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神「んむ(満足)」

 それはもはや神話。まさに、神以外の生き証人はいないとされるほど大昔の話。

 神が世界という入れ物を創り、そこにあまたの可能性を注ぎ込んでから何千何万通りもの道が生まれては消えていった。――ただ二人の天才を同時期に生み出すためだけに。


 神が魔法を創りだしたのは気紛れだった。

 自身の記憶も朧気だが、ここと同じように神が創造した世界の一つに魔法を与えなかったから魔法という力を与えてみた。

 魔法以外の力で統一を行うとせっかく丹精込めた入れ物が簡単に砕けて行くのに腹が立った。

 思い出すたびに異なる理由を並べる。もしかしたら、すべて真実なのかもしれないし、すべて偽りなのかもしれない。

 だから気紛れ。どうでもいいこと。


 事実は神が興味を示す対象が現れたということだ。




「――まさかだな」

「どなたですか?」

「……誰?」

 神は天才二人をいきなり呼び寄せるという無粋な真似はしなかった。ほんの少し、過度に干渉して二人が接触する時を作り出しはしたが、それだけだ。

 二人が必然の出会いを果たした時、神は下界に降臨した。


 その時の姿は二人にも近い青年の姿であった。

 無意識に神が二人を模した。それだけでも二人の卓越した才能は語れるやもしれない。


「私は、神だ」

 神は正直に、生まれてから自我が芽生えてから初めてと言っても過言ではないほどに真摯に対応した。後にこの時の会話は偶然神の下を訪れた者に接する時の基準となっており、それまでの一切の関心を見せず視界に収めずに素通りさせていた魂たちが憤慨して、冥界が荒れ巡り巡って自分の首を絞めたとかなんとか。


「……神」

「……神?」

 異口同音に存在を確認した二人。

 一人は悲しげに。もう一人は懐疑的に。じっと観察を続けた。


 そして、なにかしらの納得をして神の存在を認めた。


「お主らは凄まじいな。魔法という力を与えた私の予想を遥かに超える。それほどの魔法を創り上げた。いや、むしろその魔法は世界と言っても過言ではない」

 かつて世界を創造した者からのお墨付きだった。


「まず、お主」

 最初に生命魔法の使い手、その傍らを指差した。

「……まさか、魔法が生きるとは思わなんだ」

 この時の心境としては、魔法って何だっけと神は考えることになるのだが……。


「生きていないなんて聞いてなかったんで」

「…………」

 いずれ神に怒り喧嘩を売ることになる教主と呼ばれる魔法は、この時神と言葉を交わすことはなかった。生まれたばかりの存在で、使い手以外に興味がなかったということもある。

 それ以上に世界にとっての神であろうとも、自分にとっての神は別だと理解していた。

 神は二人もいらない。

 そして、どちらを信じるかは決まっている。

 そのことは神もわかっている。だから、神は自分の世界で生まれた存在に対して初めて自分の世界とは関係のない存在として取り扱うことにしていた。

 世界そのものから干渉を受けないという極めて異例な存在になったのだ。


「次に、お主」

 こちらは褒めるべきかそれとも叱るべきか。

 見ていたからわかるが、別に世界を破壊しようという危険な思想を持って魔法を生み出したわけではない。ただ純粋に好奇心が強すぎた。どこまでなら出来るかを試しに試しにその試行錯誤は狂気に達する。それほどのものを積み重ねて生み出された魔法だ。

 それを狂いもせずに生み出せることは脅威だが、狂っていないからこそその魔法の使いどころを間違うこともないだろう。


「……まあ、なんだ凄いのは凄い」

 神も認めた。その上で、厳命した。決して使うなと。

 生み出した功績は認めるが、使うことは認めない。

 ある意味で認めないことよりも遥かに残酷なことを告げたのだ。


「ですよね~」

 答えはあっさりしていた。

 本当に純粋に魔法を極めただけであったがゆえに使うこと自体には興味がなかった。

 ただ限界を知りたくてやっただけ。

 生命魔法と違い、破壊魔法はこの時にはまだ自我というモノはなく、人の形すら取っていない。使い手はいても使われない魔法で、本人も使うつもりはなかった。


「念のため、お主が使えないようにしておくぞ? あと、研究成果を残すのも出来ればやめておけよ?」

 結構念を押して、封印をする。

 まあ、自宅の床下にいつ起動するかもわからない爆弾を抱えておくようなものなので妥当だろう。


「何にせよ。これは偉業である。もしもお主らが死んだあかつきにはそれなりの対応をしよう」

 現在進行形で世界に影響を与えかねない人物ゆえに生きているうちに褒美を与えることは難しい。だからこそ死んだらねなどと神ジョークを飛ばして気分よく帰って行った。

 もう気分が良すぎて二人の存在は覚えていても何をしても驚かないぞと干渉することはなく、注意を向けることもない。


 こうして神と偉大なる魔法使い二人の対面はあっさりと終わった。




 そして、ここからは神は知らない物語。


「――はぁ」

 神に認められた二人は運命や才能について思うところがなかったわけではない。

 貴重な体験を共有できる存在としてはいいかもしれないが、もはや貴重な体験過ぎてお腹が一杯。出来るだけ早く別れたかった。


 そうして別れてしばらく。

 世界を破壊するとまで言われた魔法使いは疲れていた。


「……どうすっかなぁ」

 神に絶対使うなと厳命された上に、封印までされた。

 ある意味早目に忠告をしてくれてよかったと思う。言われなければ最大出力で使ったことは間違いないからだ。

 だが、神はわかっていない。破壊魔法は封印された。

 それこそ神の力を破るような力でも身に着けない限り、使われることはないだろう。


 しかし、それを生み出したのだ。

 生きている限り、気紛れに生み出した魔法がその規模に達しないとは限らないのだ。

 つまり、趣味を完全に封じられた男はこれから先をどう過ごすか真剣に思い悩んでいた。


「……こんなことなら別れずに一緒に行けばよかった」

 会話らしい会話もしていないので、相手のことを何も知らない。

 生命魔法で、隣にいたのが魔法に関連する何かということはわかるが、どういう魔法なのだろうと今更になって気になって来た。


「神が認めた魔法、か」

 気になるといても立ってもいられない。

 知りたい。知りたい。知りたい。知りたい!


「神は魔法を残すなと言っていたから俺の魔法を世に残すべきじゃあないよな……。でも、あいつは何も言われてない。どうなんだろう。あいつは魔法を残すのだろうか?」

 見た感じそこまで大きな欲があるようには見えなかったけど、人間なにを考えているかなんてわからない。


「だとしたら、羨ましい~!」

 出来ないと思うと、どんどんやりたくなってくる。

 でも、封印されたし、禁止されていることをやるというのはさすがに……!

「そうだ! だったら、別の魔法を創ろう!!」


 規格外の魔法使いが考えることは結局変わらない。


 とはいえ、さすがにゼロから創り出すのは難しい。

 そうなって来ると、参考にするのは自身の最高傑作しかない。


「……破壊魔法は簡単に言えば、有を無にする魔法」

 闇が光を吸収するかのように魔法が当たった瞬間、すべてが消える。消えるというよりは魔法に飲み込まれる。

「ダンジョンを破壊した時は笑ったな!」

 凄い魔法を開発したとそれこそ子供のようにはしゃいでいた時に、知り合いの貴族がそんなこと出来るわけがないと証明を求めて来たので、要求通りに跡形もなく消し去って見せた。


 すると今度はダンジョンを破壊するなんてと言って土地を追放されてしまった。

 思い出しても腹が立つ。

「くそっ、神に感謝しろよ……!」

 封印されてなければそれこそ土地ごと滅ぼさないほどの怒りが燃え上がって来たようだ。


「っていかん!」

 感情に流されそうになっていた。

 怒りを抑えろ抑えろ……んっ?

「怒りを抑える? 抑える?」

 そうか!!


「発動することを禁止されているんだから、留めればいいんだ!!」

 発動せずにその場に留めていれば魔法を使ったことにはならない!

「封印されていても使えなければ問題ないよな!? 頭いいな~俺!」

 それから、破壊魔法を構築し発動ギリギリで内側に留める実験を始めた。

 たまに失敗して発動しそうになってもそこは神の封印が上手いこと対処もしてくれた。


 その度に神は一瞬、ビクッとなっていたとかいなかったとか。


「……長かった。意外と時間がかかったな」

 そうしてようやく魔法は完成した。

「別の魔法だが、これは破壊魔法を元にして完成させた魔法だ。滅多なことでは使用者が現れないように厳重に封印をしておこうそうだ。タイトルにこれは『自らを究極的に爆発する魔法だ』とでも書いておけば手を出そうなんてする奴はいないだろう!」


 後にこの研究資料は時と共に風化し、タイトルがかすれ『究極 爆発 魔法』という文字が奇跡的に残ったことである王国の軍人が手に入れたものの、難し過ぎて闇市に流れたりしながらがほぼ誰にも読まれることはなかった。

 ただ、何の因果か同じようなバカが読みしかも習得したことで神の手を煩わせることになるとは思いもしなかった。


「よーし、早速試すか!!」

 そして、自らも魔法を使ってこの世を去っている。




「――やはり、彼も死にましたか」

 自らの魔法で消滅したのを確認し、ゆっくりと近付いていく。

「さて、残っているかしらね?」

 何かを真剣に探るようにうろうろしていると、たしかにあるのを感じた。

「残ってる! これが、神と呼ばれた存在の力!」

 

 喜色を浮かべると共に、その力が弱まり封印されていたものが世界に溶け込むように消えようとしているのも同時に感じた。

「させない! 私には破壊の力が必要よ!!」

 今にも霧散しそうになっている力を強引にかき集め、徐々に人の形へと整える。


「ふぅ。出来たわ」

「…………?」

「お目覚めね。破壊の魔法、その権化とも呼ぶべき者よ」

「……誰?」

「私は究極の魔法の一つ。生きた魔法。生命魔法――あなたに命を与えた者よ」


「……ふぅん」


「早速だけど、一緒に生きてみない?」

「……どうして?」

「だって、私の主は死んじゃった。あなたの主も死んだのよ」

「…………?」

「主は私に教えてくれなかったけど、人間とはいつか死ぬものなの。だけど、私は人間ではなく魔法だから死ねない」

「……?」

「よくわからないわよね。でも、生きていればわかるわ」


「……死にたいの?」

「そう言われるとちょっと悩むわ。でも、今すぐに死にたいわけじゃない」

 主は孤独な人だった。共に歩く人が欲しくて魔法を創りだしたのだ。

 そして、死ぬ間際の願いとして代わりに生きて欲しいと頼まれた。

 だから、すぐに死ぬつもりはない。

 ただ、先のことはわからない。


「もしかしたら、そのうち死にたくなるかもしれない。そうなったら、あなたにお願いしようかしらね?」

「……わかった。よくわからないけど、わかった」

「ただ、死ぬ前に一言伝えたい相手もいるのよね。それがこの世界の神だって言うんだから考え物だけど、いろいろほったらかして行ったから文句は言わなきゃ。あまりに腹が立ったら、戦争よ!」

 こうして二つの魔法は世界を旅する。

 後に神に対する戦を仕掛けるべく。時に共闘し、時に対立す。まるで普通の人間のようにのんびりと無限の時間を生きていた。

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