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第28話 開戦

 ロンダとルドルは相変わらずの生活で、用事のない日には取り巻きの女性達とつるんで行動している。

 また一度レイルを誘ったのだが、例の一件がトラウマになっているのか、きっぱりと、断られた。

 そのレイルは、買い出し以外は一日中部屋に引き籠り、何やら内職のような作業をしている様子。

 その様子はと言うと、元々持っている投げ針はそのままだが、新しい重量のある投げ針に、魔力、魔法を練り込み威力を増強していたのだ。

 更にその魔法が他者に察知されないように、その上から二重に魔法を掛けていた。

 本来は、とても高度な魔法技術が必要で、世界で何人出来るか、と数えるほどだが、ルード直伝のレイルにとっては簡単な作業だったことは事実である。

 レイルの力なら、全部纏めて魔法を掛ければ、簡単に出来るのだが、本人の性格なのかそれは違った。

 一本一本を、丁寧に、楽しむように練り込んでいたので時間がかかっていたのだった。

 その分の増強された力は後で発揮される事となる。


「フゥ。これで良し。何処から見てもごく普通の投げ針だ」


 レイルの鎧の背中に、投げ針用の隙間が作って有り、十数本が縦に差せるように格納する。

 その後頭部下にある切っ先が自身に刺さらないように、簡単に開閉できる細長い蓋を取り付けると完成である。

 これで準備万端、あとは魔物の襲来があると言う、その日が来るのを待つだけになった。


 そして招集がかかる早朝。

 装備したレイルたち三人は、一度北のギルドに出向き、自身が配置される場所を確認する。

 掲示板にはウイルシアン王国の南西部に当たる大きな地図が貼られ、事細かく指示が書き込まれていた。

 数組の冒険者たちも掲示板に眼をやっている。

 ロンダもその中に混ざり、片手で持っていた槍を立て、指を差して地図を視認する。


「俺たちは――あー、あったあった。西側の外だ」

「レイルも俺も同じパーティだから一緒だな」

「ん」


 カウンター越しのエルサが、両手を口に囲むように構えると、可愛い大きいを声を発する。


「みなさーん! 確認された方は、速やかに移動してくださーい」


 エルサの声に合わせるように、確認した冒険者たちと一緒にレイルたちも出て行く。


 そろそろ日も登り始め、辺りが明るくなる頃、レイルたちは西の検問所を出ると、そこは以前と景色が違っていた。

 街道を挟んで両脇には木々が生えていたのだが、広い範囲で切り倒され、時間が足りなかったのだろう、切り株は残っていたものの、見通しが良くなっていたのだ。

 魔物をいち早く発見すると同時に、剣などの武器を振り回しやすくした作戦なのだろう。

 城壁から一〇〇m先の最前列、最右翼に配置するレイルたち三人。

 まだ早いようで他の冒険者もちらほら出て来るが、まだ周囲や後ろは閑散としている状況。

 レイルたち三人は、のんびり待つ事にして、相対するように切り株に腰を下ろし、持参して来た弁当を開く。

 ルドルはガントレットを外し、切り株に置いた。


「腹が減っては何とやらってな。お、美味そうだ」


 ガントレットを装備したままでも指は動くのだが、やはり無い方が楽だろう。

 三人は、これからの事などを話しながら弁当を頬張った。

 ただ、他の冒険者や騎士、兵士のほとんどが、これから起こる予想できない事に緊張していたので、呑気に話し、笑い、食べている三人の行動に驚愕し、誰が見ても浮いて目立っていた事は言うまでも無い。

 陽気もいい昼下がり、腹が満たされれば瞼が落ちる。

 ロンダとルドルに気にする事無く、昼寝を始めたレイルに釣られて二人も切り株にもたれ掛り、昼寝を始めるのだった。


 数刻後。

 眼を覚ましていたレイルたちの周囲には、既に千数百人の冒険者、騎士、兵士が交互に入り連帯を組んでいる。

 最前列のレイルたちから後方五m間隔で十数列、横一線に広がる隊列が出来上がっていた。

 空上から見られるのであれば壮観な眺めであろう。

 ロンダが最前列を確認するように見ていると、何やら配列がおかしい事に気が付いたようだ。


「あれ? S級って、俺たちとラベルトたちしかいないぞ?」


 聞いたルドルも見る。


「本当だ。最右翼が俺達で、最左翼がラベルトとナギアかよ。あ、中央にギルマスのゼクラがいる。ちょっと聞いて来るよ」


 ルドルは弓を片手に歩いて行き、重厚な鎧で身を包んだゼクラと話をして戻って来る。


「ルドル、どうだった?」

「ああ、何でも手落ちでS級がいないんだとさ」


 ルドル曰く。

 ウイルシアン王国と各ギルドの連絡ミスで、東と西のギルドに配属するS級が上位の討伐依頼を受けて半月前からいない。

 なので、南側は南のギルドのS級一組と勇者一行が受け持ち、西側は北のギルドが受け持つ、と指令を急遽変更し受けた。


 ロンダが呆れた顔なり、槍を肩に寄りかからせ、両手で茶髪を掻き上げる。


「何だよそれ。随分とお粗末だな。どおりで最前列に騎士と兵士が多く配属されているのか」


 レイルは無関心で切り株に座り、ほのぼのと空を眺めている。

 ミャウやスラン、へび姫の事でも考えているのだろうか。

 ルドルはロンダの隣に並び、弓を背中に納め、青髪を掻き上げる。


「ウイルシアン王国の兵隊さんは、ご愁傷様にならないように頑張ってほしいよ」

「どれだけの魔物かは不明だけど、あっちにはナギアとラベルト、中央にゼクラ、そして俺たち三人がいれば、暫くは耐えられる気がするんだけどな」

「ああ、後は強さと群れの大きさだよ。な、レイル」

「ん。やるだけだよ」


 ナギアとラベルトは、最右翼で待機している。

 ラベルトは立ったまま剣を肩に担ぎ、ナギアは切り株に腰を下ろし、腕を組み、足を組み、正面を見ている。

 周囲の男達は横眼に、艶やかな長い銀髪に、冷たくも美しい切れ長の眼をした、絶世の美女ナギアに見惚れていたことは事実だ。

 御見通しのナギアは、いつもの事なのか視線には察知していたようだが、何のそぶりもなく前を向いたまま気にも留めてはい様子。


 そして日が暮れ、辺りが薄暗くなる。

 城壁の上から魔法を掛けた松明と、光る魔石が強力な明かりで辺りを照らし始める。

 レイルが誰よりも早く察知し立ち上がり、片手で剣を抜くと同時にナギアも立ち上がる。


「そろそろ見えるよ」


 レイルの言葉に、槍と弓を構える二人。


「ラベルト」

「おう」


 ラベルトも同調し構える。 

 すると、街道をこちらに向かって馬が二頭、まっしぐらに走って来るのが視認できた。

 その馬に騎士が跨って、何かに追われるように馬の尻に鞭を入れていた。

 騎士は、声が届く範囲、と判断したのか力の限りのような大声を張り上げた。


「敵襲―っ! 魔物だーっ!」


 馬は速度を落とさず、列の間をすり抜け城壁内に入る。

 周囲の騎士、兵士、冒険者の緊張感が張り詰める中、ナギアが威風堂々と魔剣を抜き肩に担ぐ。


「当たりはこっちか」


 隣に立っているラベルトも緊張感は全くないようだ。


「その様だな」

「ラベルトもしっかりしろよ」

「ナギアこそ、邪魔するなよ」

「ハハハ。私のやれることをやるまでさ」

「俺も同感だ。ハハハッ」


 そして――土煙が立つ中に魔物の群れが見えて来た。

 ロンダは槍を構えたまま視認する。

 ルドルも構え、弓を引こうと指を弦に掛ける。


「大当たりだよ。今頃南の奴らは楽してんだろうな」

「いや、これ程の大群なら、結構南にも来てるかもよ」


 同時刻。西側ほどではないが、敵をけん制したのか魔物の群れは現れていたのだ。

 南側でもS級、勇者を筆頭に戦闘態勢に入ったようである。


 西側中央に立っているゼクラが大声を発する。


「魔物に向かって進めー! 間を取ってS級、A級、B級、C級の隊列で続けー!」


 ルドルは一足先に弦を大きく引き、魔法の矢を連続で放つと、勢いよく一直線に飛んで行く。

 最前列を、威圧するような咆哮を上げながら、走って来る黒い狼のような魔物を次々と倒し始める。

 他にも、アーチャー、はいたが、まだ射程距離には入っていないようだ。

 だがそれもすぐに解消される。

 ルドルの攻撃を皮切りに、魔物の群れが速度を上げ怒涛の如く突進してきた。

 開戦である。

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