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第 2話 少年期2

 討伐した報酬の割合は、端数は繰り上げ三人が三割強で、レイルが貰える報酬は一割にも満たない。

 それでもちゃんと貰えるだけ人見知りのレイルにとっては、ありがたいと思っていた。

 資金に余裕のある三人とはいつもギルドで別れる。

 その理由はレイルの生活は厳しいので、汚く安い下宿に住んでいたから付き合えない。

 なので食事も、味はどうであれ、食べられれば事欠かないので貧しくとも生活は出来ていた。

 そう言った部分では、いつも前向きに考えているレイルである。

 今回は、貰った報酬の半分を使って刺突武器を購入しに武器屋に行くレイル。

 買い慣れた武器屋の陳列棚に手を掛け、減らしてしまった本数と同じ、数本の刺突武器を手にする。


「す、すみません。こ、これ下さい」


 奥にあるカウンターの向こう側から、両腕を組んだ強面のごつい主人が椅子に座って正面からレイルを見ている。


「ん? なんつった? 聞こえねえよ」

「こ、これくださいっ」

「ん? 何をくれ。だ?」

「こ、これを下さい!」

「ガハハ、言えるようになってきたじゃねえか、初めからそうしろよ」


 武器屋の主人はレイルをいじめている訳でもなく、もっと相手と話が出来るように、と主人なりに鍛えてくれていたのだ。


「ま、初めての頃に比べれば上出来だ。おう、いつもの投げ針だな、その本数なら銀貨一枚だ」

「は、はい」

「しかし、投げて魔物を倒したら、刺した部分から取り出せばまた使えるのに何故買いに来るんだ?」


 店の主人は、刺さっていると思ったのか、貫いている事までは知る由も無かった。


「ま、魔物に当たらないで、ど、どこかに飛んで、く、暗くて無くなるから……」

「探せばいいだろ、ま、俺は購入してもらう側だからありがたいけどな。ガハハ、また来いよレイル」


 レイルは本当の事は話さず、余計な事も言わず、一礼した後レイルは店を出て街中を歩き始める。

 どの店で何を購入してもレイルにとっては、初対面の人の対人恐怖と人見知りが治らないので、相変わらず言葉のやり取りは苦手で、苦労していたのだ。


 その後のジゼル達三人は、オーガの強さを身を持って知ったので、討伐したとはいえ、馬鹿な三人では無かった事は分かった。

 そしてしばらくは、今までの階層に留まって討伐依頼を受ける。

 一応は冒険者の端くれなのだから。


 ――そして数ヶ月が過ぎた頃。

 まだ日も昇らない早朝に、レイルはいつものように、大きい荷物を背負って待ち合わせのギルドに行けば、ごった返す前の静かな広間の中、先に来ていた三人が円卓のテーブル席に座って待っていた。

 その横にもう一人の見知らぬ男、体格はジゼル達と同じだが、赤髪で右手には魔石が埋め込まれている杖を持っている。

 新しい仲間かな、と思っているレイル。

 気が付いたジゼルが、レイルに向かって話しかけた。


「ご苦労だな、レイル。けどな、悪いんだけど今日から俺達のパーティを抜けてくれよ」

「え、え? ええぇ? な、何で……」

「何で? そりゃ決まっているだろ。余計な荷物があるより回復魔法や支援魔法が得意な魔道士が来てくれたんだ」

「ほ、他の荷物は、ど、どうするの?」

「今まで依頼を受けても討伐している時も、あまり必要無かったろ? 食料くらいは自分で持てば事足りそうだしな。だからレイルは用済みだよ」


 ジゼル達は、オーガを辛勝して倒した一件以来、同じ階層に留まり、何度かオーガを討伐し力もついた、と勘違いしていたのだろう。

 補助していたレイルの事など知らずに、邪魔に感じ始めた頃、ギルドの掲示板に仲間募集の紙を貼り、そして先日入った男がそこに座っていた。

 名を魔法士、クラバーと言うらしい。


「戦闘にも加われる私がいれば百人力だよ。安心したまえ。レイル君、だったかな、後は私が引き受けた」

「と言う訳だ。じゃあな、レイル。ギルドには変更登録しておいたから、これからは好きにしていいぞ」


 レイルは何の言い訳もしないで黙って四人を見ている。

 レイルの背負っていた荷物を分けた後、いらない物はその場で換金し、レイルの取り分はわずか銅貨三枚。

 さっそくダンジョンにでも向かうのか、四人は立ち上がり、一度もレイルを見ず、意気揚々とギルドを出て行った。

 見送る形で立っている、一人残されたレイルは信じられないと言った表情だ。


「え? え? 本当に?」


 自身の頬をつねるレイル。


「イテッ、夢じゃないんだ。これからは一人でやって行けるんだ。ハハッ」


 放心状態では無く、表情にはあまり出さないではいたが、歓喜していたレイル。

 誰の束縛も受けない自由な生活。待ちに待っていた自分自身での生活。

 レイルはさっそく、しどろもどろながらもギルドで、一人の冒険者として再登録した。

 その日は四人に、分けた荷物の中から必要最低限の物を貰っていたので、商店に行って一人用の背負い袋を購入。


 翌日からは、急に訪れた嬉しい一人の生活の始まりとなる。

 見慣れた人と話す以外は、苦痛があるものの、生活しなくてはならないので、薬草採取や、一人で行える、他の冒険者から嫌がられる害虫駆除、そしてパーティだと割に合わない単体の迷いゴブリンの討伐などをする毎日を送った。

 報酬額は減ったものの、一人の単価としては格段に高くなりゆとりもできる。


 ゆとりが出来れば生活も楽になり、さらに依頼を受ける合間に自由に自己鍛錬を始める時間もできる。

 自己鍛錬は、しっかりきっちり自身に厳しく行う毎日を送る。

 その訳は、人見知り、対人恐怖でストレスが溜まるのも嫌なので、いつか下宿を出て山に登って、人里離れた住みやすい場所で一人、野営の生活を送ろうと決意していたからだ。

 もちろん家を建てる計画もするのだが、当面の目標は出立すること。


 何故山を登ると決めたのか。

 それは昔、施設で読んだ古文書に、人を遠ざける試練を抜ければ、遥か山の頂上付近に、人の住める場所がある。と書かれていた事を覚えていたから。


 そしてレイルが一人で冒険者になって、十五歳を数ヶ月過ぎた頃、家財道具を売り払い、意を決し、野営できる荷物を背負い袋に入れて町を出た。


「よし、行こう、あの山へ」


 目指すは、目の前にある山々の遥か北に見える、威厳を醸し出す、天に届きそうな大きな、壮大な山だった。

 旅立つ装備は、灰色の布の服に皮の胸当てと皮の手甲、腿当てにアイアンのミドルソード、腿当てには投げ針を仕込み、そして背負い袋だけ。

 国の検問を通過して一歩踏み出せば、軽快に、爽快に、軽やかに足取りは軽い。

 一つ目の緩やかな山を登れば林道になっていて、時折、冒険者の他に商人の馬車もすれ違った。

 この山は三日で越えた。分技している道を山側に進む。

 二つ目の山を登れば小道になり、一日に一組の冒険者とすれ違うくらいで、五日で越えた。

 三つ目の山は小道から逸れて、北に向かう道はなく、鬱蒼うっそうとした森の中を歩き始める。

 この辺りから魔物も現れ、ゴブリン、オーク、オーガが攻撃して来たが、緊張して構えたレイル自身が驚くほど、簡単に倒し奥へ奥へと歩き続ける。

 この山からの野宿は、魔物の襲来を避ける為、木の上に昇り、安定した太い枝分かれの上で就寝するようになる。

 その夜の間に獣を獲る罠を仕掛け一度鹿を獲って燻製にして蓄えとした。

 そして魔物を倒しながら、一週間で山を踏破。

 最後の山は魔物も現れたものの、徐々に険しくなり、あまりの急斜面で枝やつたを掴み両手を使わないと厳しい角度にまでなってきている。

 さすがにこの斜面では、オーク、オーガなどの二足歩行する魔物は、ほぼほぼ、現れることも無く、進む速度は遅くなるが、順調に進む。

 どのくらい登ったかは定かではないが、いまだ山頂も見えず、既に一週間が経っていた。


「フゥ、しんどい。さすがに疲れるな。でも……楽しいかな。ハハッ」


 鍛錬と天性の力で培った、体力もあるレイルは急斜面を、ものともしないで登って行く。

 食料は、この先獣も獲れなくなる、と、これからの事を知っていたように、暫くして獲った燻製の肉が無くなってからは、持って来た干し肉を食べて食いつなぐ。

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