第26話 招集2
ナギアの虫の居所が悪いのは、自身の判断によるものでは無い事で、単に旦那と子供と離れ離れになっているから。
今回は全員招集だった上、天気も良くないのでさらに機嫌が悪かったようだ。
両腕を組み足も組んでいたナギアが、ラベルトの膝を小突くように蹴る。
「イテッ」
「あまり余計な事を言うな。ラベルトはいつも一言二言多いぞ」
「わかったよ。ハハハ、まあ、そんなところだ。そう言えば思い出したよ。二人はグリフォンを討伐したんだろ? はやり弓重視だったのか?」
肯定するルドルに対し、ロンダが話す。
「俺も一応、飛び道具があるんで応戦したよ。中長距離を得意とするのルドルには敵わないけどね」
「でも二人で、とは、恐れ入ったよ。さすがS級だ」
「英雄級の二人とは比べ物にはならないよ」
「同じだよ。俺もナギアも廻りから英雄級なんて言われているけど、S級だからさ。ハハハ」
「え? でもギルドには階級が載っているけど」
「あー、あれね。あれは形だけなんだ。以前、国王から勝手に推薦された時にギルドに載せろ、となった訳。正式にはS級だよ」
待たされることにイラつくナギアが、カウンター方向を睨む。
「階級なんてどうでもいい事だ。誰か欲しいならくれてやるのにな」
「ナギアもそうイラつくなって。もうすぐじゃないのか?」
「フンッ」
「お、ギルマスが出てきた。そろそろ始まるぞ」
集まっている冒険者一同の眼がカウンター方向を見る。
奥の一段高くなっている場所に立つギルドマスターと呼ばれる四〇代後半の男。
身長一八〇㎝程の筋肉質で金髪の長髪を後ろで結んでいる。元戦士で強かった、ロール・ゼクラム・ジャンガル。
ギルマスのゼクラ、と呼ばれていた。
ゼクラの張りのある声が響く。
「よく来てくれた。本日召集したのは他でもない。近日中に魔物の群れがウイルシアン王国に向かって来るからだ」
どよめくギルド内。
ゼクラ曰く。
以前、魔王討伐に向かった勇者一行が、魔の国で返り討ちに合って失敗した。
四人は、命からがら逃げるように帰って来た。
物見塔から見張りをしていた兵士たちが、勇者一行が入口にはいる時、すぐに追尾するように数体の黒い狼のような魔物を視認している。
詳しい報告では、その魔物も視認していたようで、検問所を確認したのか何もしないで来た道を戻って行った。
すぐに四ギルドのギルドマスターが、ウイルシアン王国の城に召集され話し合い、昔の文献、古文書などと摺合せ、出た結果。
最終的に尾行して来た魔物が、出所はウイルシアン王国だ、と確認したようで帰って行った。と結論付けた。
勇者に、片道の工程、日程、日数を聞き、換算すると襲来は一〇日後辺りだろう。
どれほどの群れなのかは未知数。
どれほど強い魔物なのかは未知数。
何が襲来して来るかも未知数なのでさらに警戒が必要。
魔の国から攻めて来るであろうから、南の検問所と、帰って来た勇者たちが通った西の検問所を重点的に戦力を配置する。
「今回は、騎士、兵士、冒険者の合同討伐だ。勿論報酬はウイルシアン王国から出る」
ギルドの片隅に立って聞いていた、久しぶりに見る金髪のジゼルが恐る恐る手を上げる。隣にはあの仲間の三人も横にいるのが視認できた。
「あのー、俺達C級だけど、戦力になるんでしょうか。魔物多数を相手に戦った事が無いので……」
「問題はない。配列も既に決まっている」
ゼクラ曰く。
最前列がS級。一つ下がって次にA級。また一つ下がってB級、と強い順に並列で討伐する。
S級が取りこぼし、抜かれたらA級が、更に取りこぼし抜かれたらB級が戦う。
C級D級E級は人数も多いので各パーティが協力して倒す。
話の内容に納得する冒険者達。
一方、ナギアとラベルトはため息をつく。
「ハァ、勇者は何しているんだ? 失敗するなら初めからやるなよ」
「ハァ、全くだ。何が勇者何だか。偽物か?」
こんな文句を言えるのはこの二人位だけだろう。
二人は更に続ける。
「ハァ? 並列だ? そんなもん理想論だよ、頭、大丈夫か?」
「そうだな。何人の冒険者が死ぬんだろうな」
二人の話を聞いたルドルとロンダ。
「確かになぁ。でも俺もそれくらいしか思い浮かばないよ」
「まあ言われてみればその通りかもね」
ラベルトは爽やかな笑顔を向ける。
「嫌なら逃げ道もあるんだよ。上位の依頼を受ければ済む事だ。ハハハ」
ロンダは頷きルドルも肯定する。
「ヘェ、早急な上位の依頼を優先するのか、成る程」
両腕両足を組んでいるナギアが、美しくも冷たい笑みを浮かべる。
「ああそうだ。怖ければそうした方が賢明だ。勇者のように失敗するようなら、そうした方がいいだろう」
ラベルトが止めるように、片手を額に当てて苦悶の表情になる。
「あー、だからナギアは静かにしていろよ。お前も一言多いぞ。さあ、もう終わったから俺達も帰ろう」
ナギアはゆっくり振り返り外を見る。
「そうだな、雨も上がったようだしな」
その流れで他の冒険者達も、出入口に近い者から出て帰って行く。
「んじゃ、お先。ナギア、行くぞ」
ラベルトが立ち上がり、ナギアの肩を軽く二回叩く。
ナギアは無言で立ち上がり、美しい銀髪を揺らしながら威風堂々と出て行った。
ロンダとルドルは二人の出て行った入口を見る。
「ナギアって、確かに凄い美人だけれど、あれだけ口が悪くても、悪態ついても、旦那いるんだよな。一体どんな旦那なんだ?」
「ああ、俺にも分からん。旦那は自虐的体質か、それとも脅迫されたのか、完全に尻に敷かれて言うなりか、難しいな」
「あ、ミャウと同じ性格で自身より強い男なのかも」
「そうか、成る程ね。それだよ」
「それに引きかえ、ラベルトは俺達に近いと感じたよ。気さくだしね」
「そうそう。俺も思った。ラベルトなら仲良くなれそうな気がしたよ」
時間に余裕でもあるのだろう。誰もいなくなるまで二人は談笑していたら、カウンター越しからエルサが二人に向けて声を発した。
「あのー、ロンダさん。一ついいでしょうか」
振りかえるロンダ。
「ん? エルサ、どうかしたのか?」
「はい。今回の討伐は、冒険者が全員召集なので、レイルさんも呼ばないといけないのですが……」
ルドルが爽やかな笑顔で青髪を掻き上げる。
「大丈夫だよ、エルサ。手は打ってあるから」
翌日早朝。
前日の大雨とは打って変わって、雲一つない快晴だった。
微かに吹く風が緑の匂いを運び心が安らぐようだ。
ロンダはルドルと待ち合わせ、ウイルシア王国を北の検問所から外に出る。
ロンダが一定の広さがある草原に出て、周囲感知するように立ち止まる。
「うん、この辺でいいだろ」
ルドルも辺りを見回す。
「そうだな、準備するよ」
ルドルは背中の弓と矢を取り出し、矢に魔力と魔法を練り込み始める。
矢は徐々に淡く光り始め、魔力、魔法が入っていく様がわかる。
レイルを呼び出すため、この場所から屋敷に向かって矢を放ち、連絡をしようとしているルドル。
ルドルは、一度その場を視認し、位置を把握すれば、何処からでも、どの場所からでも、そこに矢を放てることは確認済みなので、初の実証と言ったところか。
しばらくの間、矢に集中して魔法を練りこんでいるいるルドル。
レイルの屋敷に放つのが初めてであり、距離もあるので正確に矢が届くように念入りに、確実に魔法を練り込むルドルだった。
そして完成したのか、淡く光る矢を持ち変える。
矢を弓の弦に掛け、大きく引き、弦の弾かれる音とともに屋敷のある方角の空に放った。
放たれた矢はやはり弧を描かず、一直線に飛んで空に溶け込むように消えて見えなくなる。
一緒に矢を見送ったロンダ。
「本当に屋敷に届くかなぁ。今までと違って、桁違いに遠い場所だし」
「勿論レイルの屋敷を、確認、視認、した俺には失敗は無いよ。今までに一度も無いだろ? よし終わりだ、帰ろう」
「ああ、そうだな。後はレイルが来るのを待つだけだ」




