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聖職者「・・・面白い幽霊ね」

「――あなたが幽霊さん?」

 いきなり目の前に現れた女が失礼なことを言ってくる。いや、間違ってはいないんだろうけどなんか釈然とせん。


「あらあら、いきなり目の前に現れておいて一言も発しないつもり? ここは神の意向通りに消滅させましょうかしら?」

「……その前に服を着ろ!!」

 神めっ! 扱いが雑だろう! たしかに消滅させてもらえれば儲けものみたいなことを言っていたが、なんて危険な思考をする奴に引き渡すんだ!


「……あのね、言っておくけど別に殿方に裸を見られた程度で恥ずかしがるほど私は生娘じゃないわよ?」

「仮にも聖職者なのに!」

「聖職者が清廉潔白で誰もが貞操を大事にしているなんていうのは実態を知らない者たちの幻想だわ。それに、私はこれでも聖職者としてはかなりの優秀なの」


「――だって、明確に神の声を聞けるんだもの」

 笑って言ってのける女。

 だが、その言葉は正しいのだろう。

 出なければ、目の前に突如現れた不審な……正体不明の人物と会話を続けることなんてあり得ないだろう。神も言っていたがかなり珍しく神の声を聞ける人物であるに違いない。


「どれぐらい凄いかというと……そうね、私が言えば簡単な教義は即座に変更できるし、罪のない人物を異端とすることだって可能よ」

「最悪だ。神はなぜこんな奴に才能を与えるんだ……!」

「さあ? 案外、神もすべてを知っているわけではないのでしょうね」

 まあ、自爆魔法についても知らなかったみたいだしな。


「話が進まないわね。面倒だけど、服を着てあげるわ。消滅するまでそのことを誇ると良いわ。私に言うことを聞かせられる人間なんてほとんどいないのだから……」

 ただ服を着るだけでなんでそこまで偉そうなんだ。




「で? 神から話は聞いてるけど、当人の口からも事情を説明してほしいものよ?」

「……でなければ消すってか?」

「その通り」

「わかった。話そう。とはいえ、大した話じゃない」

 簡単に本当に要点だけを掻い摘んで説明する。


「……なるほど、自爆魔法ね」

 話を聞き終わると、思案に耽っているようだ。

 まあ、神も発動したのを見たことがないという魔法だ。考え込むのも仕方ないだろう。


「……面白いじゃない?」

「ん?」

「だって、あなたの姿は見えないのよね?」

 いや、知らんが。


「存在は魂だけ。使用する魔法は使えば百以上の兵士を無抵抗で吹き飛ばす。……隠密性のある爆弾なんて最高じゃない!」

「……おいおい」

「いいわ。あなたがその状態でも魔法を使えるのかどうか、すぐにでも確かめましょう!」

「……俺はかなり嫌になったが」


「ふふっ、あなたに拒否権はないわよ? 私がその気になればあなたを消滅させることだって可能だわ。そうなったらあなたは何のために地上に舞い戻ったのかしらね?」

 こんな性悪に使われることになるとわかっていればあのまま粘ってでも神に消滅させてもらうべきだった。あのまま消滅して迷惑をかけるのとこのまま迷惑をかけるのどちらがよかったのだろう。


「ほらほら、行くわよ。もしかしたら魔法が使えない役立たずっていうこともあるかもしれないじゃない?」

「いちいちうるせえ!」




「――さあ、着いたわ!」

「……ここを吹っ飛ばせと?」

 いよいよもってこの女の頭のおかしさが証明されたぞ。

「そうよ? 何か不満?」

「不満しかない。……というより、仮にも宗教のお偉いさんがいいのかよ」


 連れて来られたのは教会だった。

 ただもう使われてはいないのか建物自体は綺麗だが、人の気配はない。


「ここはね、私がトップに上り詰める前の総本山よ!」

 道理で町の教会に比べて荘厳な造りのわけだ。というかどこぞの城かと思ったわ。

「趣味じゃないから、場所を移してやったのよ!」

 踏ん反り返って言う言葉じゃない。

 いくら才能があってもこいつを上に置いてる組織は駄目だろう。


「ここなら好きなだけ吹き飛ばしていいわ! むしろ、不愉快だからさっさと解体しろって言ってんのに、やれ伝統と歴史だの費用だの挙句の果てには私がいなくなったらここに戻ってくるつもりだの!」

 それぐらい追い込まれているんだろうけど、きっとそいつらは戻ってこないこれない。

 そもそもそいつらのことは知らないが、少なくともこいつよりも若いってことはないだろう。普通に考えて寿命が先に尽きるわ。何よりも戻ってくるつもりがあるというのならなんできちんと掃除をしないんだ。埃とか雑草とかがそのままじゃないか。


「さあ、やっておしまい!」

「……」

 正直、こいつの命令にそのまま従ったらダメ人間まっしぐらな気がする。

 だけど、初めほど申し訳なさを感じなくなった。というかここをやらないともっと酷いことになりそうだから妥協しよう。


「……んじゃ離れてろよ」




 ――結果から言うと魔法は使えた。

「……なかなかやるじゃない?」

「……」

 言葉を失っていた。

 実際のところ使用してすぐに神にあった状態になってたから自分の魔法を客観的に見たのは初めてなわけだ。だが、威力が想像していたものの遥か上をいっている。


 城のような建物があったところは一面焼け野原に変貌しており、ところどころに見える瓦礫の破片などがここに建物があったことの証明となっている……。


「予想よりも威力が強すぎるわね。これじゃあ、気軽に使えって言いにくいわ」

「……それはよかった」

 正直これを見ても自由に使うとか言い出したら、どんなことをしてでも逃げ出さなくちゃいけないところだった。


「というか、これほどの爆発だと騒ぎになるんじゃ……?」

「それもそうね。じゃあ、逃げましょうか!」

「……そうだな」

 別に俺は逃げる必要はない……と思うんだけど、居心地が悪すぎる。




「改めて聞くけど、さっきのは全力?」

「どうだろうな。魔法を使ったのだってさっきので二回目、しかも初回はすぐに肉体を失ったから記憶がない」

 そうは言いつつも、初回よりは魔力を込めたことを伝える。

「俺自身、どれぐらいの威力が出るのか確かめたかったからな」

 やれと言われてやっただけなので疾しいことなど一切ない。


「まずは威力を調整する必要がありそうね。……ただ、一つ気になったんだけどその状態でどうやって魔力を貯めているの?」

「神が言うには魂に魔力が宿っているっていうことだったぞ」


「……もしかしたらだけど、あなたの肉体はまだ残っているのかもしれないわね」

「なに!?」

「仮に、仮によ。その魔法を使う時には本来の用途と違って内側に魔力を貯めてかつそれを暴走させるのよね? もしかしたら、その時に精神だけが肉体から弾き飛ばされた! っていう可能性もあり得るんじゃないかしら?」


「魔力は精神力にも通じる力であり、魔法の中には目に見えないもの……それこそ魂としか表現できないものを支配する力だってある。絶対にないとは言い切れないわよ」

「……仮に、その説が正しかったとしても肉体はもう滅んでるんじゃないか?」

 戦争の最中だったし、殿で味方は遠く離れていたはず。無事だったとしても自軍の消息をたった付近で怪しい人間を見つけたらただじゃあ済まさんだろう。


「ちょっと神に探させてみましょう」

「……簡単に神を顎で使うな」

 もはやこいつに関しては何をされても驚くまい。というよりこいつは絶対聖職者なんかじゃないだろ。


「神に交渉するのはいくら私が天才であんたが神から送られて来たと言っても時間がかかるわ。それまでにありとあらゆる検証をしてみましょう」

「やることもないし手伝いますよ」

 神からの返事が来るとは思えないが、こうでも言っておかないと無理やりにでもとなりかねない。




「じゃあ、まずはダメージを負うのかどうかから――」

「絶対にいやだ!!」

 やはりこいつはイカれてる! 神よ助けたまえ!! ってか、こんなヤバい奴に押し付けた責任を取れ!!

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