破壊者「・・・(呆)」
「さあ、やったるわよ!!」
「ふふ、お手柔らかに」
「師匠、先手は私が貰うわ! 私の力を見てもまだダンジョンを破壊できるなんて豪語できるか楽しみだわ!」
「昔からやんちゃなのは変わらないわ~。ああ、やっぱり今からでも私の所に連れて帰りましょうか?」
「それは絶対やめてください!」
あの聖女が下手に出た!?
聖女の宣伝によって集められた各国の重鎮達はその事実にやはりダンジョン管理教会侮れずという認識を強く持った。ここにいる半数以上がおそらく聖女の敗北を望んでいる。それは彼女の直轄であるはずの教会側が祈るようにしていることからも窺えることだ。
「さあ、我が力にひれ伏しなさい!! 大聖女魔法!!」
聖女の宣言に合わせ、一斉に響き渡る爆音。
こうして都合四つのダンジョンが破壊された。
「「「んなぁー!?」」」
それに驚きを隠せないのは集められた重鎮達。彼らの共通点は未だ聖女によってダンジョンを取り上げられていないこと。
目の前で破壊されたダンジョンは彼らの管理するダンジョンからダンジョン・コアを取り出した簡易ダンジョンだった。
それならギルドマスターと同じはずだが、徹底的に違うのは今回は急ごしらえのダンジョンということで破壊されたダンジョンの中にまだダンジョン・コアが残っているという点だった。
聖女とダンジョン管理協会教主との直接対決という面白い見世物の代償として彼らは自国の産業の中核を文字通り差し出した形になってしまった。
「どう!? すごいでしょ?」
「……ええ。たしかにダンジョンを破壊したのは確認したわ。だけど、あちらの皆様は大丈夫なのかしら?」
「大丈夫よ! ダンジョンを壊したからってコアが破壊されたとは限らないでしょ? 運が良ければそのうち出て来るわ。それにダンジョン・コアは再生とモンスターを生み出す力はあるけど、それだけ。コアを取り除いたからってすぐにダンジョン化が解除されるわけじゃないでしょ?」
だから、しばらくはダンジョンとしての機能は残っている。
かなり限られた期間になるが、産業としてのダンジョンは使えると豪語する聖女に魂の抜け落ちた見物客から怨嗟の念が向けられる。
「……しょうがないわね。彼らには私が所有しているダンジョン・コアの一部を貸し出しましょう」
そんな聖女をしょうがないと思いつつも甘やかすから駄目になるのだ。
「さあ、次はあなたの番よ!!」
「……どうだった?」
「…………」
周囲が固唾を飲んで見守る中、ゆっくりとダンジョンへと近付く管理協会の二人。
「……やはり、予想通りということね。だとしたら、一体どういうことなのか」
「…………」
「見当は付いているの? さすがね。えっ? あの子は本当に人間かって? そうねぇ、神の声を聞ける人間をただの人間っていうのは無理があるかもしれないけど、一応は人間のはずよ?」
「…………」
「悪魔!? ふふっ、神がいると信じられている世界でも悪魔を信じる人間は少ないわ。ましてやあなたの口からそんな言葉が出て来るなんて。よっぽど面白いことになっているのね」
話を聞くのが楽しみと笑みを浮かべる。
一見すると盛り上げっているが、先程から声を上げているのは教主だけ。
見物客は教主の連れてきた人物がダンジョンを破壊する力を……有史以来イカれた聖女しか持っていなかった力を持つ者が本物なのか正直疑っていた。
見るからに無気力で接触を図ろうとしても一切反応を返さない人柄からただの傀儡であり、実際には聖女のように教主がその力を持っているのではないかと恐れている。
ただ、そうなるとわからないのは教主が自らその力を持っていると宣伝しない理由だ。
単純に大組織でないから自分一人が狙われることを恐れたとも取れるが、教主の数々の武勇伝を聞く限りはとてもそんな人物には思えない。むしろ襲いかかってきた相手を笑いながらあしらう姿が想像できる。実際、過去には一国を滅ぼしたという話が国の上層部間では事実として有名だった。
「やれやれ。散々な目にあった」
俺は一仕事を終えて聖女の傍に戻って来ていた。
いや、正確に言うと聖女の傍で再生していた。
「御苦労さま。中々いい働きだったわよ」
「労う言葉をいただいて光栄だがな、手段を選べ」
最悪の手段を平然と実行された身としては効果がないとわかっていても嫌味の一言、苦言の一言ぐらいは言っておかねば気が済まん。
「でも、パフォーマンスとしては最高だったでしょう?」
聖女としては師匠が自信を持っていることから、彼女がダンジョンを破壊する力を持っているのは明白であり、疑う余地のない事実だった。
これは実際に彼女に関わったことのある人物ならば当然に抱く感想だが、出来ると言ったことが出来なかったことがないのがあの教主なのだ。
師匠と仰いでいた時代、まだまだ回復魔法が未熟で今にも死にそうな小鳥を助けることが出来ずに泣いていたところに普段と変わらぬ笑みを浮かべたままさっと手を翳すだけで小鳥が元気になったことを今でも覚えている。
「死んでなければ大体助けられるわ。死んででも少しなら生き返らせてあげられる」
あの時、確かにこう言っていた。
あの言葉は今日の聖女を支える言葉にもなっている。
意地である。
プライドである。
聖女と呼ばれる以上はその期待される役割において誰かに後れを取るわけにはいかない。それが例え規格外の化け物のような人物であったとしても。
周りからは天才と呼ばれる聖女だが、彼女もまた血のにじむような努力を重ねて今の地位にある。
故に彼女を人は「墓要らずの聖女」と呼ぶ。聖女に助けられぬ命はない。よって聖女が赴いた場所では墓を作って置く必要がないという意味だ。
「大体、どんな状態でももとに戻るんだからどうってことないでしょ? 身体をバラバラにされたぐらい」
同時に苛烈な性格から「虐殺聖女」とも呼ばれている。
神との交渉の間で最も身に付けたくなかった力、それが爆発の活用だ。
こともあろうにこの聖女はダメージを受けない俺の身体に目を付け、聖なる力で身体をバラバラにするという猟奇的な方法を持って複数個所の同時爆発を実行して見せたのだ。
先程も両手足をダンジョンに配置しておき、それを爆発させた。
ちなみに残った部位も当然爆発するわけだが、そこは聖女と呼ばれる女の規格外の魔法によって爆発を封殺。ダンジョンよりも破壊不可能な人間っておかしいだろう!
そうして、爆発した後は頭部がある聖女の下で再生し、観覧しているというわけだ。
「さて、一体どうやって破壊するのかしらね?」
そこは正直興味がある。
破壊不可能と呼ばれるダンジョンを破壊する。自画自賛するわけではないが、命を削るほどの行為を伴う危険な魔法でなければそれは為し得ないのではないかそう思っていた。
だが、教主の連れてきた人物はあっさりとこともなげにやってのけた。
「えっ……?」
その驚きに満ちた呟きはほかでもない聖女が上げていた。
「何が起きたの?」
「……そんなこと俺が聞きたい」
何をしたか、そう言われれば単純だ。小さな、本当に小さな魔力を掌から出し、それをダンジョンに放り込んだ。たったそれだけ。たったそれだけのことでダンジョンは跡形もなく消え失せた。
「……正体はわかった」
「やっと、声が聞けたわ。ようやくその身体にも慣れてきたみたいね」
「それだけ使いやすい体ってこと。だからこそ、わかる。この身体の持ち主がダンジョンを壊した」
「あら、じゃあまだ生きてるのね?」
「それは元から知っていたはず。でなければ、わざわざバラバラの肉片なんて持ち帰らないでしょ?」
「だけど、予想外なこともあったわ。てっきり、神が絡んでると思ったから嫌がらせしたんだけど、あの子が出張って来るなんて……」
「あれが絡んでないとは限らない。仮にも声は聴けるみたいだし。もしかしたら何かの神意を受けているのかも」
「確かめてみればわかることね」
「そう」
「最後に聞かせて、ダンジョンを破壊した魔法。名前を付けるとしたら?」
「自爆魔法」
まるで正解だと告げるようにダンジョンのあった場所から風が吹き、ローブと包帯を攫い正体が白日の下に晒された。