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二四 蜂起―1

 ミヤナたちに再び交信が入り、ルルーが竜に食われたことが伝えられた。


「わけが分からない」

「ワタクシはわけが分からないことなど言っておりません」

「あなたは何がしたいの……?」

「それはもう言いました。ただ、強いて言い直すならワタクシは世界を無に帰したいのです」


 ミヤナはやはり理解に苦しんだ。

 自らが全て無くしていくのと世界が無に帰すのが同じことであると思えなかったからだ。

 しかしそれを見越してか、続けざま《黒竜》は次のように述べた。


「《巫女》がお探しであろう《赤竜》でしたら、今しがた申し上げた竜がソレです。あなたがどうせ《黄竜》などから聞き出しているであろう烈仁などという人格はもう彼にない。なぜならワタクシがカラにしたから。そして、《赤竜》ではいられなくなった彼はもはやこの世界のバグ。あらゆる常識を無視して際限なく増殖し、やがて世界を食らい尽くしますの。これにより、あなたが失うのはこの世界そのものであり世界が無に帰すのと同じと理解しましたでしょうか?」


 残念ながら今度はすんなりとミヤナにも理解することが出来た。

 つまりミヤナに味方してくれる竜は今いる三柱しかおらず、五柱が揃わないばかりか《黒竜》は離反し《赤竜》は別の何かになったということなのだった。


「ウサは無事なのですか?」

「んっんっん。無事の定義によりますけれどね」

「ゲラトルヘスーーーーー!!」


 その場にいない《黒竜》ににじり寄る方法があるなら、ミヤナはまごうことなくそれを実行していた。

 しかしそんな方法は無くミヤナは、もはや憎き存在となった竜の名を叫ぶことしか出来ないのだった。


「んっんっん。わめけども叫べども、ワタクシが育てた竜はもうワタクシにも止めることは出来ません。せいぜい残された時間を愉快に過ごしましょうか、それともやはり《剣豪》に会いたいと?」


 ミヤナは何か言わねば気が済まなかった。しかし言うべきことを閃く前にまたも交信は一方的に終了してしまった。


「うわうわ、もうこういうシリアスなの誰が望んでるんでしょうね本当に」

「麒麟。言いたいことは分かるが貴様は黙っていろ」

「プク~。ゲラの子がおかしくなっちゃったもん」


 時間はなさそうだということだけが明らかとなり、一行は誰しもが多かれ少なかれ慌てていた。

 しかしそこでミヤナは、肝心の《黒竜》の居場所を知るのはリュウキであることを思い出した。


「早く皆に教えなさい。《黒竜》ゲラトルヘスは一体、どこにいるのですか」

「ああ、はいはいはい。それはその色々とちょっとアレなんですけれども」

「そんな濁しはいらないんだよ、さっさと吐きやがれ麒麟。それとも貴様もヤツに寝返るなどと妄言を垂らしやがるのかァー!」

「言います言います言います。瑞くん、瑞くんちょっと誤解されるからそういう勢いは控えめにしような?」


 そしてそれでも何か、言いたくないことを言わねばならないといった苦々しい表情でリュウキは《黒竜》が今どこにいるかをこう表現した。


「ぶっちゃけると、なんとあの子は今タクイードとイズバにいます」

「意味が分かりませんよ、リュウキ。それでは説明になっていません」

「でも、いまぁす」

「よし、このアホにこれ以上の時間を割くのは無駄だ。貴様たち、ひとまずタクイードに向かうぞ。あちらならワシの翼が弾かれることはないはず」


 そう言うと瑞はミヤナたちと共に一路、《農邦》へと瞬間的な速さで飛行した。

 そして着いた先は竜殿。それは歴代の《巫女》と共に集うのはいつもその建物であり、単に瑞にとって分かりやすい場所にあるからであった。


「さあ麒麟。国内にいる《黒竜》の詳しい居所を占いやがれ」

「プク~。の子のソレは占いとは違うモノだもん」

「貴様は貴様でうるさいんだよ……!」

「プップク~」


 一人てんてこ舞いな瑞をよそにリュウキが《黒竜》の所在を探ると、どうやら開拓村から幾らか東の平原にいるらしいことが分かった。


「良かった。ならば、もしかしたら村はまだ無事かもしれないのですね」

「まあまあ、まあそれはそうなんですけれども~」

「よし、とりあえず貴様らを元の大きさに戻すぞ。というか、気付かなかったワシもワシだが麒麟とグ=ゲンは自分で飛べたんだよな?」


 戦わねばならないかもしれないという理由で瑞は、このように愚痴りながらもミヤナたちを小人から元のサイズに戻した。

 それから「ワープするぞ、俺に続け」と瑞が差し出した手に各々が手を重ね合わせた。一種のそんな円陣を組んだ格好で、瑞が詠唱すると一行は青い光の球となった。かと思えば目指す場所に翼で飛ぶのと同じくらいの速さでたちまちその光球は竜殿を出て、飛んでいくのだった。


 しかしこの時、ミヤナはとある仮説を立てていた。その仮説が正しいならば彼女はこれから、かけがえのない親友を亡き者にせねばならないかもしれないのだった。


 開拓村の東、ベール平原。

 何の変哲もないという意味では開拓村並みに目立たないその平原に、人の姿を取った《黒竜》がいた。

 そしてそれは《剣豪》ウサ・カラトッドの体を借りた邪竜の姿であった。


 ミヤナの仮説では実はそのことを予感されており、実際その通りとなってしまっていたのだ。


「待ちくたびれましたよ、《巫女》」

「あなたはウサね。どうしてこんな愚かな行いを……」


 しかしウサあるいは《黒竜》からそれ以上の言葉はなく、ただ彼女は天高くに剣を掲げた。まるで空を見ろと言わんばかりに。

 上空には数多の飛行生物がいた。遠目にはコウモリのようだったが何千といるその生物の数体は高度が低く、ミヤナたちにも見てその姿から判断することが出来た。


「《赤竜》だった竜。だとしたら、もうこんな所にまで!」

「人は醜い。騎士は神の駒。救えない。こんな世界が未来に向かうのを私は……」

「ねえ、ウサ。あなた、本当に《黒竜》なの?」


 騎士という言葉にミヤナは《黒竜》というよりはむしろウサの雰囲気を感じていた。

 いや、何らかの理由があるだけでとミヤナは確信していた。


(あの子はウサ。だとしたら私が助けてあげないと)


 しかしミヤナの前方に佇む少女がウサなら、子どもの頃に相手していたよりずっと剣の腕が立つはずであった。そしてそんな人間を相手にまともに戦う方法などミヤナは持っていないのだった。


「《巫女》様。これは歴史上にもそう起きなかったほどのドラゴナンドの危機です。これほどの事態には、我々は全指揮権を先生にお任せする。どうかご命令を」


 いつになく小難しい言い回しで、リュウキ、いや麒麟はミヤナにそう告げた。

 麒麟の両手にはミヤナが初めて目にする、リーチが長い剣と短い剣が一刀ずつ。


「命令とは」

「なあに、分かってますって。立場上、こう言わないとなだけですし。助けたいんですよね……親友の《剣豪》様を」

「心が読めるっていうのかしら?」

「それは秘密ですし。じゃあちょっくら世界、救ってきます」


 それだけ言うと麒麟は飛ぶように、――あるいは彼だけは翼なしに世界を自在に舞えるのかもしれなかった――ウサとの戦いに向かった。


「ワシは空のアレをなんとかする。グ=ゲン、《巫女》を頼んだよ」

「プク~。合点承知のスケだもん」


 青き光の矢をつがえた弓をどこからか取り出した瑞は空へと飛び立った。

 残されたのはミヤナと《緑竜》だったのだが今の状況をグ=ゲンは彼なりに次のように説明した。


「プク~。まるでずっと人間だったかのように武器を扱っている麒の子たちだけど、今までなら竜の姿でしか使えなかったものだから二人とも生き生きしているもん」


 形こそ竜である状態でのモノと多少は異なっているらしかったけれども、今まで何度か竜が呼ばれるほどの戦いがあった時、竜は今のようにそれぞれに力を凝縮して武器を作り出して戦ってきたらしいのだった。

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