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第30話 酒場

 ナギアたちがギルドを出て行った後、少し経ったら装備しているロンダとルドル、そしてレイルが仲良さそうにギルドに入って来た。


「いやー、あの店の飯はいつ食っても美味いなー」

「俺も少し食いすぎたかな。レイルはどうだった?」

「ん。美味しかった」


 他愛もない会話をしながら受付に歩み寄る。

 カウンターの前はもう誰も並んでいないのでロンダ、ルドル、レイルと三人横並びでエルサに声を掛ける。

 片肘をカウンターに付き、半身で茶髪を掻き上げ、爽やかな笑顔を見せるロンダ。


「やあ、エルサ。昨日の報酬を受け取りに来たよ」


 隣のルドルも両手で青髪を掻き上げ、隣に同じく爽やかな笑顔を見せる。


「エルサ。俺の報酬もよろしく頼むよ」


 普通に見て、格好がいい色男そのものだった。

 正面切って言われたら、ごく普通の女性なら一目ぼれもあり得るのだろう。

 ――取り巻きの女性達のように。

 だが、しかし、エルサは全く動じていない素振りを見せている。


「はい、こちらがロンダさん。これがルドルさんの報酬です」


 レイルは無気力に、二人のやりとりを無表情で見ていただけだったので、エルサが気を効かせようと、先に報酬を取り出しレイルをチラ見すれば、鼓動が一つはねたようにも見えた。


「レ、レイルさんの報酬はこちらになります。どうぞ」

「ん……ありがとう」

「いえ……」


 少しだけ違う対応に、すぐに反応したロンダとルドルは、ん? と思った表情だが、仲間のレイルだし、とやかく言うつもりも無く気にしないような二人だった。


 今カウンターに置かれている、三つの報酬の入った布袋を見比べれば、大きさ、重量が、一つだけ明らかに違っている。

 これがB級とS級の差だ、と自己主張しているように。

 ルドルが手に持ち軽く弾ませると、報酬袋の中から、いかにも入っているぞ、とばかり、子気味のいい重なり合う金属音が心地よく聞こえる。


「なあレイル。S級になった方が得だと思うけど。この差だぜ?」


 ロンダも報酬袋を手に取り懐に仕舞い込む。


「俺もそう思うよ。レイルなら申請すればすぐにでもS級に昇格できるけど。どうだ?」


 レイルは頭を横に振り、小さい報酬袋を手に取った。


「このままでいいし、これで十分」


 ルドルも弾ませていた報酬を仕舞う。


「そうか。なら無理強いしても仕方がない。レイルがいいのならそれでよし」

「レイルとルドルはこれからどうする? 俺は武器屋に行くけど」

「ん、帰る」

「俺は付きあうかな。矢を補充したいところだったからさ。んじゃ、レイル、またな」

「ん、また」

「それじゃ。後で連絡するよ」

「ん」


 ロンダはレイルの強化した投げ針に興味津々だったようで、討伐が終わった帰り道に投げ針を、持たせてもらいながら根掘り葉掘り聞いていた事は事実である。

 ロンダは、さっそく購入しに行くようだが、レイルは特注品とは一言も言ってはいなかったので、果たして売っているのだろうか。

 レイルは家に帰り、部屋で身支度を始める。

 今回の討伐も終わったので、お役御免、と屋敷に帰る準備を考えていたのだ。

 予定では明日、遅くとも明後日までには帰ろうと計画していた。


 その夜、レイルが帰る事を知った二人が夕食に誘い、快くレイルも付きあった。

 夕食とは言っても、男三人が食べる場所なので、上品な店では無く、料理もあるが酒も多く置いてある酒場と言った方がわかりやすい。

 その店は、両開きの扉を開けると、すぐ広間になっていて、二人用から五人は座れる円卓が二〇卓配列してあり、一度に数十人は座れる。

 更に、一人または二人席用のカウンターが、左手に設置され一〇人程が腰掛けられる形に椅子が配列されていた。

 その向こう側では三人の黒服の店員が、注文を受け、酒を作っている。

 奥には厨房があり、つまみや料理、食事を一方で忙しそうに、一方で忙しなく作っているのが見える。

 今、既に三分の二ほどが埋まっていて、男だけではなく女性冒険者も所々に座っている賑やかで活気のある店内だった。

 ロンダとルドルはこの店の常連のようで、中に入るなりロンダが空いている円卓を見つけ座る。

 ルドルとレイルは遅れて扉を開けて入って来た。


「おーい、ルドル。こっちだ、こっち」

「お、いい場所が空いていたな。レイルも座れよ」

「ん」


 四人が余裕で座れる大きさ。その円卓を挟み三人が相対し座る。


「俺とルドルは麦酒を頼むけど、レイルはどうする?」

「ん、俺も」


 そして、ルドルが代表して麦酒と、他にもつまみや料理を幾つか頼み、運ばれてくる。

 三人は、当たり前のように麦酒の入ったグラスを持ち、小突きあった。


「お疲れ―」

「お疲れー」

「ん」


 喉を鳴らし、一気にあおるロンダとルドル。


「プッハー。美味いっ! これだよ、これ」

「クーッ! 最高だ。さあ、食うぞ。レイルも食え食え」


 レイルは一口、二口と飲んで、食べ始める。

 二人は、他人の飲み方をどうこう言うつもりなどないので、レイルにも言わない。

 とりあえず食事をパクつきながら、討伐や投げ針の事など談笑して何度も飲む。

 機嫌が良くなってきたのだろう、酒を変え度数のある蒸留酒を飲み始めた。

 ルドルが、かじった肉の小骨を指でつまみ、レイルに向けて小さく振る。


「ところでさあ、レイル。ナギアとラベルトってどっちが強いと思う?」

「ん、ナギア」

「即答かよ。わかるものなのか?」

「ん、見ればだいたい」


 ロンダが蒸留酒をあおる。


「プハッ。俺とルドルの感知魔法だと、ほとんど変わりなく同じ強さに見えるんだけどな」

「やはりレイルの方が上って事だ。ハハハ」

「レイルはナギアってどう思う? 口が悪くても旦那と子供がいるんだぜ」

「ん? 優しい人。うん、とても優しい人」

「え?」

「はい?」

「レイル、本気か?」

「レイル、飲み過ぎたか?」

「とても優しいよ。旦那さんと子供思い」


 お代わりしたルドルがあおり、背もたれにふんぞり返る。


「それは絶対か?」

「ん」


 ロンダもあおり、片肘を円卓に付け半身になる。


「あのナギアが優しい。か」

「ん」

「ならそうなんだろうな。ラベルトもそう思っているのだろうし」

「直接聞けばいいのに」

「ムリムリムリ」

「絶対に無理」


 ロンダとルドルは、手を横に激しく振った。


「そんなこと聞けないよ」

「そうそう、聞いたら殺されるよ。瞬殺だな」

「ん? 俺が聞こうか?」

「いや、それもダメだって。レイルが聞いたら、俺かルドルのせいだと思われるのが落ちだよ」

「レイル、お願いだから止めてくれ。まだ死にたくないからさ」

「ん。わかった」

「その話は終わりにしよう。さあ、飲み直しだ」

「おーい、酒のお代わりだー。レイルも飲むだろ?」

「ん。飲む」


 賑やかな店内で、楽しく飲み直したのは言うまでも無かった事か。


 ちょうどそこに、ラベルトが一人店に入って来てすぐ左のカウンター席に座る。

 まだ三人には気づいていない様子で、カウンター越しの店員に蒸留酒を注文した。

 レイルは既に察知し一瞬視認したが、気にせず二人と話を続けている。

 酒が無くなり注文しようとルドルが振り返る。


「おーい、酒のお代わりだー、三杯なー。ん? お、あれはラベルトだよな」


 ロンダもカウンターを見る。


「お、本当だ。ラベルトだ。一人みたいだな」


 ルドルの声で、ラベルトも気が付き振り返ると、軽く手を上げた。

 ロンダがラベルトに手招きする。


「よお! 一緒に飲まないかー!」


 呼ばれたラベルトが、グラスを片手に歩み寄り、レイルの後ろに立つ。


「よお。三人お揃いで楽しそうだな」

「まあ座りなよ。話はそれからだ」

「じゃ、お言葉に甘えて、邪魔させてもらおうか」


 椅子を寄せ、男四人が相対して座る形となった。

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