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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

短編作品

月下美人~君に会いたい~

作者: 伊勢




これは罰なのだろう。

己のしてきたこれまでの行いによる罰だ。


「シル…!」


美しい顔に大輪の花のように艶やかな笑みを浮かべる彼女は月に照らされ宛ら月の女神のようだ。


しかし、彼女の手には不釣り合いなナイフが握られ、それは華奢な首に当てられている。


「やめろ!!」


必死に彼女に手を伸ばすもついぞ届くことは無かった。


「さよなら…どうか生きてーー」


「シルウィーナァァ!!!」



ザシュ…


目の前を鮮血が舞い散る。力をなくした彼女の体はゆっくりと後ろに倒れ俺の目の前から姿を消した。



「ぁあ…ああああああああぁぁぁ!!!!!!」



その日、俺は最愛の妻を失った。


俺の上げた慟哭を聞くのは煌々と輝き彼女のように美しい淡い銀色の光を放つ月だけだった。




※※※



月下美人。


それは幻の花。

白く美しい大輪の花を咲かせるそれは一夜だけその姿を現すも、朝日を迎える前に儚くも潔くその命を散らしてしまう。

神秘的なその花は、まるで彼女のようだと思った。




深夜、満月の光が煌々と照らす月明かりの元。

彼女は美しい花々に囲まれた庭園の中で一人ぽつんと立っていた。静かに月を見上げ涙を流すその姿に一瞬で俺は目を、そして心を奪われた。



「っーー」





その日、俺は無理やり出席させられた舞踏会でキャイキャイと犬のように煩わしく香水臭い令嬢達から逃れる為休憩用にと開放されたテラスから人気のない庭へと降り立った。


やっと息がつける…

舞踏会の主催者である友人にはもう挨拶も済ませた事だし、このまま帰ってしまおうか。


そう考えていた時、ふと人の気配を感じた。

軍人として長い間戦場で暮らしてきた俺は人の気配には敏感だった。


暗く人気のない庭の先、誰かいる。

もしや曲者か?それとも警備の者か…いや、彼らはそんな場所にはいないはずだ。警備をするならばもっと違う場所を通るはず…一体誰が?


気配を消し、その場に向かう。


もし、曲者だった場合ギタギタに叩きのめした後この家の警備のものに突き出せばいい。

煩わしい雌犬共にベタベタと張り付かれ、ストレスの溜まっていた俺は鬱憤を晴らす為それに近づいた。


しかし、そこに居たのは一人の女だった。

舞踏会の出席者だろうか?ドレスを着ている。

はぁ…思わず深い溜息が零れた。


また、女かとうんざりした。

これでは鬱憤を晴らすどころか余計にストレスが溜まる一方だ。俺は早々にその場を立ち去ろうと踵を返そうとしたその時、ふと見えた彼女の横顔に視線が釘付けになった。


月の光を反射してキラキラと輝く美しい銀髪、暗闇でよく見えずその瞳の色は分からないが、きらりと光るものが零れ落ちた。

それは涙のようだった。


彼女は声もなく、ただ静かに泣いていた。


「っ、」


なんて、綺麗なのだろうと思った。

その儚さに、美しさに何故か胸が締め付けられる。


女は嫌いだ。

キャイキャイと頭に響く高い声に、臭い香水の匂い。

あんな奴ら、俺にとっては欲を吐き出す為の玩具に過ぎない。適当に使って、飽きれば捨てる。替えのきく玩具。


しかし、彼女は違う。


月の女神のような、美しい彼女は玩具では無い。

替えのきかない夜を照らす美しい月。唯一の存在。

俺はそれが欲しくて堪らなくなった。


気配を消すのをやめ、涙を流す彼女にそっと近づいた。怖がらせないように、逃がさないように慎重に。


「…おい」


しかし、口から出たのはそんな無愛想な声。

これでは怯えさせてしまうと焦りが募る。

だがなんと声をかければいいのか分からない。


他の興味のない令嬢方には丁寧な紳士の仮面を容易に被れるのに…今はそれの被り方が分からない。

こんなこと、初めてだった。

焦りに焦った俺の手には緊張からかじわじわと手汗が滲む。

こんなにも緊張したのはいつぶりか。

戦場ですらこんな状態になったことがないというのに…


突然声を掛けられその細い肩をビクッと一瞬跳ねさせた彼女は恐る恐る此方を振り返ると驚きからかその瞳を見開いた。


その瞬間、またポロリと涙が堕ちる。


「…どなたでしょうか?」


「お前こそ何故こんな所で一人で泣いている?」


「…」


「あぁ、いや…責めている訳では無いんだが…すまん」


「いえ…お見苦しいところをお見せしてしまい申し訳ありません。私はこれで失礼したします」


「ま、まて!」


「なんでしょう?」


「…これを」


この場を去ろうとする彼女の手を咄嗟に掴み、俺は慌ててハンカチを差し出す。彼女は躊躇いがちに、しかしそっと微笑んで受け取ってくれた。


近くのベンチまで誘導し並んで腰をおちつける。

未だ、俺は彼女の手を握っていた。

何となく離しがたくて彼女が戸惑っているのに気づきながらも無視をした。


触り心地の良いその手は白く美しい。


「あの…」


「なんだ?」


「手を…離していただけると」


「…あぁ、済まない」


「いえ」


そのまま会話もなく、静寂が漂う。

俺の渡したハンカチでそっと涙を拭う彼女をチラチラと伺っていると、少し困った顔をされた。


「あの」


「…なんだ?」


「ハンカチをありがとうございました。洗ってからお返ししたいのですが…お名前をお聞ききしてもよろしいでしょうか?」


「…バルク。バルク・ウォン・ハルガルだ」


「ハルガル様と言いますと、次期騎士団長と名高いあの…?」


「あぁ」


「知らぬこととはいえ無礼を致しました。申し訳ありません」


「いや…名を聞いても?」


「申し遅れました。私はウェルナー伯爵家が次女シルウィーナと申します…閣下には大変お見苦しいところを…」


「ここには他に目もない。そんな堅苦しくしなくていい…シルウィーナ嬢、と言ったか。俺の事はバルクと呼んでくれ」


「しかし…」


戸惑う彼女の瞳をじっと見つめれば、恐る恐ると言った体でそっと俺の名を口にした。


「…バルク様」


その小さくて柔らかそうな口から俺の名が紡がれたかと思うと嬉しくて心臓がドクドクとなり耳が熱い。


「シルウィーナ嬢…それは次会った時直接返して頂きたい。それでよろしいか?」


「…はい」


「良かった…もう帰るのだろう?馬車まで送ろう」


「いえ、そんな」


「俺がしたいんだ」


「…ありがとうございます」


「あぁ」



俺は彼女を馬車で送り、去り際彼女の耳元に口を寄せた


「次、会えるのを楽しみにしている」


「っ、」


彼女は俯き、小さくだがそれでも確りと頷いてくれた。

それが嬉しくてつい笑ってしまった。

名残惜しいが彼女の手を離し馬車が見えなくなるまで俺はその場から彼女を見送った。





※※




後日、ウェルナー伯爵家に訪れ彼女に婚姻の申し込みをした。


突然の申し込みに父である伯爵は驚いた様子だったが、直ぐに承諾してくれて助かった。幸い、彼女には婚約者は居らず好いた相手もいないことがわかっている。


あまり社交界には出ることがなく、彼女自身を知るものは少ないこの状況は俺にとっては好都合だった。

他の男に取られる前にと既に根回しは済んでいる。


あとは彼女を手に入れるだけだった。


「シルウィーナ嬢」


「ハルガル様、ようこそお越しくださいました」


「俺の事はバルクと」


「…バルク様、何故私なんかと婚約など?」


伯爵家の庭園を散策しながらシルウィーナは心底不思議そうに尋ねてきた。

身長差から自然と上目遣いになっていることに彼女は気付いていないのだろうか?その愛らしさに胸がドキドキと高鳴り思わず抱きしめそうになった。


彼女はそんな俺の気持ちを梅雨とも知らずただじっと答えを待っていた。


「…君が、欲しいと思ったからだ」


「はい?」


「あの日、月明かりに照らされて涙を流す君の姿があまりにも儚くて美しくて…月の女神のような君の事が心底欲しいと思った」


「…え、と」


「突然の事で混乱していることは十分に分かっている。だが、どうか俺の事をみてはもらえないだろうか…?」


「っ、」


「シルウィーナ嬢…一目見た瞬間から君の事がどうしようもなく愛おしくて仕方がない…こんな気持ちは初めてで俺も正直戸惑っている。だが、君のことが欲しくてたまらない。まだ出会ってたったの2回だと言うのにな」


彼女はその頬をじわじわと赤らめ、あの日暗くてみることの出来なかった美しい紫紺の瞳が潤んでいる。


「シルウィーナ嬢…あの日、君の事が月のように綺麗だと思ったんだ。…愛している。どうか、俺のこの気持ちに答えて欲しい」


「…わ、私なんかで良いのでしょうか?」


「君がいいんだ。君以外誰も要らない」


「っ…私にはその、貴方の事を好きだと言うことができません…」


「それはそうだろうな…残念だが仕方ない」


「ですが!ですが…いつか、貴方に気持ちを返せるようになりたいと、は思っています…そ、それ迄お待ち頂いてもよろしいでしょうか…?」


「勿論だ!君に好いて貰えるよう俺も気持ちを伝え続けよう。だが…なるべく早く君の気持ちが俺に向いてくれると嬉しいが、な」


「はい…ありがとうございます」



伯爵家の美しい庭の花々に囲まれて、俺は彼女の髪をそっと撫でる。すると彼女は恥ずかしそうに、だが可愛らしい笑顔を浮かべた。

本当は抱きしめてキスをしたかったが…彼女のために我慢した。


いつか遠慮なくできる日を願った。







それから俺は婚約期間中、只管彼女に想いを伝え続けた。結婚は彼女が俺を好きになってくれる迄待つ事にした。婚約は無理やりだったから、せめて結婚は彼女の気持ちが俺に向くまで根気よく待とうと決めたものの…それ迄理性が持つか不安だ…。


しかし、彼女は少しずつ俺に気持ちを向けてきている。

その事が心底嬉しくて仕方ない。


婚約して、1年後。


彼女は俺と結婚したいと、伝えてくれた。

その時の嬉しさと言ったら!

いつでも式をあげられるように準備だけはしていた為、彼女に気持ちを伝えられた3ヶ月後には俺たちは正式な夫婦となった。


彼女にはその速さや準備の良さに呆れられたものだがその口元が嬉しそうに弧を描いているのを見て呆れながらも喜んでいるのだと思った。


「シルウィーナ」


「はい、なんでしょう?」


「シル」


「?はい」


「…愛してる」


彼女は返事はくれなかったが、笑顔を見せる。

本当は彼女からも「愛してます」「好きです」と言葉を返して欲しかったが…その顔だけでも十分俺は幸せだった。


結婚し、夫婦になったというのに彼女は俺の事を名前で呼ばない。いつも「旦那様」と呼ぶ。

それはそれでいいのだが、やはり名前を呼んで欲しかった。その度に彼女は、恥ずかしいのですと言って頬を赤らめた。その姿がまた愛らしくて仕方なかった。



彼女はよく月を見上げていた。

その度に少し恥ずかしそうに俺を見あげると毎度同じことを言うのだ。俺はその度に「そうだな」と返事を返す。



「旦那様…今日も、()()()()()()()






結婚して3年がたった。


俺たちの間には未だ子はいない。

しかし、それは別に良かった。

俺としては愛しいシルウィーナがそばに居てくれるだけで、子はできても出来なくてもどちらでも良いと思っていたから。俺には姉も弟もいる事だし、家はそのどちらかの子を養子に迎えてあとを継がせればいい。

俺としては彼女と一生2人で過ごすのも悪くないと思っていた。

しかし、周りはそうは思わない。

口さがないもの達は何処にでも居るもので、未だ子を宿すことの無い彼女のことを悪し様に言う者はいる。


彼女の耳にも恐らく入ってしまったのだろう。

最近は良く暗い顔をするようになった。

俺はその度に彼女を励まし、花を送ったりとするも彼女は困ったように微笑むだけだった。



※※



ある日の夜。


俺は彼女の中に欲を吐き出した。腕の中で蕩けた顔をする彼女が愛おしくて思わず何度も抱いてしまった。


「っ、シル…シル…愛してる」


「だ、な…さま」


愛おしい彼女を抱きしめようとしたその時、背筋にゾクリとした悪寒が走り咄嗟に身を起こしたその瞬間。体に激痛が走った。


「っ!」


痛みを訴える腹に手を当てるとそこからドクドクと血が流れている。


まさか曲者か?シルウィーナは?!!


視線をあげると、そこにはナイフを手にした彼女の姿があった。


「シ、ル…?」


呆然と見つめる先。彼女は俺の血を浴びて美しくて微笑んでいた。すると、彼女は手に持ったナイフを俺に振りかざしてくる。


咄嗟に避けるも、反応が遅れ今度は胸を切られてしまった。

この現実が受け入れがたくて、何より信じたくなくて彼女の名を只管呼ぶことしか出来なかった。


「シルっ!」


「なんですか、旦那様?」


「シルウィーナ…何故、こんな」


「何故?私もあの時、そう思ったわ」


「あの、時?」


「…貴方は覚えていないのでしょうね。だって、私を見て何も気づかなかったんですもの」


彼女の言う『あの時』とはいつの事だ。

俺が彼女に出会ったのは4年前の夜会が初めてのはず…


「貴方は、私と出会ったのは4年前だと思っているでしょうけれど…本当はもっと前に1度あっているのですよ。その時私はまだ10歳の子供でしたけれど…10年前、私は貴方に家族を殺されたんです」


「なっ!シル、君は…伯爵家の者、だろう?」


「いいえ?私、本当はあの家の人間では無いんですの。伯爵は私の隠れ蓑。全てはこの日、この国に…いえ、貴方に復讐を果たすための仮初の身分。ふふ、驚きました?」


彼女は妖艶に微笑んでいるも、何処と無く悲しそうな眼差しをしていた。


「…今頃、王城では王族の方々が悲惨な死を遂げていることでしょうね。まぁ、それはどうでもいいですけれど」


「ど、ゆ…ことだ」


「…10年前、私の国はこの国に突如襲撃を受け侵略されました。宣戦布告も何も無く、王都を襲われ罪のない沢山の人々を残虐に殺し吊るしあげたこの国が私は憎かった…何より、私の家族を直接弄び殺した貴方が!!」


「ま、さか…」


「私は…私の名は、シアナ。シアナ・ラ・ゼフィラン

当時私はゼフィラン王国第3王女でした」



※※


10年前ーー


我が国、ドレアス帝国は先代の帝王による周辺諸国の侵略が行われていた。


その被害の一つにゼフィラン王国があった。

かの国は小さいながらも自然豊かで、農作物や酪農が盛んだった。

のどかなお国柄、その国の人々も皆穏やかな性格の者が多い。この代の国王は特に武を嫌い、無為に戦争を起こそうとはせず他国との付き合いも良くとても平和な暮らしを送っていた。


しかし、その平穏は一夜にして崩れ去った。


満月の夜、月明かりに照らされてその日王都は炎に包まれた。ドレアス帝国が突如この国を攻めてきたのだ。

なんの予告もなく行われたそれに対抗する術もなく、あっさりのこの国は陥落した。


王は最後まで罪のない民に手を出すなと言った。

己の首だけで十分だろうと。

だが、その願いも虚しくついぞ聞き入れられることは無かった。


王や王太子等、男たちは壁に磔にされ見せしめに殺された。じわじわと矢を身体中に浴びせられ少しずつ、少しずつ苦痛を与えられ苦しみながら民の前で彼らは悲惨な死を遂げた。

罪のない人々も首を括られ、殺された。

女子供は男共に犯され、最後はその首を落とされる。

王妃や上の姉姫達も抵抗虚しく何人もの兵士たちに囲まれ弄ばれた。


私も例外ではなく、子供だからと容赦なく何度も何度も何度も犯され弄ばれ最後にはゴミのように捨て置かれた。




彼らは一通り残虐の限りを尽くし楽しむと城に火を放った。私の愛した家族は、民は…街は国は…皆焼けてなくなってしまった。

私だけは当時の近衛騎士だった数人と侍女に助け出され辛うじて逃げ出すことに成功した。


しかしその体はボロボロで、最早子をなすことは出来ない体にされていた。

彼らはもっと早く助けることが出来ればと悔やんでいたが、命があるのだから良いと思った。



そう、生きてさえいれば、いつか奴らをこの手で殺す事ができるのだから…




※※




「思い出しましたか?」


「…」


「あの時、私の家族は…民は帝国に殺されました。

そして、私の家族を直接殺したのは当時まだ騎士団の一部隊の隊長に過ぎなかった貴方だった。

当時10歳の私を犯し、初めてを奪ったのも貴方。

子ができない体にしたのも貴方。

この時の手柄がきっかけで貴方は今の地位にいるのでしょう?

本当…最低よね」


「シル…」


「名を呼ばないで下さる?仮初の名だろうと、貴方に呼ばれると吐き気がするわ。気持ち悪くて仕方がないの。

…貴方に再会したあの日。まさか惚れられるとは思いもしなかったわ。でも好都合だった、嬉しかったわ。これで、復讐に1歩近づくことができたのですもの!」


彼女は恍惚とした笑みを浮かべている。

未だ、俺の腹からはドクドクと血が流れ続けている。


「ですが、貴方と夫婦になるのはとてつもない苦痛を伴いました。愛を囁かれる度、触れられる度、キスされる度…気持ち悪くて憎くて殺したくて仕方なかった。それでも我慢したのは貴方だけでなくこの国に復讐したかったから。耐えて耐えて耐えて、漸く…準備が整った。長かった…今頃、この国の王族や主要な貴族の首は落ちている事でしょうね」


彼女は楽しそうに笑っていた。

なのに…やはりその瞳は悲しげに揺れている。


己が忠誠を誓い長年仕えてきた陛下や殿下方が気にならないわけではないけれど…それよりも、俺は彼女に1度も愛されていなかったのかと…そう思うと胸が張り裂けそうに痛んだ。

信じたくない…だが確かに、彼女は1度として俺を愛していると言ったことは無いという事に気がついた。


「君、は…1度も、俺を愛しては…」


「大事な主の事よりもそんな事が聞きたいの?貴方って…本当、馬鹿ね」


これは罰なのだろう。

今まで罪のない命を沢山殺し、弄んできた己自身の罰だ。

だから、彼女に俺が殺されるのは仕方がないのだろう。


それでも…それでも。

彼女に殺されるならばいいと思った。


「…なによ、その顔。なんで…そんな顔するのよ!貴方はっ!貴方はもっと苦しまなきゃならないの!!なのに、私っ…貴方なんて嫌いよっ!許さない!絶対に許さない!…許しちゃ、ダメなのに…」


彼女は何かに葛藤するように言葉を零した。

その姿があまりに痛々しくて、思わず抱きしめようと腕を伸ばした。だが、憎む相手に抱きしめられても彼女は余計苦しいだけだと気付く。


先程も、言っていたでは無いか…。

俺に触られるのは苦痛でしかないのだと。


スっと顔を上げた彼女は、寂しそうに笑っている。


「あぁ、そっか…そうよね。私がいるから、なのよね?」


「シル、ウィーナ…?」


「呼ばないで」


そう言って、彼女はゆっくりと俺から離れベランダに向かった。大きく扉を開け放つと、外には煌々と美しい満月の光が降り注いでいた。


「…貴方と出会ったのも満月の夜だったわ」


「シルウィーナ…?」


「ねぇ、旦那様?…()()()()()()()


彼女は今にも泣きそな顔をすると、あろう事かその細く華奢な首にナイフを当てた。


「っ!やめろ!!」


「やっとその顔が見れた…私は貴方に愛おしい大事な家族を殺されたの。貴方も、愛おしく思った相手が…目の前で自ら死を選んだらやっと苦しんでくれるのかしら…?」


「シルウィーナ!やめてくれ…!!」


「ふふ…お願いだから、私の後をおってこないでね?

貴方には苦しんでもらはなくちゃいけないもの…」


「シル…シルウィーナ!やめ、やめろやめろ!!たの、む…!」


彼女は血に染った銀色の髪を風になびかせて、大輪の花のように美しい笑みを浮かべた。彼女の美しい瞳なら涙が零れ落ちた。


「さよなら、旦那様?」


「シルウィーナ!!!」



「…どうか生きて、生き続けて苦しんで頂戴」



ザシュッ



彼女の首から血が吹き出し、雨のように降り注ぐ。


微笑み、儚くも美しく死を迎えた彼女はあの幻の花のように潔く人生の幕を閉じた。



「ぁあ…ああああああああぁぁぁ!!!!」




※※



彼女が死んだその日。


俺の祖国であるドレアス帝国は諸外国に侵略された。

王侯貴族は殺され、今は各諸外国に均等に領地が分け与えられ、帝国は消え去った。


俺は仲間の騎士団の数人と屋敷の使用人達に助けられ、生き残ってしまった。


何度も死のうと思った。

しかし、その度に彼女の最後の言葉な頭の中を反芻する。


「生きて苦しめ」


これが俺の罪に対する罰なのだろう。

唯一愛した彼女に、課せられた俺への罰だ。

だが、彼女のいない世界は色褪せて見える。

花も空も月も…何もかもハリボテのようだった。


あぁ、彼女の言う通りだな。

苦しくて、苦しくて仕方がない…。

…死にたい。だが死ぬことは許されなかった。

俺は、罰を受けなければならないのだから。


それに、死んだとして俺はもう彼女と同じ所へは行けないのだろう。


「シルウィーナ…」


彼女を愛していた。狂おしいほどに愛していた。

空に浮かぶ月と同じ、世界で唯一の存在だった。


なのに…。

月をなくした俺は、これからどう生きればいいのだろう…?



ふと、窓から淡い光が差し込んだ。

立ち上がり、空を見上げればそこには図らずも美しい満月が優しく世界を照らしている。


彼女と出会い、別れた時と同じ…とても美しい月だった。


「シルウィーナ、今日も月が綺麗だよ…」


外には月明かりを受けて、白く大きな大輪の花が咲いていた。しかし、その花は朝日を迎える前にその美しい姿を散らして消えてしまった。



月下美人。


一夜だけ美しい花を咲かせる幻の花。

儚く、美しいその生き様は正に彼女のようだと思った。










シルウィーナの国では好意を伝える時

「月が綺麗ですね」(愛してます)と言うことがある。

彼が彼女の言葉の意味を理解する時はあるのか?

そして理解した時、彼は何を思うのだろう?


なんて、書いてみたりなかったり…。


シルウィーナは彼に真摯に好意を伝え続けられ、いつしか憎いはずの彼のことを好きになっていきます。しかし、家族を殺しかつて己に彼がした事は許すことが出来ない。

愛おしいからこそ憎い。

その葛藤に苦しんだ末、彼女はその気持ちを込めて「月が綺麗ですね」そして「生きて苦しめ」と言って死んだ…といった設定です。


その場の勢いと思いつきでガーッと書いたのでおかしなところが多々あると思います。そこは本当にすみません…

おいおい修正していけたらなーとは思います。



ここまでお読みいただきありがとうございました!





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