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第41話 酒場と依頼

 ロンダ曰く。

 勇者の階級が全滅させられたほどの魔物、魔獣なら、S級依頼は確定だろう。

 ただし現時点では不明な点が多く、少人数では危険が伴うのは確実なので、複数のパーティ同士を組んでの依頼になる事は必然、必至、当然。

 ただ依頼を出す前にその相手の強さや規模、人数などの事も正確に調べないと、無暗に手を出せないでいるのが実状。

 だがしかし、幸か不幸か被害は勇者の一件だけで済んでいるので、調査は続行するが現在は静観するしかない。


 片肘を付いているルドルが、肉のつまみを刺す。


「ま、暫くは東側の魔の国方面には、行かない方が賢明って事だな」

「その通りだよ。さわらぬ神になんとやらだ。でも、やられた勇者の強さってどれほどの力量があったんだろ」

「さあな、魔王を討伐しに行くくらいの勇者なんだから強かったんじゃないのか?」


 ラベルトが知っているようで説明する。


「ナギアが言っていたけど、組んだ俺たち四人と勇者四人で戦えば、必ず俺たちが勝つ、と豪語していたよ。本当かどうかは今じゃ、闇の中になったけどな」

「二人だとキツイけど、四人ならってところか。ならその魔物相手に、わずかな希望はある。か」


 ルドルが片手を出し、人差し指を立てて小さく振る。


「チッチッチッ、レイルがいるだろ」

「ああ、そうだったな。レイルがいれば心強い上に、鬼に金棒だな」

「そう言えば、ロンダとルドルはあれ以来なのか?」


 ルドルが酒をあおり、背もたれ越しに振り返る。


「おーい! 蒸留酒三つだぁーっ!早くなーっ! 先日、呼び出しの連絡を出したけど、来るかどうかはレイル次第だよ」

「ん? もしかして大会に出場するのか?」

「ああ、今の所ロンダと俺だけの二人パーティでな。レイルは多分出ないと思うし」

「ならこっちも同じだよ。俺は個人の部で出場を予定するけど、ナギアは出ないよ。あいつは根っからの大会嫌いだからさ。ハハハ」

「お、いいね。俺たちにも優勝の眼が出てきたぞ」

「ハハハ。ルドル油断大敵だぞ? 誰が出るかも知らないんだからさ」

「そうだけど、確率が上がったのは確かだぜ」

「まあ、それは言える。ハハハ」


 ルドルがグラスを持ち前出すと、二人も合わせたようにグラスを前に出す。


「では、俺たちが両部門、互いに優勝する事に乾杯!」

「「乾杯!」」


 そんな三人の会話が続く中、既に満員の店内は、酔いに任せた輩たちで更に賑やかになっていた。

 騒ぐ者、腕相撲で力比べする者、女冒険者を口説く者、酒を作る男に色眼を使う女、飲みまくり食べまくる男、と三者三様だ。

 その光景は、毎晩の事であり、日常茶飯事であり、ごく当たり前の事であり、楽しい大騒ぎは深夜まで続くのであった。



 ウイルシアン王国、西のギルド

 装備している艶やかな赤髪のサリアとオリナが、ギルドに出向いて受付のカウンターに並んで立っている。

 呼び出されていたようで、カウンター越しの受付嬢から一枚の紙を手渡されている。


「二人の依頼達成率が良く、ギルドマスターからの伝達書で、本日よりB級と認めます。これからも依頼達成に励んでください」


二人は依頼を順調に完了し、好成績だったので、早くもB級に昇格した。

さっそく掲示板を眺める二人。

オリナが腰の剣に手を掛けながら、隣で浮足立っているようなサリアに話す。


「やっとB級になれたね。これで多くの依頼をこなせるよ」

「えー? やっと? わっちは凄い早いと思っていたのに――。んー、これもオリナのお陰だね」

「まだまだよ、これからも気を引き締めて行こう」

「うん、了解」


 二人は更に階級を上げるべく、次の依頼を受け、さっそく元気に出立した。


 森の中を歩く二人。

 木々の間から日の光が漏れ、光の線が至る場所に差し込んでいる。

 森林浴をしながら歩くサリアとオリナ。

 奥に入り込み、獣道のような小道を、今はサリアが先頭を、すぐ後ろにオリナが歩く。


「この先が依頼の場所だよね」

「そうだね、依頼内容が正しいなら、もうすぐ森を抜けるから、その先にあるはず」


 森を抜ければ荒れた岩場が広がっている。

 依頼書通り岩場があった。


「この先にいるよ」

「うん、気を引き締める」


 今回受けた依頼は、B級レベルとして初めての、鉱石の採掘現場に現れ居座っているゴーレムの討伐だった。

 岩と岩の間を抜けるように進めば、その先に採掘現場があり、そこに赤茶色のゴーレムが三体、闊歩している。

 先頭のサリアは岩陰から顔を出し、ゴーレムをすぐに視認した。


「あー、いたいた。オリナ、いたよ、三体だ」


 すぐにオリナも隣から顔を出し視認する。


「よし、行こうか。私は左、サリアは右ね。倒したら一緒に残りのゴーレムを叩くよ」

「うん、了解」


 刹那、オリナは左のゴーレムに突進し切りかかる。と同時にサリアも右のゴーレムに突進し切りかかった。

 岩に当てたような、鈍い金属の強い音が響く。


「クッ、硬いな」

「うわっ、かったーい」


 二人の奇襲に気づいたゴーレムは、受けた切り傷も浅く、岩の腕を振り降ろし反撃を始めた。

 だがしかし、B級の二人と言ってもバンパイアの強者とレイルの血を貰ったサリアには無意味であった。

 二人はすぐに力を発揮する。

 オリナは、一度目より力強く切りかかれば簡単にゴーレムを切り倒す。

 サリアも一部とはいえ、授かったレイルの力で強く剣にこめれば、岩のゴーレムであろうと何の抵抗も無く切り倒した。

 残った一体のゴーレムも、二人の同時攻撃であっけなく討伐し、終わる。

 三体を確認するように見渡したオリナが剣を鞘に納める。


「フゥ、これで完了ね」


 サリアも赤く綺麗な髪を揺らし、剣を鞘に納めた。


「硬かったね」

「でもサリアは強いよ。私よりも格段に強いのが見て取れる。羨ましいな」

「えー? そうかなぁ。わっちはオリナの方が凄いと思うけど……」

「ならゴーレムを切り飛ばした部分を見て御覧?」

「え? 切り口?」


 ゴーレムを切断した切り口を見れば一目瞭然、オリナの切り口はやや荒く、一方サリアの切り口は、鋭利に切断されとても綺麗だった。


「これがサリアの実力よ。私など到底及ばない力を持っているの」

「えー? オリナの方が凄いと思っていたのにー。やっぱりこれってレイルの力なのかな、感謝しよーっと」


 オリナは横眼で、嬉しそうな笑顔のサリアを羨ましそうに見る。


「私もその力が欲しい」

「大丈夫よ。オリナは綺麗だし、しっかり説明すればレイルもわかってくれると思うよ」


 オリナはゴーレムの残骸に、足蹴にして小突いている。


「そう言えばレイルって、どういう男だったの? いくら強くても私……不細工は嫌だな」


 ――現金なオリナである。


「うん、いい男だった。格好も良かったしとにかく優しいしね。わっちも、いい、と思ったもん」

「そう、ならオッケー。早く探そう」


 依頼を完了し、一路ウイルシアン王国に意気揚々と戻る二人だった。



 同時刻のレイルの屋敷

 今日のレイルは、呪縛などの書物を読んでいる。

 天気、陽気が共によく、絶好の散策日和なのだが――。

 ミャウは屋敷の外で、姿勢正しく美しく無駄の無い動きで、布団、毛布類を干している。

 何故だかイラつくミャウ。

 いつになく木の棒で、布団類を力強く叩いている。


「何か滅ぼしたい気分です――。あー滅ぼしたい」


 ミャウは布団にイライラをぶつけているようだった。


 森の中、へび姫は急に隣に居たスランに、メタル化した尻尾の攻撃を仕掛ける。

 スランも既に気づき、メタル化してはいたが、さすがに避ける事も触手を出す事も間に合わなかった。

 重厚な金属音が森の中に響き、スランは打撃を受ける。

 そしてすぐに触手で受け始めた。

 スランは困った顔を出す。


「痛いよー、止めてよー、へび姫―。痛くないけどー、そんな感じー」

「うむ。何やらこうしなくてはいけない、排除しなくてはいけない、と感じたのだがの。 ん?」


 へび姫は攻撃を止め、尻尾のメタル化も解いた。

 スランは触手を上に、抗議している素振りを見せる。


「えー、気にする―、あるじに言うからねー」

「あ、いや、それは困るかの。ん? 許せスラン。ん?」

「もー、今度やったら―、本当にー、に言うからねー」

「ん、了解したがの。ん? もうしないからの」


 何やら遠方からの脅威を感じとり、威圧、敵意、殺意が、自然と湧いて出たミャウとへび姫なのだった。

 そんな二人を気にする事無く、ルードの書いた書物を読みふけって没頭しているレイルにとっては到底知る由もない事ではあるのだが。

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