神「・・・辞めたい」
「正直、神を辞めたいってさ!」
「辞めようと思って辞められるものなのか?」
神からの返事が来た。
三か月も待った答えの第一声がまさかの辞めたい宣言で正直どうでもいい。
ちなみに、この話が始まる前から目の前で笑いを堪えられない様子を見ていたので、なんとなく神を不憫に思ってしまった。
もう口元は今にも吹き出しそうで、頬は漏れる笑いを抑えようとパンパン。それでも真面目にしているならまだしも。すぐにでも笑い出せるよう床に直寝して腹を押さえている。
そうしながらも結局言った後では耐え切れなくなって笑い飛ばすという……。
もう本当になんでこんな奴に才能があるんだ。
「結果発表!」
テンション高く叫ぶと、何が楽しいのか自分で「ドゥルルル」などと口ずさみ始め、ひとしきり満足したのか、大きく手を鳴らす。
「肉体は見当たらなかったそうよ」
「……それは粉々だったから?」
「そうとも言えるし、そうでないとも言える」
「…………どういうこと?」
「つまり、わからないってこと」
粉々に吹き飛んだから見当たらないのか、それともどこかに持ち去られたのか。
「わからないってどうすんだよ!?」
「……言っておくけど、お手上げじゃないわ。神も同意しているけど、むしろこれで肉体が無事な可能性がぐんと上がったと言ってもいい」
「えっ?」
「相手は一応神よ」
使いパシリにした奴のセリフじゃねえ。
「その神が粉々だったからって探し切れないってことがある? 粉々っていうことは言い換えればそこら辺に肉片がこびり付いているはずなの」
嫌な言い方だ。
もう自分のこととは考えないようにしよう。
「それなのに、小さな気配も感じられなかった。魔法が特殊すぎて一切合切すべてが吹き飛んだ可能性もあるけど、予想通りだとすればどこかに肉体が存在する。そして、その肉体に何かが起きているから見当たらないのではないか? というのが結論です」
「じゃあ、これからどうするんだ?」
「肉体と魂。元は同じ物だと考えると惹かれあうかもしれない」
「根気よく探すしかない、か」
「そうなるわね。でもただ探すのは面倒だから、しばらくは目立つように行動する!」
すでに十分目立っているような……。
「さあ、いろんなところを吹き飛ばすわよ!」
物騒なことをなんて楽しそうに語るんだこのキチガイめ。
神からの報告が来るまで何もボーっとしていたわけじゃない。いや、正確に言えばボーっとすることなんぞ許されなかった。
「ちょっとあの建物を壊してきて!」
ある時は脈絡もなく建物の破壊を命じられ。――ちなみにそこはお忍びで行って大負けしたカジノだった。
「爆発の規模を調整してよ」
ある時はちょっとした火種が欲しいからとやったこともない威力の調節を練習させられ。――これは後々に必要なことだと思って張り切ったが、納得するだけの結果を出すまでに建物を十棟。ようやく制御できるようになって来たぐらいから破壊した部屋の数は覚えてないし、調度品などに至っては被害が大きすぎて考えたくもない。
あれ、下手しなくても壊した建物より高くついたぞ。
当然のことながら、その頃には興味をなくされていた。
「――極めつけはあの猟奇的な実験……」
本当に思い出したくない。
あんな思いをするぐらいな死にたくなんてなかった。……いや、死んでないのか? というか、死んだのに恐怖は感じるとか意味が分からん!
よくこんな辛い思いをするぐらいなら死んだ方がマシとか言うが、そんなことあるか!
「ふんふんふ~ん♪」
ご機嫌に鼻歌なんて。その姿だけを見れば、世間から聖女なんて呼ばれているのも納得なんだが……頭の中は正反対の大魔王だからなぁ。
「何か言った?」
「いいや」
心で思っただけ。
「……で? 目立つために爆発をするってどうして?」
「だって目立つじゃない?」
「そりゃ目立つだろうよ」
いきなり爆発するとかどんな地獄絵図だ。悪夢なんてものじゃないぞ。
「でも、ただ爆発したんじゃ意味がないのよね~。これと言って爆発したいところもないし」
「お前の好みで決めるなよ」
「ただ爆発しても目立つかって言われるとね~」
まあ、爆発して目立つっていうのは難しい。普通に考えれば、自然的な爆発が街中で起きるわけがないんだから、目立つとしたら不審火としてだろうな。
「こう考えると爆発で目立つのって難しいのね……」
なんだろう。暗に役立たずって言われている気がする。
「となると私が新しい魔法を覚えましたとか言って爆発を披露する……?」
「それに何の意味が?」
「大半の人は純粋に私の新たな才能に恐れ戦くでしょうね」
別の意味でも戦慄しそうだ。
「でも、その規模とかを上手く利用すれば……あるいはってこともあるかもよ? まあ、私の政敵がこれを機会に陥れようとする方が可能性としては高いけどね」
どっち道、悪目立ちするのは避けられないってことか。
「……そう都合よく自爆魔法と関連付ける奴が出て来るのか?」
「やってみないとわからないわよ。だけど、もしも肉体を持ち去った奴があんた以上に自爆魔法に詳しいとしたら気付くことがあるかもしれないわよ? それに、いくら才能があっても私が爆発の魔法を覚えるとは思えないって人は怪しむでしょうね」
「ひとまずは目立って目立ってエサをばら撒くってことか」
「何事も地道っていうのは大事よ~。私だって才能だけでここまで上り詰めたわけじゃないの。並み居るライバルを千切っては投げ、時には妨害して上司は徹底的に引きずり落とす。そうして反抗の芽を徹底的に潰して今の地位を築き上げたわけ」
「物騒だってことだけはよくわかった」
俺がその立場だったら、絶対に関わりたくない。こいつの視界に入るのすら嫌がってどんな道でも譲りそうだ。
「ただ目立てばいいってわけじゃないのはたしか。だから特別に目立つわよ!」
嫌な予感しかしない。
「……ここを吹っ飛ばせと?」
「そうよ! 誰にも文句を言われない。むしろ、なくなれば皆ハッピー。そして何よりも目立つ。それもこの上なく!!」
「たしかに目立つだろうよ」
まずは天変地異を疑うだろうけどな。
「にしてもダンジョンを吹き飛ばすって……」
頭のネジが外れてるっていうレベルを超えてる。
「ほら、ダンジョンって破壊不能って言われてるじゃない? それなのに、破壊して見せた偉大な聖女! 私にかかれば邪悪の象徴であるモンスターがこの世から駆逐される日も近い……もう名声が留まるところを知らないわ!」
まさに天井知らずと、実際に天にいるあの人が聞いたら近付くなと塩を降らせそうだ。
「大丈夫パフォーマンスの為にもダンジョン・コアは確保しておくから!」
余計に大丈夫じゃないと思う。
それってダンジョンの脅威と機能はそのままにダンジョンだけをぺしゃんこにして潰してしまおうってことになるぞ。
「――というか、すでにダンジョン・コアは確保してあるのです!」
じゃ~んと自信満々に取り出したるは血のように紅く輝く玉石。
「神託を貰ったって言って騎士を総動員して取って来てもらったのよ」
苦労したと語っているが、苦労したのは騎士だろう。
しかも、神託を貰ったっていう事実を織り交ぜているのが余計に性質が悪い。本当の目的は単なる実験のくせに……!
「さあ、破壊不能のダンジョンを見事に破壊して見せなさい! この破壊の権化めっ!!」
「俺が破壊の権化なら、さしずめお前は破壊の化身そのものだろ」
「まっ!? こんな可憐な破壊の化身がいるわけないでしょ? 私はきっと破壊の後に訪れる創造の使徒よ。綺麗に壊してそして以前よりも美しくするためのね!」
自分をそこまで高評できるのは珍しい。
「とはいえ、俺に拒否権はないよな……」
この状態になってよかったと思えるのは誰かに気付かれないってことぐらいだ。他は飯も食えないからなの楽しみもないしな。
ただ、興味はあっても覗きを使用とは思わない。
もう初対面があれだったせいで女に抱いてた幻想は儚くも砕け散った。見るにしてもそういう目で見ることはないだろう。少なくともこの状態では……。
誰にも気付かれない。つまりは、それは当然モンスターにも気付かれないってこと。
中にはあいつみたいに勘が異常に良い奴がいるから絶対ではないけど、気付かれたってモンスターが浄化させるような聖なる魔法を使えるわけがない。
「さて、ちゃっちゃと終わらせよ」
この日、聖女の伝説にダンジョン破壊という新たな伝説が加わった。
これに感謝したのは畑などを荒らされていた一部の人間だけでほとんどの人間はダンジョンから得られる恩恵がなくなったことで不満を募らせるのだった。
今のところ順調。頑張ります。