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生産系彼氏と戦闘系彼女  作者: INGing
序章 プロローグ
6/7

彼女、運命の人に出会う!

2話目です

「うぅ、ひもじい……」



 ウサギ型モンスターの惨劇によって起こされた不快感も無くなり、日が暮れる前にはモールタの首都へとたどり着いたルリ。

 しかし、今度は不快感とは別の原因によりお腹を抑えながら歩いていた。


 ゲームの時では無かったのだが、何と街の中に入るのに身分証かお金が必要になっていたのだ。

 当然ルリには身分証などある訳も無く、お金も現金は一銭も無い。

 換金可能な物と言えば、自らが身につけている初期装備か先程手に入れたウサギの死体くらいだ。

 だが解体もされていないウサギの死体をそのまま買い取ってくれる訳もなく、また買い取って貰ったとして一羽程度じゃ金額的に足らない。

 初期装備の中では服と靴は脱ぐわけにもいかず、鉄の剣は売ってしまうとこの世界では街の外を出歩く事は出来ない。

 素手で戦う『格闘』と言うスキルもあるが、今のステータスではモンスターを相手にするのは厳しい。

 レベルが1に戻っている今、元々活動していた国まで戻る事は諦めたルリ。

 しかし生活の為に金策をするとして、安全にモンスターを狩る『剣術』スキルの為の剣は手放せない。


 街の中で働くと言う選択肢が出ないのは、言うまでもなく戦闘厨である弊害だ。


 そんなこんなで、換金の為に必要な物を森で集めようと首都から更に北西へと向かう。

 モールタの門番からの情報では、森に生えてる薬草の葉が二十枚も有れば入街料には足りるとの事。

 生産活動に含まれる薬草の採取など今まで行った事は無いが、それでも数羽のウサギを狩って『解体』するよりはマシだろうと素直に森へと向かった。


 森へと向かう道中に日が落ちたが、流石に野宿をする為の準備も度胸も無い。

 かなりのスローペースになったが、夜通し歩き続けて森へ着いたところで冒頭のセリフへと繋がる。

 丸一日飲まず食わずに加え、不眠不休による疲労もあいまりルリの良さでも有る溌溂さが一切消えてしまった。



「やくそう……やくそう……あ、あった! やくそう……やくそう……」



 森に入り薬草を探す事一時間、ルリが採取する事ができたのは十枚ちょっと。

 薬草と言うのは割と何処にでも生えていて、もしコウが二十枚の薬草を集めようとすれば五分で済む。

 同じく一時間も掛けていいのならば、おそらく三スタック弱は集まっている。

 採取に慣れているかどうかというので、そこまでの劇的な違いがでるのだ。


 ちなみにスタックと言うのは「積み重ねる」と言う意味で、ゲームで同種のアイテムを×99等と表記されるアレだ。

 コウとルリがプレイしていたゲームは、無拡張の場合所持アイテムは一スタック99個の百スタックまで所持出来た。



「やくそう……やくそう……うぅ、おなかすいたよぅ」



 時折キノコが生えていたり、木に果実が成っていたりするがルリはこれらをスルー。

 ゲーム時の常識が邪魔をしているからか、果実がそのまま食べられるとは思っていないし……そもそもキノコ類は毒が怖いので、採って食べよう等という気になれない。

 極限状態になればそうも言ってられないだろうし、果実に齧り付くのにも試してみるだろう。

 だがしかし、1日程度の絶食ならばお腹が空いた以外の弊害がルリには無い。

 後ニ日も飲まず食わずならば倒れてしまうだろうが、明日にはモールタの首都に入ってる予定だ。

 ならばひたすらに薬草だけを探す方が良いと、それらには目もくれず採取していく。


 さらにこの後コウに出会った事で、衣食住の不安は全て解消される事になる。

 結果、ルリが試食する機会は永遠に訪れないのだが。



「やくそう……やくそう……ん? ゴブリンのなきごえ?」



 必死になって薬草を探しているとは言え、それは決して盲目的になっているわけでは無い。

 弱いとは言えモンスターが出る森なのだ、周囲の環境へは敏感なまでに警戒している。

 その結果、少し遠くから聞こえてきたゴブリンの鳴き声に気付けた。



「うぅ……どうしよう、どうせきのうのウサギみたいになるんだろうなぁ」



 序盤の敵としてはソコソコに強いゴブリン、初期装備&初期レベルならば一撃で体力レッドゾーンまで持っていかれる攻撃力もある。

 その分経験値的には美味しいモンスターであり、レベリング用モブとしてルリもお世話になっていた。

 レベルが1になっている今、本来なら喜々として駆けつけるところだが……昨日の一件以降、どうにも戦闘行為に忌避感がある。

 とは言え悩んでいる素振りとは裏腹に、足は鳴き声の方に向かっているのが戦闘厨の面目躍如といったところか。



「1……2……3……ぜんぶで5匹かぁ」



 先程から周囲の警戒する為に『索敵』を行っていたお陰で、スキルレベルが伸びて離れたところのモンスターの数を把握できる様になった。

 5つ程の適性反応がルリから離れる様に移動しているのを確認、奇襲のチャンスである。

 以前までなら悩む時間すら勿体無いと思うルリがどうするべきか立ち止まっていると、そこに新たな反応が索敵に掛かった。



「この反応は……人間? 進んでいる方向からして、もう少しでかち合っちゃう!」



 その反応を見て、ルリは迷う事を止めて駆け出す。

 自分と同じく戦闘を是としている者ならば問題は無いが、そうで無いなら5匹ものゴブリンに一人で接敵するのは命取りだ。

 無駄になっても、モンスターを殺す気持ち悪さに苛まれたとしても……人が死ぬよりよっぽど良い、そのくらいの気概はルリにも持ち合わせていた。



『うわぁ!』


「やばい、いそがなきゃ!」



 もう少しでゴブリンの背後に周り込めるというとこで、少年の悲鳴が聞こえた。

 駆ける足に更に力を込めて、ようやくゴブリンと接敵した。



「危ない!!」



 接敵と同時に抜剣、その勢いで中央に位置する1匹の首を刎ねたのち声を上げた。

 襲われた少年に救助に来た事を伝える為と、ゴブリンの注意をルリへと向ける為だ。


 ゴブリンがまだ反応しきれていないうちに、薙いだ剣を反してもう1匹の首も刎ねる。

 そのまま分断された形になったゴブリン、左方の1匹だけになったゴブリンの腹に足刀を放ち吹き飛ばす。

 後方の憂いを排除できた事で2匹のゴブリンと対峙したが、流石にゴブリンのヘイトはすでにルリへと向かっていた。


 そのうち向かって右側のゴブリンが、その手に持っていた棍棒を振り上げる。

 すかさず懐に飛び込み体当たりを当てて、モーションをキャンセルさせた。

 ぐらりとバランスを崩したゴブリンの首を刎ね、すぐさましゃがみこんで隣のゴブリンに足払いをかける。

 抵抗する間もなく転倒したゴブリン、ルリは立ち上がった後心臓に剣を突き刺して息の根を止めた。


 先程足刀で吹き飛ばしたゴブリンの方を向くと、またたく間に仲間が全滅した事に恐怖を覚えたか背を向けて逃走しているところだった。

 別に逃しても構わないかとも思ったが、身体に染み付いた動きは殲滅という選択肢をとる。

 刺さったままだった剣を抜き、無防備なゴブリンの背に向け『投擲』した。

 それは見事に命中し「グギャ!」と言う悲鳴を上げ、最後のゴブリンも息絶える事となる。



「大丈夫だった?」



 一連の動きを黙って見ていた、腰を抜かして座り込んでいる少年へと話しかける。



「え、ええ……ありがとうございます、助かりました」



 声をかけられた少年は、少し恥ずかしそうにしながら立ち上がり礼を言う。



「うん、良かったよ。君が無事で……って、コウちゃん?!」



 立ち上がった少年……コウを見て、驚愕の声を上げるルリ。



「……その呼び方は、ひょっとしてルリさんですか?」



 ゲーム時代の知り合いにこんな所で出会ったと言う驚きとは、また違う種類の驚きが含んだコウの声。


 このさき久遠の時間を伴に過ごす二人の出会いは、このような事から始まった。

「格闘」……無手による戦闘にプラス補正。

「剣術」……刀剣による戦闘にプラス補正。

『解体』……畜産物の取得に関する、質と量の向上。リアルになった事で、モンスター素材を得る為にも必須となった。

「索敵」……自分の周囲の生体反応を、敵味方で区別出来る。

「投擲」……物を投げる動作にプラス補正。


因みに「ウサギは切れなかったのにゴブリンは切れるの?」と言う疑問は「バスケットボール大の毛皮に覆われた肉の塊」を切るにはかなりの鋭さが必要ですが、「子供程の体型の細い首」ならそこそこでも切れると思いこういう戦闘シーンにしました。

突き刺す事に関しては勢い良く突けば木刀だろうが刺さります、なのでウサギの場合も切らずに突けば貫通してました。

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