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第50話 続く呪い3

 またもやラベルトが思い出したように話した。


「ああ、あれは南のS級、確かミミリタスだ」


 ロンダとルドルが、知ったように顔を見合わせる。


「あれもか」

「ああ、多分な」


 気配を感じとり、馬車を見ながらナギアが確定する。


「間違いなく呪いを受けた何者かが乗っている。現にレイルが戻ってこないでまだ道端で待っているだろ」


 そこでラベルトが補足した。


「ミミリタスが手綱を握っている、と言う事は呪われたのは、おおよそ相方のゲインナーだろう」


 向かって来た馬車は、偶然にもバッカが止めた位置に寸分変わらない位置で止めた。

 手綱を握っていた女性は、焦っているようにも動揺しているようにも見える。

 身長一八〇㎝程あるが細身で、あつらえたような軽鎧を身に纏っている。

 金髪が肩まで伸びた黒い瞳の整った美しさのある女性。


「す、すみません。今日この教会で呪いの解呪が執り行われる。と聞いてやって来たのですが……」

「ん……今やる」


 レイルは興味も無いように女性には見向きもせずに、後ろから乗り込もうと回り込む。

 単なる人見知り、対人恐怖症がまだ少し残っているだけなのだが。

 レイルの行動に驚くミミリタス。


「え? 何あなた。 はい?」


 四人に気づいているのか気づいていないのか定かではなかったが、このままではレイルを止めに入ろうとするだろうし、馬車とは一定の距離があったので、すかさずナギアが強めに声を発する。


「ミミリタス! いいから従え! 馬車から降りて離れるんだ!」

「え? は? 漆黒のナギアさん。鉄壁のラベルトさんまで」


 ロンダとルドルの事は、すぐに同じS級と見たようで無視したミミリタス。

 その点、英雄級のナギアに言われたら、すぐに素直に馬車から離れると歩み寄り四人の前に立つ。


「メリリーン・ミミリタス・サートレアです。ミミリと呼んでいただければ」


 一礼したミミリ。

 あとは四人ともバッカたちと同じような挨拶を繰り返し、一通りし終えた。

 丁度計ったようにレイルが馬車から降りて来た。


「ん。終わった」


 ミミリもやはりその早さに、バッカ同様に驚き、驚愕し、焦った表情になったがすぐに慌てて馬車に乗り込む。

 少しして、呪いが解かれている事は確認したのだろうが、こうも簡単に解呪したレイルに、まだ信じられない顔のミミリが降りて来た。

 どうしていいか分からないような、狼狽えるミミリにナギアが声を掛ける。


「レイルが言ったように解呪は終わった。信用しろ、私が保証する。そのまま帰ってゲインを寝かせてやれば明日には完治し、動けるそうだ」

「そ、そうですか。あ、ありがとうございます。では連れて帰りますので、このお礼は後日伺います」


 四人に一礼し、レイルにも一礼して、来た道を戻り南に帰って行った。

 ミミリたちの馬車を見送った形になった所で、ロンダが疑問を持ちだした。


「呪いの解呪の情報が流れたのはいいとして、何で立て続けに呪われたんだ? いや、呪われていたんだ?」


 隣のルドルも疑問を持っていたようで肯定する。


「それもS級の冒険者だけだぞ? おかしくはないか?」


 それはラベルトも同じ様だった。


「それは俺も思ったよ。ただ、おかしいのはそれだけじゃない。北の俺たちは誰も呪われていないのも腑に落ちないんだ」


 ナギアもその事を考えているようだ。


「北を除いたS級。それも全員では無いのも不思議な話だ」


 レイルはミミリたちの馬車を街道際で見送って、踵を返し内輪に入って来る。

 四人の声はレイルにも聞こえていたようで、考え込んでいる四人に、自身の思いを話す。


「呪いの原因は、黒い魔物だよ」


 レイルの言葉に、ルドルがすぐに食いつく。


「あの闘技場で倒した奴か? それなら尚更だよ。何で俺たちが呪われなかったんだ?」


 ラベルトもまた、レイルの言葉に半信半疑なのか信じてはいない表情だ。


「それに呪いを受けた者と受けない者がいるなんて不自然じゃないのか?」

「ん。魔物の体に触ったか触っていないか、触られていないか」


 その話で心が晴れた表情をしたナギア。

 ナギアは当時闘技場内で気配を消し、隠れていて、討伐は終始観戦していたので納得したようだった。


「成る程、眼から鱗が落ちそうだ。レイルの推測、いや言う通りだ。確かにラベルトたちは戦闘時、一度もあの魔物に直接触れていなかった」


 ナギア曰く闘技場での事。

 西のコザルは、倒す時に胸を一突きだったが、カリスとムルモは首と頭だったから、一瞬だが飛びつく形だったので自身の一部が魔物に触れていた。

 東の攻撃は、バッカが飛んで剣を振り切り横一線、すれ違いざまに首を切り落としたが、モルダは懐に踏み込む時に触れている。

 そして南のゲインナーは、倒す時まで一度も触れてはいなかったが、触れると言うより、倒した最後に蹴り飛ばしたのが原因だろう。

 ロンダが、片手の平を上に向け、もう片方の手を握り、上から一度叩いて納得していた。


「そうか! なるほど。あの魔物に直接触れると呪いが掛かるのか。確かにあの時俺たち三人は、魔物の体に一度も触れる事無く倒したからな」


 ラベルトは原因を知ったが、その時の戦闘を思い出したのか冷や汗を掻いた。


「フゥ、知らなかった事とは言え危なかったな。以後気を付けよう」


 ルドルも思い出したように肯定した。


「矢の攻撃なら問題ないが、俺の近接戦はガントレットだから、これからの戦い方も考えないとな」


 ナギアがその事で補足した。


「他の魔法士や近接戦を得意とする冒険者にとっては手厳しい相手だな。戦って勝てる、とは言え、呪い、が付きまとうからな。ロンダ! この事をギルド経由で各方面に伝えてくれ。この事は、公にしなくてはならないから全冒険者に向けてだ」


 ロンダが片手で茶髪を掻き上げる。


「了解、任せとけって。じゃ、先に行くよ。レイル助かったよ、またな」

「ん」


 ロンダが走りギルドに向かった。

 それを合図にして、それぞれ気軽に別れを言い、各自は町に消えて行った。

 その帰り道、レイルは一つの疑問を感じていた。


「国王って、何で呪われたのかな……」


 ただレイルにとっては、呪いも解呪し、理解し、把握したので、あまり気にしてはいなかった事は言うまでも無い。



 ウイルシアン王国、城内の国王の部屋。

 国王はごく普通の人族なので、体力も人並みだった。

 今では食事も食べられるようになり元気も出てきた。

 回復はしたものの、念のため、と側近達に言われまだベッドからは降りていない。

 ベッドで半身を起こしている国王に、側近たちが事の顛末の話をしている。

 倒れる前から眼を覚ますまで何も覚えていない、と言うので、大会が執り行われようとした時魔物が現れ、急遽討伐に変わり、無事に倒した。

 そして国王が倒れ呪われた。

 数日後に無事解呪して本日に至る事を。

 聞いていた国王は、片手を額に当てて思い出そうとしているが、一向に思い出せないらしい。


「ムゥ。思い出せん。ただ、今の話の中で、一つだけ思い出した事があったぞ」

「何を、でございますか?」


 国王曰く、大会の数日前の夜。話に出てきた、大会に現れたという男と黒い魔物が、飛んで来たのか定かではないが、聞いた通りの姿で窓から音も立てずに進入してきた。

 慌てて護衛を呼ぼうと声を出そうとしたら、一瞬で魔物の大きな手で口を塞がれ、同時に意識が無くなって今に至る。


「では大会前の国王は、操られていた。と」

「私にも覚えがない以上、結果としてそうなのだろう。呪われていた事さえ覚えが無いのだからな」

「ムゥ。何の類なのでしょう。そして何の目的があるのでしょうか」


 すぐに、もう一人の側近が声を上げた。


「すぐに各ギルドに向けて、黒い魔物探索の依頼伝達をしましょう」

「そうだな、頼む」

「ハッ」


 そして国王は、日に日に良くなり、数日で完治回復し、呪いが移った王女も同様に回復し、やはり呪われた直前から記憶も無かったが、若さゆえか早く、無事元気を取り戻していた。


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