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第40話 来訪者

矛盾が出そうだったので39話を少し書き加えました。

あまり大したことではありませんが……。

 ミャウが先にウイルシアン王国がある方角の空を向き、すぐに動いた。


「レイル様、連絡の矢が来ます」

「ん」


 ミャウは既に着弾地点に立っていたので、風切音と共に勢いよく飛んで来た矢を、簡単に親指と人差し指でつまらなそうに摘まんだ。


「レイル様。また呼び出しの矢です。なんと言う愚劣な行為なのでしょうか。本来であれば直々に出向いて頭を垂れ懇願してレイル様をお呼びしないと――」

「い、いや、いいよ、ありがとう、ミャウ」


 矢を手渡し眼と眼が合った時、また思い出したように頬を赤らめ眼を斜め下にそらし、ミャウは満足そうに屋敷へと入って行った。

 ミャウとのやり取りを、もうすでに忘れているレイルは、気にも留めずにルドルの放った矢に魔力を入れて見る。


「うーん、大会かぁ。出る気は無いけど二人には会いたいし――でも、ここにいたほうが楽しいから少し考えようかな」


 翌日になっても気乗りはしなかったレイルだが、二人を観戦するだけなら行ってもいいかなと思っているようだ。


 日も昇った午前、屋敷の横にあるテーブルで、今日はスランにエリクサーを作ってもらっている。

 テーブルの上にはレイルが用意した小瓶に、スランの触手が差し込まれ、次々に、流れ作業のように進み出来上がる事二〇本。

 これだけでも売れば、贅沢をしなければ一生を悠々自適に生活出来る程の金額になる。

 だがしかし、欲も無いレイルは、自身が所持するだけで満足しているのが実状。

 レイルと作業し終わって触手を二本揺らし、笑顔を出しているスランは楽しそうだ。


「あるじー、まだまだー、沢山作れるよー」

「いや、今回はこれで十分だよ。ありがとう」


 今へび姫はいなかったが、その後場所を移し、いつものようにレイルと軽く遊んでいる。

 少しして、可愛い女性化したへび姫が金髪を揺らしながら森から現れた。

 顔を横に山々を見下しながら冷静な口調で話をしてくる。


「レイル、何やら変な気配がするがの。ん?」


 スランとの遊びを止め、へび姫に向き直り答える。


「ああ、俺もさっきから下から登って来る感じはしているけど、何だろうな」

「あるじー、ボクもー、感じてるー、変な気配―」


 そんな話をしていたら、急こう配の斜面から勢いよく這い上がってくる、体長三m程で、全身どす黒く頭はあるが顔が無い、人型の巨体で手足首が驚嘆に太く指が無い。

 見たことのない、魔物、魔獣とはかけ離れた物体、存在が目の前に現れた。

 レイルの屋敷の平地に辿り着き、立ち上がり、口も無いのにつんざくくような咆哮を上げ、強烈な威圧を掛けてくる。

 並みの冒険者なら、その気迫にしり込み、下手をしたら失神してしまうだろう。

 しかしレイルはその魔物のような黒い巨体の脅威にも、気にしないそぶりで見ているだけだったが、スランが笑顔になり食いついた。


「何だあれー、変なのー、あるじー、倒していいー?」

「いや、スラン、ちょっと待って」

「はーい」


 スランはそう言いながらも既に触手を四本だし、早くも手を出したいのか、メタル化して戦闘準備を整えていたのは事実。

 すると巨体の後ろから、一人の男が下から飛んで来たかのように現れ舞い降りた。

 巨体の隣に降り立つ、身長一七〇㎝程で、色白の肌、白髪の短髪で背中には黒く大きな羽が生えている。

 細身の筋肉質で煌びやかな装飾をした黒い服を身に纏った貴族風の男。

 しかし眼だけは赤黒く邪悪に満ちているようだった。

 レイルたちを見回しながら、軽い声で話し出す男。


「おやおや、通りがかりとは言え、この様な辺境の地にも人と魔物が住んでいるとは」


 レイルも全く動じずに普通に返す。


「俺の屋敷に何の用かな」

「グフフ。何でもないですよ。聞いても時間の無駄ですから、取り敢えず一瞬で殲滅して差し上げましょう」


 刹那、巨体の手が鋭利な斧のような形に変形し、鋭い速さで踏み込み、大きく振りかぶるように襲いかかる。

 が、強さの違い、格の違いか、巨体の強さも知る前に、斧の攻撃が届く前に、いとも簡単にスランの怒涛の触手攻撃で細切れになる。

 黒い巨体は断末魔の咆哮を上げ、そして黒い粒子のような煙になって消えていく。

 一方、触手を上にし、滑るように、クルクル、と回転しながら笑顔を出すスラン。


「アハハー、やっぱりー、変なのー、弱すぎー、アハハー」


 眼を見開き、今起こった事が信じられないような驚愕の表情になる男。


「な、何だと? 私のしもべがやられるだと? これは飛んだ誤算でした。仕方がないですね。では私が直々に殲滅しましょう」


 刹那、何処から現れたのか見ていたのか、気配を消しているようなミャウが腰を低く落とし、黒銀の髪の毛をたなびかせ、凄まじい速さで一足飛びに切りかかり、余りの速さに男も受ける構えが間に合わず簡単に切り飛ばされる。

 その男も自負していたのだからかなり強いのだろうが、それを凌駕するミャウ。


「ガハッ。何なのだこの強さは。この者どもは……グフッ。伝達しなくては――」


 ミャウは話も聞かず、冷たい表情で簡単に、話も聞かず最速に、無慈悲に片手を前に出す。


「爆ぜろ」


 刹那ミャウの手の平から赤い魔方陣が展開され、紅蓮の炎の衝撃波が男に放たれる。

 真面に受け、轟音、爆炎、爆風と共に男を包み一瞬で焼き尽くした。

 ちなみにこの威力は、レイルが初対面の時に受けた威力の数十倍と言ったところか。

 ミャウは重力を無視したように、細い腕でロングソードのドラゴンキラーを片手に持つ。


「フン、雑魚の分際で何を言う」

「知っているのか? ミャウ。今の奴らは何者なんだ?」


 レイルに、いつもの冷静で美しい顔を向けるミャウ。


「知りません」

「え? 知らないの?」

「はい、全く知りません。知るつもりもありません。レイル様にあだ名す者は全て排除するだけなので――」

「あ、ああ、うん。そうか、ありがとう。でもミャウにも知らない事があるんだね」

「レイル様に危害を及ぼす輩など、知る気にもなれませんが――」

「そ、そう。少しは聞きたい事もあったのだけど――まあいっか。ミャウに任せておけば安心だね」


 レイルの一言で、ほんの僅かだが、頬が赤くなり、ほんの少しだけ口元に笑みが出る。

 そして眼線を斜め下に向けた。


「わたくしは、レイル様だけなので――」

「わ、わかったよ、ミャウ。ありがとう」


 レイルは変な方向に向かいそうなミャウを食い止めたようにも見えたのは余計な事である。

 その間もスランは知らないようで、まだ滑るように楽しそうに動き回っている。


「アハハー、弱すぎー、でもー、また来ないかなー」


 強さの差を知っていたかのように、何も口を出さなかったへび姫が変化を解きレイルに近寄る。

 ミャウがいるのでレイルにとぐろを巻かず隣で話しかけるのは、へび姫なりの気遣いなのだろう。


「妾が生きている中で、知っている者ではないの。ん? 何かの変異か特異かの。ん?」

「へび姫も知らないんだ。でも、有無も言わず攻撃して来た程だから良いやつではないな、今後も気を付けないとね」

「取るに足らんよ。ん? レイルが立つ前にスランがいるし、妾も加勢するしの。ん?」

「そうだな、強いスランとへび姫だし。それにミャウもいるし、何の問題もなしか」


 そこはミャウも肯定した。


「このような下等な生き物など、何の役にも立たない愚か者です。レイル様の手を煩わせる事など言語道断、そのような輩はすぐにでも駆除します」

「いや、ミャウ、少し様子も見ようよ。俺の所だけに来たのか他の地にも影響があるのか知らないとさ」

「必要ありませんが。何か」

「ほ、ほら、強さとか目的とかさ」

「殲滅すれば済みます。場合によっては殴殺、いえ蹂躙すればよろしいか。と」

「え? あ、そ、そうだね、うん」


 話はまとまったような、まとまらないような、採りとめのない形になったのは言うまでもない事か。

 今回の事で、レイルは王国に行くついでに、ロンダたちに話を聞く事を決め、下山を予定したのである。



 ウイルシアン王国

 日も沈んだ北側の酒場に灯がともる。

 ロンダが店の扉を両手で押すように開き、店内に入る。

 今日は早くから客も多く、賑やかな店内を見回すと同時に、中央のテーブル席に座っているラベルトがロンダに手を上げ、手招きする動作で声がかかる。


「ロンダ! こっちだこっち」


 呼ばれたロンダはラベルトの座っているテーブル席に眼を向ければ、既にルドルが隣に座っていた。

 ロンダは、他のテーブル席をすり抜けるように歩み寄り、二人と等分するように椅子を引き座る。


「よお、ロンダ。遅かったな」


 テーブルを囲み、三者が対面するように座る。


「ああ、ギルドに寄っていたからな。 ん? 今日もナギアは来ない。か」

「あいつは飲むよりも、旦那と子供と一緒にいたいんだとさ。必要な時には、来る、と言っていたからそれでいいだろ」


 ルドルは麦酒を飲み干し、背もたれ越しにカウンターに振り返る。


「おーい! 酒のお代わりだー。三つなーっ。で、ギルドに何の用で行ったんだ?」

「勇者の事さ」


 ラベルトも知っているようだ。


「行方不明ってやつか。それで、詳しい経緯いきさつでもわかったのか?」


 ロンダは、運ばれてきた麦酒を早々と一度あおる。


「プハァ。不明では無く、全滅だと。魔王と対峙するどころか、魔の国に入る前に全滅したらしいよ」


 ルドルがテーブル越しに半身で肘を付き食いついた。


「どういう事だ? あの勇者一行が全滅、だと?」

「ああ。まだ公にはなっていない、けど、現在はS級だけに知る事を許されているみたいだけどね。それに、今回の事件は、魔王、魔の国とは全く関係ないらしい」

「新手の魔物なのか? それに何故、関係ない、とわかったんだ?」

「同行していた数人の兵士だけが、あえて殺されずに、説明要員として生還し、事の次第を伝えたらしい」

「ならその相手の容姿や数も見たのだろ? いったい何者なんだ?」

「不明だってさ。全員が口をそろえて、忘れた、思い出せない、と言っていたらしいよ」


 やり取りを聞いていたラベルトも麦酒をあおる。


「フゥ。記憶操作か何かの類だろうな。で、依頼、として出るのか?」

「いや、まだ表立っていないから、四ギルドとウイルシアン王国の国王と参謀、上位騎士による会議次第って所だろう」

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