悪魔
「単刀直入に言うと、君は悪魔によって殺された」
「えっ、悪魔…ですか?」
「あぁ、そうだ」
悪魔だなんて本当に存在するんだ…。
ずっと作り話だと思っていた。
「轢かれるときに不思議に思ったことはなかったか?」
「…ありました。ずっと運転手が叫びながら運転してました。あと、轢きたくないとか逃げてくれって」
運転手は言っていたのだ。逃げてくれ、と。殺そうとしててそんなこと言うだろうか。
「それが悪魔に取り憑かれている何よりの証拠だ」
影浦はそう言い切った。
「悪魔はだいたい五分で相手の体を完全に乗っ取り、支配する。その運転手は完全に支配される前だったんだろう」
説明する影浦を見て本当に私は死んだんだと感じた。
悪魔に乗っ取られた男によって殺された。
どっちを憎めばいいのだろうか…。
呆然とする私に影浦はさらに説明を続けた。
「それで君には悪魔撲滅隊に入隊してもらいたい」
アクマボクメツタイ…?
「なんですか、それ?」
訳が分からない。死んですぐに隊に入隊しろなんて。
「その事については俺が説明するよ」
今まで一緒に話を聞いていた一色が口を挟んだ。
「影浦は例の準備してきて」
「分かりました。あとは頼みます」
”例の準備”と言われ影浦はどこかへ行ってしまった。
「説明するって言ったけど何から言おうかなー」
うーんと頭を抱えながら一色は言った。
「まずね、三つの世界が存在するんだ。君が今まで過ごしていた現世。そして悪魔によって殺された人が来るこの世界。最後に、この世界で亡くなった人もしくは、現世の時点で亡くなった人が第三の世界と言われる場所に行く」
三つの世界があったなんて驚きだ。
元々、天国や地獄といった場所も信じていなかったのだ。驚いている私にお構い無しで説明を続ける。
「君は今、二十歳。この悪魔撲滅隊は、悪魔に殺された十五歳以上、三十歳以下の人が必ず入隊するという決まりがあるんだ」
「なら、それ以外の年齢の人はどうなるんですか?」
第三の世界というやつに行くのだろうか。
「この世界で暮らしているよ。ただ、現世での記憶がない。自分たちが初めからこの世界で暮らしていると思っている」
だから、悪魔撲滅隊に入隊しなければならない私は記憶があるのか。
憎しみを忘れないためだろうか。
「そしてこの世界では、ずっと殺された時の年齢と容姿のままた。歳もとらなければ、白髪が生えてくるなどの容姿の変化もしない。髪は伸びるがな」
受け入れ難い内容に言葉が出ない。
「だから俺も二十年ぐらい前に殺されたが、ずっと二十八歳のままだ」