第55話 投獄
無抵抗なレイルを見た騎士長は、自身の判断で指示し、捕縛しないで列の中に入って進むように城まで連れて行った。
街中を歩く騎士たちの中にレイルがいる風景は少し異様ではあったが、見ていた住民からはまさか連行されているとは思われていないようだ。
騎士長による判断した行動。
騎士長にとって、城内で聞いていたレイルの解呪が、問題の一端を担っているとは思えず半信半疑だったのかもしれない。
そしてレイルの態度、姿勢に、隊が口答え、反発できる地位でない分、一つの理解をレイルに向けていたのだろう。
城に連れて行かれたレイルは、騎士に囲まれ大人しく装備を外される。
剣を外した騎士が、鞘から剣を抜いて見れば驚愕の表情で眺めた。
「き、騎士長。この剣……ゴ、ゴーレムキラーではないか。と」
「な、何だと?」
騎士が騎士長に剣を手渡し眺める。
「正しくゴーレムキラーだ。レイルツエース、これを何処で手に入れた」
俯いている布服姿のレイルは、取り囲まれて久しくなかった極度の人見知りが、対人恐怖が湧きあがっていた。
「も、貰いま……した」
レイルの態度に剣を外した騎士が食って掛かる。
「嘘を言うな! たかがB級冒険者が国宝級のゴーレムキラーを所持するなどありえん!」
レイルはさらに委縮し、喋る事さえ恐怖に変わっていた。
「……」
押し黙っているレイルに対して、威嚇しようとした騎士を制する騎士長。
「まあ待て。冒険者間では詮索しないのが暗黙の了解だからいい」
「し、しかし……」
「国宝級の代物だから犯罪になればすぐに解る。ましてや今現在までに盗難だの、紛失だのギルドを通じてウイルシアン王国城内には一つも連絡が無いだろ」
「た、確かに……」
「レイルツエース。この剣を含む装備一式を一応こちらで預かっておく。悪いが暫く大人しくしていてくれ」
「……」
レイルは特に、暴力、拷問、尋問などされずに牢屋に入れられた。
レイルは強い。
出鱈目に強い。
今この場面でも瞬時に素手で制圧する事など造作も無い作業だ。
だが、しかし、自身を育ててもらった施設のある王国に、少なからず感謝の気持ちもあり、素直に従うレイルだった。
まあ理不尽な思い出もあるのだが、それはまた別な事。
◇
同時刻のレイルの屋敷。
日差しも眩しく清々しいそよ風が吹く中、メイド服の似合うミャウは姿勢正しく美しく洗濯物を干している。
サラサラとした黒と銀色の艶やかな髪は更にミャウの美しさを引き立たせていた。
物干しには、レイルの寝具と共に隣に数着のメイド服も並んでいる。
干し終えたミャウは、一度ウイルシアン王国の方角を切れ長の美しい眼で見下ろす。
「チッ。レイル様のお考えなので致し方ありません」
どんなに離れていても、一緒に鍛錬したミャウは、ルード直伝の方法で、精神による波長の意思疎通が出来ているようだ。
何処までが理解できるかは今の所、定かでは無いのだが。
「余りレイル様を虐げるのであれば、簡単に滅ぼして差し上げるのに……愚民どもが……フン」
ミャウが慕っているレイルの事を案じてはいるが、いつも咎められているので表情に出さなくても我慢しているのだろう。
最強のレイルだが、無抵抗で拷問を受けようものなら、その波長が伝わるのは必至。
そしてミャウの逆鱗に触れるのは当然であり、自然であり、必然なので、確認した時点で屋敷の広場より、初っ端から自身の持つ究極最大級の、正しく奥義と言っていいほどの攻撃魔法を放っているであろう。
未知数ではあるが、やはり出鱈目な強さを持つミャウ。
一方、レイルを捕縛しただけに留まったウイルシアン王国は、一大事を迎えず偶然にも功を奏した瞬間だった。
そんな思いも知らずにレイルは薄暗い牢屋の中で、小さく硬いベッドで寝転がっていた。
◇
レイルが連行されて少し後のギルド。
ロンダとルドルが布袋に入れた瓶を持ち運び、子気味良い音をさせて入って来た。
「エルサ。ゼクラはいるか」
「あ、ロンダさんルドルさん。ギルマスですか? いますけど、少しお待ちください」
エルサは一度席を離れすぐに戻ってきた。
「お会いするそうです。どうぞ」
二人は知っているのでギルドマスターゼクラの部屋に向かい、扉を叩く素振りも見せず躊躇なく扉を開け中に入る。
ゼクラは既にソファに座っていた。
ロンダ、ルドルも対峙して座り布袋をテーブル乗せる。
「ギルマス。話がある」
「ああ。丁度俺からもあるのだが、まずロンダたちの話を聞こう」
話し始めるロンダは前かがみに、ルドルは背もたれに寄り掛かり両手を抱えるように広げている。
ロンダはテーブルに乗せた布袋から一つの瓶を取り出す。
そして立てて置いた。
「レイルからの土産だ」
ロンダはレイルとのやり取り、そしてこの瓶の内容を、密入国の事以外詳しく話した。
聞いていたゼクラは、やはり驚愕の表情をしていたが、徐々に落ち着きを取り戻した。
「フゥ。レイルには感謝ばかりだな」
「こんなに俺たちの為にしてくれているんだ。だから何でレイルを探しているんだよ、ゼクラ」
ゼクラは手の平で、自身の顔を上からゆっくりなぞった。
「俺にも解らんが一歩遅かったな。さっきレイルが王城に連行された」
レイルの予知した話を聞いていたロンダ、そしてロンダから聞いていたルドルだが、実際に連れて行かれた事に驚きを隠せなかった。
「な、何だって?」
ルドルも跳ね起きる。
「おいおい。何でレイルが」
そしてようやく王城からの伝達で聞いていたゼクラから事の真相を明かされた。
ゼクラの話に納得しないロンダとルドル。
話を聞いたゼクラもその一人だった。
だがしかし、悪い事にレイルが捕まった時点で各ギルドにはその話が伝わってしまったのだ。
勿論ゼクラもその内容を少し前に聞かされていた。
それであっての今なのだ。
ゼクラは、ロンダ、ルドルに言い聞かせるように話す。
「レイルが王城に連行されたのだから、もう俺たちがどうこうする事も出来ない。こうなったら王国の判断に任せるしかないのが実情、現状だよ」
ロンダは憤慨する。
「ハァ? ゼクラ。今の俺の話を聞いてもまだそれを言うのか。アアッ?」
ルドルも鼻息荒く同様だ。
「おいおい! このギルドは俺たちを守ってくれないのかよ。なあゼクラ」
ゼクラも心底理不尽な事は理解しているのだろう。
だがしかし、ギルドマスターと言う立場では、何も言えないのが現実なのだ。
「申し訳ない。俺にもっと権力があれば……」
素直に認めたゼクラを察したロンダ、ルドルは顔を合わせ頷き、前に向き直る。
「よし。俺に考えがある」
「付きあうぞ」
立ち上がるロンダとルドルを見上げるゼクラ。
「ロンダ。何か策でもあるのか? レイルは今、手の届かない所に居るんだぞ」
「ああ。俺とルドル。あと二人に頼めば何とかなるかもしれないからやってみる」
「そうか。それなら何も言わん。健闘を祈るよ」
ロンダとルドルは、一本の瓶をゼクラに手渡し、残りを持ってギルドを後にした。
――
王城ではレイルの尋問にどう対処するかで議会が開かれている。
確たる証拠も無い上に、呪い、と言う事も事だけに、すぐにとはいかないのは功を奏し、結論として訊問は一〇日後となった。
ロンダ、ルドルはすぐに行動に出ようとする。
しかし、すぐに動くことが出来なかった。
S級たる冒険者の二人は、既に一つの依頼を受けていたからだ。
勿論違約金を支払って解約してもいいのだが、これは信用にかかわる。
一つ事があれば、尾ひれがついて今後に悪影響が出るのは当然。
なので、二人は受けた依頼を、早急に達成してから行動する事となった。




