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第51話 回復、そして


 ウイルシアン王国、東のモルダの部屋。

 ベッドの上で眼が覚めるモルダ。


「ここは……俺の家か」


 上半身を起こし、おもむろに掻きむしる茶髪には、うなされていた時に付いたのだろう、変な形になった寝癖が付いていた。

 察知したのか、ほぼ同時に扉が開きクリスが入って来る。


「モルダ。気が付いたようね」

「クリス、俺はどうしたんだ。深い眠りから覚めたような気分だよ。でも疲れが取れていないような……」


 クリスはベッドの横に置いてある椅子に座る。


「モルダは呪いに掛かっていたのよ」

「何? 俺が? 俺がか?」

「ええ」


 クリスが事の始終を、現在に至るまで話した。

 話を聞いたモルダの記憶も、闘技場を出る辺りから途切れ、呪いが発症する以前から無い、と言う。


「あれだけ苦しそうに、うなされていたのにね」

「ああ。俺とした事が情けないな。でも解呪してくれたレイルツエースには感謝しよう。ん? ところでバッカは?」

「ギルドに報告しに行っている。もうじき帰って来る頃ね」

「……腹減ったな」

「バッカが何か買って来るから、もう少し我慢して寝て待っていて」

「ああ、そうさせてもらおう」


 西のワルドッツ家。

 カリスとムルモは一つの部屋で、二つ並べられたベッドに寝かされていた。

 間に椅子が置いてあり、二人を介抱するのに手間取らないようにしたのだろう。

 カリスが目覚め、ゆっくり上半身を起こすと、体を丸まるようにうつむき手の平を頭に当てて撫でる。


「んー、気だるいな。随分と長く寝ていた気がする。ん? 何でムルモが隣にいるんだ?」


 その声に反応したのか、ムルモも眼を覚ます。


「うぅ。俺はどうしたんだ? 闘技場から帰ってギルドに着いた――着いたのか?」

「ムルモも覚えていないのか」

「おお、兄者。と言う事は兄者も。か」

「ああ、そのようだ。一体何が起きたのだろうか」

「体が固まっているようだよ。関節がきしんで音でも立てそうだ」


 ムルモは片手で丸い艶々した頭を軽く二回叩くといい音が部屋に響いた。


 二人共ベッドを下り居間に行けば、中央の長テーブルのソファにコザルが座って書物を読んでいた。

 気配ですぐに気が付いたコザル。


「ああ、兄者たち。眼が覚めたか」


 ふらつく足を確かめるように、ゆっくり歩いてソファに腰を下ろすカリスとムルモ。


「俺とムルモは一体どうしたのか? 何が起こったんだ」

「俺も兄者も何も覚えていないんだ」

「実は……」


 コザルは二人が闘技場を出てからギルドに戻る途中で、呪いが発症し、そして解呪してもらい今に至るまでを事細かく話した。


「呪いの原因は、あの黒い魔物らしい」


 両手を組んで話を聞いていたカリス。


「漆黒と鉄壁。それにランサーとアーチャーか。北に借りが出来たな」


 隣に座って頭を撫でているムルモも頷く。


「北のレイルツエースと言う男にも感謝しよう。彼がいなかったらどうなっていた事か。借りはいつか返さないとな」

「兄者たち、俺はギルドに報告しに行ってくる。ゆっくりしててくれ」


 元気を取り戻し安心したのか、その足でコザルは足取りも軽く家を出た。


 南のゲインの家。

 仰向けで眠っていたゲインが、眼を覚ましたようで眼だけ大きく開き、天井を見る。

 眼だけ動かして状況を調べているようだ。


「俺の家……だよな。どうして今、寝ている? どうして目が覚めた?」


 ゆっくり体を起こしベッドの横に座る形で両足を下ろす。

 そして片手を額に当てて考え、必死に思い出そうとしている。


「どうしてこうなった……」


 諦めたのか顔を上げ、部屋をぼんやり眺めていたゲインは、窓際にある机の上で眼が止まった。

 上に手紙らしき紙が置いてあり、立ち上がって机までゆっくり歩き手に取った。


「ん? ミミリからか」


 ―この手紙を読んでいるなら眼が覚めたのね―

 ミミリはギルドに行ってから町で買い出しするのに一日帰ってこない。

 なので昨晩に手紙を書いておいた。

 ゲインが呪いに掛かり解呪されるまでの始終を。


「ムゥ。まだ信じられんな。この俺が呪いに掛かった。だと? 確かに記憶が飛んでいるのだからそうなのかもしれないな。何たる失態だ。S級たる俺とした事が……」


 ゲインは町の方角を見る。


「しかし、事実なのだろう。言い訳は出来ん……ミミリには世話を掛けたな」


 次に北の方角の天井部分を見る。


「そして北のS級たちと、ルーウェン・レイルツエース・ヴェイルに感謝しよう」



 数日後のレイルの屋敷。

 ミャウは屋敷の掃除を済ませ、外で洗濯物を干している。

 傍から見れば何の変哲もない光景。

 少し違っている事は、玄関先でスランとへび姫がうろついている。


「あるじー、出てこないかなー。遊びたいなー」


 スランは無表情の顔を出し、触手を左右から二本出して、上に向けて小刻みに揺らしている。


「何やら作業をしているようだの。ん? 勝手に中に入ってもいいのだがの。ん? だがミャウに叱られるのも嫌だから止めておこうかの。ん?」


 うろついていたへび姫は、大人しくなり腰を据えるのか、とぐろを巻いて玄関を眺めている。

 スランとへび姫にとっては、これも楽しいひと時なのかもしれない。

 ほのぼのとした光景だが、他人が見たら――余計な詮索はしなくても誰も見る事はないだろう。


 レイルは数日前に帰宅していた。

 そして、スランたちにも顔を出さず、今没頭しているのが、呪い、の分析、解析だった。

 ルードの研究室に籠もり、腕を変色させて黒い魔石から少しの呪いの粒子を出しては、机の表面に展開されている白い魔方陣に乗せ、反応を見ている。


「成る程。魔法とは少し違うけど、根本は同じなのかな」


 魔方陣の上で小さく丸くなる黒い粒子は、少しすると小さく破裂するように弾けて消える。


「呪術によって練り上げた力を体内に浸透させる。そして弱らせていく。のかな」


 同じ作業に少し変化を持たせながら、様々な魔方陣を展開させて何度も繰り返していた。

 こういう時のレイルは嬉しそうに、楽しそうに、活発に作業し、生き生きとした表情であったのは事実だ。

 そして調べきって満足しているような笑みを浮かべる。


「やはり同じかな。回復と呪いは相対するけど、同じ浸透系だもんな。それに、即効と遅延ってのも興味を引いたな」


 納得したレイルは、作業を終わらせ魔石を棚に仕舞い部屋を出る。

 見計ったように外にはミャウが、姿勢正しく美しく両手を前で組み直立不動で立っていた。

 レイルは驚く事無くミャウと対峙する。

 本来であれば驚く場面なのだろう。が、どうって事は無く、二人共気配を察知していたので至極まっとうに普通であった。


「ミャウ、どうしたの?」

「レイル様にあれを差し上げようか。と」


 ミャウが指差した廊下の片隅に、三本の禍々しい剣が立てかけて置いてあった。

 初めて見る剣では無く――。


「あれ? もしかして……魔呪の剣?」

「左様です。レイル様が不在の折、魔族の国へ買い出しに出かける機会がありまして。今回、荷物にも余裕がありその際に、ついで、なので購入してきました」

「さ、三本も? 一度に? い、いくらしたの?」

「大した金額ではありませんのでご安心を。いつでもお使いになれます」

「ミャウ、勝手に購入して来ないでよ。俺……困るよ」


 ミャウは急に驚愕の表情を見せ、演技のように両手の指先で口を塞ぐように当てて、ワザとらしい後ずさりをする。


「わ、わたくしのした事が余計な事だと。勝手な事はするな。と。許さない。と――畏まりました。責任を取ってただ今、あの剣で自害します」


 剣を取りに行く動作をするミャウ。


「ちが、あ、いや、ちょっと待ってミャウ。そうじゃなくて」


 ミャウはすぐに一度、立ち止まる。


「ではわたくしにどうしろと? も、もしやレイル様、みずからわたくしの首にその剣で介錯を――」

「ミャウ、止めてったら。わかったよ、貰うよ。あ、ありがたく貰うから」

「それは本当でしょうか」

「うん。ありがとうミャウ。嬉しいよ」

「では失礼します」


 口元に少しだけ笑みが出るミャウ。

 ミャウの気持ちを代返するのであれば、やったやった、ウフフ、と言う所だろうか。

 踵を返して食堂に戻ろうとした時レイルがミャウを止める。


「ちょ、ちょっと待って。ミャウはこの魔剣を持って帰って来たんだよね」


 瞬時に笑みを止め、いつもの表情でレイルに振りかえるミャウ。


「はい。背負い袋にくくり付けて持って帰りました」

「ミャウは持っても大丈夫なの?」

「はい。わたくしはホムンクルスですし、生前ルード様より様々な付与をしていただいているので、万が一にも何の問題もありません。が何か」

「何か見えた?」

「いえ、わたくしには何も見えませんが。まあ見るつもりも無いのですけど」

「あ、そう。いや何でも無い。ゴメン」

「何もレイル様が謝る事など一つもありませんが」

「そう言う意味じゃなくてさ」

「では失礼します」


 姿勢正しく綺麗な歩調で戻って行くミャウ。

 一度ミャウを見たレイルは魔剣に向き直る。


「いいのかな……」


 しかしレイルの表情は嬉しそうだった事は言うまでも無い。


 それからの毎日は、元に戻ってスランとへび姫と手合せしたり、スランとエリクサーを作ったり、へび姫に特殊な魔法を教わったり、と充実した毎日を過ごした。

 少し違った事は、合間を見てルードの残した書物を更に読み解き、呪いに関する新しい資料を自身で作成していたのである。

 レイルは、こんな日がずっと続いてほしいと願うのであった。


 そして、誰もが考えもしなかった場所で、何かが動き出す。

 同時に信頼が疑問に変わり、物事があらぬ方向に向かって行く事をまだ誰も知らない。


 ――そう、まだ誰も……。






ここまで読んでいただいて、ありがとうございます。

これで第3章が閉幕となります。

今、50あるブクマはとても嬉しく、感謝しています。

ですが、現在出来上がっている第4章からのプロットを考え直して、作り変えたいと思います。

なのでしばらくお時間をいただきますが、ご了承ください。

ご迷惑をおかけしますが、よろしくお願いします。

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