表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
26/61

第24話 買出し

 軽快に、爽快に、気持ちよく落下している二人。

 見方によってはミャウの妖艶な下着が見えてしまうかもしれないが、本人は至って気にしないようだ。

 そして見えている位置で落下しているレイルも、見ていなかったことは言うまでも無い。

 落下し続け麓付近に、二人同時に豪快に着地し、土埃を巻き上げた。

 以前から一緒にいつも通り、一〇回程同じ事を繰り替えしているレイルは、ミャウを気にする事無く山を下り始める。

 レイルの屋敷もそうだが、この先は前人未到の奥地で、誰一人として踏み込んだ事の無い地域だった。

 レイルとミャウ、そして亡きルード以外は。

 二人は順調に進み、次の山が立ちはだかり登る。

 その登る速度は、やはり尋常では無い上に、疲れさえ見せない。

 なので、いつもの事のように休まず進み、続けて次の山まで越えていた。

 ここまで来ると、レイルも一応社交辞令としてミャウに話しかける。


「ミャウ、大丈夫か?」

「全く問題ありません」


 いつも会話はそれだけだった。

 レイルにとってもミャウにとっても、無言は苦痛では無くむしろ普通であり、黙々と進む二人はこれが楽であった。

 そして山と山の谷間を歩き進めば、いつしか、けもの道のような小道になり、その先に、黒い石を積み上げた高い城壁が見えて来た。


 そこは、まだ知られていない魔族の国。

 亡きルードが見つけたのは百数十年前だが、今も変わりはない国。


 レイルはミャウに、偽装の角を額に付けて貰って、城壁に向かい両開きの門に、既に順番待ちをして並んでいる額や頭から角を生やした魔族と一緒に並ぶ。

 魔族の国とは、魔王率いる魔物の国と別物で、場所も相対し、屋敷を中心とするならば、魔族の国は遥か北部。魔物の国は、山々を越えた遥か南西部に位置した。

 勇者一行が、魔王討伐に向かっているのは魔物の国。

 魔物の国は、魔王が一手に使役、統括し、統一している国。

 魔族の国は、人族と何ら変わらない街並みを形成し、住居を始め、商店、雑貨店、宿屋まで立ち並んでいる。

 その国の長は、魔王、呼ばれる者ではなく、国王と言われ角を生やした鬼人である。

 そう、魔族とは上位魔法と剣技を兼ね備えた鬼人たちだった。

 魔族の国の検問所に入るレイルとミャウ。

 入口には、皮の鎧を身に纏った身長一九〇㎝程の、厳つい体で額から角を生やし、荒れた赤い髪が眼を引く。

 その腰には剣を身に付けていた。


「よし次。この魔石に手を触れろ」


 亡きルードに教えてもらった偽装の魔法を使い、レイルは黙って手を触れた。


「ムゥ。人族――では無いな。通れ」


 次にミャウ。

 角を生やしていない容姿を見た魔族が、剣に手を掛けその姿勢で構える。


「まさか――貴様は人族か?」


 レイルは横から口を出す。


「いえ、連れはホムンクルスです」

「そうか、ならば魔石に手を触れよ」


 ミャウが魔石に手を触れる。


「ムゥ。人ならざる者か。それにこの力量。あい済まなかった。通れ」


 この国には数回来てはいたが、毎回門番が違うので、同じ問答を繰り返していたのは事実である。

 こうして魔族の国に入る二人は、臆することなく町中に進んだ。

 重厚な石畳が敷き詰められ、石造りや木造の建物が建ち並ぶ都市。

 魔族の往来も多く、ウイルシア王国と何ら変わらず、人が魔族になっただけで、国全体が活気に満ち溢れていた。

 なぜ魔族の国に入るか。

 それは、人族の世界では手に入らない物や貴重な品が多くあるから。

 レイルも初めての時は緊張し、大汗をかいて萎縮していたが、ミャウの助けもあり、相手が人では無いのですぐに慣れ、普通に話も出来るようになったのだ。

 ちなみにレイルとミャウが通った門は国の裏手であって、逆側が正門となり往来も数倍多かった。

 魔族とは、人族や魔王とは関わりも無く、関わろうとせず、無関心を通し、一国だけで、閉鎖的に人知れずひっそりと暮らしている。

 レイルは、と言うよりも、ここはミャウが先輩なので、レイルの前を姿勢正しく、きびきび、歩く。

 そして交渉上手なミャウは、手慣れたように、森では手に入らない肉に、塩、胡椒などの香辛料、布、糸など、生活に必要な物を次々に買い込んだ。

 ウイルシアン王国の物でも良かったのだが、人との繋がりを絶ったルードが、魔族の国を見つけてからは、好んで行き来していたし、ミャウも長年に渡って来慣れているから、とレイルも肯定した。

 勿論、魔族の調味料は味も抜群に美味かったようだ。


 支払いは魔族の貨幣だが、等価交換か魔石でも通用するので、以前は魔石などで支払っていたが、ここ数回はスランに作ってもらったエリクサーが好評で、高値で取引され思ったよりも多く購入できた。

 ルードの遺産の中に、魔族の貨幣もあり、ミャウに気にせず使うように勧められたが、そこまでしてもらっても悪いから、と討伐でドロップした魔石やエリクサーを使い、無くなったら遠慮なく使わせてもらうよ。とミャウに言ってある。

 現在もスランは森を、アハハー、と滑るように走りまくり、薬草を食べ喜んで作ってくれる。


 歩き回り日も暮れてきたので、二人は国の外れにある宿屋街に向かった。

 廻りには同じように宿泊する魔族がいたが、同族と思われているのだろう、レイルとミャウには見向きもせず、興味も無いようだった。

 毎回決まって泊まる宿に行き、同じ部屋に通される。

 これもいつもの事。

 魔族の料理を美味しく食べ、部屋に戻る。

 ベッドが二つある部屋に入り寝間着に着替える。


「では、今夜はわたくしがレイル様の隣に」

「ダメだよ、違うってば。ミャウはそっちのベッドで寝るの」

「レイル様、いつになれば、わたくしを差し上げられるのでしょうか」

「ミャウは屋敷の管理を任せているから当面はそっちを頼むよ。ね」

「畏まりました」


 ミャウは屋敷と違い、同部屋になるこの宿に来た時は、毎回こうして同じ事を繰り返している。

 へび姫に習って、勝手に忍び込んでもレイルは怒らない、怒るはずがない。

 一度成功すれば、へび姫が悲しむが、毎日添い寝できるはず。

 だが、しかし、ミャウはレイルの了解が無いと、行使、実行、決行する事が出来ない硬い性格だった。

 だが、唯一の抵抗は離れたベッドを隣にくっ付ける事で、今は満足しているようだ。


翌日は、朝から買い出しを続け、詰め込んだ背負い袋も膨らんでいる。

まだ日も高いので、レイルは武器防具屋を覗きに行く。これも毎回の行動である。

武器防具に関する店は、国に一つだけなので広く大きい店だった。

最前列に陳列されている剣や盾、槍、弓などは至って同じ作りで人族と変わりはない。

レイルが、いつも眺めに行く場所は、ずっと入り込んだ奥の奥だが通い慣れているので迷う事はない。

そこには影になる形で陳列されている剣や盾などの武器があった。

レイルは真っ先に進み、眺める。


「いつ見ても凄いな」


後ろを付き従うミャウ。


「気に入ったのでしたら、購入したらいかがですか?」

「いやいやいや、無理無理、高すぎだよ」

「ルード様の貨幣でしたら、全て購入しても微々たる価格ですが」

「いや、そう言う問題じゃなく、俺の持っている金貨を換算して考えたら、一つも買えない金額なの」

「ですから……」

「ルードさんのお金は、まだ手を付けないよ。只でさえ以前、金貨一〇〇枚貰っているし」

「それは返却されましたが」

「あー、そうだっけ。忘れていたよ。でも、非常時になったら使わせてもらうよ」

「畏まりました」


レイルが物珍しく眺めていた剣や盾などの武器。それは魔剣と呼ばれる品物だった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ