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生産系彼氏と戦闘系彼女  作者: INGing
序章 プロローグ
3/7

彼氏、異世界転移に怯える。

「……おかしい」



 森の中でポツンと佇む少年……畑工作ハタ コウサクは、自らの状況を鑑みてそう呟いた。

 確か先程までは、自分の工房に閉じこもって剣を打っていたはずだ。

 それがこんな見渡す限り「木」しかない場所で、しかも立ち上がった状態で目が覚めた・・・・・



「いったい何が……『メニュー』」



 自らに何が起きたか分からなかったコウは、兎にも角にも『ログ』を確認すべくゲームでのシステムであるメニュー画面を開いた。

 ログと言うのは、自分がした発言や聞いた言葉……果てはシステムメッセージ等の通知が、つらつらと記された物だ。

 現実リアルにあればこれ程便利な物は無いが、ゲームのなかでは割と当たり前の物だ。



「さっきした発言以前のログが消えている……リログった、って訳でもなさそうだけど」



 リログ……Re:loginの略、と言う説明は必要無いかも知れない。

 先述のログという物は、ログインからログアウトまでの間に起きた事が記録されている。

 つまり一度ログアウトして(Re:)ログインすれば、一旦リセットされるものだ。


 これは、自らの意思で行う能動的なリログばかりとは限らない。

 オンラインゲームであるからには、ネットヘの接続状況によっては勝手にログアウトしてしまう事もあるのだ。

 この場合もログは消えてしまうのだが、今回の様にさっき居た場所と違う場所でログインすると言うのはあり得ない。



「とにかく工房ホームに帰還……え、何これ」



 ゲームであった時、メニューの機能は大きく分けて6つあった。

 『ステータス』『所持アイテム』『マップ』『コミュニティ』『システム』『課金』である。

 半透明なボードの真ん中にログが流れ、その左右に3つずつボタンがあるのをイメージしてほしい。


 そう、それ。


 コウが驚いたのは、その内の2つ『システム』と『課金』の項目が消えていたからだ。

 左右に3つが、2つずつになっている。

 真っ先にログに目が行ったせいとは言え、気付くのが少し遅い。



「『所持アイテム』……鉄の片手剣と布の服、それと革の靴って……これ、初期装備だ!?」



 ゲームを始めた時点で必ず装備されている3点セット、自らの所持アイテムがその3つしかない事に驚くコウ。



「しかも所持制限100って、無拡張だし……まさか、プレイデータ消えた?」



 ルリとは違い、自らに起きている事を次々に把握していくコウ。

 しかし、プレイデータでは無くアバターデータであるとは本人が気付く事は無い。

 ましてや、異世界に転移している等とはまだ気付け無い。



「参ったな……工房ホームは『課金』だったから、このままじゃ戻れない。GMコール……も『システム』が無いと出来ない、し!?」



 ここで一つ、重大な事に気付く。



「ちょっと待って、じゃあどうやってログアウトするの?!」



 そう。

 ログアウトの項目も『システム』に備わっている物だ、ここに来てコウの中に一つの疑惑が浮かんだ。



「……試して見るか」



 童顔であり、どちらかというと可愛らしいと言う分類の顔つきのコウ。

 その顔を思案気に潜め、意を決して腰の剣を抜いた。



「ふっ!」



 その勢いのまま、コウの隣に立っている木へと切りつけた。



「……手が痺れる。じゃ、じゃあ次は」



 そう言って、足元に生えていた薬草を乱雑に毟り取る。



「……根に土が付いている。あ、あとは」



 先程切りつけた木とは別の、背の低い木になっている果実をもぎ齧り付く。



「……素材のまま食べられる。や、やっぱり」



 コウの一連の流れは、自らの触れなれた物でゲームとの差異を確認する為だった。


 木を伐採するとき、切りつけた側の手が負傷する事は無い。

 薬草等を採取するとき、どれだけ乱暴に毟り取っても土が付く事は無い。

 果実等のそのまま食べられそうな物でも、未調理の物を口に入れる事は出来ない。



「ここは、仮想空間じゃなくて……現実リアルなのか」



 そんな事で気付けるくらいに、コウは様々な物に触れなれている。


 薬草を採取しては薬を作り、木を伐採しては薪にし。

 鉱石を掘っては精製して鍛冶を打ち、糸を紡いでは布を織り服を縫う。

 モンスターを解体しては肥料を作り、野菜を育てては料理をする。


 名は体を表すとはよく言った物で、工作コウサクは物を作る事が大好きだ。



 つまり、コウは生産厨である。



 そんな人間がこのように、何でもある何も無い場所に放り出されたならば。

 本来ならば、生産職人としての血が騒ぐのではないだろうか。



「やばい……どうしよう。モンスターがいる世界で、鉄の剣だけでどうやってやり過ごせばいい?」



 しかし。


 コウは怯える、何故ならここは安全な仮想空間では無く現実だから。

 ゲームの中なら戦闘に「敗北」する事はあっても、実際に「死ぬ」事は無いのだから。


 コウは怯える、何故なら生産厨だから。

 モンスター素材で作る物もありゲームの中では戦闘もそれなりこなしてきた、しかし戦闘が好きなわけでは無い自分が本物のモンスターと戦えるとは思えない。


 コウは怯える、何故ならここが現実だから。

 自分が今までやってきた事は、所詮ゲームなのだ実際に生産職人としてやっていけるかはわからない。




 コウは怯える、この後自分にしか支えることが出来ない「運命」がやってくる事を知らないから。

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