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第27話 招集3

 ルドルが王国の外から矢を放ってから数刻後の屋敷。

 森の中にいたスランが、何か違和感が起きたのか、音も無く滑るように屋敷の前まで出てくる。

 同時にへび姫も、別の場所から出て来て、顔を上げ綺麗な眼で空を見上げる。


「ん? 何かの。ん?」


 スランは広場を音も無く、右往左往、と滑っているが五月蠅い。


「あー、何か飛んで来るよー。あー、こっち来るー。あー、ここに来るよー。わーい」


 と同時に勢いよく飛んで来た矢が、スランに突き刺さる。

 ――事は無かった。

 その前に、スランが触手を出して、いとも簡単につまむように矢を止めていたのだ。

 矢を見て察したようなスランは玄関に向かって持っていく。


「あるじー、矢が飛んで来たー。何か書いてあるよー、あるじー」


 矢を持ち、笑顔を出すスランは、玄関の前を行ったり来たりしていると、玄関の扉が開きレイルが出てくる。


「ご苦労様、スラン。それはルドルからだよ」


 レイルも、屋敷の中にいるミャウも、察知はしていたようだが、ルドルの気配だった上にスランとへび姫が出てきたので、当然持ってきてくれるだろう、と気にしてはいなかった。

 レイルは手渡された矢にごく微量の魔力を注ぐと、ルドルの魔法で文字が浮かび上がる。


 ――魔物の討伐有り、全員召集された、ウイルシアン王国にて待つ――


 更にレイルは、矢に残された微量な魔法の部分も感じ取っている。


「フーン。魔物の群れが攻めて来るってさ」


 へび姫が横から滑るように来て、レイルを優しくとぐろで包み、女性的な綺麗な眼で優しく見ながら、チロチロ、と嬉しそうに顔を舐める。


「レイル。ん? また出かけるのかの。ん? 今度は王国かの。ん?」

「うん、そうだね、行ってくるよ、へび姫」


 レイルは、屋敷の中で掃除をしているミャウにも話をして。王国でのこと、招集のこと、出立することを了承してもらった。

 さっそく出立の準備に取り掛かろうとすれば、廊下で反対側から歩いて来るミャウに声を掛けられる。


「レイル様、よろしいでしょうか」

「うん、いいよ」

「武器はそのままでいいのですか?」

「ん? 何で?」

「武器庫をご覧にならないか。と」

「とんでもないよ。俺にはゴーレムキラーと鎧で十分だよ。むしろ勿体ないくらいさ」

「しかしながら、一度見ておいた方がいいのでは。と」

「ミャウも強情なところあるよね。でもいいよ、心配してくれているのはわかる。ありがとう」

「でしたらドラゴンキラーと交換しましょうか。と」

「これでいいよ、ミャウ」

「叩き折れば交換しますか?」

「だから、それはダメだってば。勿体ないでしょ」

「安物ですので、簡単に叩き折れますが……」

「もう頼むから止めて。お願いだからさ」

「そうですか。畏まりました」


 姿勢正しく綺麗な踵を返し、奥に歩いて行った。

 そのミャウの表情は、わからない程微かだが、ほんの微かだが、唇に笑みを浮かべ、また会話が弾んだ、と嬉しそうだったことは、レイルには知る由も無い。


 数刻後、日も高く昼に差し掛かる。


 今回はウイルシアン王国にも賃貸の部屋を持っているので、動きやすい軽装だった。

 屋敷を出ればいつものように見送られる形になる。

 急斜面との境界に立つレイルの後ろには、ミャウと少し離れた隣にスランとへび姫がいた。


「行ってらっしゃいませ、レイル様」

「あるじー、行ってらっしゃーい」

「ん? 気を付けての。ん?」

「じゃ、行ってくるよ」


 振りかえるレイルは地面を力強く蹴り、大きく空に向かって飛び出すように飛び降り、一路ウイルシアン王国に向かった。


 矢が飛んで来てから二日後の朝。

 朝靄の街中を歩いて来るレイル。

 市場やギルド周辺には人の気配もするが、閑静な住宅街はとても静かである。

 レイルはロンダの家に着く。

 扉を軽く叩くと反応があり、少しして開き、寝間着姿のロンダが寝ぼけ眼のうえ、茶髪に寝癖を付けて出てきた。


「こんなに朝早く誰だよ全く」

「おはよう、ロンダ。来たよ」

「ウオッ、え? レ、レイルか? は、早いな」

「矢が飛んで来たから来たんだけど」

「わ、わかった。呼んだのは確かだ。す、少し早すぎだから昼前にギルドで会おう。ルドルも呼んでおくよ」

「ん、わかった」


 レイルは踵を返し、一路賃貸の家に帰って行く。


 レイルを見送り、扉を閉めベッドに潜り込み、二度寝しようとするロンダ。

 だが興奮したのか眠れなくなっていた。


「いくらなんでも早すぎるだろ。ルドルの矢の力がどれだけ威力があって飛んで行っても、それを含めて二日って。レイルは更に化物、いや、出鱈目になっているんだな。ハハハ、落ち着こう。フゥ――寝よ」


 ギルドで落ち合う三人は、いつもの場所のいつもの円卓に顔を向き合わせ座る。

 予約席、とでも書いておけばいいのに、とは余計な話。

 ロンダに聞いていたが、半信半疑だったルドルも、眼の前に居るレイルに驚いていた。


「レイル、久しぶりだな。しかしまた、どれだけの速さで来たのか知らないけど、予想を遥かに上回っているよ」

「ん、久しぶり。急いでいるようだったから走って来た」


 ロンダは朝の出来事で、もう落ち着いているのは必然。


「まあいいよ。レイルなんだからさ。予定より一週間、あ、いや、数日早かっただけの事だ。ハハハ」

「ん? 早すぎた?」

「遅いよりも、早い事に越したことはないよ。それだけ予定、準備、対策が楽になるしな。で、詳しい話なんだが――」


 ロンダが、先日ギルドでの事の始終をレイルに話した。


「で、攻めて来る魔物を、討伐するんだとさ」

「初めての事なの?」

「古い文献だと、何回かはあったらしい、と言っていたよ」

「じゃあ、その場になって見て、行き当たりばったり、って事もあるね」

「そう言う事」


 こうして一週間程の余裕、猶予が出来たので、レイルは二人と別れ王国の武器屋に向かった。

 店の前に立つレイル。


「久しぶりだな」


 中に入ると、懐かしいごつい店主が相変わらず座っていた。


「こんにちはーっ」

「おう。ん? ああ、レイルか久しぶりだな」

「ん、お陰で」

「うんうん、一端に話せるようになったじゃないか。ガハハ」

「ん」

「で、今日は何の用だ?」


 背中に隠すように差してある投げ針を一本取り出し、店主に見せる。


「ムゥ。これは俺が売った物じゃねえか」

「これを改良して……鋭さはそのままで、やや長めに……中央の直径は一㎝くらいにして……重量を増やしたい」

「うむ。出来ない事はないが……高くつくぞ」

「ん、作って」

「ガハハ。レイルも面白い冒険者になったものだな。ちょっと待ってろ」


 立ち上がり、大きな体を揺らしながら、ドスドス、と店の裏に出て行った。

 裏の倉庫から、太い巻物のように包まれた布を持ってくる。


「レイル。実はあるんだな、これが」


 布を解いて広げて見せれば、レイルの注文通りの、理想通りの投げ針が数十本並べて差さっていた。

 手に取るレイルは、重量、質量、感覚などを確認すると納得し頷く。


「これはいい……理想通りだ。でも……どうして」


 苦笑いで、鼻を指でかく店主。


「ガハハ。実は昔、投げ針が売れるようになって来たんでな、もっと飛ばせるように、と、こいつを作ったら重いだの、がさばるだの、と言われて一本も売れなくてな、そのままお蔵入りになってしまったんだ」

「じゃあ……俺が全部買う」

「渡りに船とはこの事だ。倉庫のごみになるよりマシだ。よし金貨三枚でどうだ?」

「安くない? それじゃ……儲けが」

「ガハハ。いいっていいって、偶然とはいえこの武器が、こうして日の眼を見られるんだ。持って行ってくれよ」

「じゃ、遠慮なく」


 投げ針を巻き物ごと購入し、数十本の投げ針は決して軽くはないのだが、軽々と小脇に抱え出て行ったレイルを見送る店主。


「いい冒険者になってきたようだな。この先も頑張れよ。ガハハ」


 そして数日が過ぎる事となる。

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