文体
【文語体と口語体】
一般にも、短歌や俳句では文語体が使われることが多くあります。
私は昔の詩は基本的に口語体で作っていますが(というより、文体を意識していなかった)、最近は文語体で作ることが多いです。
文語体は大方「古文」と呼ばれるものと同じだと考えて良いでしょう。(コトバンクによると、文語体は平安時代の言葉を基礎にしています)これに対して、口語体は現代語です。
また自作から引用しますが、「冬の詩」の、
〝
白雪舞える空の下
寒さは降りて来たるとも
授かり受けし心根の
赤心の火を絶やすまじ
〞
は、文語体です。仮にこれを口語体にするとしたら、
〝
白雪の舞う空の下
寒さは降りて来ようとも
授かり受けた心根の
赤心の火は絶やすまい
〞
といった感じになります。文体は趣味なのでどちらでも良いと思いますが、一つの文の中で文語体と口語体を一緒にして使うのはよくないでしょうね。とはいえ、私の昔の詩にはたまにそうなっているものもありますが。
しかし、文語体でも、「音便」と呼ばれる変化で、口語体と同じ、または似た形になっているものがあります。
例えば、「渡りて」→「渡って」、「飛びて」→「飛んで」、「赤き」→「赤い」といったものです。
この音便形は平安時代にはすでに現れていたものらしく、一部の語彙ではこの用法が定着して、現代語ではこれが普通になっています。
音便についてコトバンクから引用しますと、
https://kotobank.jp/word/%E9%9F%B3%E4%BE%BF-42027
〝日本語の音韻変化の一種。語中・語尾の音節キ・ギ・シ・リ等がイになるイ音便,ク・グ・ヒ・ビ・ミ等がウになるウ音便,ニ・ビ・ミ・リ等が撥音になる撥音便,チ・ヒ・リ等が促音になる促音便の4種がある。これらの音便はいずれも大体平安時代の中期までにはひと通り完成されていたと考えられる。イ音便は,后(きさき)→きさい,序(つぎて)→ついで,まして→まいて,ござります→ございます,ウ音便は,高く→たかう,かぐはし→かうばし,問ひて→とうて,頼みた→たのうだ,撥音便は,死にて→しんで,呼びて→よんで,読みて→よんで,成りぬ→なんぬ,促音便は,立ちて→たって,戦ひて→たたかって,因りて→よって……〞
この例としては、軍歌「戦友」は文語体ですが、その中には音便が使われているところもあります。
〝
ここはお国を何百里
離れて遠き満州の
赤い夕日に照らされて
友は野末の石の下
思えば悲し昨日まで
真っ先駆けて突進し
敵をさんざん懲らしたる
勇士はここに眠れるか
ああ戦いの最中に
隣に居ったこの友の
にわかにはたと倒れしを
我は思わず駆け寄って……
〞
ここでは、一連目の「離れて遠き満州の」では基本に忠実な「遠き」になっていますが、「赤い夕日に照らされて」では、「赤き」ではなく「赤い」という音便形になっています。
また、「隣に居った」も、本来なら「隣に居りた」か、「隣に居りたる」になりますが、音便形で「居った」になっていますし、「駆け寄って」も、本来は「駆け寄りて」になるところが、音便形で「駆け寄って」になっています。
こういう例もあることですから、必ずしも現代語と同じ形の語彙が使えないわけではないです。
また、現代語でも、定型句や固有名詞などでは古語が使われることがあります。
例えば、「来し方行く末」(過去と未来、前後)とか、「ためつすがめつ」(色々な方向からよく見て)とかは古語ですが、これらは定型句なので現代語の文章の中でも使われます。また「急がば回れ」のようなことわざや、「逢魔が時」(夕暮れ時)のような名詞も現代語の文章の中で使われます。