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世界一の極楽男  作者: 吉瀬丸三之丞
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第7話 資金マイナス5600万円・第8話 渡米

●7.資金マイナス5600万円

 藤木は、飛行機で移送され北京の公安拘置所に入れられた。藤木の独房はその階の出入り口に近い位置にあったが、何階なのかは全くわからなかった。

 ここでも取り調べが行われ、深センよりも日本語がちゃんと話せる取調官が担当していた。

「あなたは、王若渓とどこで知り合いましたか」

取調官は、一週間毎日同じことを言っていた。

「だから、北京で、俺の友人の田中がナンパして…」

藤木が言っても無視をしていた。

「何のために反政府運動に参加したのですか」

「別に何もしてないけど」

「マクドナルド計画とはなんですか」

「そんなの知らないよ。マクドナルドでパーティでもやるんだろう」

「その計画はいつから行われますか」

「わかんない。明日じゃないか」

「ふざけるな」

藤木は腹を殴られた。

「ちょっと良いかな。俺の面会の予定は入ってないか」

「日本大使館員と田中は面会に相応しくない。日本人はダメだ」

「それじゃ、弁護士を呼べ、弁護士を」

「その手続きは今取っている」

「いつになるんだよ。そうだ。中国人の面会なら良いのか」

「反政府組織の人間はダメだ」

「実は、私のこれが居ましてね」

藤木は小指を上げていた。

「人道的な配慮とかで、食べ物か何か差し入れてもらっても良いですか」

「どこの誰だ」

取調官は住所氏名をメモ用紙書かせようと差し出した。

「…王府井の骨董屋の娘で陳依依でして…」

「それだけじゃ、わからん。口から出まかせを言うな」

「ユニクロの斜め向かいの骨董品屋ですよ。えっご存知ない。あんた北京っ子を気取っている

だけじゃないですか」

「そんなことはない。調べてみる。お前のことを知らないと言ったらどうする」

「あり得ませんね。ラブラブですから」

藤木の言葉に取調官は鼻を鳴らしていた。


 数日後、藤木は公安拘置所の面会室にいた。ここも深センと似たようなもので、面会室の狭い部屋には監視カメラが4つ設置され、強化プラスチックの透明ボードで仕切られ、マイクを通して会話ができた。

 「藤木さん、あなたの好きな月餅とチョコレートを持ってきました。後で看守さんから受け取って食べてください」

陳は、流暢な日本語で言っていた。

「ありがとう。助かった。それで弁護士は手配してくれてる」

藤木が言うと音声が遮断される。

「我々が手配している弁護士以外は認められない」

看守の日本語が入った。

「わかった。看守さん盗み聞きは、いけませんよ」

藤木はわさと大声で言っていた。

「それで、どうなの君の気持ちは」

藤木は、陳に目で訴えかけている感じであった。

「あなたのことが心配で、じっとしていられないの」

陳が手にしている月餅の包み紙には『田』の文字が記され、それをマウスのように動かしていた。

「心配してくれて、嬉しいね。看守さん聞いてる。ラブラブでしょう」

藤木が言うとスピーカーから咳払いが聞こえていた。

「また来ます。今度は何を差し入れたら良いかしら」

陳は、不安げな顔をしていた。

「そうだな、キャラメルとポテトチップぐらいか。パーッと豪勢に頼みます」

藤木は適当に言って笑っていた。


 またしばらく取り調べが続いた。

「藤木、出ろ」

「また取り調べですか。いつまでも同じこと聞かれたって、知らないものは知らないんだから答えようがない」

「今日は、弁護人と接見だ」

看守は鉄格子の扉を開けた。藤木は、久しぶりに面会室の方へ連れていかれた。

 

 面会室では、見るからに弱気な表情の男と藤木は話していた。半分は日本人だと言っていたが、怪しい人物であった。

「このまま行くと、上級審の際に死刑が求刑される可能性が高いので、小さな罪を認めて、その刑に服せば、死刑は免れます。」

「小さな罪って、何もしてないのに」

「仕方ありません」

「でも、何を認めろと言うのです」

「王の密出国に協力したなどの5点です」

「この他に4つもあるのか。そんなわけのわからい取引には応じない」

「それでは、仕方ありませんな」

「あんた、それでも弁護士なの。どっちの味方なんだよ」

「今日の接見はここまでにします」

弁護人は、あっさりとしていた。


 翌日。

「藤木、出ろ」

「取り調べ、接見、どっち」

「いや、面会だ」

看守はニヤニヤしながら鉄格子の扉を開けた。

「しかし残念だな強化プラスチック越しじゃ、キスもまともにできないから」

看守はニヤニヤし続けていた。


 面会室には陳が来ていた。

「いろいろと知恵を縛り出したら、公安警察に2000万円、公安法廷に保釈金として3000万円を払うと、保釈になることがわかりました」

「えっ、この会話、盗み聞きされているんだよな。それで言っているということは、公安にも話がついているのか」

藤木は、監視カメラをじーっと見ていた。

「どうします」

「保釈か。しかし合わせて5000万円だろう。誰が出してくれる。まさか骨董屋の主か」

「はい。私の父が用立てようと言ってます」

「君のお父さんね。それで…今日持ってきたのはチョコレートだっけ」

「月餅もあるわ」

陳は『田』『沢』の字が記されている月餅を見せていた。

「そうか。わかった。それで保釈金はわかるが、公安警察の2000万円は賄賂か」

藤木が言うとスピーカーから咳払いが聞こえてきた。

「どうかしら、よくわからないです」

陳は首を少し縦に振っていた。

「この藤木仁、5000万円ぐらいのカネなら、どーんと払えます。保釈されたら骨董屋の主に返しましょう」

藤木はわざとらしく高笑いをしていた。


 数日後。

「藤木、出ろ」

「取り調べ、接見、面会のどれだ」

「いや、保釈だ」」

看守は嬉しそうに言っていた。

「あんたらの懐にガッポリということですか」

「余計なことを言うと、保釈を取り消すぞ」

「はいはい」

藤木は神妙にしていた。


 公安拘置所の裏手の車寄せには、ミニバンが止まっていた。藤木が車寄せに出てくると、スライドドアが開き、中から陳が出てきた。

「保釈になって良かったわ。さぁ乗って」

陳が藤木の手を引いた。運転席に座っている男が何か中国語で言っていた。

 ミニバンは、ゆっくりと車寄せを離れ、拘置所のゲートを出た。

「まずは、うちの店に行きましょう」

運転席の男の声は、スマホを介して日本語になっていた。

「それは、誰に借りたのですか」

「田中さんから借りました。あぁ私は依依の父です。というよりは骨董屋の店主の方がわかりいいですか」

「それじゃ、田中はあなたの店にいるんですか」

「はい」

陳の父は、ミニバンを加速させていた。

「田中さんは首を長くして待ってますよ」

陳は相変わらず流暢な日本語であった。


 骨董屋に着くと田中が出てきた。

「良かった、藤木、無事だったか。」

「どうやら、代償がかなり高くついたな」

「しかし保釈だからな、釈放されたわけじゃない。早い所、国外脱出をしよう」

「中国から出られるのか」

「沢尻や日本大使館員が内々に尽力してくれたから、何とかなる」

田中は、少し焦り気味であった。


 藤木は陳親子に感謝の言葉を言い、骨董屋を後にした。レンターカーを運転する田中。藤木は助手席に座っていた。

「俺が国外に脱出したら、身元引受人の陳親子は大丈夫なのか」

「それは大丈夫だ。そっちの方も地元の党幹部に賄賂をしておいたから何とかなる」

「えっ、となると、全部でいくらになる」

「5600万円だ」

「あぁ、これであてにしていたカネはパーだな」

「仕方あるまい」


 レンタカーは北京駅に着いた。 

「ここから列車でウランバートルに行き、そこからウラジオストクに飛び、船で新潟港に行く」

「この経費は、誰持ちだ」

「こっちは、沢尻が先輩のために自腹を切っている」

「田中は」

「あぁ、俺も少しは補助しているぜ」

「恩に着るな」

「そんな気は、さらさらないだろう」

「バレたか。いやそんなことはないぞ」

藤木は珍しく真面目な顔をしていた。


●8.渡米

 日本に着いた藤木たちは、まず、SICI(サワジリ・インタラクティブ・コミュニケーション・インスティチュート)に行った。落合駅から5~6分程の狭い雑居ビルの5階の一室にあり、応接コーナーは部屋の一角にあった。

「先輩が無事で何よりです。それで商品化の方は順調で、初月度の売り上げも目標の20%増しです」

沢尻の頭の中は自動翻訳アプリの販売戦略でいっぱいのようだった。

「それは良かった。で、沢尻、この会社の名前は、長ったらしくないか」

藤木はさっそく先輩風を吹かせていた。

「我々は、沢尻コミュ研と呼んでいます」

「その沢尻コミュ研の社員は何人なんだ」

「藤木先輩、田中さん、私、あとはあそこにいる4人です」

「俺も社員かい、まぁ良しとして、よーし、今度はこの会社を俺がデカくしてやろう。そうすれば、俺の借金も返せるだろうから」

「あぁ、先輩そのことで言おうと思ってたんですが、先輩の取り分を計算してみたら、後20年間は今回の返済に使ってもらわないと…」

「いゃーその節は、カネを用立ててくれて助かった。感謝しているよ。しかし20年間か」

「額が額だからな」

田中がつぶやいていた。

「それは、今のままでの売り上げだったらだろう。儲けがデカけりゃ、数年で済むはずだ。俺にドーンと任せろ。そもそも商品化もできたろ」

「それと、洪グループの件ですが、彼らは拠点をアメリカに移したので、中国代理店の件はチャラになりました」

「洪さんたちは、渡米したのか」

「藤木、若渓も渡米しているんだ」

「そうか。こりゃ、俺らも渡米しなきゃならんな。あのアプリは英語にも対応しているんだろう」

「もちろんです」

沢尻は自信を持って即答していた。

「それでだ。沢尻コミュ研の社長、渡米する費用を出してくれないかな」

藤木は沢尻に手を合わせていた。 

「CEOですけど…、またカネですか」

「カネを増やすには何事も先行投資がいるんでな」

「…それでしたら、3ヶ月以内にアメリカでの販路を獲得してください」

「わかった。わかった。任せてくれ」

藤木は胸を叩いていた。


 翌日、藤木たちは格安チケットでロサンゼルスに飛んだ。空港からバスでダウンタウンにあるユニオン駅に向かった。広い敷地の駅構内を歩き、目についたスターバックスに入る藤木たち。

 「さて、アメリカに着いたが、3ヶ月以内に販路となると、急がないとな」

「藤木、なんかあてでもあるのか」

「今の所ない。まずは田中の彼女の王若渓に頼るしかないだろう」

「それが、メールやSNSで呼びかけているんだが、反応なしなんだ」

「おい、この駅はロケ地としても有名なのか、何かのロケをやっている」

藤木は店のガラス越しに見える構内に視線が行っていた。

「どこだ。あぁあれか」

田中も気が付いた。


 藤木たちは、店を出て、ロケの準備をしている駅の一角に来た。照明器具を持っていたり、レフ板を手にしているスタッフたちがいた。ゾンビの恰好をした者や駅の客といった感じの男女もいた。

 藤木たちが見ていると、後ろから英語で声を掛けられた。藤木が振り向くと胸のポケットのスマホがその声を翻訳し始めた。

「…エキストラが2名程足りないので、参加してみませんか。安いですけどギャラは払います」

見るからにアメリカの業界風の軽い男が喋っていた。

「これに参加ですか」

藤木は躊躇していた。

「なるほど、胸のスマホが同時通訳ですか。クールですね」

その男は、いち早くスマホに気が付いた。

「藤木、せっかくのチャンスだから、参加しようぜ。少しはカネになるし」

田中が急かせる。

「これは、何の撮影ですか」

藤木はこれぐらいだったら自分の英語力で何とかなると感じていた。

「SPOウィリアムスの新曲のMVです」

「えっ、誰」

「ご存知ない。あの有名で最高にクールなラッパーのSPOウィリアムスを」

「冗談ですよ。彼の名は日本でも知られていますから」

藤木は調子よく、ニッコリとしていた。

「それじゃ、エキストラの件、頼みましたよ。メイクスタッフが来ますから」

「メイクって、駅の客の役じゃないの」

「あ、客だと5450円でゾンビだと1万4250円ですけど…」

「それじゃ、ゾンビの方で」


 青ざめた顔の藤木たちは、用意されたボロボロの上着を着ていた。MV監督がキュー出すと、藤木を含めたゾンビたちが駅の構内をさまよい歩く。駅の客たちは悲鳴を上げて逃げ回っていた。ロケ現場では、ボリューム下げたラップの曲が流れていた。

 程なく、ドレッドヘアで両腕両足にタトゥーした腰パンの男が出てくる。その男がSPOウィリアムスらしかった。その男はラップを口ずさみ歩き、ゾンビに相対すると息を吹きかける。ゾンビはその場に崩れ倒れた。この演技をするのは、前の方にいるゾンビ役の男女であった。

 このシーンは3回撮り直しをして終了した。ロケ現場での撮影が終了すると、SPOウィリアムスは、用意されたディレクターチェアに座り、たばこをふかしていた。誰が監督なのかわかり難い雰囲気であった。

 「SPOがお呼びです。急いでください」

スタッフの一人がメイクを落としている藤木たちの所に来た。

「え、SPOウィリアムスがか」

藤木は、半分だけメイクを落とした顔でスタッフの後に続いた。田中も少し遅れて付いてきたが、途中で他のスタッフに止められていた。呼ばれているのは藤木だけのようだった。

 藤木は、ディレクターチェアに座っているSPOウィリアムスの前に来た。

「よ、日本でも俺のこと、クールって呼ばれているんだって」

「あぁ、そのことですか。若い娘なんかがキャーキャー言ってますよ」

「そうかい」

SPOは当たり前のような顔をしていた。

「それに、近々日本の音楽番組に出るとか出ないとか聞いてますが、本当のところはどうなんです」

「わからん。ジャーマネに聞いてくれ」

SPOの翻訳に驚いている藤木。『ジャーマネ』というチョイスは的確な気がしていた。

「ん、それが訳しているのか。またしてもクールだね」

「あっ、これですか。私の会社で作った自動翻訳アプリでして、もしよろしかったら、差し上げましょうか」

「いいのかい」

「いや、この後、これがないとホテルにも泊まれないので、別のものを後日…」

「いつまで、ロスにいるんだい」

「えー、ロスには2週間ほどになりますか」

藤木はそう言いつつも、3ヶ月と言えば良かったと感じていた。

「今、スマホをくれたら、今日から2週間、プレジデンシャル・ハイアット・ホテルに泊まらせてやるよ」

「さすがに世界一流のラッパーは言うことが違う。太っ腹ですね」

「と思ったが、これって日本語のほかにスペイン語とかは使えるのか」

「ネットでアプリを更新すれば、スペイン語もバッチリです。最高にクールでしょイェィ」

藤木は慣れてないラッパー的な仕草をしていた。

「それに…、あんたのその顔も、相当クールだぜ。ミスターハーフゾンビ」

SPOウィリアムスは、立ち上がり日本式のお辞儀をした。藤木もお辞儀をすると、スタッフに連れられて田中の所に戻った。


 藤木たちは、プレジデンシャル・ハイアット・ホテルの豪華なツイン・ルームに居た。窓の外にはロスの夜景が広がっていた。

「あのイカれたラッパーは使えるぞ」

藤木は、嬉しそうにしていた。

「それで、スマホを渡してしまったのか」

「超有名なラッパーなんだろう。奴が持ち歩けば、全米が注目するはずだ」

「藤木、さっき見た音楽チャネルでは、まだ売り出し中というか、全米チャートで15位前後だったぞ」

「15位だって大したもんじゃないか」

「しかし、藤木、宿は確保しても、翻訳アプリがないと交渉などできないぞ」

「田中のスマホに翻訳アプリ入れなかったのが悔やまれるな」

「俺のはタイプが古いから容量が足りないんだよ」

「買い替える…カネはなかったな」

「お前が中国で捕まらなかったら、俺の懐にも少しは入ったのだが…」

「何とかなる。もっと明るく考えろ」


 藤木は日本にいる沢尻にアプリを入れた新しいスマホを送ってもらうようにSNSで伝えておいた。

「田中、一週間後に新しいスマホが送られてくるが、それまでは販路開拓はできないから、ラスベガスに行かないか」

「ベガスか、面白そうだな。手持ちのカネが増やせるかもな」

田中は乗り気であった。


 藤木たちはロサンゼルスからラスベガスまで380キロを4時間程で結ぶ、格安バスに乗りラスベガスに着いた。藤木たちはカラフルに彩られたバスから降りた。

「田中、このバス、格安にしては2階席の屋根がパノラマルーフになっていて開放的だったし良かったな」

「うん、お得感があった。帰りもこれを利用しようぜ」

「いや、帰りは大儲けしているんだから、パーッとリムジンでもチャーターしようぜ」

「相変わらずだな」


 藤木たちはシーザーズ・パレスホテルのカジノエリアにビジターとして入った。

エリア内には、ルーレット、スロットマシーンなどが一面に並んでいた。

「ゲーセンとは大違いだな」

田中は、ドリンクオーダーを聞いて回っているカウボーイハットをかぶった女性に見とれていた。

「ここは飲み物はタダだから、どんどん注文するか。お姉さん、ちょっと」

藤木は、カウボーイハットをかぶったグラマーな女性に声を掛けた。しかし女性はそのまま通り過ぎてしまった。

「あ、いけねぇ。スマホがないんだった」

藤木は胸のポケットを触っていた。

「イクスキューズ・ミー…」

田中は、たどたどしい英語で別の女性を呼びかけていた。田中は、カリフォルニア産のワインを注文していた。


 藤木は持ち金をカジノカードにチャージしていた。スロットマシーンの近くには、英語でやり方が書いてあったが、ほとんど読まずに、カードを使って、スロットマシーンにベットしていた。レバーを回して、数字やマークが揃うのを待つ。しかし全くと言って良い程、揃わなかった。あっという間に5000円程が消えてしまった。

 これ以上やるとまずいと感じた藤木は、ルーレットをやっている田中の所に行った。

「どうだった」

田中は回っているルーレットを見ながら言っていた。

「サッパリだ。俺もルーレットにしておけば良かった」

「藤木、見ていろよ。俺の強運を」

 ルーレットの玉が黒の20に入った。

「よし、来た」

田中はガッツポーズをしている。田中は13~24の所にベットしていた。田中のチップ8枚は12枚になって戻ってきた。

「1.5倍になったな」

藤木は少々関心していた。

「今度はダブルココモってやつで行くぞ」

田中は得意気であった。田中は1~12に2枚ベットした。

 ルーレットの玉は、29に入った。田中のチップは没収された。

「これは大した損出ではないから、次に賭ける」

田中は動じていなかった。

「大儲けするにはなかなか時間が掛かりそうだな」

藤木は、ルーレットを見ながら、オレンジジュースを注文していた。


 「田中、そろそろ、ドデカいの賭けたらどうだ」

藤木は田中のチップ山を見ていた。

「そろそろ、やってみるか」

田中は、チップ4枚ずつを8箇所の数字に賭けた。

 ルーレットが回り、玉は2に落ちた。

「そろそろ来ると思ったが大外れだ」

田中は舌打ちをしていた。

「田中、もうやめないと、元本割れになるぞ」

「藤木の方は、どうなんだ。とっくの昔に元本割れだよ」

「っていうことは、既に半分は失っているわけか」

田中は恨めしそうに藤木の顔を見ていた。

「帰りのバス代がなくなるから、諦めよう」

「いや、俺が藤木の分まで取り返してやるよ」

田中は熱くなっていた。藤木は、止められないと悟っていた。


 ルーレットの玉が、32に入った。田中の最後のチップ2枚は1~12に置かれていて、それらは没収されてしまった。藤木と田中は顔を見合わせていた。

「やられた」

田中はぼそりと言っていた。

「そんな辛気臭い顔するな。何とか…今回はならねーな」

藤木もしょんぼりしていた。

「やっぱり、カジノと宝くじは胴元が儲かるようになっているんだよな」

藤木は、笑い飛ばそうとしていたが、急に考え込んだ。

「田中、宝くじを外の通りで売ってたよな」

「数字選択式のくじだろう。お前、まだ隠し金があるのか」

「あぁ、そうか。あれはスマホのペイシステムだった」

「ぬか喜びさせるなよ」

「田中、こうなったらロスまで歩いて帰ろうじゃないか」

藤木は高笑いしていた。

「お前、頭は大丈夫か380キロもあるんだぜ」

「気にしない。ヒッチハイクという手もある」

「最近じゃ、誰も止まらないって聞くけどな」

「さっ、行くか」

藤木はカジノの出口に向かっていた。

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