語り部、始まりを語る。
西暦2XXX年、某日。
この日、世界を震撼させる大事件が起こった。
それはとあるオンラインゲームをプレイしている者達が、そのプレイ中に亡くなってしまったのだ。
亡くなった者達の正確な人数は把握されていないが、おそらく少なく見積もっても数百人は下らないだろう。
原因は、一人のプレイヤーがそのゲームで不正……所謂チート行為を行おうとして、サーバーへのハッキングを試みたせいで起きたものだ。
運営側が構築しているセキュリティは強固な物で、結局は断念せざるを得なかったのだが……その時、乱暴な侵入を試みたせいか幾つかのデータが破損してしまう。
そのデータの一つに、アバターデータが含まれている。
結果、アバターデータが破損したプレイヤー達はリアルの生命をも終える事となった。
……何故ゲームのデータが破損しただけで、リアルの生命も終わったのか。
それについての説明をさせて頂く。
西暦二千年初期、ヴァーチャルリアリティ……VRと呼ばれる概念が生まれた事はご存知だろうか。
その言葉の意味通り、仮想の空間を如何に現実に近づける事が出来るかと言う試みだ。
その波はゲーム業界にも訪れ、次々とVRを冠する商品が発売された。
方やゴーグルを着けて視覚情報に訴えるもの、方や身体に装着して体感に訴える物。
そして2XXX年の今、遂に脳ヘと直接作用する物が生まれた。
完全没入型仮想現実と名付けられたそれは、またたく間に全世界へと波及していく。
カプセル型のそれについて、詳しく説明する事は止めておくが「仮想空間」で「現実」のように生活する事も出来る。
そのせいか仮想空間から現実に戻る事を辞める人間が相次ぎ、社会問題として提起された事もある。
そんな現実と変わらない仮想の中で、自身の体が崩壊していく様を味わったプレイヤー達。
現実での死因は、つまり「ショック死」と言う訳だ。
それから、死亡した人数が正確に把握出来てない理由をお教えしよう。
カプセルの中に浮かぶ死体を家族や知人が発見した場合、これは何の問題も無い。
ただ、天涯孤独の身の者だったりすればその発見は遅れてしまうだろう。
だがこれも、運営に登録されていた個人情報を警察に公開する事でほぼ発見されている。
問題なのは、カプセルの中に身体が無いケース。
単純に破損したその日はログインをせず、外出していただけと言う場合もあった。
しかし……その日にログインしていた者で身体が無い者も居た。
破損したデータの数と、死亡……または生存確認出来た者の数が合わない。
それが今回の事件で、正確な死者数が分からなくなった原因だ。
その事についてネット上では「奇跡的に生きてたけど、その後出掛けた」と言う意見や「死体を見つけた家族が隠したんじゃね?」などと心無い物も、果ては「裏の組織が死体を攫って臓器売買とか?」に対し「裏の組織ってなんだよ」と言う者。
挙げ句の果てには……
「きっとゲームの世界に転移したんだ!」
等と、荒唐無稽な意見まで出る始末。
……そして、これはその『荒唐無稽』な事がその身に降り掛かってしまった二人が主役のお話。
拙いお話ではありますが、どうか温かい目で二人を見守って頂けると幸いで御座います。