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三二 竜神―2

 接続工業で同じく作成したリモコンを握る《接続竜》。

 そして次のように叫びながら、彼はリモコンの制御スティックを傾けた。


「よし、秒で作った俺のスペシャル機関車……接続バロン号、行け!」


 機関車は動かない。


「接続バロン号、行け!」


 再度叫んで、もちろんスティックも傾けたがそれでも機関車は動かない。


「くっ、なぜだ。《金属竜》、《加工竜》!」

「分からん。仕上がりはパーフェクト、《接続竜》の意のままに動くようにリモートコントロール・システムまで完備し……あっ」

「そっかあ。遠隔操作は流石に圧縮空気じゃ無理」


 車輪を動かすポンプ程度なら圧縮空気を導入するのは容易。

 無論、使いたいのは圧縮空気的な複数回接続空気なのだが論点はそこではない。


 つまり、遠隔操作は一般に赤外線やWiーfiを利用するため圧縮空気やそれに準じる気体では代用にならないのだった。


「ちいっ、もういい。要は直接、俺が運転すりゃ良いんだろ!」


 サイコロ穴からは「頑張れー」「ナイスミドル」など仲間の竜たちからの無責任とも取れるお気楽なヤジが飛んできた。

 それを強いリーダーシップで一心に受け止めた《接続竜》。全身の色合いこそ《黒竜》のように黒光りしていたが、その熱いハートは尊敬する《赤竜》烈仁を目指して日々研鑽してきた彼の努力の結晶だ。


「今度こそ行くぜ、接続バロン号!」


 接続バロン号と即席に名付けられた、機関車は動き出した。

 動力源なのは圧縮空気でなく接続式空気であるため、《接続竜》がいる限り供給は無尽蔵。つまり接続バロン号は永久機関の機関車だ。


 更に水陸空兼用という粋な設計。

 設計式空気によるジェットエンジンを稼働させれば、接続バロン号は飛行機のように翼を展開してやがて離陸する。


「いざ《赤竜》先輩の敵討ちじゃあ!」


 飛行したバロン号は《接続竜》のその言葉に呼応するかのようなタイミングで離陸し、《黒竜》に全力前進していった。


「けけけ。あのお方を、魔王ムダラー様を呼ぶぞ、そしてテメエは死ぬんだ!」

「我に余計な仕事をさせるなよ、《接続竜》。今、我はとても機嫌が悪い。なまじデボンの召喚が強力だったために、とても殺戮に飢えてしまっているんだ!」

「ゲジュラララ。飛んで火に入る夏の虫だな、虫ケラだけに」


 密かにバロン号に乗り込んでいた異世界の竜たちのこうした威勢に《接続竜》は仰天した。


「お前ら。い、いつの間に!」


 更に次のように、まだまだバロン号に乗り込んだ竜たちの掛け声は止むことを知らなかった。


「守り手になって良いかは知らないが、アラサー無職から美少年に転生したヒルマルの第二の人生は少なくとも好調。そう、俺たちの冒険はこれからだ!」

「こうなったら俺は覚悟を決めるぜ。現世になんとしてもポンヌロスを呼び、シメる。だって今の俺には、愛しのゴーレム令嬢がいるのだから」

「色々あって元の世界に転生し直した俺。貴族の養女となり、つまり貴族になれたチュンミスとそれなりに幸せな生活を送ってる。そして、「フカ兄~」「フカ!」「タコフカ」と、なぜか中断したはずのハーレムまでもれなく転生した俺の人生。それはもしかしたら、――まだほんの序章なのだ」


 彼らは別世界から異世界に転生してきた竜たちのようだった。


「ほーほほほ。時代は神、時代は神よ」

「シュフレンちゃん。神の時代は確かに巷にあるわ。珍しくまともよ!」

「ワイはチョッオマ。チミの願いを叶えに来たホイ」


 この者たちは悪役令嬢がいる異世界の竜たちのようだった。


「何なんだ、お前ら……。いや、そんな疑問は野暮だよな。お前らも異世界が好きで、この世界も好きな最高の俺の仲間たちだぜ!」


 そう叫ぶ《接続竜》の身に変化が起きたのは、その時だった。


「な、なんだ。急に熱くなってきやがった。これは、まさか……」

「ふふ、《接続竜》。どうやらキミこそが神となる運命にあるようだ」


 いつの間にか、《接続竜》の隣にはナリューがいた。そして彼は神について説明した。

 すなわち《接続竜》は仲間たちの応援、そして絆のおかげで、本来なかったはずの新しい未来に今を接続するほどの力を得た《竜神》になろうとしていたのだ。


「ハッ、見えた。ほんのわずか、これは……まだこの世界にほんのわずか残っていた、《赤竜》先輩のアッツアツのハート。それが俺に流れ込んでくるぞ。うおぉおおぉおぉぉおおお!」


 黒光りしていた《接続竜》の肉体は目映く発光しながら白銀のボディへと変わっていった。義の黒と情の赤が融合し、奇跡がそこに作用して勇気の白銀となった《竜神》が生誕したのだ。


「バロン号は俺に任せろ。《接続竜》、いや最高位の竜となった《竜神》よ。どうか俺たちの分まで……頼んだぞ」

「《始祖竜》先輩。――押忍!」


 そして《竜神》は自らの身にこれまでになく力がみなぎってきたことを実感すると、迷うことなく《黒竜》に向かって翼を広げて飛び立った。


「《巫女》様。《竜神》となった異世界の俺が助けに参りました。さあ、今こそ共に決着を付けましょうぞ」


 そう言うなり《竜神》は翼から大量の光の刃を射出した。

 それら全てが《黒竜》が生やした触手を木っ端微塵に切り刻み、その勢いのまま胴体にも斬りかかって、かなりのダメージを与えたようだった。


(竜の神さま……《竜神》。美弥奈先生、どうやらこの竜は信じるに足る仲間のようですね)

(ミヤナ、どうやらそうみたいね。さあ彼の言う通り、この戦いをそろそろ終わらせましょう)


 共に勝利への決意を確かめ合った二人の「ミヤナ」。すると《黄金竜》の体から虹色のオーラがどこまでもどこまでも広がっていった。


「んっんっ……んん、ヤ、ヤメロ。ソンナ神聖ナ光ナド欲シクナイ! ヤ、メ、ロォオオォォォオオ!」


 空にあった絶望、――《赤竜》の脱け殻たちも《黒竜》も、瞬く間に負のパワーを失っていった。

 そこへ更に念を押すように《竜神》が両手を天高く掲げると、《黒竜》の胴体にあった人間の顔は消え失せ、ポトリ、ポトリと人間が《黒竜》から落ちていった。


「よし、サルベージだ。みんな手伝ってくれ」

「「「御意」」」

「……キミたちは騎士じゃないから言わなくても……ま、いいか」


 ナリューが操る接続バロン号の乗組員が落下していく四人の村人をもれなくキャッチすると、ようやくこれで《黄金竜》も《竜神》も惜しみない力で《黒竜》と戦えるのだった。


「んっんっん、マダ私ハ本気ヲ出シテイナイ」

「知るかよ裏切り者の卑怯者め。これでも食らえ~!」


 月光を限りなく接続し、《竜神》は濃縮したその光の接続を《黒竜》に一気に解き放った。


(ゲラトルヘス、あなたはやり過ぎた。ルルー様の痛み、その身に刻みなさい!)

(全く、現実は忙しいのよ。授業中に余計な戦いを挑むもんじゃないって知りなさい!)


 続けざまに《黄金竜》はその持ち得る全てのエネルギーを波動に変え、《黒竜》に向けて発射した。


「んっ!……んんんんん……不愉快不愉快不愉快。コンナ運命ナド、コンナ……イヤ……ダ……ギャアアアアアア」


 ゲラトルヘスは、ただ誰よりも立派でありたかった。根本的には本当にただそれだけだった。しかし彼女はやり方が最初から間違っていた。

 他の竜の欠点ばかりに目を向けて自分はそうならないよう行いを正す。それは良かったのだが、彼女は完ぺきでありたいがための過ちを犯していった。


(今度は何が間違っていたの。ねえ、どんなに時間が掛かっても絶対に直して、もっと良い竜になるから。教えてよ、誰か……寒い、何にも見えないよ。何も聞こえない。助けて……誰か、た、す、……け……)


 ゲラトルヘスは塵になった。

 もうどんな悪意も彼女を間違わせることはなくなったのだ。

 空に浮かぶ無数の烈仁竜もその後の激しい戦いの果てに、ついに一頭も残らず消え失せた。


 戦いは終わりを告げたのだ。

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