覚悟
稽古は過酷だった。
とにかく走って走って走りまくった。
走り込みのあとは木刀を使って素振り。
足の運び方も教わった。
「よし! 今日はここまで!」
終わりの合図が出た瞬間、私は地面にペタっと座り込んでしまった。
「こんなんで座ってたら、明日からは先が思いやられるな」
と井本くんが呆れ顔で言った。
「まーた、お前は。初日なのにここまで出来るのは大したものだよ? ゆっくりでいいから、しっかり段階踏んで強くなろう」
「…はい。ありがとうございます」
西山さんは優しく言ってくれるのは嬉しいが、自分に甘えないようにしないと。
よろよろと立ち上がり、二人にお礼を伝えた。
「今日はありがとうございました。 任務頑張ってくださいね」
そして私はある場所に向かった。
「今日はありがとうございました。任務頑張ってくださいね」
ペコッとお辞儀をしてから紗知ちゃんは行ってしまった。
「泰宏ー。もっと優しく教えてあげようよ」
俺がこう言うと泰宏が言うセリフはだいたい予想はつく。
「お前は女に甘すぎる」
やっぱりそうだ。
もう三年も一緒にいるからお見通しさ!
「俺らもグダグダしてねぇで行くぞ」
そっか…これから任務だった。
あ! いいこと思いついた。
「帰りに紗知ちゃんにお土産でも買ってこーっと」
そう言うとまた泰宏は甘やかすな!と俺の頭を叩く。
稽古が終わったあと、私が向かったのは影浦隊長の部屋だ。
聞きたいことがあったので行くことにした。
部屋の前に着き、ノックをしようとしたら中から声が聞こえた。
「長期任務お疲れ様。なにか変わったことはあったか?」
影浦隊長の声だ。
「いいえ。特にはないです」
この声は誰だろう…。
「おっ! ちょっと待ってくれ。杉尾ー! 入っていいぞ」
急に名前を呼ばれ、驚いた。
なぜ、私がドアの前にいるのが分かったのだろうか。
少しパニックになりながらも部屋に入っていった。
「…失礼します」
「ちょうど良かった。杉尾のことも話しておこうと思ってな」
私のこと?
すると、影浦隊長と向かい合って座っていた人が喋りだした。
「俺は一ノ隊副隊長の星平裕章だ。周りからの噂でよく耳に入るが、本当に一ノ隊に女が入隊するとは」
「杉尾紗知です。足を引っ張らないように頑張ります」
星平副隊長は眼鏡をかけていた。真っ黒のサラサラな髪の毛で目がキリッとしている。
とても顔が整っていて、俳優とかにいそうな顔立ちだ。
「足を引っ張らないなんて当たり前だ。一ノ隊は常に前線で戦う隊だ。この隊に弱いやつはいらない」
星平副隊長の言葉は井本さんよりも厳しかった。
「…なら、必要だと思われるように強くなります」
いちいちこんなこと言われた位で負けてられない。
「その言葉が口だけでないといいな。俺たちは命をかけて戦っている。命をかける覚悟がないなら三ノ隊にでも行け。影浦隊長、俺はもう行きます。…失礼しました」
私に厳しい視線を向けながら部屋を出ていってしまった。
「星平は厳しいと思うけどな、良い奴だ。今の言葉も決して杉尾を馬鹿にしたりとかでは無いぞ」
「…はい。ですが、言われっぱなしは悔しいのでいつか見返します」
影浦隊長は目を大きく開けて、そのあと笑った。
「あはは。そうかそうか。意外と負けず嫌いなんだな。いい心掛けだ」
影浦隊長を見ていて、この人は多分、色々な人から尊敬されているのだろうと感じた。
学校の先生とかにいそうな感じだ。
そして、急にはっとした表情で私を見た。
「そう言えば、なにか話があってきたんだよな。どうした?」
影浦隊長が私の目をじっと見つめる。
「悪魔について聞きたいことがあって…」
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《簡単キャラクター紹介》
星平裕章
・22歳 185cm
・一ノ隊 副隊長