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ギルドマスター「なんとかしてください!」

「あのアバズレを出さんか!!」

 聖女と謳われる女の住む教会総本部。そこには各地から厳つい男達が押し寄せていた。護衛と思われる者も完全武装で戦争を仕掛けに来たと言われても誰も疑うまい。

 彼らは全員がある組織の長だった。

 そして、聖女によって仕事を奪われた被害者でもある。


「あによ~? 騒々しいわねぇ……」

「出て来おったな!?」

「……? あぁ、誰かと思ったらギルマスじゃない! こんな朝っぱからどうしたのよ?」


 ギルマス――冒険者ギルドを束ねる長はあまりにも軽い態度の聖女に怒りを隠しせない。


「っふざけるな!!」

「何をしに来ただと!」

「貴様がダンジョンを勝手に封鎖したことに対する抗議に決まっておろうが!!」

 自爆魔法の実験場として目を付けられたダンジョンは当然のことながら一つではなかった。


 一か所だけだと偶然って言われるでしょ?というのが彼女の言い分なわけだが、仮にも国教の定めるところの聖女が大々的に宣伝をして好意をやらせと騒ぐ人物はそうはいないと思われる。

 元々目立つことが目的だったわけで……つまりはこうなることも含めたパフォーマンスだったはず。


「……憐れだ」

 自分よりも年齢も立場も実力さえも圧倒的に上な、それこそ組織を束ねる者として尊敬されるべき人物が言っちゃあなんだが小娘に振り回されている。

 その事実に憐憫の念を抱かずにはいられない。

 それは聖女のやらかしたことがダンジョンを破壊するなんてことだけでは留まらないことを知っているからなおさらだ。


「貴様、何を考えておる!」

「何って? ダンジョンを壊して見せたでしょ? それがすべてよ」

「だからっ、なんのためにダンジョンを破壊したのかと聞いておるのだ!!」


「はぁ? バカなの? ダンジョンっていうのは害悪そのものでしょ? それがなくなって喜んでも悲しむ人なんていないでしょ?」


「ぐっ!?」

 言っていることはもっともだ。

 一般の民であれば、ダンジョンがなくなって一切困らない。むしろ感謝するだろう。そういう声だって聞こえている。

 だからこそ、告げられた言葉は事実として彼らの胸に響いたはずだ。


「ダンジョンがなくなればそこから産み出され、世に出てるモンスターは激減するわ」

 モンスターがいきなりゼロになる。そんなことは一切言わない。

 今地上に出ているモンスターはそれこそ彼らの組織が抱える冒険者や国の騎士などが討伐に赴く必要があるだろう。


「日々を平穏に暮らしたいだけの民はどう思うかしら? モンスターの脅威はなくならない。だけど、その脅威が減る。……喜ばないはずがないでしょう?」

 まさに民衆を人質にした脅迫だ。

 これで被害を受けるのはダンジョンに入ることで収入を得ている冒険者ならびに冒険者を束ねる組織の長であるギルドマスターだけになってしまう。


「我々はどうすればいいのだ!?」

 ここで喚くなというのはあまりにも理不尽だ。

 いきなり巨大な力によって働く場所を奪われ、どうすればいいか迷っている間にどんどん周囲を固められてしまった。


「ダンジョンを破壊されたことですでに上位の冒険者の一部は国を出て行ってしまったのだぞ!?」

 ギルドの格というのは当然のことだが、所属する冒険者の格で決まる。

 強く有名な――英雄と呼ばれる者が多く在籍していればそれだけ名声が上がる。

 ただ、この場合国を出た冒険者は先見の明がないと言わざるを得ない。


 ギルマスが押し寄せたのはあくまでも総本山。

 支部は他国にもあり、世界最大規模の宗教である以上は冒険者が次の活動拠点として選んだ場所にも手が伸びないわけがない。

 それにいくら上位の冒険者であってその場所では新入りだ。先にそこを縄張りにしている同等あるいはより上の立場の冒険者がいる可能性がある以上は今までのような活動を出来るとは思えない。

 それならばギルドを信じ、彼らと一緒に訴える方がマシだろう。


「つまり、あなた達は『仕事を奪うな』と言いたいわけよね?」

「「「当たり前だ」」」

 聖女は言質を取ったとばかりに笑みを浮かべた。その時の笑みはまさに悪魔が契約を持ちかける時に似ていた。





「こ、ここは!?」

「どう? ここがあなた達の新たな職場。人造ダンジョン第一支部よ!」

 教会内部、屈強な兵士や厳重な扉に守られた堅牢な部屋。外はあくまで普通の建物だったにも関わらず、その内側は異様として言い表せない有り様だった。


「どうして室内にこんなに鉱石が!?」

「いや、薬草なども生えてるぞ!」

「それ以前に明らかに外から見た部屋の面積を越えとるだろうが!?」


「いや~、私も知らなかったんだけどダンジョンってコアがあればそれだけでダンジョンってわけじゃなかったんだよね。まさかそこから一気にダンジョンが出来上がるなんてね~」

 まさか教会内部にダンジョンを作り上げるとは思わなかったギルマスは顎が外れんばかりに驚いていた。

 そもそもダンジョン・コアをあれだけ集めてどうするつもりなのかと思っていたらこんな風に利用するつもりだったとは……。


「いやいや、おかしかろう!」

 ダンジョンについては絶対に聖女よりも詳しいと自負するギルマスは叫ぶ。

「儂もダンジョン・コアを他の場所に設置すればどうなるかは試したことはある! だが、こんな風にはならんかったぞ!」

 その発言に味方である他のギルマスからも白い目を向けられていることに気付かず、なお喚き続ける。


「ダンジョンの大きさは、ダンジョン・コアの力にも因るがそれでも内装を少し変える程度だ! 部屋自体の大きさを変えるような機能はない!!」


「それは一つしか使わなかった場合じゃない?」

 なんでもないように告げられた言葉に真っ先に反応したのはギルマスではなく彼らの護衛を買って出た一流の冒険者達だった。

 場所や目の前にいる人物のことなど考えず、ただそれが当たり前であるかのように武器を構え警護対象を死守せんと前に出る。


「ま、まさか……!」

「そうよ。この部屋はダンジョン・コアを十個使っているわ!!」

 聖女の宣言に触発されたかのようにダンジョンの奥からやってくる一体のモンスター。それらを前にしながら冒険者達は現場で慣れ親しんだ――同僚や先達、後輩の命を奪って来た忌避する存在よりも目の前の碌な装備も持たない女性を恐ろしく感じざるを得なかった。


「話し合いの邪魔をするな」

 もしも話し合いの最中に手を出されたら、始末しろ。命令されていた通りにモンスターを始末する。爆発による風が聖女の衣服や髪を揺らし、爆炎が彼女の表情を覆い隠す。


 目の前で何が起きているのか、目の前の人物について一切計り知れないものを感じながら、どこか空想の出来事のように現実逃避をしていたギルマスは爆炎によって伸びた冒険者達の影を見つめながら聖女の言葉を反芻し、ある事実に気付き始める。


「……十だと?」

 それは誰の呟きだったのか、一言がたった一言が周りにも浸透し、彼らも自分達を見渡し言葉の意味を理解した。

「ようやくお分かり? 私が使ったのはあなた達が縄張りにしてたダンジョン・コアよ!」

 言われればもっと早くに気付くべきだったが、彼らは皆ダンジョン近くに拠点を構え、一つのダンジョンを縄張りにしていたギルドの長である。

 だからこそ、安定した収入源を奪われたことに対する怒りで纏まって直談判しに来たわけだが、それすらも聖女は読んでいたのだ。


「――さあ、取り引きしましょ?」

 そこからは悪魔の契約に逆らえる者はいなかった。




「お願いします!」

「うむ。君らのランクならばこれぐらいなら安全だろう。十分ほど待っていてくれ」


「……まさか、ダンジョンの危険度まで弄れるとは」

「ああ、呆れて物も言えん」

「しかし、あの女は何を考えておるんだ?」

「おい、陰口でも止めておけ。ここは奴の庭だ」

「そういうあなたもです。ちゃんとグランドマスターと呼んでおかないと突然現れた時にボロが出ますよ」


 教会に出来た新たな名物である人造ダンジョンだったが、そこの管理を任されているのは拠点を移すことになったギルマスであった。

 彼らは名目上はギルド存続だが、ギルドはすべて吸収合併という形で一つの組織として生まれ変わっていた。大切に育て上げてきた子飼いの冒険者達がそれまでいがみ合って来た彼らが同じ組織の一員として手を取り合うのはまだしばらく先になるだろうが、危険の少ないダンジョンに慣れればいがみ合う必要もなくなっていくだろう。


 一部のスリルを求めている冒険者は自然のダンジョンを求めて旅だったが、いずれは世界中に同じようなダンジョンが出来るのは時間の問題だと考えている。


「出て行った奴らには申し訳ないことをした」

「上位の冒険者は生きる意味、存在意義を奪われたと思ったかもしれんな」

「実際、こちら側で難易度を決めることが出来るというのはダンジョンではなく遊技場だ。命の危機感のない冒険では味気なさを感じるはずだ」

「一応、グランドマスターが許可をした冒険者には危険な難易度も解放すると説明はしたんだが、こればっかりはな……」


 お披露目された時のようにダンジョンの前には厳重な警備が敷かれており、在野のダンジョンのようにモンスターがダンジョンから逃げ出し、野に放たれることはまずないようにされている。

 例えダンジョンの中で冒険者が死んだとしても、外にいる者が尻拭いをするということ。言い換えてしまえば冒険者を信頼してないとも取られかねない対応に嫌気を感じ、プライドを傷つけられたとする者は少なくなかった。

 それでも残ったのはダンジョンから発掘される貴重なアイテムやダンジョンに挑戦する名誉自体は奪われないと判断したからだろう。


「……これからは教会主体で危険の少ないダンジョンが世界中に建設されることになる」

「我々は初期に関われたことをむしろ感謝すべきかもしれんな」

「そうだな。他のギルドは大変だろう」

「それでも野生のモンスターがすべていなくなるまではギルドという拠点も必要。仕事がなくなるわけではない。少なくとも我々が存命の間は」


 聖女が齎した革命はまだそこまで世界に広がっていない。

 だが、ダンジョンの在り方はこれから大きく変わる。

 まさに時代の転換期を迎えているのだった。


「だが、この流れを静観しない者も確実にいる。まだまだ波乱は残ったままだ」

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