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生産系彼氏と戦闘系彼女  作者: INGing
序章 プロローグ
2/7

彼女、異世界転移に気付かない!

「……んー?」



 その少女は、気が付くと草原の中で立って居た。

 つい先程まで自分はゲームの中でモンスターと戦闘していた筈なのに、そんな疑問がつい口から出てしまったのが先程の「間の抜けた声」の正体である。


 少女……橘瑠璃タチバナ ルリは、少々ボーっとした……いや、抜けて……では無く、柔らかな雰囲気を持っている。

 喋り方もすこし幼いせいか、周囲から見て「少し知能が低いのではないか」と疑われる事もしばしば。


 決してその様な事は無いのだが、本人もそれを否定しない。

 柔らかな雰囲気とおおらかな性格も相まってか、本人自身は全く気にしていなかったりするのだ。


 だからだろうか、今自分に起こっている事を深く悩まず。



「ま、いいか!バグかなんかでしょうっ」



 と、断じた。


 自らの身体や装備品を、ゲームの時と比べれば一目で気づくのだが。

 ルリはそれをせず、先程まで自分が居た狩場へと再度出向く事に決めた。



「えーっと、ここは……何もないねぇ」



 ルリは辺りを見渡し、だだっ広い草原の中にいる事を確認した。

 この「何も無い」というのが、ルリにとって大事な事なのだ。



「と言うことは、ここは春大陸の南東にある始まりの国付近かぁ」



 ルリがしていたゲームでは、大陸が四つあった。

 それぞれ『常春の大陸:エーラッハ』『常夏の大陸:サウラ』『常秋の大陸:フーヴァル』『常冬の大陸:ギーヴリャ』という、それぞれアイルランド語で季節を表す言葉がそのまま使われているのだが……そこはまぁ、ゲーム内での名称だからそんな物だ。

 それに大多数のプレイヤー達は、ルリの様に「春大陸」や「冬大陸」といった具合に簡略化して呼称している。


 これには制作陣も涙を……いや、語感が良いから等と適当に決めてそうなので大丈夫だろう。


 その春大陸にある国『モールタ王国』が通称『始まりの国』だ、これも語感が良いからと……まぁ、その話はもう良いだろう。


 ルリはゲーム内の土地ならば、全て頭の中に入っている。

 そんな自分の記憶と照らし合わせた結果、今自分がいる場所を特定したのだ。



「うーん、さっき居たのが冬大陸だから……北西に向かって三の国からゲートで十の国まで飛んで、山を超えて……ああ、めんどくさいっ!」



 ルリがゲームの時に居た地点へと戻る為には、今しがた述べたルートを通るのが最短である。

 しかしそれでもかなりの距離がある、悪態をつきたくなるのも致し方ない。



「あー、ドロップ狙いで鞄を空にしてたのは失敗だったなぁ。いっぱいになったらデスワで帰ろうと思ってたから、ワープアイテムまで置いて来ちゃったよ」



 デスワと言うのはデスワープの略である、と言うのは態々説明する事でも無いかも知れないが。

 RPG系のゲームで戦闘に敗北した時に、最後に立ち寄った街まで戻る事を利用した小技の事だ。

 近年のゲームにはデスペナ……戦闘不能に陥った時に起こる「能力値の低下」や「経験値の低下」など、または「レベルダウン」や「所持アイテムのロスト」などのペナルティが無い物が主流だ。

 ルリが行っていたゲームもそう言った物で、せいぜいが「体力と魔力が1で復活」程度だ。

 そのせいか、この様に持ち物を各街の倉庫に預けて最小限にし所持制限いっぱいまでドロップアイテムを集めてわざと死ぬ。

 そういったプレイスタイルは、むしろ「基本中の基本」と言える物となっている。



「まぁ、無いものは無いからねぇ。仕方ない、走ろうっ!」



 ルリは自らの所持アイテムを把握している、なにを持ってきていて何がドロップしたのか。

 あとどれくらいで制限になるのか、常に把握して狩りを行う事で効率化を図っているのだ。

 無駄な戦闘や、所持アイテムチェックの時間を省くだけでかなりの時間短縮になる。


 ルリは自分のレベルを把握している、あとどれくらいのモンスターを倒せばいいか所持経験値すらも細かく覚えている。

 先ほど述べた「けして知能が低い訳では無い」と言うのは、こう言った所にでてくるのだ。


 ただ一つ、特徴を述べるとすれば。


 つまり、ルリはかなりの効率厨並びに戦闘厨だったのだ。



「だーっしゅ!……あれ?」



 走ると決めたら、時間を無駄にしないとばかりに早速駆け出すルリ。

 しかし、僅かに違和感を覚えて首を傾げた。


 何となくだが、普段と体の調子が違う気がする。

 速度もあまり出てない気がするし、顔に当たる風も強い。

 何より、呼吸が乱れていくような。



「んー?ひょっとして、大型アップデートかな?よりリアルにする為、スタミナ制導入とか?」



 ルリは気付かない、ここは仮想空間ヴァーチャルリアリティでない事に。

 何故なら、記憶にある地形そのままの現実リアルだから。


 ルリは気付かない、何故なら自分のステータスを見ないから。

 もし確認さえしていれば、自分のレベルが「1」になっていてステータスが軒並み下がっている事に気が付くだろう。


 ルリは気付かない、何故なら所持アイテムを見ないから。

 もし確認さえしていれば、ドロップで得た筈のアイテムが消え「初期装備」しか無い事に気が付くだろう。


 ルリは気付かない、今自分が置かれている状況に。

 この先、この世界で生きて行かなければならないことに。


 ルリは気付かない。





 このあと「運命」と巡り会う事に。

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