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一〇 騎士団

 ミヤナが暮らす《農邦》にある最大の都市、国都レウドム。

 そこで聖慧騎士団は設立された。


 そして今も彼らが集う時には、レウドムで行うのがしきたり。すなわち聖慧騎士団の聖地とも呼べる都、それがレウドムであった。


「点呼~」

「「「御意!」」」

「1」「2」……「20000」「20001」

「全員確認した。ではこれより訓練」

「「「御意!」」」

「あっ、待ってください……」

「また貴様か、ナリュー」


 ナリューと呼ばれたのは20001と答えた、新人騎士だ。

 点呼番号は入団番号にほぼ等しい。聖慧騎士団を辞めた者の分はそれだけ番号を詰めていくので、二万一番目の入団者ではないものの最も新しく騎士団に入ったのがナリュー・エオルであることには間違いなかった。


 普通、理不尽なほどの縦社会であるこの騎士団で新人が「待て」と言って待ってもらえることなどない。

 しかしナリューはそうではなかった。点呼を自ら取っている騎士団長が許すほどに、彼は別格の剣術家なのだった。


「この20001番が気に入らんなら、泣いて詫びるほどすんだな。他は訓練を始めよ!」

「「「御意!」」」

「覇気がないぞ。剣に誓え」

「「「剣に誓い断行!」」」


 聖慧騎士団は、入ることが認められた時点で千人隊を与えられる。

 一人の騎士につき千人の戦士が従う。つまり戦力としては二万一の千倍が騎士団の最低限の兵力だ。更に実力があれば数万人単位の師団を率いる。


 科学の力がそこまで存在しないドラゴナンドにおいて、そしてとりわけ《農邦》タクイードにおいて騎士団は今や軍に相当する組織に変わろうとしていたのだ。


「許しを願いたく存じ上げます。私には《黄竜》様の神託がございました」

「うむ。ナリューならば有り得ること」

「ありがたき幸せ。さて、頂いたお言葉をお話させてください」

「良かろう。申せ」


 ナリューは団長に許され、自らが頂いた神託について報告を始めた。

 それはこの騎士団が、ミヤナたちのいる開拓村に向かうきっかけとなるほどの言葉であった。


 さて所変わって、いつもの開拓村。

 ここではいつものようにミヤナがウサと共に、畑の手伝いをしていた。

 彼女らは何も剣の稽古ばかりを共にする間柄ではなかった。開拓村は以前にも述べたように子供が少なかったので、仲が良い二人を好ましいことだとなるべく揃って手伝わせることに決めたのは村の住人たちだった。


「さあさ、今日は手入れの日だ」


 収穫が終わったばかりの畑。

 そこに落ちている野菜の葉などは捨てるので拾い、害虫除けの紙など消耗品も取り除き、全て終わったら土を平らにして水はけを良くするのがその日の行程だった。


 トルジュの怪我があり、実際ミヤナは畑で働く人に怯えがあったのだが悟られないように気を付けていた。

 どんなに気を付けても人間である以上、完ぺきなどありはしなかった。けれどもどうしてもミヤナはそうせざるを得ない気持ちだったのだ。


「うん、なんだか随分と騒がしいねえ」


 ニラ畑を仕切る女性はそう述べてはちらちらと音のする方角に目をやった。

 そしてミヤナもその様子を見ながら、恐る恐る同じ方角を見た。


「あれまあ、ありゃ騎士様じゃ。が高いわよ。さあ、騎士様にひれ伏しなさい」


 そのように言うや否や、畑主の女性は自らがまず騎士たちが来る方を向いて、ひざまずいた。

 続けて膝を折ったのはウサだ。普段の強気を思うとミヤナには意外な気がしたが、騎士への憧れもまた強いことを考えれば不思議のないことだった。


「ミヤナ、あなたも」

「え、うん」


 そんなウサに促されてミヤナもまた騎士の方を向き、かがんだ。

 まだ随分と騎士団は遠くにいたが、幸いにもその日は晴れていたのでせいぜい服が汚れるくらいがミヤナの心配事であった。


 相当な時間が過ぎ、その間にほとんど村の者は全員、外に出て騎士団を迎える準備をしていた。

 開拓村の住人たちからすれば、騎士は滅多にお目にかかることのない天上の人。そのため村長は備蓄を兼ねている高級な保存食だけでも振る舞おうと、村にある大倉庫にひとり向かうほどだった。


「前方に村。一同、隊列をそのまま前進」

「「「御意」」」


 微かにそのような声がミヤナたち控える者に聞こえてきた。

 団長と二万一人の騎士は全員、率いる戦士たちはそこそこに抑えていたけれども、それでも数万人が手狭な開拓村に押し寄せる光景はなんとも怪奇に見える様だった。


「掛け声、始め」

「「「えーやるえーてー、はなりかーたかー」」」


 騎士団にしか分からない、何か士気を高めたりする目的であろうその掛け声は厳かな戦いの道を来た人々ならではの格式高さをより強固なものにしていた。


「もうすぐ会えるね、騎士様に」

「う、うん……」


 ミヤナの言葉に、なぜかしら躊躇ためらいがちにウサはうなずいた。しかしミヤナにはそれが緊張のためだとすぐに分かった。

 そっとその不安げな背中に手を置いてやったミヤナ。まだしばらくは騎士団が来るまでにはあったので、それくらいなら大目に見てもらえると考えたのだ。


 それから更にしばらくの後に騎士団は遂に、開拓村に足を踏み入れた。


「全馬より下りよ。これよりは自らの足を使えい」

「「「はっ」」」


 団長の掛け声に、騎士団員は清々しいほど一斉に馬を下りた。


 なるほど騎士とは馬を駆る者であり、付き従う戦士たちは少なくとも今日は騎士の後ろに座り進行を妨げないようにしてやって来たようだった。

 そのためか戦士たちはむしろ馬を下りるのが遅れがちだったが、それゆえに揃って気恥ずかしそうな様子をわずかに垣間見せた。


「我ら、聖なるけいの騎士団。ここに馳せ参ずは運命の導きなり」

「「「やあ!」」」


 槍の柄でどん、と地を突き、そして騎士たちは高々とその槍を高く高く突き上げた。


「村の皆よ。我らもまた運命に従い、騎士の者たちを客人としてこの上なく歓迎し、永遠不朽の友として大いに今、この尊い日を噛みしめようぞ」


 村長が声高にそのように叫びそれから誰ともなく拍手をしたので終いには村人は皆、それに続いた。

 更には騎士たちの中にも指示を待たず手を叩く者もいて、この時ばかりは団長の叱咤はないのだった。


 一日が過ぎた。

 騎士たちは村から少し離れた平原に大野営を構え、しばらくは滞在する意思を村長に示した。


「ナリュー。挨拶せよ」


 騎士団長に請われて、優男と言った雰囲気の青年が団長の隣から村長の前に歩み出た。


「それがしは聖慧騎士団がいちゆう、ナリュー・エオルと申します。《黄竜》様の啓示を受けたゆえ、直々にお伝えすることをどうかお認めください」

「なるほど。竜に及ばない身の上ですから、どうぞこの老いぼれで良ければお話しくだされ」


 ナリューは麒麟から受けた神託を村長に話し始めた。

 ナリューによると開拓村の土地には広大な地下洞窟があり、このままではその影響で数年もしない内に地盤が沈んで村が滅びるというのだ。


「そ、そのようなことが起こりますか」

「確認したところ、事実かと」


 ただ何も手立てがないわけではないらしかった。巨大な石柱。さほど大きくもないだけに、村の広さと同じだけの柱をすぐ下に建てれば少なくとも村は助かるようであった。


「洞窟は思いのほか広い。崩れるであろう村の周りは先に崩し、橋を架けるでしょう。そこまでしても村で暮らしたい者以外には厳しいお知らせとなりますことを、まずはお詫び致します」


 騎士団長がナリューに代わり、予めの謝罪をそのようにした。村長はすぐに頭を上げてもらい、それから丁重に「この村をお頼み申す」と騎士に倣いうやうやしく挨拶をするのだった。

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