あんなクズに貰った力じゃないわよ、リュウノスケの力は……」
自分が怒っていたのに気付いたイライザは、深呼吸をして気持ちを落ち着かせる。
怒気がなくなり、心を落ち着かせて、普段の感じに戻った。
普通の感じで4人に話し始めるイライザ。
「ふう……そうね、リュウノスケが戻ってくるまで彼の昔の話をしましょう。彼から聞いた話だけどね。」
そして、イライザはリュウノスケの過去を新人4人に話し始めた。
それは、リュウノスケのとてつもなく長い苦労と波乱万丈の物語。
これは、そのほんの一部の始まりの部分。
リュウノスケの生まれた世界は、読者と同じ世界の日本だ。
ただ、時代がかなり昔だった。
室町時代の頃の日本で生まれたのだった。
リュウノスケは、そこの農家の1人息子として生まれた。
朝早くから夜遅くまで、親の田畑の手伝い、山で芝刈りや薪拾い、家事洗濯の手伝いなど物心がついた頃から働いているようなものだった。
それでも少しの遊ぶ時間はあった。
その時に、リュウノスケは廃寺の境内で木の枝を振って遊んでいた。
「ボウズ、何やってるんだい?」
木の枝を振って遊んでいたリュウノスケに、男が話しかけてきた。
男はボロボロの鎧を着けていた。
廃寺に住み着いた落ち武者だった。
リュウノスケは空を指差して落ち武者に言う。
「あの大きな御飯を取って、おっとうとおかっかあに、腹いっぱい食べさせてやるんだ。」
リュウノスケは空の雲を指差していたのだった。
そう言って、また雲目掛けて枝を振った。
リュウノスケは純粋に本気で、そう思って枝を振っていた。
落ち武者はリュウノスケ言う事をバカにしないで、
「それじゃダメだな、ちゃんと振らないと……少しボウズに剣術を教えてやろう。」
「いいの?」
「ああ、そのかわり天の御飯が取れたら、俺にもご馳走してくれよ。」
「うん。」
落ち武者の言葉に無邪気に頷くリュウノスケ。
落ち武者も昔は純粋に剣術を学んで強さを求めていたが、挫折してしまった。
だが、リュウノスケなら自分が至れなかった高見に行けるような気がした。
虚空すら切り裂く剣の達人に……
1年ほどリュウノスケは落ち武者から型や動き、いくつかの技を教えてもらった。
それから忽然と落ち武者は廃寺から居なくなった。
そのころから飢饉や疫病が流行り、各地で戦が多発していた。
食べる物に困ったのか、それとも一旗揚げるために戦に参加しに行ったのか、理由はわからなかった。
リュウノスケは礼を言いたかったが、それは叶うことはなかった。
だが、ここからリュウノスケの不幸が始まり続いていく。
飢饉はリュウノスケの村でも起こった。
ほとんどの家で、子供や老人が口減らしをされた。
リュウノスケもそういう運命になりそうだったが、そうなる前に村が野盗に襲われた。
戦に負けた落ち武者が、集まって野盗になったのだろう。
イライザにこの話をした時、リュウノスケは親を恨まずにすんでよかったと言っていたが……
村の人間は着の身着のままバラバラに逃げた。
リュウノスケも逃げた、山の中を必死に……
もう村への帰り道もわからなくなった。
飢饉の影響は、山にもあった。
木の実やキノコなどなく、川は枯れて水も無い。
動物もいないので、オオカミやクマなども居ないのは幸いか。
リュウノスケは、夜も眠らずに歩き続ける。
寝てしまうと、2度と立てないと感じていたから。
何か口にできるものが見つかるまで、ひたすらリュウノスケは歩き続ける。
意識が朦朧としつつ、足元も覚束ないが、それでも歩き続けた。
足を踏み外して、崖を落ちてしまうまで。
「……」
リュウノスケは落ちても、もう叫ぶことすらできないくらい、体が弱っていた。
このまま死ぬと思っていたが……
リュウノスケが意識を取り戻したところは、白い大理石の床の上に寝ていた。
そこに何者かが近づいてきた。
足だけがリュウノスケの視線に入る。
さらに、そいつはリュウノスケの目の前に林檎を叩きつけた。
砕け散る林檎。
その欠片の1つが、リュウノスケの手の届く位置に落ちた。
久しぶりに見た食べ物に、リュウノスケは何も考えずに林檎の欠片を口にした。
弱っていた身体が、たちまち元気になり、弱っていた胃でも簡単に消化して栄養になった。
リュウノスケは欠片だけでなく、落ちた塊の林檎まで全部食べ尽くす。
少し元気になったリュウノスケは、足だけ見えていた人物を全体を捉えてみた。
そこには、1人の若い男が立っていた。
20代くらいの眼鏡をかけた日本人のようだが、服装が見たことのない白い服だった。
「私は神様……まあ、君なら仏様の方が理解しやすいかな?君を助けたのは、気まぐれと暇つぶしなんだよね。先代の神様にチートの能力貰って異世界の魔王倒した褒美に神様になったんだけどさ。不老不死で長い年月いると暇で退屈で…他の神様や女神様が暇つぶしにニートやクズを転生や転移させて観ている理由も、理解できちゃうよねー、まったく……」
ブツブツ独り言を言いながら、神は空間に穴を開けて、中から長さの異なる2本の刀を取り出した。
日本刀と脇さしだ。
「これをやろう。この刀はいくら使っても刃が欠けないし、折れないし、錆びない。手入れをする必要もない。さらに空間に自在に取り出し可能という優れものだ。まあ、それ以外は普通の刀と大差ないがな。」
その刀と脇さしをリュウノスケの足元に投げ捨てた。
リュウノスケは理解が追いつかず、言われるがままの状態だった。
そして神は、醜く顔を歪めながら楽しそうに言う。
「さて、私は貴様に罰を与えなければならない。お前は罪を犯したからなあ。禁断の果実を口にした罪を。」
さっきリュウノスケの目の前に叩き付けた林檎が禁断の果実だった。
完全に神にとって都合のいい自作自演だった。
神は指先から電撃のようなものを放ち、リュウノスケの体に浴びせた。
「うあっ。」
体は少し痺れたが、リュウノスケにダメージは無かった。
楽しそうに解説を続ける神。
「これは呪いだ。これから貴様には旅をしてもらう。場所は適当だ。ありとあらゆる異世界を旅することになる。それが貴様への罰だ。勿論ルールもある。どんな異世界でも最低1週間、つまり7日間は絶対にその世界に留まり続ける。そこからは任意で転移可能だ。しかし、どんなにその世界に留まりたくても1ヶ月後、つまり30日後には強制的に異世界転移する。これは絶対のルールだ。」
そして、神が説明を終えるとリュウノスケの足元に大きな穴が開き落される。
リュウノスケは理解できないまま、別の世界に落ちていく。
「うわあああああああああああああ。」
「藻掻き苦しめ、その姿を観ていてやろう。それが俺の娯楽で愉悦なのだから。」
穴が閉じてリュウノスケが消えた後、最後に神は小声で一言呟いた。
「そして、いつか俺を……殺せ。」
リュウノスケが落とされた世界は雪がきつく降っていた。
周りを見て様子をみる。
町のようで、レンガの4階建ての家が建ち並んでいた。
馬や馬車があったが、雪が降り積もってるせいで移動が困難そうだ。
人は肌が白く銀髪で目の色が青い。
リュウノスケのいた日本でないことは、理解できたのだが……
「さむー。」
リュウノスケのいた日本は夏だったので、リュウノスケの着ていた着物は薄くてボロボロでも平気だったのだが、この状況だと確実に凍死する。
心配そうに厚着をした女性が、リュウノスケに話しかけてきた。
だが……
「???????????????」
なんと言ってるのか、わからなかった。
言葉が通じないのであった。
とりあえず……
「はっくしょーん。」
大きくクシャミをするリュウノスケだった。
こうして、リュウノスケの最悪の異世界転移の旅が幕を開けた。
リュウノスケが7歳のころのことだった。
3話目へ続く




