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第32話 出会い

 翌日、酔いも残らずに早朝に起きたレイルは、まだ人影も少ない街中を歩き、ウイルシアン王国を出て、一路、自身を急かすように屋敷に向けて走り出した。


 二つ目の山を越える時、山頂に近い場所で、レイルは森の中に、ある気配を察知し立ち止まりその方向を見る。


「ん? 何だろう。気になるから行って見るか」


 帰り道を逸れて、気配のする方向へ暫く進んで行く。

 すると少し開けた場所があり、女の子が倒れている。

 ――寝ているようにも見えるが。

 その女の子は、黒く長い髪、身長一四〇㎝程で、色白。赤い皮のような少し露出度のある武装を身に纏い、身の丈に合あう剣を持ち、背中から畳まれている黒い羽が生えているように見える。

 眼が覚めたその子もレイルを察知したのか、眼を見開くと後方に飛び起き身構える。

 目鼻立ちの整った可愛い赤眼の女の子が、レイルに驚き、可愛らしい声を上げる。


「誰だっ! まさかこんな地に人がいるとは」


 片手を上げ、挨拶するように無防備に近寄るレイル。


「何もしないよ。こんな場所でどうしたの?」

「見られたからには生かしてはおけない」

「え? 何?」

「死ねぇーっ!」


 刹那、一足飛びにレイル目がけ、正面から即座に抜いた剣で袈裟懸けに振り降ろしてくる。

 直線的な攻撃だ、と感じたレイルは、直前で上手く避け、女の子がいた所に回り込むと、すぐ後ろの木が袈裟懸けに切断され、木々がこすれ合う音と共に倒れる。

 その木を無造作に握りつぶすように掴み持ち上げ、重力を無視してレイルに投げつけるが、その程度ならレイルも難なく苦も無く避ける。

 女の子は、容姿に似合わず怪力だった。

 またも一足飛びにレイルに突っ込み、剣を連撃で繰り出すが当たらない。

 直後、通り過ぎた女の子が振り向きざまに片手をレイルに向ける。


「ヘルフレイム!」


 赤く光る魔方陣が、レイルの立っている地面に展開された途端、赤黒い獄炎が燃え盛り爆音と共に爆ぜた。


「フン、やったか――え?」


 手ごたえを感じたような女の子が、驚愕の表情で眼を見開き、ついでとばかりか口も大きく開いていた。

 俗に言う、素っ頓狂な表情、と言ったところか。

 炎が掻き消え、レイルが手で、肩、腰と誇りでも払うように振っている。


「君、強いね。何者なのかな」


 そう言いながらも久しぶりの新鮮な攻撃に感動し、次の攻撃をワクワクしながらレイルは待っている。

 だがしかし、思いがけない幕切れを迎える。

 女の子は、腹の音が大きく鳴り、ヨロヨロ、と疲れ切ったように、崩れるように、朽ち果てるように、膝から崩れ落ちうつぶせに白眼を向いて倒れてしまったのだ。

 ――単に腹が減っていたようだ。

 その上で、急激な体力の消耗、魔力の使い過ぎもあったのだろう。

 そこでレイルは、倒れている女の子を抱きお越し木に寄りかけ、腰袋から出したスラン特製のエリクサーを降り掛けた。


「これで体力魔力は回復するから大丈夫かな。普通に話せたからこの娘は人ではなさそうだ。それにこんな森の中に一人でいるし。魔族に近いのかな。でも何か違うような……」


 人でないのなら、放置しても問題ない、と判断しレイルはその場を離れ、来た道を戻る。

 帰り道まで戻った時、背後から再び女の子が必死の形相を顔に出し、手刀で攻撃して来た。

 そこは殺気を感じていたレイル。

 既に察知していたので紙一重で横に避け、突きだされた手を掴み、惰性に任せ前方に放り投げる。

 転がると思いきや、重力を無視したよに、フワリ、と宙を舞い着地するように地面に立つ。

 背中から生えた羽の効力なのだろうか。

 レイルを睨む女の子に対して、優しい表情のレイル。


「君に俺は倒せないよ。止めておきなよ、俺は何もしないからさ」

「貴様は何者だ! 人では無いな」


 当人も勝てない、と踏んで戦う気も無くなっているようだ。


「俺は、ルーウェン・レイルツエース・ヴェイル。レイルって呼ばれている。勿論正真正銘の人族だよ。君は誰?」

「わっちはバンパイアだ」

「あ、そう言われれば吸血鬼みたいだね。名前を聞いてもいい?」

「みたいじゃない! わっちは吸血鬼! 列記とした吸血鬼! マーロット・サリアバンナ・ローウエンだ!」

「じゃサリアだね。よろしく」


 睨んでいたが、正体を教えても眉一つ動かさないレイルに、拍子抜けするサリア。


「え? は? う、うん、よろしく――って、違うだろ!」

「元気になって良かったよ、もう大丈夫だね。俺はこれで失礼するよ」


 帰路に就こうとレイルに、何かを思い出したのかサリアは焦ったように手を前に出して呼び止める。


「ちょ、ちょっ、ちょっと待て、レイル。おい、おーい、待ってー」


 レイルが立ち止まり振り返ると、羽ばたき飛んで追いつくサリア。


「まだ何か俺に用でもあるのかな?」

「強いと見込んだお前なら、わっちの願いを聞いてもらえないか?」


 サリア曰く。

 バンパイアは、日常生活では、人族と同じく肉や野菜を料理して食べる。

 昼と夜が逆転して生活する者もいるが、基本、大半は日中に生活し日の光を浴びても何ら支障はない。

 子供は時期が来るまで血を吸わずに、何ら変わりのない生活をする。

 勿論男女ともに。

 ここ数百年、その後の大人になってから吸血を行う事もあるが、これは、力の無いバンパイアが吸えば、ほんの一時的だけ増強される。

 だが今現在では行っていない。

 世界では強い部類の種族なのだが、国民の大半は本来のバンパイアとしては弱い。

 大人になる証を得るために、次期が来ると旅をする決まりがある。

 吸血族の国を出て、処女行為の吸血を行い自身が吸う事。

 決まりなど無いが、昔からの暗黙の了解で、強い血を求めるようになった。

 強ければ強いほど効果があって、その強さに比例して自身も強くなれる。

 その証として右手の甲に紋章が浮き上がり、弱ければ薄く、強ければはっきりと表れ、色にも分類される。

 旅を始め、今日まで出会った人族や魔物は自身よりも弱く全て打ち倒した。

 数週間が経ち、偶然にも今、眼の前に自身より確実に強い男が現れ立っている。

 この機会を逃すと、次はいつになるか分からない。


「だからわっちにレイルの血を吸わせて欲しい。と切に願うのだけれど」

「魔族とかドラゴンとか、他にも強い奴らは沢山いるでしょ」


 サリアは必死に頭を横に振る。


「魔族は嫌いだ。ドラゴンはあった事も無いし、見た事も無い。それに噛み付くのに鱗が邪魔になるし」

「んー、強い魔物なら紹介しようか? 俺が頼めば多分血を吸わせてもらえるよ」

「ま、魔物? レイルは魔物を使役しているのか?」

「いや、友達なんだけどさ」

「凄いな。して、その魔物とは?」

「ん、女性の大蛇と男の子のキングスライム」


 否定するように両手をバタつかせ、赤面するサリア。


「同性は論外! 異性に限る! スライムには血が流れていなーい!」

「そうなんだ――仕方がないな。いいよ」

「ほ、本当か? レイル。嘘は言わないよね」

「いいけど。飲んだ後で幻滅、後悔しても文句は言わない事」

「後悔などしない。ありがたく思っている」

「それともう一つお願いがある。さっき今まで全て倒した、と言っていたけど、これからは冒険者、人族は、無暗に襲わない事と約束。でないと俺が責任とってサリアを打ち倒さなくちゃならないからさ」


 サリアは、可愛い笑顔になり、両手を前で組み何度も頷く。


「うんうん、約束する。この身に誓って約束する」

「ならいいよ、俺はどうすればいい?」

「膝立ちになってもらっていいかな。首筋に噛み付くから」

「こうでいいかな」


 膝立ちになるレイルに、サリアが正面から、オズオズ、と歩み寄り、目の前に立つ。

 首を傾け艶やかな黒髪を、手で後ろに払うと何かに祈るように両手を合わせる。


「始めての吸血、そして処女行為です。ではいただきます」


 そしてレイルの首筋にそっと半分開いた口を近づけ噛み付いた。

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